ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ   作:かげはし

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第二十二話 誘いの手

 

 

 鏡夜に全てを話したが、警戒したような顔で頷いた。

 

 しかしそれ以前にいろいろと考えていたのか、青組全員を集めていったのだ。

 

 

「妖精が示した期間は半年もある。数時間や数日なんてどころじゃない。クリスタルを守るというのは分かるが、食料などといったものが必要になる」

 

 

(ああ……そうか……)

 

 

 確かにそうだ。

 ここに半年いるとしても、それでどう生きて行けばいいのか分からない。

 

 いつ来るのか分からない敵に怯えてずっとここにいたら――――間違いなく発狂する。

 そこを鏡夜は心配しているのだろう。

 

 

「検証は必要だ。食料以外にも……どこかに安全地帯があるのか、化け物が四六時中襲ってくるのかそれとも周期があるのか……」

 

「おい神無月、ずっとここに居ろってんなら寝る場所も必要になるだろうが」

 

 

 春臣の言った言葉に鏡夜は頷いた。

 

 

「もちろん。それと同じく自宅に帰れるのかどうかも……いくつか調べる必要がある。なのでチームを組もう」

 

「チ、チーム? でも私怖いわ……」

 

「俺も……神無月君の言うように動けるかどうかわからないし……」

 

 

「大丈夫だよみんな。全員で動くわけじゃないし、外に出るのが怖い人は赤組に守ってもらうつもりだから。……それでいいよね、朝比奈さん?」

 

 

「ああもちろん。ここの防衛は私に任せてくれ。化け物が襲い掛かって来ようとも私が対処しよう」

 

 

(まあ、それが妥当だよな……)

 

 

 先ほど妖精に向かって攻撃しようとしてきた度胸。それと同じく反撃されそうになった時の危機察知。

 いくつか弱点はあるものの。あの朝比奈陽葵が一緒であればクリスタルは守られるだろう。

 

 しかし長期で考えるならば陽葵に全ての負担を背負わせるわけにはいかない。陽葵が倒れたらそれですべてが終わるだなんてことになったら目も当てられない。

 

 俺たちでもできることを探さないと……。

 そう思って鏡夜に向かって問いかけた。

 

 

「じゃあ俺たちは食料探しにいくのか?」

 

「ああ、でも俺と紅葉だけじゃない……誰か有志はいるかな?」

 

 

 そういった鏡夜の言葉に対し、数秒ほど誰も何も言おうとはしなかった。

 身体を震えさせている者が大半。勇気があって出来ることじゃないと思う人々。

 

 しかしそれでも手を上げてくれた人達がいた。

 

 

「俺が行くぜ。どうせまた何かあったらお前を背負って逃げりゃあいいだろ」

 

「なにを言って……い、いや。ああ、そうだね」

 

「ああ? なんだてめえ忘れたのか?」

 

「まさか、気にしないでくれよ桜坂君」

 

「てめえその口調気持ち悪いんだよやめろや!」

 

 

 引き攣った顔で鏡夜の頭を軽く叩いた春臣に対して苦笑する。

 記憶が無事だったらなと思いながらも……。

 

 ただ、次に手を上げたもう二人を見た。

 

 

「なに? 私が手を上げちゃ悪いの紅葉?」

 

「別に。でもちょっと怖いだけ」

 

「…………素直なのは嫌いじゃないよ」

 

 

 そっぽを向いた夏は放っておこう。彼女は確かに俺を殺したけれど……でも、妖精を倒すという目的のために動いているんだから、何かしら役に立ってはくれるはずだ。

 

 それともう一人。

 陽葵の顔を見て意味深に頷いた燕を見た。

 ……ああ、多分これで全員なんだろう。

 

 天たちは傍観しているのか否か。まあ後でわかるかな。

 

 鏡夜は集まった五人を見て頷く。

 

 

「今化け物が来ないというのなら早急に必要物資を集めなきゃいけない。なので二手に分かれるぞ」

 

「二手? でもどうやって……」

 

「片方は俺と一緒に検証のための調査。もう一つは食糧確保だ」

 

 

 

・・・

 

 

 鏡夜は桜坂と夏が一緒になって行動することになり、俺は燕と一緒に食料確保へ急ぐ。

 まだ化け物が来るような音は響かない。だから大丈夫かなと思いながらも早足で向かったのはデパートだった。

 

 人はいないけれど食料は陳列されている。作られたおかずなども本物だ。

 匂いも確かにあって、何かおかしいと思える部分はない。

 

 だから大丈夫かと、デパートの衣服売り場にて確保した大きなリュックを背負いつつ捜し歩く。

 

 

「こっちは缶詰あるよ。全部入れて持っていこう」

 

「おう、そうだな……」

 

「秋音。これもいいんじゃない?」

 

「米? でも炊くことは……」

 

「キャンプセットがあったはずだからそれも持っていけばいい。それに家に帰れることが出来るなら炊飯器で炊いてから持ってくることだって可能だろう?」

 

「ま、まあそうだな? にしても、なんかこう……」

 

「うん?」

 

「やっていることが泥棒みたいで気まずい」

 

 

 居心地悪く苦笑すると、燕は「あはは、そんなことで悩んでいたの?」と笑った。

 まあ確かに現実でやったら大変なことになるけれど……ここは本来の現実世界とはちょっと違うけどさぁ……。

 

 そう思っていたら、燕が小さく何かを言った。

 

 

 

「そうだ、秋音。――――よもつへぐいって知ってる?」

 

「何で急に怖いこと言うわけ!!?」

 

「怖くはないよ。ただの興味本位……食べたらその住人になっちゃうってやつだからね。……でもまあ、あの瓶の中身とは違うから大丈夫だと思うよ」

 

 

 言われた言葉に硬直した。

 

 

「え、いまなんて……」

 

「食べ物は本物だから大丈夫だよ」

 

「いや違うって! あの瓶の中身についてだよ!!?」

 

「ああそれ……だって前にそう聞いてたからね。そういうのに似た液体だって。頭だけじゃなくて視覚や聴覚がおかしくなってなければ、あれを飲めば人から一歩外れてしまうってさ」

 

「聞いたって……誰に?」

 

 

 燕は俺を見て笑う。

 最初はきょとんとした顔で、何を言っているんだろうと首を傾けていたのに。

 

 今はただ、分からないことに対して納得しているようだった。

 

 だって――――俺の頭の中にある『前世の記憶』にだってなかったのに……。

 

 

 

「知りたいなら……そうだ、ボクの自宅に来るかい?」

 

 

 

 手を伸ばされて言われた言葉が、少しだけ怖いと感じた。

 

 

 

 


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