村娘に転生したけどお前のヒロインにはならないからなっ! ~俺をヒロインにしたい勇者VSモブキャラを貫きたい俺~   作:二本目海老天マン

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06.もう一度

 (エクス)が村を出てから5年の月日が流れた。

 

 

 

 

 

「ぬうう…………!」

 

 目の前で、氷で造られた巨大なゴーレムが崩れ去っていく。

 間違いなく、これまで戦ってきた魔王軍の中で最も手ごわい相手だった。

 僕達が一人も欠けずに勝利出来たのは奇跡というしかないだろう。

 

「見事だ……勇者エクスよ…………魔王軍八大幹部の一人、"氷獄"である我を打ち破るとは…………! 

 魔王様、お許しください……転移の秘術…………守り切る事……か……な……わず…………」

 

 最期の瞬間まで、魔王への忠誠心を示した氷のゴーレムは完全に塵となった。

 

 

 

 

「お疲れさまでした。エクスくん」

「いえ、皆の方こそ僕の無茶な戦い方に付いてきてくれてありがとう。ここにいる誰一人欠けていても、勝てない戦いでした」

 

 僕はフィロメラさんと、その後ろで勝利の喜びに浸っている仲間達に声をかけた。

 

「……さて、これでエクスくんは魔王軍によって封印されていた転移の秘術が使えるようになった筈です。どうでしょうか? 何か感覚は掴めそうですか?」

 

 フィロメラさんに促されて、僕は自分の内側に精神を集中する。

 脳裏に、これまで訪れた場所のイメージが鮮明に浮かび上がる。

 後は、ここに僕の魔力を乗せれば……

 

「……多分、行けます。とりあえず、僕と僕の周囲に居る人間なら、これまで訪れたことがある場所に一瞬で移動出来るはずです」

 

 僕の言葉を聞いて、仲間達が喝采を上げた。

 

「いやあ、古文書で存在は知っていましたが、反則級に便利な術ですね。

 エクスくんにしか使えないというのは難点ですが……今後の冒険で間違いなく重要な役割を担うはずですよ」

 

「とりあえず、王都へ移動しようと思います。皆、僕の近くへ」

 

 仲間達が僕の周囲を囲む。

 

「……フィロメラさん。そこまで近づかなくても大丈夫です」

「え~? 万が一にもこんな所で独りぼっちにされたら嫌ですしー?」

 

 フィロメラさんが、僕の腕に自分の匂いを擦り付けるように、全身を押し付けてくる。

 ……彼女の柔らかい部分が気になって集中が乱されるので、本当に止めてほしい。

 僕が困っているのを察して、仲間達がフィロメラさんを引き剥がしてくれた。

 

「…………よし。それじゃあ、飛びます……!」

 

 

 

 **********

 

 

 

 次の瞬間、僕達は王都の入口に立っていた。

 

 

 

 

 

「…………おおっ! 見てください、王都ですよ! 本当に一瞬でしたね。時間的な誤差は、ほぼゼロですよ」

 

 フィロメラさんが時計を確認しながら、はしゃいでいる。

 僕より五つ年上なのに、まるで子供みたいだ。

 

 ……しかし、本当に凄い術だ。

 集中を要するので、発動までに時間はかかるが、これほどの大魔術にしては魔力的な消耗はかなり軽い。

 僕達の旅路の負担を大幅に軽減してくれることは間違いないだろう。

 

 

 

「……フィロメラさん。その、申し訳ないんだけど……王城への報告、任せてもいいですか?」

 

 

 

 王都から遠く離れた"あの場所"。

 

 これまでは、勇者としての責務から機会を作ることが出来なかったが、今の僕なら…………

 

 

 

 

 

 今まで、出来るだけ"彼女"のことは考えないようにしていた。

 

 彼女のことを思い出すだけで、胸の奥が軋むように痛んでしまうから。

 

 でも、手を伸ばせば届く場所に彼女がいる。

 

 一度、そう思ってしまったら気持ちを抑えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

「はいはい、私達のパーティーで一番頑張ったのはエクスくんですし、それぐらいはやってあげますよ。

 でも、明日の朝には帰ってきてくださいね? 流石に私達の中核である貴方が一回も王城へ顔を出さない訳にはいきませんから」

 

「ありがとうございます!」

 

 僕はすぐさま転移術を発動させた。

 

 5年前のあの日から、一度も訪れることは無かったが、"あの場所"なら、術の補助が無くても、いつだって鮮明に思い出せる。

 

 

 

「…………やれやれ。5年ですよ? それだけ経ってても一途に想われてるなんて、ちょっとだけ妬けちゃいますね」

 

 

 

 フィロメラさんが何か呟くのと同時に、僕の身体はその場から掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 

 

 エクスが村を出てから5年の月日が流れた。

 

 

 

 現在、俺ことアリエッタ(17歳)は家業である道具屋の手伝いをしていた。

 両親は、将来的にこの店を俺に任せてくれるつもりらしい。俺としては食い扶持に困らずに済むので歓迎することである。

 

