ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ 作:かげはし
「二人とも、朝にあった記憶が残ってるのか!?」
俺の言葉に対し、二人はそれぞれ顔を見合わせて肩をすくめる。
その姿やしぐさがやはり対比されたキャラクターだけど似ているな……と思考が前世へ流れていきそうになって慌てて首を横に振って、今を見据える。
「ちょっと話でもしようか……できれば、誰かが話をしないところで」
そう言った鏡夜が視線を横にずらして何かを見た。
後ろを振り返ると秋満が鏡夜たちを睨んでいる。なんだか毛を逆立てた猫のようだ。
「紅葉秋音。すまないが君の部屋に案内してもらってもいいだろうか?」
「あっ、うん。もちろん。部屋は二階にあるからそっちへ……」
陽葵の言葉に頷き、俺は自室へ――――と案内する前に、何故か弟に服の裾を引っ張られた。そうして二人から引き離される。
対する鏡夜は秋満に対して苦笑し、陽葵は首を傾けるだけだった。
鏡夜たちを睨んでいるのは変わらず、ただ「むぅぅ」と頬を膨らませている。
ハムスターのようでかわいいが、今はやるべきことがあるんだ。
「ごめんね秋満。お姉ちゃんちょっと大事なお話があるから……」
「姉ちゃん、あいつ誰」
「あいつ? 二人のこと?」
「あのお姉さんじゃなくて、あの男……あいつ、だれ?」
「えっ、鏡夜のことか? 大事な友達だけど……どうかしたか?」
俺の言葉に反応し、目を細める。
何故かまた鏡夜を鋭く睨みつけ「きょうや……鏡夜……覚えたぞ」と言って俺から離れていった。
なんだったんだろう。もしかしてお姉ちゃんを取られるっていう嫉妬か?
「可愛い弟だね」
「そう、かな……」
秋満がいないというのに鏡夜が猫をかぶっているのが妙に気になった。
陽葵がいるからだろうか……。
いや、部屋に行けばわかるか。
「ここが俺の部屋――――それで、話なんだけど」
「その前にいくつか質問だ」
そう言ってきたのは、人差し指を立てた鏡夜だった。
「僕……いや、俺は入学式に君と話をした?」
「えっ、あ。まあそうだけど……」
今こいつ『僕』って言ったか?
俺に向かって他人行儀になってる?
「妖精が現れて、化け物退治をした?」
「た、退治というか防衛戦だけど……あの、鏡夜ちょっといいか。もしかして記憶が――――」
「最後に一つ。君は前世の記憶がある?」
無意識に背筋が伸びた。
今までだったらその答えに対してすぐ頷くことが出来たはずだった。
でもあらゆる意味で常識が弄られている今――――。
「その答えには、今は『分からない』って伝えとく」
「……そうか」
頷いた鏡夜が深い溜息を吐いて、肩をすくめた。
そうして、今度は陽葵が口を開いた。
「実は
「えっ?」
「妖精にも会っていない。化け物にも会っていない……薄紫鏡についても分かっていないんだ」
「いやちょっと待って! まって、くれ……まず聞きたい。薄紫鏡についてなんだけど……」
俺は桃子によって思い出された過去の記憶にあったものから分かったこと。
弟も持っていたから、あの記憶が現実のものだと実感できたんだ。
「私がそれを持っていたらしい……まあ、今となっては記憶はないがな」
そう、自分の胸に手を置いて言った彼女が小さく微笑んだ。
それがどこか懐かしく感じたのは――――。
「まずいくつか言うと、俺たちは記憶がない。だが何かあったのは分かっている。……それに、お前の反応を見る限り、それが真実であるというのも理解できた」
「な、んで……」
「これのおかげだよ」
見せてきたのは、一つのノート。
それは鏡夜によって奪われてしまった、俺が前世について書いていたものだった。
「俺はどうやらここに日記も記していたらしい。日々何が起きて誰と交流し、そして紅葉秋音について綴られているよ。記憶が失われると分かっていたのか、それとも何かおかしいと思ったからなのかは……まあ、残念ながら書いてはいないがな」
「神無月とは違うが、私は大事な仲間である雀から教えてもらったんだ。あいつの言う言葉は信じられるから」
つまり、それぞれ対応策はしてあったと。
だからこうして――――俺に会いに来たということか。
「あの、何でここに? 真実を知るためだとしても……もしも俺が何覚えていなかったら……。それに俺は何も……最初から頭を弄られている可能性だってあるし……」
「弄られているとしても、今この瞬間手を出すわけじゃないだろう。神社で記憶を捏造されたというのなら何か知られたくないことがあるということ。今こうして共に話し合うことを望まないはずだ。
でも何もしない……すなわち、手を出すことが出来ないということだ」
夕黄の桃子が言っていた言葉と同じだ。
いつの間に調べたんだろう。いや忘れる前の陽葵からの情報によってかな?
