ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ   作:かげはし

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第四十一話 呪われた子供

 

 

 

 未雀が小さなため息を吐いた。

 いつもの無表情とは違って、とても面倒くさいというような感情が伝わってくる。

 

 しかし海里の方も負けてはいない。

 彼女もまた、とても嫌そうな顔をして睨みつけているのだから。

 

 

「拒否しても意味がないって分からないかな……そうしないとここから出られないし、詰んでいるのも同じだろうに……」

 

「アンタはこんなくだらないことで自分の命を賭けようってわけ? どうせ私が何かしらやらなくてもいつか、いろんな意味で全部終わるでしょ」

 

「ああそうだね。君なら簡単なことだろうね。でもボクらは君のように呪われてはいない。分かるだろう?」

 

「ハンっ、そんなの分からないしアンタたちの同情なんかしたくもない。この呪いを背負えばアンタも私みたいになるんじゃないの?」

 

「なったとしても陽葵を優先する気持ちは変わらないよ。それにもしもの話をしている時間はない。今は君の力が必要なんだから……」

 

「じゃあ取引でもする? それ相応のを頂くつもりではあるけど、覚悟はあるの?」

 

「神まがいの方法は止めてくれ。ボクは人間の海里夏と交渉したいんだよ」

 

 

 強情な海里の言葉に、しぶとく食い下がる未雀。

 俺はそれを見ることしか出来ない。中途半端な状態で会話に入るのは敵意を集中させもするし、何かしらの邪魔になるかもしれない。

 

 

(リセットの力を未雀は使わせようとしているけれど、それを海里は使いたくないでいる。でも『詰んでる』といった未雀を信じてやるべきか、『自分の命を賭ける』といった海里を助けるか?)

 

 

 正直にいえば、俺にとってはどちらも敵だ。

 ノートにも書いていた記録と合わせれば、どちらも紅葉を殺した。

 

 でも海里は、俺を助けてくれた。

 何かしらの力があると示したその知識を借りたいと思えた。でももしも、その知恵や力によってこの妖精の世界から逃げられるのであれば……。

 

 未雀は数人もの生徒を殺した。

 それが必要だと言ったが、死ねば妖精に弄られるという矛盾な言動もある。

 しかし、何かを知って行動している。その覚悟と意思は、先ほど示してくれた。

 

 未雀の援護をするべきか。

 海里に力を使わせないべきか。

 

 どちらが敵か。どちらが味方か。

 信じられるのは二人のうち片方のみか。

 

 

「呪われた子供という話は、前に燕がしてくれたよ」

 

「……朝比奈?」

 

 

 不意に、隣へとやってきた朝比奈がこちらへ顔を向ける。

 彼女は未雀に絶対的な味方である人間だ。力もあり、俺が止めなければ人を殺すことにも戸惑いがない冷徹。

 

 

「私は……呪われた子とは意味が少し違うが、私は生まれてはならない子供だ。だから彼女が力を使いたくない理由も、それをした先のことも分かる気がするんだ」

 

 

 自分のことを話す彼女は、今にも泣きそうな顔をしていた。

 生まれてはならないとは、どういう意味なのか。

 

 疑問が増える。しかし答えはまだ得られない。

 それに歯痒く思いながらも、必要性の高い方を選んで口を開く。

 

 

「……呪われた子供ってどういう意味なんだ。神に呪われたという意味か?」

 

「少し違うよ、鏡夜」

 

 

 彼女は何故かポケットを探り、しかしその何かは入っていなかったのか小さく肩を落とす。

 朝比奈は未だに言い争う未雀達を見つめながらも言うのだ。

 

 

「燕も入学当時の襲撃時点では何も知らない。知識も何もなく、私が全てを切り伏せて終わるに至ったんだ」

 

「それは……」

 

「彼は調べた。幼い頃に譲り受けたとされるノートと写真と、それらを検証することを選んだ。アレが事実である可能性が低いと思い込みたかったんだろうな……」

 

「どうやって調べたんだ?」

 

「……忘れているため聞いた話しか出来ないが、二度目の防衛戦にて、ノートの記載通りのものか調べるために手鏡を燕に預けたんだ。幼い頃の知識は無駄じゃなかったよ」

 

「……それは、危なくないか?」

 

 

 妖精に頭を弄くられる。もしくは覗かれると確定しているこの世界に連れてこられる時点でその知恵は彼女に見られているも同じだろう。

 

 

「ああそうか。だから詰んでるのか」

 

 

 独り言のように呟いた俺の言葉に、朝比奈はしっかりと頷く。

 

 