 この世界独自の商取引のノウハウ等、覚えることは多少有ったが、前世での数学教育と経理事務の経験のおかげで俺の計算能力は、この世界では高い部類に当たるらしい。

 商売をやっていく上でそれなりに役に立ちそうなスキルだ。

 前世でそろばん教室に通わせてくれた両親に感謝しておこう。

 

 

 

 ……あの日から5年間、俺は退屈だが平穏な日々を過ごしていた。

 

 

 

 その間、世界はまあまあ騒がしかったと言える。

 魔王軍に四天王とかいう強力な力を持った奴らが現れて、人類軍が一時期劣勢になったり。

 それを王都で勇者としての修行を終えたエクスが片っ端からぶち殺して回ったり。

 先日、エクス一行は四天王最後の一人にして最強の魔族を撃破したらしいが、今度は四天王よりも更に上の存在である八大幹部とやらが現れたらしい。少年漫画みたいなインフレしやがって。

 今は、この田舎村から遠く離れた北の大陸で、その八大幹部の一人と戦っているようだ。

 

 

 

 まあ、俺には関係ないことだがな。

 

 俺が暮らすこの田舎村は戦火にさらされることもなく、極めて平穏な日々が続いていた。

 戦争の話は、こうして新聞に書いてある内容で知る程度で、前世の時と同じく遠い世界での出来事だった。

 

 一通り読み終わった新聞を端に寄せると、俺は退屈な店番を再開した。

 

 

 

「お、お姉ちゃん! 大変だよ!」

「んー?」

 

 

 

 居眠りしてしまいそうな静寂を破ったのは、店内に駆け込んできたミラちゃんだった。

 5年前のあの事件を切っ掛けに、彼女は俺に懐いてくれたのだ。

 俺は仕事終わりに、すっかり巨大化したペスの散歩に付き合ったりもしている。

 

「どした、ミラちゃん? ペスが彼女でも連れてきたのか?」

「それどころじゃないよ! ほら、こっち来て! 早く逃げないと!」

 

 ミラちゃんがカウンターのこちら側へ回り込んできて、ぐいぐいと俺の手を引っ張る。

 今、店番してるんだけどなー。まあ客も居ないし、いいか。緊急事態みたいだし。

 

 俺がのろのろと立ち上がると、焦れたようにミラちゃんが俺の背中をぐいぐいと押してくる。

 必死な姿が可愛くて、俺はつい意地悪で彼女に体重をかけてしまう。

 

「おっ、重っ! お、お姉ちゃん! 自分で歩いて!」

「あァ~ミラちゃんは可愛いなァ~~~。大きくなったら、お姉ちゃんと結婚してくれない?」

「ふえっ!? な、何言ってるの! 馬鹿っ!」

「おわっ!」

 

 俺のアホなジョークを真に受けたのか、動揺したミラちゃんに俺は背中から突き飛ばされた。

 ミラちゃんに体重を預けていたからか、バランスを崩した俺は、そのまま店の入口にダイブしてしまう。

 

 

 

「…………えっ? うわっ!?」

「ぐへぇっ!?」

 

 

 

 間の悪いことに、店に入ろうとしていた客にタックルしてしまった俺は、そのまま相手に対してマウントポジションを取ってしまった。

 やべっ、とにかく謝らないと…………

 

 

 

 

 

 俺は相手の顔を見つめて、固まってしまった。

 

 触り心地の良さそうなサラサラの金髪に、吸い込まれるようなエメラルドグリーンの瞳。

 

 気弱そうな印象を与えつつも、それ以上に親しみを感じさせる柔和で端正な顔立ち。

 

 絶対、ここに居るはずが無い"アイツ"を連想させるその男は、俺を見つめて照れ臭そうに微笑んだ。

 

 

 

「えーと、ただいま。アリエッタ…………」

 

「エ、エクスぅっ!? 嘘だろ、だってお前、今は北の大陸に…………!」

 

「うん、そうなんだけど……そこで新しい術を手に入れて…………

 あー、ごめん。積もる話は有るんだけど…………とりあえず、僕の上から降りてもらってもいいかな?」

 

 

 

 気が付けば、往来の真ん中で男を押し倒して大騒ぎしている女(俺)を、周囲の人間が生温かい眼差しで見つめているという、なんとも言えない状況になっていたのだった。

 

 

 

「お姉ちゃん…………不潔…………」

 

 

 

 おませになったなー、ミラちゃん。

 俺は現実逃避するように、少女の呟きに脳内でツッコミを入れていた。

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、流石に2回連続は少し疲れるな……」

 

 (エクス)は二度目の転移術に、少しの眩暈を感じながら、目の前の光景を見つめた。

 

「……変わってないなあ」

 

 少し色あせた看板。

 修理して、一部だけ色が変わっている塀。

 今の時期に咲く花の香り。

 

 

 

 5年前のあの日から変わっていない村の景色に、思わず笑みがこぼれる。

 

 

 

 僕は村の中へと歩き出した。

 今でも心の奥底に焼き付いて離れない、あの赤髪の彼女に会うために。

 

 

 

 

 

 

 そして、それは村の入口から10歩歩いた所で頓挫していた。

 

