ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ   作:かげはし

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第四十九話 泡の記憶

 

 

 

『だから言ってるだろ!? ここにボクたちの名前を刻むんだ!』

 

 

 誰の声だろう。

 無邪気そうな少年のモノ。でも今は違う、誰かの声。

 

 

『秋音ちゃん。これからお姉ちゃんは無茶しちゃうけど……どうか、真似しちゃだめだよ……』

 

 

 コポコポと、泡が溢れる。

 まるで私が海の中にいて、口からこぼれた空気が海面へ上がっていくみたいに。

 

 ああ、きっと私は沈んでいるのだろう。

 この海の中。夕日が垣間見えるとても薄暗い世界で。

 

 夕日は私にとって深い闇をもたらすモノ。

 それを怖いと感じるのは当然の事。

 

 

『ごめん秋音。ボクはやりたいことがある』

 

 

 聞こえてきた声は同じ。でも雰囲気は最初とは異なっていた。

 

 

《うふふ。あははははっ! 何言ってるんですかー。このまま終わらせるわけないでしょう? だって契約したのはそちらだというのに……ねえ、馬鹿にしてます?》

 

 

 ――――これは夢の中だろう。

 そうじゃなければ分からないことだらけだ。

 

 

『ぐすっ……どうしよう秋音……冬乃お姉ちゃんが死んじゃったよぉ!』

 

 

 聞こえてくる声が一気に消えていく。

 そうして見えたのは幻想のような景色と何かの声。まるで映画の一場面を見ているかのようだ。

 周囲は校舎の中じゃない。目の前にいたのは小学校低学年ぐらいの小さな男の子。

 

 

『ああくそっ、畜生……』

 

 

 鏡夜に似た顔立ちをした子だった。

 将来有望そうな可愛らしい顔立ちをした子供が、必死にこちらの肩を揺さぶってくるんだ。

 

 

『燕のせいで全部めちゃくちゃだ! 秋音、お前まで巻き込まれなくていい! 早く縁切りをするために五色町へ逃げろ!』

 

 

 燕のせいってなに?

 何があったの?

 

 どうしてそんなに怒っているの?

 

 

『俺が普通に死ぬ程度なら――――それならまだ良い方だ。冬乃姉さんのように連れていかれたらそれが最後だ。……それに、あいつは前世の頃からずっと俺のことを見ていた。だから行動パターンなんて全て知ってる。俺が思うままに行動したらすべてが終わる』

 

 

 親指の爪を噛みながら、鏡夜は悔しそうに考えている。

 

 

『燕は陽葵が傍にいる。だから余計なことはしないだろう……。天はもう縁切りしてるから大丈夫だ。でも……夏は……』

 

 

 何があったのか聞きたい。

 でも聞けない。口を開くことはできない。

 

 言葉を詰まらせた鏡夜が首を横に振って、自らの両頬をパチリと強く叩いてこちらを見た。

 

 

『ここはホラーゲームの世界だ。でも敵は複数いた』

 

 

 そう言った声は、止まることはない。

 震えている言葉が紡ぐ。

 

 

『今は陽葵が傍にいるけれど、いつか忘れてしまうかもしれない。その時はきっと……陽葵は燕の玩具にされるかもしれない。何かしらやらかして……人形にしてくる可能性が高い。俺らが傍にいてやれなかったら……きっと陽葵は壊れる』

 

 

 

 でも夏よりはマシだと説明する。

 空を見上げて、何かへ向けて睨みつけていた。

 

 

 

『複数の敵は、妖精と――――』

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 ぼーっとしていた思考が一気に覚める。

 ちゃんと歩いていたというのに、何か夢を見ていたような気がするのはなぜだろうか。

 

 夢は、かつて見た夢のような気がするのはなぜだろうか。

 

 

「どうかしましたの?」

 

「あ、ううんなにも……」

 

 

 怪訝な目でこちらを見つめてきた桃子に首を横に振って苦笑した。

 近くにいてチラチラと俺たちを見ながらも渋々ついてくる白兎を気にしつつ、先へと進む。

 

 ……ところでものすごく気になるんだが、体育館へ向かっているかと思いきやそこからちょっとズレて家庭科室へ向かっているのは何故?

 

 

「……あのさ、俺達ちゃんと夏たち……えっとつまり、青組の皆に合流するために向かってるんだよな?」

 

「違いますわよ?」

 

「えっ、はぁ!?」

 

 

 驚愕する俺の声に「やかましいですわよ!」と叫ぶ桃子。

 しかしそうは言っていられない。

 

「いや俺ちゃんと説明したよな!?」

 

「ええそうですわね。夏さんに会いに行きたいとかなんとか言っておりましたわね?」

 

「そうそう。でもって待ってなきゃいけないことも喋ったけど桃子ちゃんが俺の手を引っ張って歩くから連れて行ってくれるのかと思ったんだけど!!?」

 

「連れていくだなんて一言も言ってませんわ」

 

 

 いや確かにそれはそうだけどさ!?

 でも普通ちゃんと連れていく流れだったんじゃねえのかなって思うんですがね!?

 

 

「お、俺さぁ。夏に会うために待ってたの。まあ腹の中になんかいるとかいろいろとあったけど! とりあえず夏に会わなきゃいけないのは本当の事なんだよ! だから悪いけど、せめてこっから体育館に向かうとかは……」

 

「無理ですわよ。だってもうついてしまいましたもの」

 

 

 バッサリと切り捨てた桃子はそのまま家庭科室の扉を開けた。

 

 

「はっ?」

 

 

 ――――そこにあったのは、血濡れの室内。

 壁や天井、床にまで広がる赤い赤い血の量。さっき俺の腹から出たらしい血の池よりも派手に散らばっている。

 

 化け物はいない。もしかして誰かが遭遇してやられたのだろうか。それにしては食い散らかされたとは思えない量の惨状だった。

 

 

(うぇ……見たくない。気持ち悪くて吐きそう……)

 

 

 でもそうはいかなかった。

 部屋の中心に人間が二人いるのが真っ先に見えてしまったからだ。

 

 男女がそこにいた。しかし悲鳴はない。恐怖も絶望もなく、部屋の中はそれが当たり前かと思えるぐらいには冷静にこちらに気づいて、男だけが手を振ってきている。

 

 

「……やっぱりこうなってしまいましたのね」

 

「………………あっ」

 

 

 そうかと、気づく。

 そういえばここは夕赤の最初のステージだ。

 家庭科室に置いてあった包丁を手に陽葵がある意味無双する場所だったはず……だと思う。たぶん。

 

 不安に感じてしまうのはきっと、この部屋の中央にクリスタルがないせいだろう。

 いやそれが『ない』というよりかは、クリスタルの砕かれた痕のようなものがあるのに、二人が生きているから。

 クリスタルが砕かれたということは、化け物に奪われたを意味するようなもの。血濡れの家庭科室で何かがあったのは確か、なのに二人は無傷だから……。

 

 

「未雀燕、ちょっとその身体弄らせてくださらない?」

 

 

 桃子が言った言葉で察した。

 もしかしてあいつも、俺と同じで身体に何か仕込まれているんじゃないかと。

 

 しかし彼はとても嫌そうな目をしていた。無表情だというのに目だけがその感情を伝えていた。

 

 

「陽葵、お客さんだよ」

 

「……ああ」

 

 

 

 何故かは知らない。だってまだ初対面で恨まれた記憶がない。ループしていたとしても……朝比奈の力を知る俺が彼女を敵に回すだなんてありえないことだ。

 

 

 しかし――――朝比奈陽葵の鋭い殺意が、俺たちへ向けられたのだ。

 

 

 

 

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