ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ 作:かげはし
後書きにゲーム風味の短編。『夕青ゲームのバッドエンド』を用意してます。
本編のみの方は読まなくて大丈夫です!
「……両足が治っているが、何をやったんだ」
「別に。言ったでしょ、私は呪われてるってさ」
それ以上は何も言いたくないとばかりに海里はそっぽを向いて、ただ身体の泥を落としている。
周囲からは泥の化け物の音は聞こえない。しばらくは大丈夫だろう。
聞きたいことがたくさんある。それをきちんと話さないのだとしても――――。
「……あの化け物について教えろ」
「知らないよそんなの」
「泥を射貫いたら薄紫の鏡が割れたのが見えた。そして一瞬だけ男の子が白装束を着ている姿が見えたんだ。あれはすなわち、泥の正体だな? 薄紫色の鏡を貰った人間は、いつかはああなるというのか?」
「…………さあ、幻覚でも見たんじゃない?」
頑なに海里は説明をしようとしない。
こいつは知っていて当然だろう。
なんせ俺が見えたものはすべて本物だった。頭を弄られていたということだとしても……そもそも何故薄紫色の鏡が割れる幻覚を見なくてはならないのか。あの見知らぬ男の子が幻とでもいうのか。
――――それに、紅葉秋音の幻聴についても嘘だとは思えない。
海里は知っていたんだ。
俺が紅葉の声を聞くということを。俺がきちんと射貫くだろうと信じていた。
そもそもおかしいことがあり過ぎる。
記憶を失った理由が神社にあるのだとしたら……。それについても何かを知っているはず。
「どうしても話すつもりはないのか」
「しつこいよ神無月。私に聞いても何も話せないんだってば」
ならばと――――俺は彼女から背を向けて歩き出した。
「ちょっと何処へ行くつもり? 学校はあっちだよ」
「お前が何も言わないんだったら、俺は一人で動く」
「何言ってんのさ。アンタ運動音痴のくせに……死んじゃうかもしれないんだよ」
「その時はその時だ。でも俺は、このまま校庭へ戻って桜坂の死を無駄にしたくはない。何かを知るまでは絶対に――――」
俺たちを守ろうとした人がいた。
その犠牲を無駄にして、何も分からずそのまま帰ることはできない。
少しだけ立ち止まり、泥の化け物の額を射貫いて地面へと落ちたあの一本の矢を拾い上げる。
それ以外の矢はどこかへ飛んでなくなってしまったが……。
「化け物を倒せる術は分かった。なるべく使いたくはないが……それでもこのまま逃げているよりは、俺は前へ進むために行く」
「……行くって、何処へ?」
チラリと後ろを確認すると、海里が焦ったような表情をしていた。
俺がまた歩き続けることに対して何か不安でもあるのだろうか。俺が死んでほしくない何かの理由でもあるのか。
魂の起源と言ったが、俺が紅葉の声を聞いた理由はそれか。
……どうせ言っても答えてはくれないんだろう。
呪われているということは、制限されているということ。
自分の命を犠牲にすることは可能らしいが……それでも奴はこのまま放っておいて大丈夫だと言っていた。
桜坂のようにやせ我慢じゃないのだとすれば――――。
何かの拍子に呪いが発動して両足の骨が治ったのか。
それとも一度はちゃんと死んで……元に戻ったのか。
桜坂も海里のように元に戻るのか。
いやだが……もしかしたら、あの泥の化け物を殺したらもとに戻るかもしれないが……。
でもそれは、俺の考えが正しいなら――――あの化け物達は元人間の可能性が高い。
それを、この手で殺して取り戻せなかったらどうする。
(くそっ……頭が痛い……)
考えすぎたか?
