村娘に転生したけどお前のヒロインにはならないからなっ! ~俺をヒロインにしたい勇者VSモブキャラを貫きたい俺~   作:二本目海老天マン

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08.お泊りと約束と

 

 

 エクスを連れて家に帰ると、母さんは大喜びで(アリエッタ)とエクスを出迎えてくれた。

 

「な? 迷惑なんかじゃ無かっただろ」

「……うん、そうだね。お世話になります、おばさん」

 

 外はすっかり日が暮れてしまった。急いで夕食を作らなければ。

 

 

 

 **********

 

 

 

「ごちそうさまでした。美味しかったよアリエッタ」

「お粗末様でした。俺の料理の腕も捨てたもんじゃないだろ?」

 

 それなりに張り切って作ったつもりだったが、王都で美味い飯なんて食い飽きてるだろうエクスの口に合うか、少しだけ心配だった俺は胸をなでおろした。

 

「お茶でも淹れましょうか。ちょっと待っててね」

「あっ、俺がやるよ。母さんは座ってて」

「いいから、アリエッタはエクス君と話でもして待ってなさい」

 

 母さんは俺の返事を待たずに台所の奥へと消えてしまった。

 母さんだって、エクスから色々聞きたい話も有るだろうに。

 

「おばさんも元気そうで良かったよ。おじさんの顔を見れなかったのは残念だけど」

「伝えとくよ。エクスが残念がってたって」

 

 父さんもエクスを家族のように可愛がっていたから、自分が不在の間にエクスが訪ねてきてくれたと知ったら、羨ましがるだろうな。

 そんな事を考えていると、母さんが台所から茶葉の良い香りと一緒に戻ってきた。

 

 俺達は5年間の空白を埋めるように、しばらく会話を楽しんだ。

 

 

 

 

 

「それにしても、立派になったわねぇエクス君。アリエッタにも見習わせたいわ」

「いえ、そんな……それに、アリエッタも綺麗になったと思いますよ」

「外見はちょっと大人っぽくなったけど、中身は昔とあんまり変わってないから困ってるのよ。

 いい歳して、恋人の一人も連れてこないんだから」

「そういうの本人の前で話すのってどうなの母さん?」

 

 前世でも味わった『さっさと恋人作れ』攻撃である。

 転生先でも味わうことになるとは思わなかったが、こっちの俺はまだ17歳なんだし、そんなに急かさないでほしい。

 

 ……というか、俺は未だ男を恋愛対象として見ることにかなり抵抗感が有るからね。言わないけど。

 

「……えーと、アリエッタは、その……そういう人は居ないの?」

 

 おおっと、エクスはパパの恋愛事情に興味津々らしい。

 

「あー……まあ、今はそういうのにあんまり興味を持てないっていうか……」

「この間、告白してきた子はどうしたのよ。母さん知ってるんだから」

 

 

 

 

 

 ピシリ、とエクスが持っていたカップから嫌な音が聞こえた気がする。

 エクスの瞳が感情が全て抜け落ちたガラス玉みたいな目ん玉になってるように見えたが、まあ気のせいだろう。

 それよりも今は母さんだ。

 

 

 

 

 

「……何で知ってんのさ、母さん」

「田舎の情報網を甘く見ない方がいいわよアリエッタ。何なら相手が青果店のフリオ君だってことも知ってるんだから」

「何それ怖い。本当にどこまで知ってんの」

 

 

 

 俺はふと、寒気を感じて横を見るとエクスがビスクドールみてえな無表情で俺を見つめていた。

 

 なにその顔。どういう心境の顔なのそれ。

 

 怖いので、俺は母さんに視線を集中することにした。

 

「どうしたも何も……普通に断って終わりだよ」

「あら、勿体ない。仕事熱心だし良い子じゃないフリオ君」

「別にあいつが嫌いとかじゃなくて、そういう風には見れなかったから断っただけだよ」

「まっ、わがままな子ね」

 

 

 

 ……まあ、いつかは俺も男と結婚しなきゃいけない日が来るとは頭では分かっている。

 異世界とはいえ、倫理観は前世と大して変わらないらしく、同性婚とかの話は聞いたこと無いしな。

 

 でも、それならせめて『男だけど、こいつならまあ良いか』と思えるような相手と結婚したいものだ。

 

 

 

「というか、母さん。エクスの前でそういう話はマジで止めて。恥ずかしいだろうが」

「そう思ってるなら、言われないように早く私を安心させてちょうだい」

 

 ごもっともである。

 

「さて、そろそろお開きにしましょうか。エクス君は明日早いしね」

「そうだな。俺と母さんは後片付けがあるから、エクスは先に休んでていいぞ。奥のベッドが空いてるから」

「……」

「エクス?」

「……あ、う、うん。ありがとうアリエッタ。それじゃあ、先に休ませてもらうよ。おやすみ」

 