「いやいやいや、おかしいでしょ僕。今まで、何の音沙汰も無かった男が5年ぶりに急に会いに来たとか向こうも反応に困るでしょ」

 

 塀に頭を押し付けてブツブツ呟いている僕を、子供たちが不思議な生き物を見るような瞳で興味深そうに観察している。

 

「八大幹部を倒したのと、転移術を覚えたので変なテンションになってたのかな…………これなら、今すぐアリエッタに会いに行けるって…………いや、でも王城への報告すらすっぽかして突撃するって、どう考えてもおかしいでしょ……どういうことなの僕…………」

 

 自分の短慮な行動が信じられなくて、僕は塀に頭をガンガンとぶつける。

 子供たちは僕を指差しながらケラケラと笑っていた。

 

「……それに……」

 

 僕が一方的に彼女に執着しているだけで、向こうは僕の事なんてもう忘れているかもしれない。

 もし…………もしも、彼女の隣に誰か知らない男が居て、彼女がその男に愛を囁いていたら…………

 僕は、その光景を受け止める事が出来るのだろうか。

 

 その場面を想像しただけで、僕は膝から崩れ落ちてしまった。

 子供たちは棒で僕をつついて遊んでいる。

 

「…………今からでも、王都に戻って王城へ報告に…………いや、ここまで来たんだ。アリエッタに会わずに帰ることなんて出来ない! 

 …………もし、アリエッタに大切な人が出来ていたなら喜ばしい事じゃないか。

 ぼぼぼぼ僕は笑顔で彼女を祝福すすすすすればいいいいい」

 

 その状況を想像して、僕の脳は誤作動を起こした。

 

 …………とにかく、僕は生まれたての小鹿のように震える足を鞭打って、アリエッタの家へと歩き出した。

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

「…………アリエッタ…………」

 

 僕は彼女の家が営んでいた道具屋の窓から店内を覗き見た。

 カウンターで退屈そうに店番をしている赤髪の女性から、僕は目が離せなかった。

 アリエッタだ。間違いない。

 

 綺麗になった。贔屓目なしにそう思う。

 

 勇者として、世界各地を旅して美しい女性には沢山出会ったと思う。

 パーティーの仲間達だって、フィロメラさんをはじめとして、綺麗な女性が多い。

 

 だが、やはりアリエッタは僕の中で特別な存在だった。彼女を見ているだけで、嬉しいような、切ないような感覚に胸が苦しくなり、呼吸が荒くなる。

 そして、それが不快では無かった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 

 このまま一日中だって、窓の外から彼女を眺めていられそうだ。

 

 

 

 …………ふと、今の自分の状況について疑問を感じたが深く考えないことにした。

 僕は深く考えすぎるのが悪い癖だとフィロメラさんに言われたことがあるからだ。

 

 

 

 

「あ、あの…………こちらの店に何か御用でしょうか……?」

 

 僕はうっとりとしながら、窓からアリエッタを見つめていると、不意に見知らぬ少女から話しかけられた。

 

 …………その目は完全に変質者に怯えた目だった。

 

 

 

「信じられないかもしれないが聞いて欲しい。僕は怪しい者じゃない」

 

 僕は少女の肩を掴んで釈明に入った。冤罪だからだ。

 

「で、でも……ママは怪しい人は皆そう言うって…………」

「うん。君のママは正しい。でも、僕は違うんだ」

 

 下手に言い訳をしては、少女をより警戒させてしまう。

 僕は正直に事情を話すことにした。曇りの無い瞳で、少女をしっかりと見つめて。

 

 

 

 

 

 

 

「僕はただ、そこの窓から一日中アリエッタを見つめていたいと思ってただけなんだ」

 

「お姉ちゃん逃げてーーー!!」

 

 少女はバッと僕の手を振り払うと、アリエッタのいる店内へと駆け込んだ。

 クソッ! 何故だ! 僕は何を間違えたんだ……! 

 

「待ってくれ! 本当なんだ! 僕は一日どころか三日だってアリエッタを窓から見つめていられるんだ! 信じてくれ!」

「こ、怖い! なんでこの人そんな綺麗な瞳でド変態宣言が出来るの!?」

 

 少女が店内へと消えてしまった。僕は後を追うべきか迷ってしまう。

 本当なら、もう少し心の準備をしてからアリエッタと向き合うつもりだったからだ。

 

 

 

 店の入口の前で固まってしまった僕が、意を決して一歩を踏み出した瞬間だった。

 

 

 

「…………えっ? うわっ!?」

「ぐへぇっ!?」

 

 

 

 入口から飛び出して来た"彼女"が僕の胸に飛び込んできた。

 

 突然の衝撃に、僕は思わず後ろに倒れこんでしまう。

 

 

 

 僕の顔を見つめた彼女が固まる。

 

 陽の光を浴びて、鮮やかに煌く赤髪は、5年前のあの日と変わらない美しさで。

 

 そんな彼女に見惚れてしまった事が照れくさくて、誤魔化すように僕は困ったような笑顔を浮かべた。

 

 

 

「えーと、ただいま。アリエッタ…………」

 

 

 

 

 

 こうして、僕は再びアリエッタと出会った。

 

 

 

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