ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ 作:かげはし
鏡夜に記憶がないせいか、それともあまり実感していないせいか。
しかし強行する姿勢は変わらず。むしろ行動力があり過ぎるせいである意味死亡フラグ立てているんじゃないかと思う。
(これどうやって止めたらいいかなぁ……)
――――水仙神社の入り口先で押し合いしている鏡夜と天。
天はとても必死になって鏡夜を説得しようとしているが、それでもという。
……多分、記憶を失ったせいだろう。
あの妖精の衝撃によって少しは分かってくれたはずの――――人を信じない鏡夜が出来上がっていたのだから。
俺を道具扱いもしない。
何かを頼ることなく、天の苦言にも屈しない。
俺に対して信じると言ってくれた視線はなく、ただ己が書いたノートを信じているだけ。
それに対して思うことはあった。
でももう、どうしようもない気がする……。
(俺たちの記憶は、いつから弄られていたのかにもよるよな……)
目の前でいまだに続く天の怒鳴り声。
それに冷めた目で見ている鏡夜。
見たものしか信じない鏡夜と、直感と言う名の見てもいないものを信じる天。
本当に相性が悪いというかなんというか……。
「だから行けないって言ってるっすよね!? 死んじゃったらどうするんすか!!?」
「その時はその時だろう。いいからそこをどいてくれないか」
「駄目っす! あんた後ろにいるアレが見えてねえのかよ!!!」
「……はぁ? 後ろ?」
天が指さした先は、鏡夜だけでなく俺たちにとっての真後ろでもあった。
神社とは反対方向の、二手に分かれた道路が接しているだけ。
鏡夜と陽葵が振り返ってみても驚いた様子はなく、俺も見て平気かと少しだけ確かめようとして――――天が俺の両頬を掴んで後ろを見ないよう固定してきた。
「秋音ちゃんは見ない方がいいっす。あれはあんたも喰らいたがってる」
「喰らいたがってるって何が!?」
いやいやいや。何がいるんですかねー!?
やっぱり怪異か!? 幽霊か!?
ビビっている俺とは裏腹に、鏡夜は考えるような顔で天を見た。
「あんたも……ってことは、俺もだな。しかし後ろを見ても何もいなかったぞ」
「私も神無月と一緒で見たが何もいなかった。星空は冗談を言っているのか?」
「んなわけないっしょ。とにかく神無月鏡夜。アンタだけはこの中へ入れることはできないっす!」
「俺が死ぬからか?」
「そうっすよ! なんで神無月君はそんな他人事みたいに言うんすかねー!?」
「実際に死んでもいないし、俺は化け物も何も覚えてはいない。見てないものを信じるわけがないだろう」
「あああもうそういうの面倒なんすよ!!!!」
このままじゃ強行されるよなー。
でもなんていえば……。
「ああっと……鏡夜、やっぱりやめた方がいいと思うんだけど……」
「紅葉さんには関係ないことだろう」
「うぐ……」
なんかこう、胸に突き刺さる彼の視線と冷めた声に言葉が詰まる。
(まあ……今の鏡夜にとって俺は赤の他人だもんな……)
ちょっとだけ泣きそうになったが我慢する。
それに気づかない鏡夜はやっぱり天を押しのけて行きそうだ。
陽葵はどうでもいいと思っているのか。
とりあえず傍観しているだけで、ほとんどぼーっとしている。物理特化の戦闘最強だからだろうか。
「――――いいわよ入れても」
刹那。神社の奥から歩いてくる少女がいた。
彼女は――――いや、向日葵アカネは月のように目を黄色く輝かせ、神社から外へ出る一歩手前で立ち止まった。
鏡夜の目の前で、ただ値踏みするように彼を見て。
「アカネちゃん何言ってんの!? 女神対女神の戦争でもするつもり!?」
「大丈夫よあっ君。暗黙の了解があってね……私をあの世界へ連れて行ったとしても、私を殺そうだなんていう馬鹿はいないわよ」
「そういう問題じゃないっす!!」
「それに私……これと決めたら真っ直ぐ突き進むのは嫌いじゃないの」
にこりと妖艶に笑った彼女に、鏡夜がごくりと息を呑む。
「そこから中へ入ったら、どうなるのか分かっているの?」
「そのどうなるのかを確かめるためにここへ来たんだ」
「…………最後の忠告よ。そこから入ったら死んじゃうかもしれないわよ?」
「死ぬかどうかなんて、お前たちが決めることじゃない」
「そう……なら、中へお入り」
そういったアカネの言葉に連れられて鏡夜が一歩前へと踏み出す。
天が止めることもなく、陽葵はそれを見守っていたまま。
「死んじゃうってあなた自身のことだと思っているのね……本当に、馬鹿な人間……」
そうして視界がぐるりと回った――――。
《予定とは異なりますがこれから戦を始めまーす! うふふ。それも特殊なものですよー。頑張って生き残ってくださいねー!》