村娘に転生したけどお前のヒロインにはならないからなっ! ~俺をヒロインにしたい勇者VSモブキャラを貫きたい俺~   作:二本目海老天マン

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あけましておめでとうございます。
お正月なので思いつきで番外編書いてみました。
本編完結後のお話です。時系列はいい感じに脳内補完してください。


EX01.お正月

 

 

「……んんっ、くぁ……エクス~、起きて起きて~」

 

 

 夜明け前。(アリエッタ)はベッドの隣で眠っているエクスを揺さぶって覚醒を促す。

 

 

「うぅん……アリエッタ? まだ夜中だよ、もう少し寝ようよ……」

「わぷっ」

 

 

 エクスは寝惚けた顔で、肩を揺さぶってくる俺を抱きしめると、そのまま二度寝を決め込もうとする。普段だったら、それでも構わないのだが、今日だけは別である。

 

 

「駄目。寝る前に話しただろ? 一緒に初日の出を見るって」

「ハツヒノデ? ……ん~、そうだっけ……?」

「そうなの。はいはい、起きた起きた」

 

 

 俺は抱きしめてくるエクスの腕を解くと、彼がくるまっているシーツを引っぺがして無理やり起床を促すのだった。

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

「大丈夫アリエッタ? 寒くない?」

「ん、平気」

 

 

 俺はエクスを連れて、家から少し離れた見晴らしの良い丘に来ていた。

 

 大き目のブランケットで、仲良く一緒に包まれているエクスに、温かいお茶を入れた水筒を渡す。

 

 

「……ふぅ。それで、"ハツヒノデ"だっけ? それも君の前世の知識なの?」

「まあ、そんな所。その年の最初の日の出は縁起が良いから拝んでおこうぜって感じ」

 

 

 エクスから返された水筒に、俺も口を付ける。

 夜明け前の僅かに白んだ丘に人影は無く、世界に二人だけ取り残されてしまったような錯覚すら覚える。

 

 

 

 ―――ああ、この少し浮足立つような高揚感。

 

 前世の大晦日もこんな気持ちだったっけ。

 

 

 

 郷愁が微かに胸を焦がした。

 

 

「……アリエッタ」

 

 

 ふと、エクスが肩に腕を回して俺の身体を抱き寄せる。

 

 

「……ん、どうした。エクス?」

「アリエッタの居る場所はここ(・・)だよ。……君には悪いけど、元の世界に帰りたいって言われても、僕は絶対に君を手放さないからね」

「―――くっ」

 

 

 急に子供みたいな事を言い出したエクスに、俺は思わず吹き出してしまう。

 

 

「アリエッタ! 僕は真剣に……」

「ぷっ、わ、悪い。くふっ……お前さあ、俺のこと好き過ぎだろう?」

 

 

 拗ねたように眉間に皺を寄せる彼が愛しくて、その頬に手を添えると触れる様に唇を重ねた。

 

 

「んむっ……ア、アリエッタ……」

「大丈夫だよ、エクス。確かに前の世界を懐かしむ気持ちはあるけど、今の俺が居たい場所はここ(・・)だからさ」

「……そっか。うん、よかった」

 

 

 エクスがこちらに顔を寄せてきた。

 

 

 ……おいおいおい、何か盛り上がっちゃってるけど、流石に外でアレコレするのは嫌だぞ。クソ寒いし。

 

 

 そんなことを考えながらも、ハッキリと彼を拒絶出来ない、流され体質な自分に複雑なものを感じてしまう。

 

 陽の光の温もりを感じながら、彼の唇を受け入れ―――

 

 

 

「―――日の出見逃しとるがなっ!?」

「……えっ?」

 

 

 

 ゴキンッ!! 

 

 

 

 急に顔を動かした俺の額とエクスの額が、鈍い音を立てて激突した。

 

 

「んがっ……!」

「ア、アリエッタ!? 大丈夫っ!?」

 

 

 流石に鍛えている元勇者様はノーダメージだったようだが、貧弱モブ娘である俺には相当キツイ衝撃だったようで。

 

 頭蓋の裏側で星が瞬くような幻視をしながら、俺は意識を手放すのだった……

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

「―――んぅ……?」

 

 

 暗闇の中で()―――有恵(ありえ)は目を覚ました。

 枕元のスマートフォンを確認すると、時刻は元日の午前3時……随分と半端な時間に目が覚めたものである。

 

 

「……なに、あの初夢。恥ずかしすぎて死にそう」

 

 

 寝惚けた頭で、直前まで見ていた夢の内容を反芻すると、私はベッドで一人悶絶した。

 

 夢らしく細かい部分に関しては覚醒と同時に忘れてしまったが、何やら海外みたいな場所で、最近お隣に越してきたエクス君そっくりの男の子と自分がイチャついていたのは覚えている。

 

 

「ぐあ~~~……ええ? 私そんな風にエクス君の事見てたの? いや、確かに美形だし、良い人だけどさ……」

 

 

 ウネウネと身体をくねらせて羞恥に震えていると、スマホのメッセージアプリに未読のメッセージが届いている事に気が付く。

 

 

「あれ、他のあけおめメッセに埋もれて見逃してたかな?」

 

 

 未読メッセージを確認すると、送り主は今まさに私()性的な目で見ていた疑惑のある(エクス)からだった。

 

 

 

 ――――――――――

 

 あけましておめでとう。

 有恵はこっちに越してから、初めて出来た友達だから、今年も一年仲良くしてくれると嬉しいです。

 

 ――――――――――

 

 

 

「うわっ、完全にスルーしちゃってた。……深夜だけど、返信だけしちゃおっと」

 

 メッセージに既読を付けると、私は少し考えてから彼に返信を送った。

 

 

 

 ――――――――――

 

 あけましておめでとうございます。

 返信遅れてごめんね。こちらこそ今年も仲良くしてくれたら嬉しいです。

 

 ……ところで、急な話でアレなんだけど、もしもエクス君が良ければ一緒に初詣に行きませんか? 

 今日の昼頃に出かけるつもりなので、予定が無ければ付き合ってもらえたら嬉しいです。

 

 ――――――――――

 

 

 

「……いやいやいや、これは変なアレじゃなくて友達としての……そう、友達としての奴だから…………友達は午前3時に男を初詣に誘うのかっ!?」

 

 

 自分で自分の感情がよく分からなくなってきた私が彼にメッセージを送ったのは、それから30分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ、もう返信来た」

 

 エクス君から初詣承諾メッセージがマッハで帰ってきたのは、また別の話である。

 

 

 


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