村娘に転生したけどお前のヒロインにはならないからなっ! ~俺をヒロインにしたい勇者VSモブキャラを貫きたい俺~   作:二本目海老天マン

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35.死闘

 

 

 

 

 

 故郷を失い、仲間を失い、愛する人を失った果てに得た勝利なのに、僕の心は驚くほどに凪いでいた。

 

 

 

 きっと、彼女を失った瞬間に、僕はただの"世界を救済する"装置となってしまったのだろう。

 

 

 

 僕は折れた剣を放り投げると、魔王の亡骸に腰かけた。

 

 

 ……これからどうしようか。

 

 少し疲れたし、一休みしてから王都に帰ることにしようかな。

 そんな事を考えながら魔王城から撤収する準備をしていると、玉座の後ろに地下へと続く階段があるのを見つけた。

 

 危険な気配は感じなかったし、魔王が倒れた今となっては自分の身体などどうなっても構わないだろう。

 

 そんな自暴自棄な気持ちから、僕は地下へと続く階段を降りると、そこは魔王軍の数千年に渡る魔術研究の成果が蓄えられた書庫だった。

 確かに貴重なものかもしれないが、さして心は動かなかった。

 

 

「フィロメラさんがいたら、きっと興奮していたかもな」

 

 

 かつての仲間の姿が脳裏を過る。

 

 

 ―――何か一つ、ボタンを掛け違えていれば、今ここに居たのは僕一人では無かったのかもしれない。

 

 

 在りえたかもしれない光景を幻視してしまい、口元に皮肉めいた笑みを浮かべてしまう。

 

 そんな自分を誤魔化すように、本棚から適当に一冊の書物を取り出す。

 

 特別、意識してその本を選んだという訳では無かったのだが、書かれている内容には若干の興味を惹かれた。

 

 

「転移術、か」

 

 

 北の大陸で習得して以来、随分と世話になっていた魔術だ。

 この魔術が無ければ、次元の狭間に存在しているこの魔王城にだって辿り着くことは出来なかっただろう。

 

 術の概要が記載されたページをパラパラと捲っていると、飛び込んできた文字に目を奪われた。

 

 

 

「魔術式の応用……並行世界への転移……」

 

 

 

 未だ未完成とされている転移術の応用法。

 

 錆びついていた心が、久しぶりに動く音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

「やあ、待ちかねたよ。我が愛よ」

「アズラーン……」

 

 

 王都から遠く離れた荒野で、(エクス)達はアズラーンと対峙していた。

 

 

「……おや、君達だけかね? 遠慮せずに人類軍の兵達を連れてきても構わなかったのだよ?」

 

 

 決戦の場に訪れたのは、僕とフィロメラさん達……所謂"勇者一行"と呼ばれる人員だけだった。

 

 アズラーンの気質からはあまり考えられなかったが、僕達が引きつけられている内に王都を襲われる可能性も皆無では無かったし、彼のような突出した"個"を相手取るのにこちらの数を増やし過ぎるのは、むしろ同士討ちのリスクの方が重いと考えたからだ。

 

 

「では、ターレス。下がっていたまえ」

「はい、アズラーン様。ご武運を」

 

 アズラーンの言葉に静々とターレスが後ろへ下がっていく。

 

彼女(ターレス)のことはすまない。本当は俺一人で君達を待つつもりだったのだが、お供すると言って聞かなくてな。無論、君達に手は出させないから安心したまえ」

 

 これから殺し合いをする相手だというのに、どこまでも僕達を気遣うアズラーンに、僕は胸の内を晒してしまう。

 

「……戦わずに済む方法は無いのか? ……僕は、君のことが嫌いじゃない。出来る事なら、剣を向けたくはない」

 

 ……本心だった。

 確かに彼は魔王軍の幹部だ。人類の怨敵である。

 しかし、ここ数日の間で不本意ながらも彼と過ごした日々の中で、僕は彼を打ち倒すべき敵として憎み切れなくなっていた。

 

 僕の言葉に、アズラーンは柔らかく微笑んだ。

 

「―――甘いな。そして、好ましい甘さだ。……だが、語らいの時は既に終わった。魔族と人間、戦う理由ならばそれだけで十分な筈だ」

 

 

 

 一転、アズラーンの笑みが狂暴なものへと変性した。

 

