戦艦<武蔵>艦長 知名もえか(High School Fleet & Red Sun Black Cross) 作:キルロイさん
枢軸海軍部隊カリブ海・大西洋方面総司令部、グアンタナモ市、キューバ島
同日 同時刻
俺たちは、いや日本は合衆国の手玉に取られている。だから、「剣」号作戦は失敗した。
そして、作戦失敗の呪縛から逃れられないだろう。合衆国と共に戦う限り、いつまでも……。
森口は執務室の天井を見上げつつ、一人で呟くと冷めた珈琲を啜る。
彼にとって、それが現状に対する的確な分析だと思えた。
◇◆◇◆◇
枢軸軍によるカリブ地方奪還作戦は、一九四九年四月上旬に始まった。
この時の攻略目標はジャマイカ島とキューバ島南部にある、サンティアゴ・デ・クーバとグアンタナモである。ジャマイカ島を攻略する目的は、この島がパナマの大西洋側にあるコロン港とキューバ島の中間にあるからだ。
また、ここで名前が挙げられていないケイマン諸島やカイゴス諸島は、グアンタナモを完全に制圧した後に攻略する予定である。
参加する地上兵力も多彩である。日本の第一聯合陸戦師団(一個大隊欠)と合衆国の第2海兵師団が、グアンタナモとサンティアゴ・デ・クーバを目標に定めていた。
また、英連邦軍のオーストラリア第31海兵師団はジャマイカ島の確保を命じられている。
この作戦を決行する前に、陽動作戦も念入りに行なわれている。約二週間前に、中東のアラビア半島南端にあるアデン港へ、数度に渡る空襲を行なったからだ。
ソコトラ島から出撃した統合航空軍の<富嶽>戦略爆撃機二〇〇機によって、数度に渡る空襲を敢行している。さらに、アデン港へ機雷を投下しており、この港湾都市としての機能を停止させてしまったのである。
同時に、この港を拠点として活動していたイタリア東洋艦隊も甚大な被害を受けていた。巡洋艦や戦艦が何隻も大破着底してしまうし、駆逐艦は言わずもがなの惨状だ。
イタリア東洋艦隊は、枢軸海軍に打撃を与えられないまま壊滅したのである。
この攻撃を受けて欧州連合海軍司令部は、枢軸軍の作戦行動が活発化したことを警戒する。
しかしながら、その先に続く想定展開を読み間違えてしまう。彼らは、枢軸軍の主力は印度洋から来るのだと思い込んでしまったのだ。
そのため、連合軍側の偵察機が枢軸海軍の艦隊を発見しても、数隻の艦隊による陽動作戦だと誤解したままだった。偶然とはいえ、偵察機が上陸部隊を乗せた貨物船を発見できなかったことが、その誤解を補強してしまったのだ。
そんな敵失もあって、枢軸軍は上陸目標への無血上陸に成功したのである。
しかし、連合軍はそのような状況を座視し続けるつもりはない。水際での上陸阻止に失敗したとはいえ、すぐに枢軸軍をカリブ海に叩き落とす意気込みだった。
同年四月末、それまで散漫な防御戦闘だけで凌いできた連合軍は、戦備を整えると本格的な反攻に転じた。
ドイツ陸軍は、グアンタナモが枢軸軍の重要拠点だと見抜いていた。この街を奪取するために、カリブ地方の防備を担当しているフランス陸軍と共同で進軍していく。
これが、「グアンタナモ大攻防戦」と呼ばれる地上戦に発展し、三週間に渡って激戦が続いたのだ。
枢軸軍はグアンタナモを囲むように防衛線を築いていたが、連合軍はそれを幾度も食い破っていく。だが、海路で続々と送られる増援部隊を撃破しきれず、幾度も防衛線まで押し返される。
そのような一進一退を続けるが、遂に連合軍はグアンタナモ市内に進入出来なかった。むしろ、彼らの背後を脅かす事態に直面してしまったのだ。
なぜならば、枢軸軍はグアンタナモから約三〇〇キロ北方にあるヌエビタスの海岸線へ、合衆国第一海兵師団を上陸させたからである。これは、ドイツ陸軍の高級士官たちにとって衝撃的な戦術でもあったのだ。
その理由として、ドイツ陸軍は戦車と装甲擲弾兵を組み合わせた機甲師団による、機動戦を得意にしている。
機動戦とは、機動力がある戦闘車両で敵兵力の弱点に向けて迂回し、脆弱な戦線を突破して敵兵力を包囲し、各個撃破していく戦術だ。そして、ドイツ陸軍はその戦術を成功させるために、高速移動能力と大火力を持つ戦闘車両を製作して戦場に送り込んでいた。
だが、彼らはいつの間にか思い込んでいたのだ。その戦術は戦闘車両で無ければ達成できないのだと。
そんな思考を嘲笑うかのように、枢軸軍は海洋国家らしい機動戦を決行したのである。
この時にサンディエゴには、パナマ侵攻「贖罪」作戦による戦力消耗で再編成中だった合衆国第1海兵師団がいた。この師団を、パナマ運河の西側出入口に位置するコロンへ緊急輸送したのだ。
その地で、数隻の戦車揚陸艦と十隻以上の攻撃輸送艦に乗り移らせると、キューバ島の大地に刻み込まれた戦線を易々と迂回していく。そして、連合軍に気づかれること無くヌエビタスに上陸すると、その補給路を寸断するために内陸へ進撃していったのである。
こうなると、連合軍の
