村娘に転生したけどお前のヒロインにはならないからなっ! ~俺をヒロインにしたい勇者VSモブキャラを貫きたい俺~   作:二本目海老天マン

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10.溢れ出す狂気

 

 

 

「…………はっ! 僕は一体何を…………?」

 

 気が付けば(エクス)は仲間達と共に王都の入口に立っていた。

 

「よっ、エクス。正気に戻ったか? 私が誰だか分かるか?」

 

 状況が分からず、呆然としている僕の前でレビィさんが話しかけてくる。

 

「レビィさん……どうなっているんですか? 

 僕達は確か、フィロメラさんの"星詠み"で敵の陽動に気づいて……

 それから東の砦に急行して八大幹部と……あれ? 鱗の生えたアリエッタの偽物が……あれ? 

 そいつを殺せばアリエッタが…………」

 

「やばいやばい! フィロメラ! エクスの頭に治癒魔法!」

 

 レビィさんが慌てた様子で僕の背後に立っていたフィロメラさんに声をかける。

 フィロメラさんは何故か僕の頭に治癒魔法を唱えていた。

 

「……えーっと、すいません。よく覚えてないんですが……僕、戦闘で負傷でもしたんですか?」

 

 僕の治療? が終わったフィロメラさんが僕の正面に立つ。

 

「詳細は落ち着いてから話しますが、東の砦に現れた八大幹部はエクスくんが撃破しました。

 "星詠み"でも確認しましたが、幹部を立て続けに二人失った魔王軍はしばらく大人しくしている筈です」

 

「えっ、なにそれ。全然記憶にないんだけど」

 

 ……というか、フィロメラさん何か機嫌悪い? 

 

「そして、これからエクスくんには里帰りをしてもらいます。

 向こうで一週間ぐらいゆっくりしてきてください。

 念の為、エクスくんの病状が悪化した時の為に私も同行しますが、アリエッタさんとの逢瀬を邪魔するつもりはありませんのでご心配なく」

 

「はあ!? い、いや待ってくださいフィロメラさん! 

 ちゃんと順を追って説明してください! 話が全く理解出来ないです!」

 

「王城への報告はエクスくんがパーになってる間に代理の方を立てましたので心配は無用です。

 さあ、さっさと転移術を起動してください」

 

「いや、だから……!」

 

「あーーーもう! うるさいっ! エクスくんがこの先もあんな調子じゃ勇者パーティーは解散の危機なんです! 

 対策は後で考えますから、とにかく今はアリエッタさんとデートの一つでもして病状を安定させてください! 分かったらさっさと転移術を起動する! 返事は!?」

 

「は、はいっ!」

 

 フィロメラさんが珍しく声を荒らげている様子に気圧されてしまい、僕は思わず返事をしてしまう。

 

「エクスー、フィロメラもお前の事を心配して言ってるんだ。大人しく言う事聞いてやんな」

「は、はあ……分かりました……」

 

 レビィさんに後押しされて、僕は転移術を起動させる。

 いつもニコニコしているフィロメラさんにしては、珍しく不機嫌な顔をしながら僕の傍に立った。

 

「……それじゃあ、レビィ。後はお願いね」

「おう、そっちも仲良くやんなよ」

 

 僕は精神を集中させて、故郷のイメージを脳内に思い描いた。

 

「行きますよ、フィロメラさん」

「いつでもどうぞ」

 

 余所余所しい態度のフィロメラさんに居心地の悪さを感じつつも、僕は転移術の発動に集中する。

 

 

 

 次の瞬間、僕とフィロメラさんは光の粒子となって、王都から僕の故郷へと跳躍した。

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 

「フィロメラも物好きだねえ。好きな男が別の女といちゃつく所を見物に行くなんてさ」

 

 エクスとフィロメラを見送ると、レビィは素直になれない友人の様子に溜息を吐いた。

 

「まあ、外野がどうこう言うのも野暮か。さてと、これからどうするか…………うげっ」

 

