ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ 作:かげはし
後書きに前回の掲示板の続き載ってます。よろしくお願いいたします!
そもそもおかしい部分があったんだ。
これはある程度予想していた――――。
だって桃子によってあのよくわからない過去の記憶を見せられた時にあったんだ。
紅葉秋音としての記憶だけじゃない。神無月鏡夜の記憶が一部混じっていたということに。
夢の中での視点は常に秋音だけだった。だというのにあの学校の――――秋音が休んでいたはずの、家で眠っていた時の記憶はおぼろげなのに対し、鏡夜が学校に来た時の記憶が鮮明だった。
秋音に対して心配していたような心境さえ理解できた。
過去の鏡夜の一部分だけがはっきりと見えたんだ。
そんなのおかしいだろう。
俺が『紅葉秋音』なら、鏡夜の記憶なんて見れるわけがないだろう。
「……前世の記憶は、鏡夜が持っていた? じゃあ小学校五年の、あの時の記憶は?」
「小学校五年……の、どのとき?」
「秋から冬にかけて起きたこと。……多分数か月はかかっていると思うけど……」
「……ボクは、そんなの知らないよ」
「でも何かは知っているんだろう!?」
「そりゃあね。でもそっか……また別の問題が起きているんだ……」
「別の問題って?」
燕は首を横に振る。
俺が期待している答えを全て出せるとは言えないような目で。
ただ、過去に起きた記憶にない出来事の一つとして……仲睦まじい様子の写真を見て――――。
「ボクが貰ったノートは……ただ、念のためにって渡されたものだよ。この世界について、何処に行けば解放されるのかについて――――陽葵は知らないし渡すつもりはないけれど、神に愛されている天に渡そうと思っていたもの……だけど、このままじゃだめかな……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。状況を整理させろ!」
頭が痛いのは、知恵熱でも出ているのか否か。
燕が俺の言葉に対して頷いて、ただリュックの中から先ほど入れたノートを取り出してきた。
しかしまだ見せようとはしない。
だからその間に考える。
俺は頭を弄られた。鏡夜の記憶の一部分があるから―――――たぶん、鏡夜の記憶を受け継いでいる可能性が高い。でもそれは一部分のものだろう。
そもそもその前世のゲーム知識がすべて正しいかは分からないのだから。
「別の問題が起きたって言ったな。どういう意味だ?」
「……一度起きた問題が、俺たちから偽りの記憶を入れられ、ある程度仲を引き裂かれたのは分かる?」
「ええっと。つまりこの写真を撮ったあと何かのきっかけで俺たち全員が仲違いしたと……あれ、でも小学校の頃の俺は鏡夜と一緒にいたぞ?」
「ボクも陽葵と一緒に幼馴染の記憶があるよ……だから多分、全部が消えたわけじゃないと思う……まあ憶測だけど……それか、そういう風に調整していたか」
いやな感覚だった。
憶測と言っても、ありえる話だった。
頬から冷や汗が流れ落ちる。
この後急に化け物に襲われたら絶対に死ぬだろうと思えるぐらいには、体がまともに動かない。それぐらい震えていた。正気が失われていくような感覚だ。
どれを信じたらいいのか分からなくて……でもきっと、燕の言葉は信じられるだろうから……。
「ノートには……何が書かれているんだ?」
「ボク達が一緒に居た時の記憶。何も思い出せなくなる可能性が高いって書かれていた鏡夜の考え。そしてこの妖精が作り出した世界の穴について――――」
「穴?」
「フユノ神社……いや、夕日丘神社って覚えてる?」
「あっ―――――!?」
「……秋音?」
燕の声に反応が出来なかった。
頭が痛い。
視界に何か、違和感が起きる。
めまいのような感覚。世界がぐるっと回っているようなそんな――――。
【夕青白】新作出たからクリア目指せ!!
・・・
・・
・
960 ホラゲー探索名無しさん
だからバグってるのって絶対におかしいって!!
普通に考えて新ルートしかありえねえだろ!!?
961 ホラゲー探索名無しさん
俺たちの見つけていない夕青の新ルートの可能性が……!?
いやでも釣りの可能性が高いというか……
962 ホラゲー探索名無しさん
何かやらかしたのか!?
そうじゃなけりゃあ俺は信じねえぞ!!
