私のヒーラーアカデミア   作:鼠日十二

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増補改訂版です。大筋に変更はありません。
やるべきでないのは分かっていますが……やっぱり、地の文や設定の幼稚さ、未熟さが気になってしまうので。
普通に元の文を編集したらいいじゃんと言われそうですが、改訂前のゆるい文も時折いい表現が散見できるので、残しておくことにします。


増補改訂版
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 意識が、水底より浮き上がる。倦怠感のような重さが全身を覆っている。

 

「……ここは?」

 

 辺りは真っ暗だった。前後左右上下内外、とんと区別が付かぬ。海原に漂う塵のひとつみたいに、ただそこにあるだけ。

 

 何がどうしてこうなったのだろう。記憶にある限り、確か仮眠を取っていたはずだが……?

 

 

「あなたはお亡くなりになりました」

 

 後ろから、空間全体を揺らすような声がする。

 振り向く――視線を背後に向ける――と、そこには暗い空間の中にあって燦然と七色に輝く球体が浮いていた。

 

 

「突然すみませんね。私はあなた達の価値観で言うところの『神』と総称される高次元思念体の一種です。この度はご愁傷様でした」

 

 一拍、二拍。その言葉の意味を理解するのに、たっぷり10秒ほど要した。

 

「えっ? 俺死んだの?」

「ええ、あなた達の言葉で言うところの『過労死』ですね。覚えていますか? 生前あなたは大病院の医師で、とある感染病のために不眠不休で働いた結果、仮眠と同時にそのまま亡くなられました」

 

 ……まじ?

 いや、人様の役に立てたってんなら良いけど……医者の不養生を自分で証明する羽目になるとは。みんなも十分な休息を取ろう!(1敗)

 

 

「で、ですね。私、人間界の発展を管理する役職に就いておりまして。貴方が治療した患者の中に、あなた達の概念でいうところの『ブレイクスルー』を起こす予定の方がいたんですね」

「ブレイクスルー……常識を覆す発明みたいなもんか?」

「ええ、人類史における大功績です」

 

 七色の光球はふわふわ揺れて、気分良さげに声を滲ませた。

 

「人類の発展に寄与する、極めて重大な命でした」

「ん……命に貴賎はないと思うけど。まぁ、救えた命があるなら喜ぶべきだな」

「なるほど……『医者』のポリシー、信条。あなたのその信念を、私は尊く思います」

 

 どうやら褒められているらしい。患者に感謝されるならともかく、光球に感謝されても実感が湧かないが。

 

「で、そんな神様が俺に何用なんだ? 天国への案内か?」

「いえいえ。ここがどこか分かりますか?」

「どこって、暗い水の中だ」

「違います。ここはあなた達の用語で言うところの『産道』です」

 

「……は?」

「私は貴方への恩を二度目の人生、という形で返したいと思っております」

「待て待て、待ってくれ。展開が早すぎやしないか」

「そうでしょうか? これまでに転生を案内した方々の84%は前向きな姿勢を見せましたが」

「そりゃトレンドだからなぁ」

 

 もっとも、俺だって別に気が乗らない訳じゃない。信念に殉じたとは言え、やり残したことは山のようにある。2度目の生があるのなら、それに越したことは無いはずだ。ただ……いかんせん情報が少なすぎる。

 

「転生先の世界とか選べるのか」

「方針だけであれば。あなた達の娯楽で言うところの『ピンボール』や『パチンコ』に近いですね。どの穴に入るかはわからないけれど、力加減は調整できる」

 

 俺はボールを弾いて穴に入れるゲームを想像した。右にバネのついた発射台があって、ツマミを引っ張って放すとボールが弾かれて盤面に飛び出す。力加減によって軌道を変えることができるが、盤面に打たれたピンがランダム性を追加する。

 

 要は、ある程度の方向性なら反映できる、ということらしい。すると、こう、なんだ。俺の中にむくむくと、好奇心のようなものが膨れ上がってきた。

 

「……そうなると、少年系か青年系の世界観が良いな」

「一般の方にはややハードな場合もありますが」

「ま、戦闘能力がなきゃ医者にでもなるよ」

「そうですか。簡単に死なれても困るのですが……まぁ良いでしょう。それでは――」

 

 七色の輝きが徐々に強くなり、やがて視界を埋め尽くした。

 

「――良き人生を――」

 

 

 

 

 

 

 

