ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ 作:かげはし
《――――あーあー。早く完成してくれると助かるんですがね……人間にとっての三年だなんて、意外と長いんですよー。しかも成功するかは微妙ですし》
途中で意識が戻ったのか。暗闇の中で響く声がした。
独り言のようだった。誰に聞かれなくてもいいというようなものだった。
でも目覚めた俺に気づいたのだろう。
彼女はただ、笑って言うのだ。
しかしそれは――――あまりにも残酷なものだった。
《知ってますかー? 神には神の領域が存在するように、人にもそれ相応の生き方が存在するんですよー?》
聞こえてきたのは、あの幼い妖精の声。
純粋無垢のようで残酷な――――楽しそうなもの。
《私はただ好奇心旺盛なだけなんですよー。人が入ってはいけない領域に留まらせたら、魂に
何故か、憎しみが込み上げてくる。
ただの遊びで始めたものなのかと。
《あなたは中途半端に完成してますから。……まあ、頭弄ろうかなって思ったけど、特別にそのまま放置しちゃいますね。なので自爆だけはしないでくださいよー?》
そうか……。
こいつが、元凶か。
こいつのせいで、みんなが苦しい想いをしたのか。
あの時の鏡夜が変になったのも。頭がおかしくなったのも。
《いいえ、私は元凶じゃないですよー。それに私を憎むのは勝手ですけどね。……でもわかってます? あなた、あの鏡に自分の血を垂らしたでしょう?》
《さあ、早くここから出ていってくださいねー》
――――目が覚めた。
「はぁ……はっ……」
目を開けた先に見えたのは、見知った天井。
外にいたはずなのに、なぜか俺は自室にいた。
時間を見ると、どうやら午後4時らしい。
そろそろ夜になる時間帯だ。携帯で確認すると、弟と一緒に神社に行った日付になっていた。
俺は半日何をやっていた?
自分の家の、部屋のベッドの中で眠っていた……?
(いや待て。だって、妖精の声が聞こえて……)
ああそうだ。
ああ、思い出した――――ッ!!
慌てて部屋から飛び出し駆けていく先は弟がいるであろう場所へと急ぐ。
「秋満ぅぅぅっっ!!!」
「うわっびっくりした! どうしたの姉ちゃん!?」
扉を開けて中へ入り、秋満の身体をチェックする。
傷はない。何も違和感はない。
外見だけはいつもと変わらないのだけれど……。
「秋満、お姉ちゃんと朝から一緒に神社に行ったの覚えているか!?」
「……え、なにそれ?」
「えっ」
秋満はただきょとんとした顔で俺を見た。
「朝は普通に寝てたよ。お母さんが起こしてくれたの忘れたの?」
「そ、う……」
「えっと、大丈夫姉ちゃん? なんか顔が真っ白だよ?」
心配そうな目でこちらを見てくる弟は、いつも通りとても優しくて良い子のままだ。
俺の頭が弄られていないなら。
本当にあの時の記憶が、間違ってなかったんだったら。
ああ、秋満の記憶が弄られている。
それだけじゃない。それが当然だと思っているんだ。
当たり前だった常識が、非常識へ変わっていくように……。
「……あっ」
いや、確認するべきはそこだけじゃない。
俺が聞かなきゃいけないのは――――
「……あのさ、昨日見せてくれた手鏡って持ってる?」
「てかがみ?」
「ッ―――――ちょっとポケットの中とか確認してもいいかっ!?」
「え、なにっ!? なんなの姉ちゃんどうしたんだよ!!?」
ポケットの中を探るが何もない。
両手を触るが何もない。
もしや秋満の口の中かと手を突っ込もうとして。
そうして、何かの違和感に気づいたが――――。
「もおおお姉ちゃんうざいよ!! 何があったのか分かんねえけど、僕に八つ当たりすんなよ馬鹿ぁ!!」
無理やり部屋から出ていこうとする秋満に縋るように抱き着くが、弟は全力で俺から逃げようと必死になっている。
ただ俺が秋満に八つ当たりをしていると誤解して。
本当に何も覚えていないままで。
「いやちょっと待って。お姉ちゃんは秋満のことが心配で……!!」
「僕は元気だから! 何もないから! 変なところで心配すんじゃねーっての!!!」
大声を出して、俺の頭をギューッと押して。
そうやって突き放した秋満が不機嫌な表情のまま部屋から出ていってしまう。
「秋満……」
口の中に違和感があった、というよりは。
胸ポケットの方に何か隠し持っていたような感じがあった。でもそれを確認するのは秋満の機嫌が直ってからだろうけれど……。
(俺の頭が変なのか? それとも秋満が変になったのか?)
何を疑えばいいんだろう。
ああどうしたらいい。
何を信じたらいい? 何を真実だと思えばいい?
もはや四面楚歌だった。
多分あの声は妖精の声だったんだろう。
でもそれが、本当に妖精の声だったのかって疑う部分もある。俺の聴覚も変だった場合は意味がなくなる。
記憶さえ弄られるんだ。
それが真実だと思っていたものが、変に書き換えられてしまうんだ。
(ああでも、桃子が言っていたな……あの害虫は今こちらに干渉することなど不可能って……)
――――妖精がこの現実世界で好き勝手に弄れるんじゃないとしたら。
いやでも、手の届く範囲でって言っていた。
じゃあ、もしかしたら……。
「秋音ちゃーん! 友達が来てるわよー!」
「ッ――――」
母さんの声に思わず身体がびくりと跳ねる。
そうして慌てて部屋から出て玄関へ行ってみれば――――。
「鏡夜、と……朝比奈陽葵?」
二人の頭は無事だった……のか?