 俺の恋愛事情の話になってから、終始沈黙していたエクスが、マシーンが再起動するようにぎこちなく動き出す。旅の疲れが出たのだろうか。

 

「あっ、エクス君。ちょっと待って」

 

 母さんがエクスの傍に近寄る。何だろう。

 

 

 

 

 

「エクス君、うちの子はあんなだから、積極的に行かないと伝わらないわよ?」

 

 

 

 

 母さんがエクスの耳元で何かボソリと呟いたが、内容まではよく聞こえなかった。

 しかし、何か変な事を吹き込んだのだろうか。エクスは電池が切れた玩具のように硬直してしまった。

 

 

 

「母さん、エクスは疲れてるんだから早く休ませてやりなよ」

「ええ、そうね。おやすみなさいエクス君」

 

 

 

 硬直したエクスが再起動するまでには、数秒の時間が必要だった。

 本当に何を言ったんだ母さんは…………

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 翌朝、俺は村の外までエクスを見送りに来ていた。

 

「ここまででいいよ、アリエッタ。

 少し離れてて。転移術の範囲に入っていると君まで王都に飛んでしまうかもしれないから」

「分かった。範囲内に居ると無差別に飛ばしちまうのは、ちょっと不便だな」

 

 俺はエクスから数歩距離を置いた。

 

 

 

 こいつは、また命がけの戦いに戻るのだ。

 

 もう一度会えるという保証は何処にもない。

 

 そう思うと、俺は何でもいいからエクスと一言でも多く言葉を交わしたくなってしまった。

 

 

 

「えーっと…………エクス、久しぶりに会えて嬉しかった。色々話せて良かった」

 

「僕もだよ、アリエッタ」

 

「…………また、会えるよな?」

 

「それは……」

 

 エクスが明確な言葉を口にしなかった。

 彼も分かっているのだ。

 これが最後にならない保証なんて無いということを。

 

 

 

 

 だったら、俺が言うべき言葉はこうじゃない。

 

 

 

「また来いよ、エクス。待ってるからな」

 

 俺達に必要なのは強い言葉だ。不安に怯えて希望に縋る言葉ではない。

 輝かしい未来は既に決まっているのだと、傲慢に振舞うのだ。

 

 俺はエクスに向かって握りこぶしを突き出した。

 あの日の様に不敵に笑って。

 

「……うん。必ず」

 

 エクスも俺に握りこぶしを向ける。

 距離が離れていたから、ぶつけ合うことは出来なかったが、それでも俺達には十分だった。

 

 

 

 

 

 そして、次の瞬間にエクスは俺の目の前から消えていた。

 

「……さて、次に会えるのは何時になるのやら。

 一か月後か、一年後か……あるいはそれ以上か……」

 

 俺はそんな未来のことをぼやくと、エクスが消えた草原に背を向けた。

 未練は、少し残るぐらいでちょうどいいのだ。

 

 

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 

 

 王都に戻った(エクス)は、フィロメラさんと合流すると国王に謁見する為に、王城へ来ていた。

 他の仲間達は堅苦しい雰囲気の王城へ何回も行きたくないらしく、僕とフィロメラさんの二人だけである。

 

「報告をすっぽかした僕が言うのも何だけど、自由な人が多いよねウチのパーティー……」

「まあ、腕が立つなら人格は二の次という感じの人達ですからね。

 王様もその辺りは分かっていますから、細かい事は言いませんよ。

 それに、私達って王様は別として、偉い人達からは嫌われてますから。

 こういう場所にあまり来たくない気持ちは正直分かります」

 

 彼女の言う通り、衛兵の人達はともかく、すれ違う貴族や大臣の人達がこちらに向ける視線は冷たい。

 平民出の人間が王に重用されている状態が面白くないのだろう。

 

 そんな事を考えているうちに、僕達は玉座の間へと通された。

 主な報告は既にフィロメラさんが行っていたので、今回の謁見は国王への僕の顔見せという意味合いが強い。

 

「よくぞ戻ったな勇者エクスよ。此度の冒険も、非常に実りあるものだったとフィロメラから聞いている」

「はっ、お目通りが遅れてしまい申し訳ありません」

「よいよい。魔王軍八大幹部の撃破と、古代呪文である転移術の解放で、謁見もままならない程に疲労困憊だったのであろう。貴君は国の宝、身体は大事にせねばな」

 

 そういうことになっていたらしい。フィロメラさんがこちらにパチンと目配せする。

 

「さて、帰還早々ですまないが、再び魔王軍が妙な動きを見せておる。

 一週間の準備期間の後に、貴君達には西の砦へ向かってもらう。詳細はフィロメラに伝えてあるゆえ、彼女から話を聞くように」

「承知いたしました」

「うむ、下がってよい。吉報を期待しておるぞ」

 

 

 

 

 

「前から思ってましたけど、フィロメラさんって随分と王に信頼されているんですね」

 