「頭がおかしくなったとしても手記は変わらない。見えるものすべてが変わるわけじゃない。だから調べたんだ。あのフユノ神社と呼ばれている場所を――――それで神社に行ったら、彼女がいてね」
ちらりと苦笑しながらも鏡夜は陽葵を見る。
陽葵は真顔で頷き、口を開いた。
「私は私なりに情報を整理して実力行使に出たまでだ」
「……実力行使というと?」
「神社に行ったせいで忘れてしまったということは、元凶そのものを消してしまえばいいと思ってな。まあ火をつけて燃やしてしまおうかと……」
「それって放火魔のやり方ぁぁぁ!!!」
陽葵やべええええ!?
そうだこいつそういう奴だった! でも現実でそういうことするかよ!
だって忘れたんだろ!?
入学式のことも、妖精のことも!
それに幼い頃の――――。
(あれ、俺何を考えて……)
頭を振って思考を切り替える。
それで恐る恐る陽葵を見た。
陽葵は涼しげな顔で俺を見ているだけ。なにか悪いことでもしたかというような態度だ。
「……ちなみに神社は?」
「残念ながら燃えなかった。何度か火をつけようとしてもすぐ消えてしまうんだ。私だけじゃなくて神無月にも試してもらったが……」
「まあそれで、できないって分かったから、次に彼女と一緒に神社の中へ入ったんだ」
「ええっ!? それって大丈夫だったのか!?」
酷い目に遭ったというのによく行く気に……いや、覚えてないからか?
素を見せていてもちょっとだけ遠慮があるのも、やはり今までの記憶がないからか……。
鏡夜は何も問題はなかったと頷いた。
「……違和感はなかった。それに誰もいなかった。鏡も何もなかったよ」
「えっ?」
「もしかしたら何か条件があるかもしれない。時間が問題なのか、それとも何かを所持していないといけないのか……」
ふと――――思い出したことがあった。
あの忘れていた記憶の中にあった。
(鏡合わせにすること? それともあの紫の鏡を持っていればいいってこと?)
でもあの時、誰も鏡なんて持っていなかった。それに過去のあの時だって一人で鏡を割に向かった時は誰もいなかったのに……。
――――複数の条件が必要?
でもそれは、あの女を呼び出すことの条件だ。
誰がそんな悪意を呼び出すような真似をするのか……。
「まあそれはさておき、だ」
パチンと手を叩いた鏡夜にハッと我に返った。
前を見ると二人は立ち上がって俺を見下ろした。
「紅葉秋音。神無月から聞いたよ。君は黄組の星空天と一緒に心霊現象をどうにかしてもらおうと思っていたんだろう?」
「そ、そうだけど……」
「私としては超常現象並びに霊的現象については――――餅は餅屋に頼るべきだと思ってね」
それはすなわち、天に頼るということ?
でも無理なんじゃないだろうか。
だって天は困ったらまた来てほしいって言ってくれたけれど……それでも、きちんと助けるわけじゃないから……。
「ええっと、でも多分あまり意味がないような気が……」
「紅葉、俺はさっき言ったがお前のノートと日記によってここへ来ることが出来たんだ。それでここへ来る前に図書館の情報は全て調べた。ネットも何もかも――――でも有力なのは、多分あそこだ」
「えっと……」
「頼るというのは、情報のことだよ」
それはそれで大丈夫なんだろうか。
というか、鏡夜があの水仙神社へ行っても大丈夫なのか?
「あのさ。覚えてないから言うけど……えっと、鏡夜はなんか神様に執着されているから、行かない方がいいと思うよ?」
「問題ない」
「いや何で陽葵が答えるの!?」
真顔で、ただ手の中にあった布に包まれた棒――――おそらく木刀を手にしながら言う。
「神が手を出すというのなら、それはすなわち私たちも手が出せる領域にあるということだ。むしろこちらへ来るのならちょうどいい。私が潰してやろう」
「いやいやいや……」
「まあ朝比奈の言い分はともかく……俺としても問題はないと思っているよ。なんせ、元凶がこちらに来る可能性が高いってことだろう?」
「ふ、不運になる可能性も……」
「どうやって?」
つまり物理的接触でもいいから何かが起きたらその時に対処してやると。
なんかこう……記憶を失ったせいかやることが結構派手というか慎重さがないというか……。
(でもこのままじっとしているわけにはいかないか……)
とりあえず天に連絡でも取ってからにしようと決意した。
鏡夜について本当に何かあったら困るし――――。
「さあ行くぞ!」
「ああ」
「いやちょっと待ってっ! 先に連絡するから待ってえええええ!!!」