……さて、彼が転生した世界は……と。おやおや。これはなかなか……そうですねぇ、このまま何もなければ彼はまた医者になるでしょう。なんせ致命的なまでの献身こそが彼の本質ですし。すぐ戻ってこられても困りますし……軽く調整して、と。では、これを特典という形にしましょうか。この程度なら誤差の範囲内でしょう………

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 眩しさに、目をぎゅっと閉じる。とにかく寒い、肌が痛い。まだ本調子でない耳が、くぐもった泣き声を聴き取った。

 

「おぎゃあ、おぎゃあ」

 

 どうもこれ、俺の声っぽいぞ。赤ちゃんからスタートか……。転生だからそりゃ当然なのだが、演技力にはあまり自信がない。

 

 泣きながら、俺は耳を澄ませた。

 

「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」

 

 何て?

 俺は大和男では無かったのか?

 

 混乱する俺を他所に、話は続いていく。

 

「よく頑張ったね」

「ありがとう、あなた」

「名前は決めているのかい? 数日前から悩んでいたみたいだけど……」

「ええ、読みは『レン』にしようと思って。『蓮』か『恋』か悩んでいたのだけど」

 

 声に疲労と、それ以上の祝福を滲ませて。彼女は俺を呼んだ。

 

「女の子だし、恋にするわ。 腑労(ふろう)(れん)。それが、この子の名前」

 

 

 どうやら、相棒は転生できなかったらしい。失われし棒に思いを馳せて、俺は泣いた。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 申し訳ないが、乳児期および幼児期の()の振る舞いについてはあまり語りたくない。いい歳こいたおっさんが必死になって赤ちゃんの真似してるの、もはやグロテスクですらあるからな。

 

 と言うわけで、私がオムツを替えてもらっているシーンは全カットだ。もちろん幼児期の恥ずかしいあれこれもカット。だからその間、手短に世界観や現状を説明しといたほうがいいと思うワケ。所感でいいか?

 

 

 まず、この世界には『個性』と呼ばれる異能が殆どの人間に備わっている。要は、私が転生したのはヒロアカ世界であった。まさか漫画の世界そのものに転生するとは思わなかったが、しっかり少年誌なあたり神様はちゃんとピンボールを弾いてくれたらしい。

 

 最も、肝心の原作についてはほとんど知らないんだけどネ! 漫画をじっくり読む時間なんかある訳ないだろ! こちとら過労死で転生しとるんや!

 

 ……気を取り直して、次。両親は開業医である。地域密着型で、呼ばれれば学校なんかで検査もする、少し大きめの医院である。ちなみに父親の個性は『触診で痛みの理由がわかる』、母親が『半径10メートル以内の傷の治りが早くなる』って感じ。医者向けでいい個性だ。羨ましい。

 

 一方で、私の個性は未だ不明だ。髪が薄くピンクだったり、目が赤かったりするから『体が赤くなる』個性かなとも思ったが、他の部位は赤くならないので多分違う。

 

 個性は両親からある程度遺伝するらしいので、私も医療系だと良いな、と思う。今世でもやはり医療従事者(ヒーロー含む)になりたい私である。小学校の授業参観でも『将来の夢』をそのように発表し、親を泣かせた私である。

 

 さて。そんな私は最近小学2年生になったが、放課後は専ら家、つまり腑労医院の待合室で時間を過ごしている。リノリウム張りの床、消毒液と人間の匂いが混じった空間が、どうも肌に馴染むのだ。宿題なんかもそこで済ませているので、通院中のおじいちゃんおばあちゃんからは孫のように可愛がられている。

 

 ……おっと、別に友達がいないわけじゃないぞ。

 学校ぐるみで付き合いがあるせいか、ここは小学校の生徒がよく来るのだ。だからほとんどの生徒と面識がある。もちろん、特別仲のいい子だっている。

 

 例えば――。医院の入り口そばに見知った顔を見つけ、私は席を立った。

 

「きょうはどうしたの?」

「ちょっと風邪気味なの……寒くなってくると体温が下がっちゃうのよ」

 

 肌が全く見えないほどの厚着にも関わらず身体をふるふる震わせているこの少女は、『蛙吹 梅雨』と言う。うっすら原作に登場していた気がする未来の主要キャラであり、ご近所さんであり、今の私の友達でもある。

 

 彼女のしなやかな手を引いて、室内に招き入れる。

 