「……過去、私が持っていたらしい手鏡をセーブデータと呼ぶのも、リセットなどもそのせいだ」

 

「この世界が、ホラーゲームに似た世界だからか?」

 

「ゲーム世界などと言われてしまっては嫌な気分しかないがな」

 

 

 それには同意しよう。

 俺もこの自分の生まれた世界がホラーゲームに酷似しているだなんて言われるのは嫌だ。

 

 

「話がずれたな。呪われた子供という意味について話そう――――」

 

「そんなことしなくていいよ。私が話すから」

 

 

 突然聞こえてきた声に肩がビクリと揺れる。

 よく見れば話はもう終わったのか、未雀と海里がこちらを見ていた。

 

 海里が片手を腰に当てて、また苛立つように舌打ちをする。

 

 

「……全部話してあげるよ。私の真実について」

 

 

 

 

・・・

 

 

 ハッピーエンドが見たかった。

 誰かが死ぬのも、誰かが犠牲になる未来も見たくなんてなかった。

 

 幼い頃の必死な願い。

 神様が叶えてくれたのは、私が行動するための唯一の力のみ。

 

 

『ならば――――あなたは知りなさい。全部見届けなさい』

 

 

 思い出すのは凛とした女性の声。そして与えられたのは、ハッピーエンドへの道を自らの手で導くためのもの。

 あの時の神様がどんな姿をしていたのかは思い出せない。ただ私を憐れんでいたのは知っていた。これは同時に私の罪だと理解していた。

 

 呪われたと自覚するようになったのは何時の頃か。

 ハッピーエンドなんてもうできないと諦めてしまったのは何時だったか。

 

 ただ何も考えず何もかも諦めて死ねばいいと思うようになったのは、どこからだったか。

 

 そんな『何時』なんてことも忘れてしまった。

 海里夏が呪われる前に生きていた、純粋だった『私』なんてー―――もうとっくに思い出せもしないのだから。

 

 

「この世界がホラーゲームの世界に……まあ、そういう世界だって知っているんでしょう。なら教えてあげる」

 

 

 生きているうちに一度だけ口にした言葉。

 ――――簡単な事実を、この場でまた話した。

 

 

「私はずっと、繰り返し生きてきたから」

 

「……繰り返し、生きてきた?」

 

「そう。でも世界は同じじゃない。パラレルワールドともいえるいろんな時間軸を繰り返してきたの。何度もね」

 

 

 だから分かるんだ。

 今生きているこの世界は酷く歪だ。バグだらけだ。

 紅葉秋音が男口調で話しているあれだっておかしい。知識があるのもおかしいし、何もかもが変な部分がある。

 

 だから、妖精を堕とせたらいいという夢を抱く。

 鏡夜が生きていれば私はまだ生きれる。

 主人公がいれば、妖精に命を奪われることさえなければ、寿命がこなければ生き続けられる。

 だからまだ、生きたいと思えた。

 

 全てを知る私にとってみれば、この世界は私の知らないものだらけ。

 だからちょっとだけ、希望を持つ。

 

 

「私は妖精と似たような神々が持つ一部の権能を使えるの。リセットっていうのはね……この世界の一部を強制的に終わらせる力の事よ」

 

「ッ――――強制的に終わらせるだと?」

 

「そう、セーブデータを破棄する……つまり、今までのことをなかったことにして終わらせる。つまり全滅。死ぬのと同じ。――――世界を狂わせてしまうから、神殺しの力でもあるの」

 

 

 でもそれは、あまり多用したくないもの。

 あまりにも世界を壊す力を使い過ぎると妖精が学習する。それの防衛策を覚えてしまう。

 

 だから私は、あまりリセットをしたくはない。

 腐らせる力だって、あまり使いたくはない。

 

 それにリセットの代償に、今の私は消える。

 私の今あるこの寿命もなくなって、次へと進む。

 それだけのことだ。それだけだ。

 

 でも他の皆は『次』があるわけじゃないから、ここで終わるだろう。

 

 私の言葉に誰もがぞっとしたような顔をする。

 恐怖で身体を震わせる生徒だっていた。

 

 

「あまり怖がらせるようなことを言わないでくれ……ボクが協力してほしいのはその力のごく一部だよ」

 

「ああ、神社に穴をあけて次のステージへ進むだっけ?」

 

「奥にいる元凶を潰すために穴をあけるって言ってくれないかな。その方が分かりやすいだろう」

 

 

 

 ……今までの未雀燕はここまでぶっ飛んでなかったんだけど、本当に何があったんだか。

 

 

 

 

 


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