補給路が途絶されると、前線に燃料や弾薬が届かないし
連合軍の反応は早かった。彼らはグアンタナモの再奪還を断念すると、態勢を立て直すために三〇〇キロ北方にある陸路の要所、カマグエイまで一気に後退したのである。
こうして、枢軸軍はキューバ島南部を完全に掌握した。
だが、同時に「剣」号作戦が失敗する火種を生み出してしまうのだった。
◇◆◇◆◇
最初の発火点は統合軍令本部だった。当初の計画通りに二方面作戦を発動したのである。
その理由の一つとして、合衆国が再三に渡って作戦継続を求めていたからだ。
相手が辟易するくらいに執拗だったが、その主張も大筋では納得できるものだった。なぜならば、合衆国にとってグアンタナモ攻防戦は、久々に掴んだ勝利だったからである。
北米大陸に延々と伸びる戦線では、連合軍による攻撃を防ぐだけで精一杯だった。それに対して、この島では続々と押し寄せる連合軍機甲師団と正面から対決し、ほぼ独力で撃退したのだ。
さらに、後退するドイツ陸軍機甲師団を追撃し、あと一歩で大打撃を与えるところまで追い詰めたのである。この勝利で士気が上がらないほうが、どうかしているのだ。
そして、その勢いで戦果を拡大したくなるのは、軍人として各国共通の概念である。遺伝子レベルで戦闘本能を持つ、男としての本能とも言えるかもしれない。
そんな合衆国の熱意にほだされたかのように、統合軍令本部は二方面作戦の発動を決断した……。正確に言えば、表に出せない事情により作戦を発動せざるを得なかったのだが。
しかしながら、当初の作戦計画から制圧目標と参加兵力は見直され、その規模は縮小されている。参加兵力の基幹となる、上陸作戦に特化した地上部隊が枯渇してしまったからだ。
前述のとおり、上陸作戦専門の地上兵力はジャマイカ島やキューバ島に展開している。交代できる地上戦力が到着するまで、現地から引き抜けなかった。
仮に、すぐに引き抜けたとしても激戦で戦力が消耗している。それが回復するまで時間が掛かってしまうのだ。
枢軸軍全体を見渡すと英連邦軍には、上陸作戦能力を持つカナダ兵やオーストラリア兵で編成された師団が残っている。だが、英国はそれらの兵力の供出を拒否した。二方面作戦が決まった経緯を思い返せば、固く拒まれるのは当然の成り行きである。
このため、メキシコ湾岸への上陸作戦は中止された。
代わりに、北米大陸の北から南まで延々と伸びる戦線から東に向けて、地上部隊が進撃することになったのだ。作戦目的はニューメキシコ州とテキサス州の奪回、テキサス州に点在する油田を獲得することだ。
作戦開始日に合衆国陸軍は戦線を突破、順調に進撃してニューメキシコ州の奪還を目指していく。同時に合衆国空軍の
さらに、その地上部隊の支援として日米海軍は、空母機動艦隊をメキシコ湾に送り込んでいる。
その艦隊はパナマを襲った時と同規模の航空戦力で、ドイツ空軍をテキサス州の空から一掃してしまったのだ。そして、制空権を掌握すると連合軍の南方軍集団の機甲師団へ爆撃したり、補給物資を輸送する貨物自動車隊に銃撃したりしていく。
何度も書くが、英国は地上兵力だけではなく艦艇を一隻でさえ参加させていない。
この攻撃は、連合軍南方軍集団にとって無視出来ず、被害が積み重なって思うように枢軸軍の進撃を阻止出来なくなった。だから、厄介な存在である日米機動艦隊をメキシコ湾から排除するため、ドイツ海軍第一航空戦隊を出撃させたのである。
こうして、同年六月に史上初の空母機動艦隊同士による「メキシコ湾海戦」が生起した。
この海戦では日米両艦隊のとって初めての合同作戦でもあったので、連携が上手に進まなかった。日本海軍は空母<天竜><雲竜>以外に、巡洋艦一隻と駆逐艦三隻も失っている。
さらに、母艦航空隊の稼働機は海戦前の三〇パーセント程度まで低下していた。その残存機は殆どが戦闘機である。これでは、敵艦隊への攻撃なんて出来やしない。
結果として、「メキシコ湾海戦」は痛み分けとなった。
意外に思われるかもしれないが、枢軸軍はこの海戦を戦術的敗北だが戦略的勝利だと評価している。
合衆国陸軍は順調に進撃してニューメキシコ州の奪還を果たしている。さらに、テキサス州のオースティンまで前進したのだ。連合軍の南方軍集団が自主的に後退したこともあり、想定以下の損害率で済んだからだ。
それを負け惜しみと捉えるか冷静な評価と受け取るかは、各々の立場によって異なるだろう。
さて、日本はここまで辛抱強く合衆国の
そして、不完全ながら作戦目的を達成したので、今度は英国の戦略に基づく作戦に専念することになる……筈だった。
再び、日英米の同盟に亀裂が生じかねない騒動が起きてしまう。
その発生源は、またしても合衆国である。彼らがキューバ島の全島制圧を再主張したからだ。
次回は6/27に投稿できるかも……。
『6/23追記』
大方の予想通り、間に合いそうにもありません。
気長にお待ちくださいm(__)m