「あとで生姜湯あげる。私のは効くよ」

「助かるわ……」

「じゃ、ちょっと待ってて。診察表やらなんやら持ってくるから」

「ん……」

 

 彼女の個性は『蛙』である。文字通り動物としての『蛙』の特徴を多く持つ彼女は、体温も変温動物に近いゆえに冬は寒くてあまり動けないのだとか。

 

 薬なんか使うより、体温上昇には生姜が良い。生姜というのは東洋医学では立派な生薬で、乾燥させたりその後蒸したりすることで冷え性改善の漢方薬になる。

 

 人工の薬は効果がピーキーになりがちだが、漢方薬は効き目が広範囲かつ副作用が少ないから子供に対しても安全な場合が多い。あと私が作っても不自然じゃないし。

 

 と言うわけで、お母さんにおねだりである。

 

「ねえねえ、生姜ってある?」

「あるけど……何に使うの?」

「生姜湯作るの。梅雨ちゃんがすっごい寒そうだから」

 

 わけを話すと、お母さんは気前よく生姜のかけらをくれた。

 

「擦らなくていいの?」

「うん。薄く切ってレンジでチンするの」

「なるほどねえ……じゃあ、切ってあげるわ」

 

 まあ家庭によっていろいろ流派はあるだろうが、私はこのレンチン生姜を推している。キッチンに立ったお母さんの手元を横から覗き込むと、お母さんがくすぐったそうに笑った。

 

「気になるの?」

「うん」

「そろそろ子供用包丁があってもいいわねえ」

 

 言いつつお母さんは包丁を生姜に押し当てた、のだが。どうやら時間が経って硬くなっていたらしい生姜は包丁の刃を通さず、変にズレた軌道がお母さんの親指の腹を直撃した。

 

「痛っ」

「ちょっ、お母さん!?」

「いつつ……やっちゃったわ。恋、救急箱取ってきてくれる?」

「でもお母さん、お父さんに診てもらえば……」

「ダメよ、まだ診察時間だもの」

 

 そう言われてはどうしようもない。私は急いで救急箱を持ってきて、傷口に消毒液をぶちまけ(お母さんはここで切った時より悲鳴をあげた)、軽く拭いて絆創膏を貼った。あとは痛まないこと、傷が残らないことを祈るほかない。お母さんの指を手で包んで、強く念じた。

 

「いたいのいたいの、とんでいけー!」

 

 その瞬間、ぱあっと。私の手の内から緑色の光が漏れる。目を白黒させる私とお母さんの前で、光は明滅を繰り返し、やがて消えた。

 

「……」

 

 しばらく自分の親指を見つめていたお母さんは、何を思ったか絆創膏を勢いよく引っぺがした。

 

「えっ」

 

 そしてあろうことか、包丁を手に取りその刃でもう一度親指の腹を切ったのだ。あまりに思い切りの良い自傷行為に私は愕然とした。

 

「お母さん! 同じとこ怪我したら、傷の治りが悪くなっちゃう!」

「怒るとこそこなのね……」

 

 もう一度絆創膏を貼り直そうとお母さんの手をひったくって、傷口を見た。そして首を傾げた。

 

「あれ?」

 

 無いのだ。最初のざっくり切れた傷が跡形もなくなっていて、2度目の浅い切り傷だけが残っている。

 

「ね、恋。きっとあなたの個性だわ」

「私の、個性……」

「傷を治せるのよ。もう一度さっきの、やってごらん」

 

 さっきの……つまり、強く念じれば良いのだろうか。傷口に意識を集中し、「えいっ」と掛け声を出してみる。

 

「あっ……!」

「すごいわ、治ってる……」

 

 傷口に灯る緑色の光。消える頃には、傷などなかったかのように綺麗な肌が現れた。

 

「おめでとう、恋」

「お母さん……!」

 

 思わず両手でハイタッチ。転じて喜びのハグをしてから、私はお母さんの手のひらを強く掴んだ。

 

「恋?」

「お母さん、正座」

「恋……? 顔がなんだか怖いわ?」

「いくら私の個性を試したかったとはいえ、自分で怪我しちゃダメでしょ! ばい菌が入ってそこから病気にでもなったらどうするの!」

「あ、はい……ごめんなさい……」

「だいたいお母さん、前から思ってたけど――」

「そ、その、恋? そのへんで」

「ダメ!」

 

 自傷行為、ダメ、絶対!

戦闘訓練誰とオリ主を組ませたいです?まぁ女の子限定ですけど。

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