ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ   作:かげはし

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第四十八話 一方その頃、青組は

 

 

 

 いわゆる不味い状況とはこのことだろうか。

 今更ながらに分かってはいる。そりゃあそうだ。真っ先に狙おうと思っていた秋音がいないのなら、真っ先に狙われるのがこちらだ。そうして気づいたら確実に何か仕掛けてくるはず。

 

 妖精は来ない。学習しこちら側が完全に敵だと分かっているならそうするはず。

 

 説明もなにもないため、急に境界線の世界と言う分からない状況に動揺し恐怖に怯えている生徒たち。

 彼らを助けるつもりはない。今の第一優先は神無月鏡夜のことだ。

 

 とりあえず、内心で他の生徒と同じく困惑しきっているらしい鏡夜に向かってビンタ一発ぶちかました。

 そうして痛みに悶えている間に私の目を見てもらった。そして胸ポケットに手鏡を押し込む。

 

 手鏡は汚れていなかったから大丈夫なはず。

 

 

「……あー……そういうことかよ」

 

「そういうことだよ。分かった?」

 

「いやお前……とりあえずぶん殴った分は後で覚悟しとけよ」

 

「ビンタぐらいでグダグダ言わないでよ男らしくないな」

 

「ビンタじゃねえだろ。拳で思いっきりぶん殴ったらそれはもうビンタじゃねえよ」

 

 

 深い溜息を吐いた鏡夜が周囲を見渡す。

 そうして私をまた見てきた。

 

 

「海里、俺はまだ全てを思い出しているわけじゃない。紅葉秋音が前世を思い出したと言った記憶しか覚えてないんだ」

 

「うん、だから早く秋音に会って……それで白兎に会うんでしょ」

 

「分かってるさ。その前に……おい桜坂! ちょっとこっち来い!」

 

「アァ!?」

 

 

 急に呼ばれてきた春臣がメンチ切るような目つきで鏡夜を見つつ近づいてきた。

 そうして話すのは――――あのクリスタルについて。

 

 

「クリスタルを壊して破片にして、それをクラスメイト全員に配れって?」

 

「ああ、それでどっかに隠れてくれ――――化け物が来たら音を立てずに逃げろと伝えてくれ。それでいいはずだ。おっと、頭がおかしくなったと思うなよ。この現状とあのクリスタルの出現、そしてこれから来る化け物を見ればそう言ってられなくなるだろうけどな」

 

「……」

 

「海里、準備はしてるだろ? 俺たちの分だけでも壊しとけ」

 

「ハイハイ。もう人使いが荒いんだから……」

 

 

 仕方がないから言う通りにしておこう。

 ああそれにしても……反吐が出るほど優しいものだ。私たちだけ知っているんだから、あいつ等なんか放っておけばいいのに。

 ……そういう部分は秋音とごちゃ混ぜになってより優しくなってしまったともいえるのだろうか。

 こいつ意外とクズだし。

 

 

「海里?」

 

「ハイハイ。もう終わったよ……」

 

「よし、じゃあな桜坂、後のことは頼んだぞ」

 

「っ、おい待て!!」

 

 

 

 背後から声をかけられても鏡夜は気にせず校舎の中へと急ぐ。

 こうしている間にも化け物が生成されてこちらへとやってくる可能性が高い。いつもいつもそうだったのだから。

 

 

「……視界が悪く、音に鋭い化け物だったな」

 

「そうだよ。何か準備しておく?」

 

「いや、いざとなればそこらにあるものでも何とかなる。靴を投げてでも逃げ切ればいいさ」

 

「……本当に変わったな」

 

 

 溜息が出てくるほどに変わってしまった。

 秋音もそうだけど、燕もそう。他も――――うん、あの説明以外でも何かしらやらかしている可能性が高い。だから多少は違うかな。

 

 

 

「なんだ?」

 

「いいや別に」

 

 

 

 本来の鏡夜は運に頼ることなんてしない。

 人を利用し、自分の手は汚さない奴。でも一応死ぬほどの状況にはさせない。切り捨てるわけじゃない。ただ身内と認定された人間には甘いだけだ。それ以外はどうでもいいだけなんだ。

 

 

「……まあいいか」

 

 

 今更気にしても仕方がない。

 それにこれからやるべきことは秋音に会って、冬野白兎に会って。そして全てを潰しに行く。

 

 

 うまくいくかどうかは――――あの手鏡の鏡夜が言った作戦にかかってはいるけれど……。

 

 

 

「おい待てよ!!」

 

 

 刹那、背後から聞こえてきた声に立ち止まる。

 後ろを振り返ってみるとそこにいたのは春臣だった。

 

 

「……どうかしたか?」

 

「どうかしたかじゃねえ。とりあえずお前の言う通り全部やったけどな!? ……でもな、俺はお前の説明で納得したわけじゃねえ! お前ら何か隠してるだろ!」

 

「ああ、後で話す。俺たちは今やらなきゃいけないことがあるんだよ」

 

「やらなきゃいけないことってなんだ。おい待て逃げるな!」

 

 

 鏡夜の腕を掴んできた春臣に対して苛立ちが込み上げてきた。

 そりゃあ彼は何も知らないし、入学式当日でほぼ初対面の鏡夜に対してそこまで親身にやるわけはないだろう。もしかしたらこの状況を作り上げた敵だと思っている可能性だってある。

 

 つまりは説明しろと?

 早くあの女子トイレにいるであろう秋音に会わなきゃいけないのに?

 

 派手に舌打ちをして春臣を睨んだ。鏡夜は面倒くさそうに春臣に掴まれている手を振り払おうとしているけど全て失敗しているようだ。

 

 

「ああくそっ! 今は足止めされる暇はないんだ。そこまで言うならついてくればいいだろうが!!」

 

「……鏡夜、もしかしたら足手まといになるかもよ?」

 

「こいつほどの身体能力なら大丈夫だろう。さっさと行くぞ!!」

 

「あぁ!? どこへ行くって!?」

 

「やかましいついてこい!!」

 

「歩きながら説明でも出来るだろうおいゴラ! 待て神無月!!」

 

「やかましい静かにしろ! 化け物が来たらどうするんだ!」

 

「お前の方がうるせえ!!」

 

 

 いやどっちもうるさい。ああもう……。

 騒々しく口喧嘩をし続ける鏡夜と春臣は以前と変わらずいつも通りだ。

 

 

(それにしても化け物はもうとっくに来てもおかしくないのに……何故来ない?)

 

 

 私の疑問はもうとっくに鏡夜も感じているはず。

 絶対に何か起きている。

 

 

 秋音がいる女子トイレはすぐ近く。

 

 

 

「……はっ?」

 

 

 

 ――――しかしそこに秋音の姿はなく、血濡れの床だけしかなかった。

 

 

 

 

 

 


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