ホラーゲームに転生させるとか、神は俺を嫌っているようだ   作:かげはし

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第六十八話 ノイズ

 

 

 

 

 

 

 やってきた場所は何処にでもあるカフェの一角。

 壁で区切られており、個室のような空間が広がる先でコーヒーを手にし待っていた俺は、向かいの席に座る秋満を見た。

 

 彼は不満そうな表情を浮かべつつ、俺を睨みつけてくる。しかしその瞳の中には期待と不安も入り乱れているように感じる。

 

 彼が複雑な感情を抱くのは当然だろう。

 急に変なことを言ってきたが、それで姉の居場所が分かるかもしれないとなると期待するのも無理はない。しかしつい最近目覚めた俺がこうして自由に動いていて、もしも期待外れだったらと思ってしまうのも……だ。

 

 席に座った秋満が、机の上に目的の物を出す。

 

 

「急に会うなり紫色の手鏡はないかって聞いてきやがって……あとその顔は何だよ」

 

「いや、何もなく……君が生きてくれていて良かったと思ってね……」

 

「はぁ?」

 

「ああいや、すまない」

 

「……とにかく、持ってきましたよ。姉さんの所持品の中にありました。それでこれが必要ってどういうことだよ。これで姉さんの居場所が分かるのか!?」

 

「ああいや……紅葉秋音さんの行方を知るために必要なものだったというだけだよ。見せてくれると嬉しいんだが……触ってもいいかな?」

 

 

 俺の声に秋満が渋々頷く。

 腕を伸ばせば届くその手鏡は妖精が作りだした悪夢のような世界で見たものとは異なっている。何かが出てきそうなどす黒い気配をしているわけでもない。

 光を当てるとキラキラと輝くようなコンパクトサイズのそれは、何処にでも売ってあるようなもの。しかし何かしらキャラクターが描いてあるわけではない。デザインもシンプルなものだった。

 

 

 

(何故これが、何度も記憶の中で出てきたのか……)

 

 

 

 そっと手に取った手鏡の中を覗き込んで見えたのは自分の目で────。

 

 

 

 

 

《ねえ貴方。それは妖精ちゃんにとって大事な物ですよ。それをどうするつもりなんですかぁ?》

 

 

 

 

 不意に明滅する視界。吐きそうになる感覚。

 視界が揺れ動くというべきか、ジェットコースターを何十回も乗って気分が悪くなったかのように、一気に体の感覚が冷めていく。

 

 秋満が俺を見て「どうかしたのか?」と問いかける姿が見えたというのに、彼に反応する余裕はなかった。

 

 

 

 ノイズ交じりに聞こえてきたのは妖精の声────。

 

 

 

「っ────」

 

 

 

 目を閉じて、瞬きをした瞬間に見えたのは、あの時の光景だった。

 この世界で目覚めた後に、神社で見た夢の景色。

 

 地下室にいた自分たち。

 妖精と対峙し、何かをやってしまった俺達を見た妖精の嘲笑うような様子。

 そうして俺が────何かを拾い上げたのだ。

 

 妖精が何かを探しているかのように周囲を見ているような感じがした。

 だからきっと、何かがあるのだろうと俺も探したのだ。

 

 不穏になっていく妖精の気配。

 言動すらも不気味で、敵対する様子に急がなくてはと思った。

 

 

 どう考えても逃げられる気はしない。

 それよりも妖精を撃退する方法を探った方が良かった。

 

 そうして見つけたのは紫色をした手鏡────。

 

 

《ああそれ……まだ残っていたんですね……だから力は不十分だったのかな?》

 

 

 返しなさいというように、妖精が手を伸ばす。それをとっさに遠ざけて俺は秋音たちを後ろに庇った。

 

 

「この手鏡がお前にとっての弱みになるなら、手放す気はない!」

 

「きょ、鏡夜ぁ……何言ってるの……」

 

 

 

 青ざめた様子の秋音が俺の背中側の服を掴んだ。

 周りも何故か身体を震わせ俺の手の中を見つめている。

 

 妖精が怖がっているからここにいるだけであって、きっと俺だけがこの場に居たらすぐ離れてしまうようなそんなゾッとする視線。

 そうして妖精は嘲笑いながら俺を見たのだ。

 

 

《手鏡ぃ? あっははははは! そう見えてしまったのですねぇ! ああ、可哀そうな子。可愛い妖精ちゃんがこんなことをいうのもアレですけど本当におかしいなァ! あははははは!》

 

「な、にが……」

 

《確かにそうですね。だってそれは自らの手も写せる鏡のようなもの! 人間の……人体における最も身近な鏡ですもんねぇ!》

 

「っ! だ、だから何がだよ! 何がおかしい!!」

 

《そんなに大事そうに握って渡さないとか────ふふっ、そんなにその()()()()()が欲しくなったんですか?》

 

 

 

 そう言われて気づいたのだ。

 理解してしまったおぞましい事実。

 

 これは紫色の手鏡ではない。

 紫色をした別物だという事実に。

 

 認識障害にも似た、手鏡だと思っていたそれが柔らかいようで無駄に弾力のある────人にとって二つあるはずのもの。

 その片方を握っていたという状況に吐き気がした。手放してやりたいとも思った。

 

 

 でも、これは────。

 

 

 

 

 

 

「おい、神無月鏡夜!」

 

「っ────あ、ああ……すまない。うたた寝をしていたようだ」

 

「あ、ああそう。心配かけやがって……」

 

 

 

 ほっと息をついた様子の秋満が、ブツブツと独り言を漏らす。

 それを聞き流しながらも俺は思考を回す。

 

 おそらくだが、思い出してほしい記憶ってこれだろうか。

 中途半端に思い出したそれはおぞましいもの。目玉を手にそれを妖精と取り合うとかどんな悪夢だ……。

 

 

 

 

「……秋満君。悪いんだけどこの手鏡貰ってもいいかな?」

 

 

 

 そう言った俺に対し、秋満は不満そうな顔から一変し、清々しいほど笑って言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな偽物を手にしても、まだ思い出せないんですかぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

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