 王城の出口へ向かいながら、僕は以前からの疑問をフィロメラさんにぶつけてみた。

 

「ええ、先代の賢者……私の父が、王と親しい間柄でして。

 その関係で、私も王には子供の頃からお世話になっているのです」

「へえ、そうだったんですね」

 

 

 

「それよりも、どうでしたか? 久しぶりの故郷は」

「……僕、フィロメラさんに行先は伝えてないと思うんですけど」

「エクスくんとは、パーティーの中で一番長い付き合いですから。

 王への報告をすっぽかして行く所ぐらい見当がつきますよ」

「……まあ、その通りです。すいません、面倒事を押し付けてしまって……」

「それは別に良いんですよ。行く時も言ったじゃないですか、私達のパーティーで一番頑張ってるのはエクスくんだって。たまにはわがままを言っても、怒る人なんてパーティーの中には居ませんよ」

 

 フィロメラさんが優しい微笑みを浮かべながら、少し背伸びをして僕の頭を撫でてくる。

 子ども扱いされているようで少し嫌だったが、頼み事をした手前、振り払うことも出来ずにされるがままになってしまう。

 

 母ともアリエッタとも違う優しさ。姉というものが居たらこんな感じなのだろうか。

 

 

 

 

 

「それで、アリエッタさんとはどこまで進みましたか?」

 

 僕はフィロメラの手を振り払った。どこまで知ってんだこの女。

 警戒心を剥き出しにしている僕に、フィロメラが妖艶な笑みを浮かべる。

 

「怖い怖い、そんな顔しなくてもいいじゃないですか。お姉さん傷ついちゃうな~」

「……一体どこまで知ってるんですか貴方は…………まさか、"星詠み"……?」

「そんな覗き見みたいな事が出来る能力じゃないですよ。これは単純に私の女の勘…………

 かまをかけてみたんですけど、その様子だとやっぱり里帰りのお目当ては彼女だったみたいですね~」

 

 フィロメラはニヤニヤと楽しそうにこちらの様子を伺っている。

 

 ……この人、基本的に優しい人なんだけど、たまにドブみたいな性格がチラチラ見えるんだよな……

 

「それでそれで? アリエッタさんとの再会はどんな感じだったんですか? 5年ぶりなんですよね? 

 キスぐらいしましたか? ちょっとだけ。ちょっとだけでいいからお姉さんに教えて欲しいなァ~~~?」

 

 クッソうぜぇ…………

 

 少しでも話したら最後、巧みに話題を誘導されて洗いざらい話してしまった挙句、顛末をパーティーメンバーに酒の肴としてベラベラと話すフィロメラの姿が容易に想像出来る。

 僕は全ての感情を凍結して沈黙した。

 

 さっさと城を出よう。そして、この女を撒こう。

 

「あれれ~? どうしちゃったんですかエクスくん~? 

 ……ハッ! ひょっとしてアリエッタさんに何もしてないとか…………? 

 ご、ごめんなさい…………まさか、勇者ともあろう方がそんなヘタレだったなんて……私、知らなくて…………ブフッ」

 

 はっはっは、絶好調だなこの女。今すぐ斬り捨ててしまいたい。

 

 僕はこめかみに血管が浮かび上がるのを感じながら、早足で王城を後にするのだった。

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 そして、そんなエクス達を冷ややかに見つめる影が一つ。

 

「……チッ、あの平民。また手柄を立ててきたのか。気に食わん……!」

 

 エクスとそう変わらない年齢の神経質そうな男が爪を噛む。

 

「腕っぷしだけのゴロツキが……貴族である俺達と同じような……いや、それ以上の扱いを受けているなんて、王は一体何を考えてるんだ。クソッ」

 

 男も内心では、エクスの活躍によって国が大いに救われている事が分かっている為、こそこそと陰口を叩く事しか出来ないこの状況が、なおのこと腹立たしいのだ。

 

「何か無いのか……奴に屈辱を……鼻を明かす方法……」

 

 エクスは国の英雄だ。貴族達はともかく、市井の人気と王からの信頼は凄まじい。

 下手な事をすれば、それこそ命取りになってしまう。

 

「…………そういえば、アリエッタとか言っていたか。さっきの話の内容から、故郷に置いてきた奴の女らしいが」

 

 男はエクス達の会話から聞こえてきた内容を反芻する。

 

「…………ふむ、そうだな」

 

 男が下卑た笑みを浮かべる。

 思いついたのだ。エクスに屈辱を与える方法を。

 

「おい」

 男が背後に声をかけると、影から音もなく一人の男が現れた。

 

「エクスの故郷と、そこに居るアリエッタという名の女について調べろ。今すぐだ」

「承知しました」

 

 影から現れた男は、短く答えると再び影の中へと溶け込んで消えた。

 その様子を見て、男は満足そうに笑みを浮かべる。

 

 

 

「ククク……勇者の女を寝取る、か…………悪くないじゃないか」

 

 

 

 

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