 レビィが端正な顔を苦々しく歪める。

 王都へ向かう馬車の一群に、見覚えのある悪趣味な馬車を見つけたからだ。

 

「クベイラ家の馬鹿息子の馬車じゃん……

 あいつ会うたびにエクスに嫌味言うし、私やフィロメラに粉かけてくるしうざったいんだよなあ……」

 

 レビィは隠れようかとも思ったが、既に馬車はかなり近い距離に居る。

 露骨に避けている態度を見せるのも面倒な事になりそうだと思い、敢えて馬車が近づいて来るのを気にしないことにした。

 

「…………あれ?」

 

 馬車はこちらを無視して、そのまま王都の中へと入っていった。

 

「珍しいこともあるもんだ。てっきり馬鹿の一つ覚えみたいに嫌味でも言ってくるかと思ったが……」

 

 レビィは面倒事が通り過ぎていくのを、拍子抜けした様子で見送った。

 

「……それにしても、珍しいものを見たな」

 

 馬車が通り過ぎる瞬間に見えた中の様子をレビィは反芻する。

 

 

 

「赤髪か…………最後に見たのはいつだったかな…………」

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

「まさか、こんなに早くもう一度来ることになるとは思わなかったな…………」

 

 僕は二週間ぶりに再び故郷へと戻ってきていた。

 

「さあ、行きますよエクスくん。アリエッタさんは5年前と同じ道具屋に居るんですよね?」

 

 フィロメラさんが僕を置いて、さっさと歩き出した。僕は慌てて彼女を追いかける。

 

「え、ええ。そうですけど……というか、何処までついてくる気なんですか」

「ご心配なく。エクスくんの病状が悪化せずにアリエッタさんの所まで行けたら、私は適当に消えますから」

「さっきから病気病気って言ってますけど、一体なんの話なんですか。そろそろ説明してくださいよ」

 

 フィロメラさんは足を止めると、深い深い溜息を吐いた後に晴々とした笑顔で僕に振り返った。

 

「はい、エクスくんは病気です。アリエッタさんに半月会えなかっただけで、幻覚、幻聴、妄想等が極限まで肥大化してしまうのです。

 おかげで私達はエクスくんとの意思疎通に非常に苦労しました。

 戦闘能力だけは平時よりも強化されるので、心底厄介でしたよ?」

 

 フィロメラさんは意味不明な事を言っていた。

 

「すいません、今の話どこが笑うポイントですか?」

「全部ですかね」

 

 フィロメラさんの笑顔が凄く怖い。

 

「真面目に話してくださいよフィロメラさん。

 それじゃあ、僕がまるで恋人でもない女の子に2週間会えなかっただけで発狂して暴走するド変態か重病人みたいじゃないですか」

「理解が早くて助かります」

 

 フィロメラさんの顔から一切の感情が消えた。凄く凄く怖い。

 

「フィロメラさん、いい加減にしないと僕も怒りますよ? 

 そんな馬鹿げた話を誰が信じるって言うんですか。アリエッタもそう思うでしょ?」

 

 僕は道端に立っている木で出来たアリエッタに話しかけた。

 

「ヒーリング!!」

 

 僕はフィロメラさんの治癒魔法が付与された杖で頭を強打された。

 

「はっ! 僕は何でカカシに話しかけていたんだ…………?」

「もはや一刻の猶予もありません。さっさと行きますよエクスくん」

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 フィロメラさんに先導されて、僕はアリエッタの居る道具屋の前に到着した。

 

「さあ、行ってきてください。これで少し様子を見て、エクスくんの病気が悪化しないようなら私は王都に帰るんで、後はお二人で好きなだけいちゃついてください」

「べ、別に僕とアリエッタはそういう関係じゃ…………」

「いっそ、そういう関係になって王都にでも連れてくればいいじゃないですか。

 それかこっぴどくフラれて未練を断ち切ってください。…………その時は私が慰めてあげます」

「……はい、ありがとうございます」

「皮肉です。真面目に受け取らないでください」

 

