ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ   作:かげはし

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第十九話 夏はすべてを知っていた

 

 

 

『ならば――――あなたは知りなさい。全部見届けなさい』

 

 

 

 思い出すのは神の一言。

 願い続けてようやく叶ったそれは、私にとっての罪となった。

 だから私はあの神になろうとする異物のせいで、呪われているようなもの。

 

 でもそれは仕方がないんだ。

 もしもここで全員が死んだとしても――――死ねば助かる道だってあると知っているから。

 

 

 あの妖精を潰すためには、わたしではどうしようもないから。

 

 

 

(白兎……と呼ばれていた。あのお姉ちゃんのように、囚われて死ぬぐらいなら……)

 

 

 

 この曖昧な世界で一度会ったあの冬乃お姉ちゃんを信じることはできない。冬野白兎と呼ばれた少女は確かに少しだけお姉ちゃんに似ていたけれど……その魂の奥底はまだ同じかもしれないけれど。

 

 でもあの時ちゃんと死んでしまったのだから。

 鏡夜を庇ってアレに襲われて、死んでしまったのだから。

 

 あの元凶の手の届かない場所で死んでくれるのなら。

 あいつがいる前で殺されないために。不運でもなんでも、ただ私の目の前で普通に鏡夜が死んで、アレから逃げられるならと。

 

 

(死は救える。だから死んでもらわなきゃ……)

 

 

 私が殺すことはできない。

 縛られて、呪われているから。

 

 私が殺せるのは――――あのぐちゃぐちゃになった紅葉秋音ぐらいだ。秋音は鏡夜のまがいもの。鏡夜と仲良くて、両想いだったから。それがいけなかったから。

 だからあんなにも自我を失ってしまったんだと……。

 

 殺したのはあいつの植え付けられた情報が鏡夜を彷彿とさせるのを防ぐため。

 

 これ以上の対価なんて、秋音が支払う必要はないのだから。

 

 

(結局は鏡夜のせいで私たち全員がおかしくなったようなものだよね……)

 

 

 もしも終わったら。

 全員記憶が戻ったら、たぶん真っ先に秋音が鏡夜に向かってビンタの一つぐらいはしていそうだ。

 

 昔からそうだった。

 昔からみんな自分勝手で、だからアレに目を付けられた。

 

 いや、一番の原因は鏡夜かな。

 大昔のあいつのせいでこうなったようなもんだし。

 

 ――――結局は、アレはいつも通り鏡夜を奪おうとするんだろう。

 

 そうして、夕日丘にいる人たちを使って……。

 

 

 

《さーって。皆さん今回は合同で行いますよー! 特別な戦いなので充分注意してくださいねー!》

 

 

 思考の海から出て、アレを観察する。

 私が記憶を持っていることぐらいは知っているはずだ。でも頭は弄れないだろう。そういう風に呪われたから。

 

 私と鏡夜の命を天秤にするなら――――真っ先に鏡夜を狙うはず。

 そうなるなら、私は自分の命を犠牲にしてでも鏡夜を生かさなくてはならない。

 

 

《ああそうだ。二年生と三年生は特別にデバフかけさせていただきますねー!》

 

 

「はぁ!?」

 

「おいふざけんじゃねー! それだとにげきれねーじゃねえかよ!」

 

 

《逃げてもらっては困るからですよー。もう、いつもそうやって逃げてばかりだからこうして呼び出したっていうのに》

 

 

 

 妖精の声が冷める。

 生ごみでも見るかのような目で、彼らを見る。

 

 

《まあ逃げるならそれでも構いませんよー。今回はただのお遊びですし……》

 

 

「なら!」

 

 

《でもまあ、覚悟ぐらいはしてくださいね》

 

 

 

 そうやって命を使って、何を作るというのか。

 

 

 

(私の手で、殺せたらいいのに……)

 

 

 

 それが無理だから、周りを巻き込まなきゃいけない。

 でも妖精に目を付けられないように。

 

 

 今以上に目を付けられたら――――呪いも関係なく秋音のようになってしまう。

 ……それだけは、避けなければ。

 

 

 

 

 

 


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