963 バグ
いやでも本当なのですが……
964 ホラゲー探索名無しさん
中古で買ったんだろ? その以前の人が何かチート行為でもやらかして妖精に怒られてゲームできなくなって、それで売り飛ばしてお前のところに来たらどうだ?
つまりチート行為で出来なくなったソフトを別のゲーム本体で起動したら何かが起きる可能性が……!
965 ホラゲー探索名無しさん
ねーよそんなの。
というか妖精に怒られてもデータ消せば一応復帰はできるし……。ちゃんとチート行為しないで元に戻したら大丈夫だし……。
966 ホラゲー探索名無しさん
ごめん寝てて今気づいたんだけど……。
秋音と鏡夜ちゃんデートすることになったって部分は読んだ。
それ以外に何か起きたか?
967 ホラゲー探索名無しさん
>>966 突然のホラー要素あって今は暗闇の中をさまよっている感じ
968 ホラゲー探索名無しさん
>>966 デートしていたはずの秋音の顔が急にバグって真っ黒になって潰れた瞬間、女の甲高い悲鳴が聞こえたらしい。そのあとは普通に視界全部が真っ暗になって動けない状態。
データ消しても何しても真っ暗のままだから、バグのやつは普通にそのまま放置してる。何か起きるかもってみんなで待機中だ。
969 ホラゲー探索名無しさん
秋音の顔が真っ黒で悲鳴とかなにそれホラーかよ……。
970 ホラゲー探索名無しさん
残念これはホラーゲームです!!!!
971 ホラゲー探索名無しさん
なあそろそろ1000行くぞ。次のスレ立てた方がよくねえか?
972 ホラゲー探索名無しさん
バグの専用スレでも立てるか……
もしもこのバグが本物で、新ルート確定したんだったらバグが何をやったのか全員で検証する必要があるから事細かく夕青でのプレイ記録を晒せ
973 バグ
あっ
974 ホラゲー探索名無しさん
どうした?
何か進展でもあったか?
・・・
・・
・
真っ暗な画面から、突然キーボード表記が出てきた。
ひらがなで打てるようになっているらしい。しかし何を打てと言うのだろうか。
よくわからずに首を傾けていると、キャラクターとの会話パートでよく見かける表記が出てきた。
《これから何をしたい?》
それはキャラクターの声がない、ただの会話だけのもの。
無音で、不気味な暗闇でしかない空間に浮かび上がるものにごくりと唾を呑み込んだ。
しかもキーボード表記も消えておらず、選択肢がない状態で何がしたいと言われてしまっては答えるしかないのかと困惑した。
何をしたいと言われたから、私はただ「クリアしたいけど、君は何がしたいの?」とだけ書いた。
こんな意味のない会話に――――ゲームシステムが対応できるかどうかと疑念に感じていた時だった。
《深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ》
その台詞が現れた後、急に大量の文字が流れていく。
英語で書かれているもの。日本語、イタリア語、ロシア語……それ以外にもいろいろと。たぶん全ての言語が表記されては消えているのだろう。
壊れたのだろうか。
読めない文字が一気に進んで――――これは記録した方が良いかと慌てていた時だった。
妖精の可愛らしい顔がドアップで映り込んだ。
それに驚いて仰け反ると、彼女はまるでこちらを見ているかのようにとても楽しそうに笑って……。
《人生にクリアなんてもの、あると思いますかー?》
妖精の可愛らしい声は聞こえない。
ただそのセリフだけが消えずに残り、妖精はキーボード表記の方を指さす。まるで早く書いてくれと言わんばかりに。
なんだかゾッとする状況だ。思わず背後を確認して何かがいないか見てしまうぐらいには。
でもこれはゲームで、私が電源ボタンの一つを押せばすぐに消えてしまうもの。リセットなんてすればもう二度と見ることはできない……かもしれないもの。
スレに書かれていた新ルートの可能性を思い出す。
もしかしたら私は、何かとんでもないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれないというかのような感情で、未知の領域へ足を一歩踏み出した。
キーボードを操作して、「人生はゲームと同じじゃないよ」と書く。私がクリアしたいのはゲームなのだから。
すると妖精はとても不機嫌な表情になった。頬を膨らませて、パタパタと羽を動かして。そうして星の形をしたステッキを指で弄りながらも台詞を表記させてきた。
《常識に縛られるのって楽しいですか? 全部開放してみたくないですか?》
何を言っているんだろうかと、首を傾けた。