 フィロメラさんは拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

 ……何だか今日はフィロメラさんの意外な一面を沢山見てしまった気がする。

 

「意外と子供っぽいところあるんですね。何だか新鮮です」

「年下の癖に生意気ですよ。早く行かないと、もう一回治癒魔法付与した杖で殴りますよ」

 

 杖を突きつけてきたフィロメラさんに苦笑しつつ、僕は一度深呼吸をすると店の扉に手をかけようとする。

 

 

 

「…………あっ」

 

 

 

 しかし、僕が扉を開けるよりも中から一人の少女が出てくる方が先だった。

 僕は少しかがんで目線の高さを少女に合わせる。

 

「こんにちは、ミラちゃん。アリエッタは中に居るのかな?」

 

 彼女が5年前にアリエッタと一緒に探した子犬の飼い主であるということは、先日アリエッタから聞いていた。

 

「……変質者のお兄ちゃん」

「誤解だ。話を聞いてくれミラちゃん」

 

 しかし、ミラちゃんは僕の話を聞いてくれなかった。

 彼女は僕の服をギュッと握りしめて続けた。

 

「お願い……お兄ちゃんは凄く強い人なんでしょ……? アリエッタお姉ちゃんを助けて…………!」

 

 少女の瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだった。

 そのただならぬ様子に、僕はアリエッタに何か大変な事が起きたのだと悟る。

 

「ミラちゃん、落ち着いて。アリエッタに何か有ったのかい?」

 

 僕は少女を落ち着かせるように、出来るだけ優しく彼女に先を促した。

 

「こ、この間……エイビスとかいう馬鹿っぽい貴族がお姉ちゃんのお店にやってきて…………」

「エイビス……?」

 

 ミラちゃんから出てきた意外な名前に僕は驚く。

 僕達の事をよく思わない貴族達の中でも、クベイラ家の彼は特に酷かった。

 少し前までは大小問わず、様々な嫌がらせを受けたものだが、魔王軍四天王を撃破した辺りから、王からの信頼が厚くなった僕達に対して、あまり表立ったことはしてこなくなったのだが……

 彼が何故、こんな辺境に……? 

 

 

 

「……その馬鹿っぽい貴族が、お姉ちゃんを性奴隷にする為に、無理やりお姉ちゃんを王都に連れて行ったの…………」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、僕はフィロメラさんの手を引いて、村の入口へと早足で戻った。

 その場で転移術を起動してミラちゃんを巻き込んだり、フィロメラさんを置き去りにして一人で王都へ帰らなかったのは、我ながら大したものだと思う。

 

「エ、エクスくん! 落ち着いて! 一旦、冷静に……!」

「僕は冷静です。転移術を起動するので離れないでください」

 

 僕からして見れば、取り乱しているのはフィロメラさんの方だ。

 彼女が暴れて転移術が失敗しないように、僕は彼女を抱きしめた。

 

「な、な……なっ……!」

「飛びますよ、フィロメラさん」

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 僕達は僅か数時間で再び、王都へと戻ってきていた。

 連続で発動した転移術の影響か、多少の眩暈を感じるが今は気にしてはいられない。

 

「それじゃあ、フィロメラさん。僕はちょっと用事が有るのでこれで」

「エ、エクスくん! 待っ…………」

 

 フィロメラさんを腕から解放すると、僕は全速力で駆け出した。

 通行人と接触すると大事故になりかねないので、建造物の屋根を飛び移っていくことにしよう。

 うん、やっぱり僕は冷静だ。

 これなら幾らでもスピードを出せる。

 

「えーっと、確か彼の屋敷はこっちだったかな?」

 

 以前、一度屋敷へ招待された時の記憶を辿って、見覚えのある建物を探す。

 走りながら僕は腰に下げた剣を確かめた。

 

「うーん、室内ならナイフとかの方がいいかな?」

 

 想定される状況を考えて、武器の適性を考慮する。

 やはり僕は冷静だ。

 

 僕は舌なめずりをしながらエイビスの屋敷へと急ぐのだった。

 

 

 

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