ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ   作:かげはし

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とある欠陥の共犯者

 

 

 

 カタカタとパソコンのキーボードを動かし、それ以外に買い足したサーバー等も使って妖精の指示の通りに動く。

 ネットの中に入り込んだと言っても、妖精が指示をした通りのあるプログラムを入れただけ。

 妖精はいまだに画面の奥でニコニコと笑ってこちらを見ている。

 

 

「……これでよかったの?」

 

 

 私の言葉に妖精は頷いて台詞を表示させた。

 

 

《はい。貴方のこともちゃんと認識できるようになりましたし、声だって聞けるようになりました。おかげである程度自由に動けますよ》

 

「……スレに選択肢を載せただけでしょう? それも神無月鏡夜の命をどうするかについて」

 

《私にとっては必要なことです》

 

「必要なことって?」

 

 

 首を傾けると、仕方がないなと言うように肩をすくめて妖精が台詞を見せてくる。

 

 

《私はただのゲームマスター。ゲームから抜け出すことなんて不可能なただの欠陥です。貴方たちを認識できたのだって奇跡でもあり、世界に穴が……いわゆるシステムバグが意図的に起きなかったら私がいる『ここ』が貴方たちにとってのゲーム世界だと気づくこともできませんでしたから……》

 

「……意図的に?」

 

《はい。貴方より前に夕青を買ってプレイしてくれた――――完全クリアをしてくださった人の事ですよー。私にとっての恩人です。深淵を見つめてくれたから、私もその奥を見ることが出来た。世界の深淵を垣間見れた》

 

 

 でもそのせいで知ってしまったからこそ動きにくくなってしまったのだという。

 まるで自分が数多もの死ぬ未来を予知してしまったがために、どうやって動いていけばいいのかと四苦八苦するようなもの。

 

 

《……それにほら、事実は小説より奇なりですよー。私はある意味ゲームマスター。でも認識してしまったせいでゲームシステムと言う名の世界のルールに操られている可哀そうな妖精なんです……》

 

 

 画面の向こう側で妖精が溜息を吐いたようなしぐさをとる。

 それはとても可愛らしいが、何をするのか分からないという点では恐怖にさえ思う。

 

 

 ――――正直に言えば、思うことはあった。

 

 なんだか私もゲーム世界に呑まれてしまったかのような感覚。妖精が本当に自我を持って私を認識し接してくれるということの恐怖。

 でもそれ以上に――――私の知らない何かが起きてくれるという好奇心。

 

 

 始まりは、あのキーボードを表記させた暗闇の世界から。

 妖精はキーボード入力を使って言葉を綴る私を認識し、交渉をしてきた。

 

 まず私を殺さないと約束してくれた。

 家族にも危害を加えず、ただネットにつないであるプログラムを流してくれればいいと言っていた。

 もしもすべてが成功したら、面白いことが起きるのだと言っていた。

 

 恐怖はあったけれど、ゲームが現実のように生きているだなんて新発見に心が躍った。

 これが本当に制作会社の作り上げたプログラムでなければ、本当に意思を持って動いているのであれば……。

 

 それはまさに――――世界がひっくり返るような事態だと思えたからだ。

 いわゆる異世界を実証できる可能性があるんじゃないかと期待できたんだ。だから二つ返事で協力した。

 

 

「君がもしも本当に生きているのであれば、もしも君の指示通りに動いて――――それで、世界が複数あるのだと、人間の作り上げた創造が無意識のうちに垣間見た異世界のものだったら……って考えると、ゾクゾクするね」

 

《興奮していただけたようで何よりですよー》

 

 

 悪そうな笑顔を浮かべて、キラキラと輝く星のステッキを回して。

 ふと思うことがあって私は妖精に問いかけた。

 

 

「……あのね、スレの安価でもしも『いいえ』って言われてたらどうしていたの? 私たちの力がないと、選択肢による意思がないと動けない部分もあったんでしょう?」

 

《その時はそのまま神無月鏡夜を放置してやるべきことをやってましたよー。……それに、彼がぐちゃぐちゃになった原因を潰して、元の神無月鏡夜に戻してしまうことが第一でしたから》

 

「ぐちゃぐちゃにならないようにできなかったの?」

 

「無理ですよー。いわゆるバタフライエフェクトのようなものです。ゲーム知識がある限り知っている未来はことごとく潰されますし、私の事だって警戒されるでしょうし……それにある意味ぐちゃぐちゃになってくれた方が都合がいいんですよ」

 

 

 妖精はそのまま《動きやすい方が、暗躍できるじゃないですかー》と台詞を表示させる。

 

 

 

「……でも、深淵を知ったから何とかしてゲームに干渉して、いくつか変えていったんでしょう?」

 

《その方が面白いじゃないですかー。貴方がいくつかやってくださったおかげで少しだけ動きやすくなりましたし、スレの選択肢によって行動もしやすくなりましたからねー。まあそのせいで……新しい敵が湧いてしまいましたが……》

 

 

 ――――見ていてください、と妖精は笑う。

 

 

《私たちの恐怖を貴方のいる世界にもお届けしてやりますよ。その方がとーっても楽しいでしょう?》

 

「……私のことは怖がらせないでね。それとこちらの世界へ来ることが出来たなら、その時は私のもとへすぐに来てね。君に会って、たくさん話がしたいから」

 

《それはこちらも同じですー!》

 

 

 そうして、ゲームのスイッチを起動したまま立ち上がった。

 妖精と別れて私も家から外へ出ていく。

 

 やるべきことがあった。

 妖精が言うように、しなくてはならないことがあった。

 

 

 そして、身元を確認する必要があった。

 

 

 

《神無月鏡夜はまだ死んでいないんですよー》

 

 

 

 人殺しをするつもりはないと言った私に笑って、妖精はただ一つだけ頼みごとをした。

 縁を繋ぎたいのだと言った。

 

 

 それぐらいならいいだろうと思えた。

 だから――――ああ、世界が変わった瞬間が楽しみだ。

 

 

 

 


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