いやそんなわけはない。
「ねえ待ってよ。待てって言ってるでしょ神無月!!」
俺の腕を引っ張って、海里が引き留めた。
「……なんだ」
「アンタどっかへ行こうとしてるみたいだけど……本当に、何処へ行くつもりなわけ?」
「そんなの、神社に決まっているだろう」
「……だからそれは」
「行かせたくないというのか? 俺が行ったら何が起きるんだ? 話さないなら俺は強行するぞ」
睨みつけながら言うと、海里は舌打ちをする。
そうして額に青筋を浮かべて、ギリギリと歯ぎしりを鳴らして。
行かせたくないと伝わってくるが、それを言おうとはしない。
それとも――――言えないのだろうか。
契約とはどの程度干渉できるのだろうか。
観察している俺の目さえも、彼女の気に障ったようだった。
「ああそう。ああ、そう?」
だからそれが、正解なんだろう。
「アンタのそういうところ本当に、ほんっとうに大っ嫌いだよ! 勝手にくたばっちまえ!」
「……そう言いながら、何故俺についてくる」
「アンタが下手なことをして面倒くさい事態にならないように見張るんだよ。……別に、助けようだなんて思ってないし……」
「……そうか」
そっぽを向いて話す彼女の真意は分からない。
しかしここから先は気を引き締めて行こう。
何があっても、覚悟を決めなくては――――。
ゲームステージ『自室』
プレイヤー、神無月鏡夜
状態(心霊感知)、(鏡前の女感知)、(つけ狙う悪夢)
序盤『死亡』、第一章『半死半生』
行動パートへ進みます。
プレイヤーを動かして日常を送ってください。
ゲームは現実の時間と全く同じです。今回のゲームステージでは『一時間』ほどかかります。
状況に応じて通知設定を起動しますか?
→はい
いいえ
『はい』が選択されました。
神無月鏡夜の状況を通知いたします。
→家族の帰宅まであと1時間です。それまで耐えてください。
→小鳥が窓を叩いています。
→冷蔵庫から音が聞こえます。
→窓から人影がこちらを手招きしています。
→インターホンが鳴っています。
→誰かが呼びかけています。
→着信音が鳴っています。
→着信音が鳴っています。
→着信音が鳴っています。
→着信音が鳴っています。
→着信音が鳴っテいます。
→着死音g鳴っtイまス。
→携帯を手に取りました。
会話パートへ強制的に進みます。
必要な選択肢お選びください。
『着信をとりますか?』
はい
→いいえ
『いいえ』が選択されました。
「誰だったんだ……」
携帯に表示されているのは見知らぬ電話番号。入学式からずっと変な心霊現象に悩まされているため、これ以上の予測不能な事態を避ける必要があると感じていた。
だから折り返しの電話は止めておこうと鏡夜は考えていた。
そんな時だった。
「っ――――」
アプリが起動し、何かの動画をインストールしている。携帯を操作しても止まらない。ウイルスか何かかと疑うが、それにしては急すぎる。
やがて動画が勝手に起動し、何かが映し出された。
『動画を見ますか?』
→はい
いいえ
『はい』が選択されました。
動画に映し出されていたのは、男の後姿を撮った映像。その黒髪の男は携帯を手に持っていて、何かを見ているようだった。しかもそのしばらく後に首を動かして何かを探している動作をする。
その顔が後ろを振り返った。
――――そうして、息を呑んだ。
「………………はっ?」
よく見たら、それは自分だった。きょろきょろと首を動かして周りを見ていたら、何かの音が真後ろから聞こえてきた。鏡夜は反射的に後ろへ振り返る。
そして後ろを見た後理解したのだ。
(動画の数秒後に、俺も同じ動きをしている?)
その動画の方が先に動いていた。その後に鏡夜が同じようにやっている。つまり数秒先の何かが映し出されているということ。
携帯を見ると動画の中に映る自分が携帯を操作していた。その表情はとても青ざめているように見える。
「……いやいや。これは質の悪い悪戯……だろ?」
むしろそうであってくれと、鏡夜はやはり動画と同じように携帯を操作して何とかこの動画を終わらせようとしていた。
動画は生放送のように撮り続けているものではない。もう撮り終わったはずの映像が四分ほどだけ流れている。それだけのはずなのに……。
不気味に思った鏡夜は、このままではだめだと携帯を壊すつもりで――――。
『携帯を放り投げますか?』
はい
いいえ
→■■■■
『映像を見続けます』が選択されました
「あっ」
不意に、見てしまった。
投げ捨てようとした携帯から映し出されている自分の姿が、変にねじ曲がっているのが。
「あがっ――――」
身体から激痛が発せられる。
ビキビキ、バキバキ。骨が軋む、肉がえぐられていく。
動画の数秒後に見えたものと同じように、体が変化していくのだ。
どうやったら止められるのか分からない。このままでは死んでしまうと、すがるような思いで携帯を見た。見なければよかった。
いったい何が起きてしまったんだろう。
数秒先にいた自分は、首がない状態のまま死んでしまっていた。
そうして感じたのは首の――――――
ゲームオーバー
あなたの身体はぐちゃぐちゃになりました。
『リトライしますか?』
はい
→いいえ
『いいえ』が選択されました。