「―――そもそも、それは勝者の側の台詞だ。戦う前からこの俺に勝つつもりとは、随分と甘く見られたものだ」

 

 最早、戦いを避けるつもりは無いという宣告だった。

 

 アズラーンが軽く大地を踏みしめると、それだけで彼の周囲に大きく地割れが生じた。

 開戦を告げる轟音に、僕と仲間達が武器を構えると、アズラーンはそれを受け入れるように大きく両手を広げた。

 

 

 

「魔王軍十六神将、序列第三位"撃滅将"アズラーン。殺すつもりは無いが、加減をするつもりも無い。全力で来るがいい」

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

「うおらぁっ!!」

 

 先陣を切ったのはヴィラだった。

 彼の姿がさざ波のように揺らぐと、4人に分身したヴィラの槍がアズラーンを四方から貫こうとする。

 

 

「誤解の無いように先に言っておこう」

 

 

 次の瞬間、アズラーンは四方からの槍を全て拳で砕くと、ヴィラの本体に痛烈な蹴りを放った。

 

「がっ……!」

 

 ヴィラは辛うじて槍の柄でアズラーンの蹴りを受けたが、殺しきれなかった衝撃の余波で地面と水平に吹き飛ばされる。

 

「俺は特殊な能力や搦め手は使わない。膨大な魔力量に任せた単純に殴る蹴るが強いタイプだ。分かりやすくていいだろう?」

「リアクタさん! 合わせて!」

「はいっ、フィロメラさん! "広域聖化"!」

 

 戦場を巨大な光の柱が貫く。フィロメラさんの補助魔法で強化されたリアクタちゃんの神聖魔法だ。

 光の柱がアズラーンに肉薄する僕達ごと貫いたが、こちらにダメージは無い。むしろ身体能力の向上すら感じているが、魔族であるアズラーンは別だ。

 

 

「おおっ、これはやられたな。この範囲にこの威力の神聖魔法とは。これは躱す術が無いな」

 

 

 ブスブスとアズラーンの身体から黒煙が上がる。大したダメージは入っていないようだが、無傷という訳では無かった。畳みかけるように僕の剣とレビィさんの斧がアズラーンに襲い掛かる。

 

「はぁっ!」

「ちょいさぁっ!」

 

 アズラーンは両手で僕の剣とレビィさんの斧を受け止めた。その掌には何か防護の魔術がかかっているのか、表皮が斬れた様子すらない。

 

「ふむ、一撃の重さが足りないな。普段は手数で勝負するタイプかね? それでは俺の防護は貫けないぞ」

「御忠告どーも。でもいいの? 両手塞がってるわよ?」

 

 レビィさんの言葉に合わせるように、復帰したヴィラが背後からアズラーンの胸に向けて槍を突き出す。

 

 

「ほう、あの蹴りを受けてもう戦えるのか。純粋な肉体強度ならエクスよりも上かもしれないな」

「……マジかよ」

 

 

 ―――僕とレビィさんを掴んだ武器ごと上空へ放り投げたアズラーンが、ヴィラが突き出した槍の上を歩きながら彼を称賛していた。

 

 

「……エクス、勝てそう?」

「勝つ。勝ちます。そうじゃないと、アリエッタの所へ帰れませんから」

 

 

 上空から落下しながら剣を構えた僕の言葉にレビィさんが苦笑を浮かべた。

 

 

「やれやれ、純情少年め。そんな言葉聞かされたら、お姉さんも張り切るしかないわね」

「はい、力を貸してください。みんなで勝ちましょう!」

 

 

 ヴィラが後方へ退いたのを確認すると、僕とレビィさんは落下の勢いを乗せて、アズラーンに向けて武器を振り下ろす。

 流石に受けきれないと判断したのか、跳躍して僕達の攻撃を躱したアズラーンに、後方からフィロメラさんとリアクタちゃんの放った魔力弾が追撃する。

 

「いいぞいいぞ。人族の力とは"絆"……いや、"愛"の力だ。個が突出し過ぎている我々には真似出来ない代物だ」

 

 並の魔物ならば、一発被弾しただけで致命傷となる魔力弾をアズラーンは苦も無く拳で弾いていく。

 

 

「まだだ、君達はもっと強くなれる。俺に君達の限界を! "愛"を見せてくれ!」

 

 

 愉しくて堪らないといった様子で哄笑するアズラーンに、後方からの魔力弾が途切れたタイミングで僕達は3人がかりで近接戦を仕掛ける。

 

 ……駄目だ。完全に遊ばれている。

 

 スタミナの消耗を考慮しない全力での戦闘で、何とかアズラーンに食らいつけているのが現状だ。

 このままでは僕達の体力が尽きるまで戦ったとしても、アズラーンに致命傷を与えることは出来ないだろう。

 

 

 

 ―――ここで負けてしまえば、その先など無い。ならば、使うべきか……? 

