ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ   作:かげはし

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第三十話 二つ目の敵

 

 

 

 

 

 

 桜坂が生きていたことに対して歓喜の感情以外ないはずだった。

 海里が生きていたのだから、こいつだって生きていたのだという奇跡を甘受すればよかったのだ。

 

 一歩だけ前へと動いたはずの足が、無意識に後ろにいる海里の方へと引き下がる。

 こいつは桜坂だと理解している。後ろ姿しか見えないけれど、あの高身長と天然の金髪はあいつしかいない。服も俺たちと別れた直前と同じものを着ている。

 

 だから本物であるはずなのに……。

 何故前へ出ることが出来ないのかと疑問に思う。

 身体がこれ以上は前へ進むのが危険だと反応している。

 

 まるでその先へ行けば奈落へ落ちるかと思えるかのように――――。

 

 

「ッ――――」

 

 

 桜坂がゆっくりと、こちらの方へ顔を向けてきた。

 そうして理解できたのだ。

 

 

「よぉ神無月、会いたかったぜ」

 

 

 瞳孔が開き身体中に歪な線が刻まれ、両目と口から赤い血を流しているその光景。

 まるで一度、身体全てを四散させ切り刻んだ後にもう一度くっつけたかのような歪なもの。

 顔にも刻まれた痕が残っていて――――。

 

 

「ああ、いけねえなこの身体……」

 

 

 ニヤリと笑っただけで零れ落ちた頬肉を手ですくいあげてくっつけたこいつが、あの桜坂だとは思えなかった。

 こいつが一歩近づくごとに俺の足が後ろへ下がる。

 海里をチラリと確認するが、彼女は何故か諦めたような顔で俺より数歩後ろへと下がって傍観していた。

 

 ――――すなわち、こいつは海里にとって味方か。

 諦めたような顔が何処か引っかかるが……。

 

 何故桜坂の身体を借りている……いや、借りているのか?

 しかしこのボロボロの身体は桜坂のものだろう。

 

 死体の中に、何かが入り込んでいる?

 

 

「お前は、なんだ? この神社に住まう神か?」

 

「この神社の神様だってぇ? アハハハハハハハハッ!!! 何言ってんだよ神無月!!!」

 

「……は?」

 

 

 何故か海里が唖然とした声を漏らした。

 意味が分からず反射的に彼女の方へ振り向こうとして――――狂気を滲ませた桜坂が急に近づいてきて、俺の腕を掴んできた。

 

 

「ぐっ……離せ!!」

 

 

 足掻けば足掻くほど、奴は笑う。嗤う。

 そんな抵抗しても無駄だというかのように。

 

 

「奴等に取られる前に……お前だけは……」

 

 

 無理やり身体を動かしているからか、血が滲みぽたぽたと俺の身体に降り注ぐ。

 瞳孔の開ききった目が俺を見つめて――――そうして、何かを取り出して俺に飲ませようとして手を伸ばしてきた。

 手に掴んでいたのは、何かの液体だった。

 

 幸運の瓶に似ていたけれど、それとはまったく異なる真っ赤な液体だった。

 

 

(まずい……このままだと……!!)

 

 

 矢を取り俺の腕を掴んでいる奴の手へ向けて勢いよく刺す。

 痛みはないようだが、反動があったようだ。

 

 ぼたぼたと零れ落ちた肉片に掴まれた手の力が緩み――――不意に、何かが横切ってきた。

 通り過ぎた視界から見えたのは、風によってめくられたスカートから見えた純白の下着と、そこから伸びた細長い素足。

 靴は桜坂の身体を使っている化け物の頭めがけて飛び蹴りをかましており、真後ろへ向けて化け物が吹っ飛んでいった。

 

 そうして海里夏が俺の前へと立つ。

 先ほどのように諦めた顔なんて何もせず、敵意だけを向けて。

 

 

「ぎっ……てめえっ!!」

 

 

 立ち上がってきた奴へ向けて、海里は鼻で笑って口を開いた。

 

 

「力をくれたアレかと思ったけど、違ったみたいだね……アンタ、誰?」

 

(……力をくれたアレ……ということは、まだ何かいるということか?)

 

 

 桜坂の身体がゆらりと動いた。

 立ち上がって、こちらへと一歩近づこうとする。

 

 落ちてしまった矢を拾い上げ、弓でもって構えた。

 いくら桜坂の身体とはいえ――――もはや化け物なのは変わりない。殺すという罪悪感はない。

 

 額を狙って射貫こうとしたそれを、奴が反射的に手で掴み折ってしまう。

 

 

「鬼ごっこでもしようぜ? あの時みたいによぉ?」

 

 

「っ……アンタ――――っ!!」

 

 

 

 瞬間、桜坂の身体が一気に膨れ上がり爆発四散する。回避を免れなかった俺たちの身体は血に濡れ、周囲にも赤い液体が飛び散っていた。

 

 近くにあった神社でさえも、一部分だけ赤い血で汚されていた。

 

 

「ああ面倒くさいな、まったく!!」

 

「なんだ急に、何が起きたんだ!!?」

 

 

 海里が俺の腕を引っ張って走り出した。

 校庭へ向かって逃げていくことに困惑していると――――背後から音が聞こえてきた。

 

 

「これは大昔にアンタが馬鹿やらかした結果だよ! アレを眠りから起こしたのはアンタでしょ!!!」

 

「知るか!! あれってなんだよ!!」

 

 

 ぽたぽたと、水が零れ落ちていくような何かの液体の音が聞こえてくる。

 

 

「アンタがさっき話してくれた大昔の話。あれ一部正解だよ……それしか言えない。私はあまり介入できない。ってのに!! アンタが危険な目に遭うから! なんで私ここまで契約外なことしなきゃならないわけ!!? これ以上は私が死ぬから無理だっての!!」

 

「死ぬってなんだ!? 説明ができないから逃げろっていうのか!?」

 

「察しろ馬鹿!!」

 

「察せられるか!!」

 

 

 後ろをチラリと振り返ったが、そこには何もいなかった。

 

 だというのに海里は真顔で必死に逃げようとしている。

 何が追いかけてきているのか俺には見えない。もしかしたら見えない何かがいるのだろうか。

 

 

「校庭へ着いたら覚えてろ神無月鏡夜。アンタ絶対に許さないからね!!」

 

 

 

 


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