 

 

 

 僕は胸元の水晶細工――"聖剣"を握りしめた。

 

 

「―――ッ!」

 

 

 瞬間、アズラーンの鋭い眼光が僕に突き刺さった。

 

 不味い。勘付かれたか……! 

 

 憤怒の表情を浮かべたアズラーンがレビィさんとヴィラの間を掻い潜り、一瞬で僕へと肉薄する。

 

 

「この愚か者がァッ!!」

「ごァッ……!?」

 

 

 アズラーンの掌底が胸元に食い込む。

 吹き飛ばされた僕は、全身を貫く衝撃に悶絶しながらもアズラーンへと視線を向ける。

 

 

 

 

 

 ―――彼の手には、僕の胸元から奪われた"聖剣"が握られていた。

 

 

 

 しまった……! よりにもよって、このタイミングで切り札を奪われるなんて……! 

 

 

「ターレス!」

 

 

 アズラーンは戦闘の余波が届かない後方へ待機している侍女へ叫ぶと、"聖剣"をそちらへと投げつけた。

 ターレスが"聖剣"を受け取ったのを確認すると、彼は僕へと向き直り怒号を放った。

 

 

「あのような"玩具"に頼って、この先何が成せると言うのか!!」

「……何?」

 

 

 呆ける僕に向かって、アズラーンはその端正な美貌を憤怒に歪めて続けた。

 

 

「エクスッ! 君は自分の力を見限るのが早すぎる。君の限界は……いや、人の限界はこの程度ではない筈だ! あんな借り物の力で可能性を閉ざすな! 君の"愛"の力を、君自身が信じないで誰が信じるというのかッ!!」

「…………」

 

 

 

 ―――何なんだこいつは。言っている事が滅茶苦茶だ。

 

 

 

 だが、ここで"聖剣"に頼るようでは先が無いという点に関しては同意せざるを得ないだろう。

 

 自分でも訳の分からない感情から、口元に僅かに笑みが浮かぶのを止められない。

 

 先程のアズラーンの掌底で悲鳴を上げている身体を無理やり奮い立たせると、僕は再び剣を構えた。

 

 

 

「ああ、それでこそだ。我が愛よ。君は……いや、君達と私は、もっと先へ行けるのだ」

 

 

 

 僕は返事はしなかった。

 

 ただ、全力で。

 

 今の僕の限界とやらが具現化したようなこの男を踏破する為に、真っすぐに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

「アズラーン様……貴方のそんな嬉しそうな顔を見るのはいつ以来でしょうか……」

 

 

 

 エクス達が激戦を繰り広げている様子を、遠く離れた後方からターレスが見守っていた。

 

 その平坦な言葉に、僅かに混じっていたのは羨望か、それとも嫉妬か。

 

 

 

 

 

『ターレス、状況はどうなっている』

 

 

 

 

 

 ターレスの脳内に無粋な声が鳴り響く。総司令からの交信魔術だ。

 

「問題ありません。アズラーン様に敗北はありません。例え誰が相手だったとしても」

 

 それが総司令が相手であったとしても、と言葉には出さずに胸裏で付け加える。

 

『いいだろう。だが、もしもアズラーンが敗北するようならば、すぐに伝えろ』

「了解しました。総司令殿」

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 ターレスとの交信を終えた総司令が、腰かけていた椅子から立ち上がった。

 

 

 

「勇者はアズラーンに足止め。ターレスもアズラーンが居る以上、あの場を動くことは無いだろう。"聖剣"が全て失われていない以上、万全とは言えないが……勝負に出るべきか……」

 

 

 

 僅かな逡巡の後に仮面の男は立ち上がると、その姿は闇の中へと掻き消えた。

 

 

 

 

 

 




話の流れ上しばらくシリアスが続きます。
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