もしも八幡と雪乃が幼馴染だったら。   作:ヒロ9673

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一巻分
比企谷八幡は、奉仕部へ行く。


『青春とは、既に決められているものである。最初のクラスの挨拶で失敗すれば、三年間のボッチが確約される。幼馴染と小さい頃に結婚しよう!なんて約束をすれば、きっと幸せな未来が待っているであろう。つまり、青春とは押し付けなのである。何者かに決定づけられた未来を歩むことが青春なのである。いや青春って何ですか(心理)?因みに俺は勝ち組みたいなもんなので第一志望通り将来は専業主夫になりまーす!』

 

 

職員室は慌ただしい。沢山の教師が思い思いに行動に移しているので、尚更だ。

そんな中、現国教師である平塚先生は、ある一人の可哀想な男子生徒の作文を額に青筋を浮かべながら大声で高らかに読み上げた。

自分でもなかなかいい感じに書けたのではないかと思っていたのだが、なぜか平塚先生は後ろにスタンドでもいるのではないかと言うくらいの強烈な覇気を出しながら、引きつった笑みを見せる。

俺ーーー比企谷八幡は、恐らく傍から見ればとんでもない量の冷や汗を出しているであろう。

 

……怖い。総武高校女性教師美人ランキングでは間違いなくトップに位置するであろう平塚先生。その美貌に加えてスタイルも良い。更には生徒からはカッコイイ!なんて声がたくさん挙がっている。

実際、女を見る目がある俺が見てもカッコイイとは思う。もし俺が不動のボッチを貫いていて、もう少し年の差が無かったら心底惚れていたと思われる。十歳差はさすがに、ね。

 

だが、今はそんなことはどうでもいいのだ。今俺が心配するべきなのは、自分の身の安全。この先生、さっきから指の関節をパキパキ鳴らしてんだけど。怖すぎないかしら?

 

「……比企谷。私が課した課題は何だったかな?」

「『高校生活を振り返って』でしたよね」

「とりあえず一発殴らせてもらおうか」

「横暴な!俺は事実を書いただけなのに!」

「私は青春について書けとは言っていない!」

 

いや高校生活は青春の二文字でほとんどの奴らが片付けるだろ!だから俺は何一つ間違っていない。間違っているのは不条理な世の中だ。

 

「君が書いたこの作文、訳の分からん事が書いてあるが、全部説明してもらおうか。それで私が納得できれば評定を上げてやろう」

「評定が上がるのはいいけどなんか腑に落ちねぇ……」

「そうだな、まずは勝ち組とはどういう事だ?」

「そのまんまの意味ですよ。ボッチの中のボッチである俺はリア充どもと違って心に余裕があるんです。だから誰がなんと言おうと俺は勝ち組なんです」

 

そう言うと平塚先生はもうダメだこいつ、みたいなため息を吐く。

 

「……比企谷、君は友達とかはいるか?」

「失礼な。確かに学校内ではボッチですけど、ちゃんといますよ。幼馴染は二人いるし、中学時代の、まあ、悪友みたいなやつもいます」

「嘘だ……」

「いや、そこでそんな顔をしないでくださいよ」

 

なぜか本気で驚いた顔になる平塚先生。俺の事なんだと思ってるんだ。

いや、その実俺のことを心配してくれているのだろう。一応一年生の頃から色々あって面識はある。なんとなくだが、それくらいは分かる。

 

「……では、彼女とか、いるのか?」

 

とかってなんだよとかって。俺が彼氏いるとか言ったらどうすんだよ。

 

「今は、いないですけど」

 

将来的なことを考えて“今は“を強調する。

ふむ、と平塚先生は考え込み、白衣のポケットから煙草を取り出し、火をつけて吸いだす。生徒の前で吸うのはどうなん?

何事か思案した後、ため息混じりに煙を吐き出した。

 

「まあいい。とりあえずレポートは書き直せ。ついでにその腐った性根を矯正しよう。君に奉仕活動を命じる」

「横暴な!そんなんだから彼氏できな」

 

いんじゃないんですか!と言おうとした瞬間、風が吹いた。

グーだ。ノーモーションで繰り出されるグー。俺の右頬を平塚先生の左こぶしが掠めた。

教師が暴力って恐ろしすぎるだろ。俺は暴力反対です。

 

「次は当てる」

「す、すみません…」

「…君の心無い言葉や態度が私の心を傷つけた。そんな君にピッタリの部活がある。ついてきたまえ」

 

煙草を灰皿に押し付けながらそう言う先生はニタァと非常に嫌な笑みを浮かべた。怖ぇ……。

見てくれは美人なんだから早く誰か貰ってやれよ……。

 

 

 

 

 

この千葉市立総武高校は、他の高校と比べて些か歪な構図になっている。

カタカナのロの形をしており、道路側に教室棟、向かい側に特別棟、その間に挟まれる形で中庭がある。

俺が先生に連れられて向かっているのは特別棟。教室棟の二階から渡り廊下で結ばれている。

平塚先生がリノリウムの床をかつかつ鳴らしながら辿り着いたのは、何の変哲もない教室。

プレートには何も書かれておらず、不思議に思って眺めていると、先生はノックもなしに扉を開けた。

中は至って普通の教室。

けれど、そこがあまりにも異質に感じられたのは、一人の少女が斜陽の中で本を読みながらそこにいたからだろう。

その少女は来訪者に気づくと本に栞を挟み、こちらを見やる。

だが俺の顔を見た瞬間、目を見開き、心底驚いたような顔をして見せ、文庫本をパタっと落とした。

 

「……平塚先生、入る時はノックをしてくださいとお願いしてたはずですが」

「ノックをしても君は反応しないだろう」

 

俺はこの少女を知っている。

二年J組、雪ノ下雪乃。

顔と名前を知っているだけの関係ではない。

むしろ、他人が知りえない深いところまで互いに知り尽くしている、所謂幼馴染というやつだ。

ノックをせずに入ったことを彼女は咎めるが、視線はずっとこちらに釘付け。無論、俺も驚いていた。

 

「こいつは入部希望者だ。私の心を傷つけた罰として、ここに置いてやって欲しい。名前は」

「比企谷八幡」

「なんだ、知っていたのか?」

「幼馴染ですから。ねぇ、八幡?」

「ああ、まあ、そうだな…」

 

相変わらずこいつの笑顔は癒される。

だが、平塚先生はそんな俺たちを見て明らかに気を落としていた。え、何で。

 

「幼馴染か……。いいなあ、青春っていいなあ……」

「先生……」

「っ、と、とにかく、こいつの世話は頼むぞ。期限は好きに決めてもらって構わない」

「分かりました。平塚先生のお願いですし、無下にはできませんね」

「では、頑張れよ」

 

そう言い、平塚先生は教室から出ていった。去り際に『リア充爆発しろ…』と言っていた気がするが気にしない。俺はリア充ではない。

 

とりあえず突っ立ってるのもアレなので積んであった椅子を適当な位置に置き座る。しっかし何も無い部屋だな。あるのは積んである椅子と机だけ。後は俺と隣にピッタリくっついている雪乃の前にある長机くらいか。

……………。

 

「ちょっと近くない?」

「別にいいでしょう?」

 

いや、別にいいよ?むしろウェルカムだしバッチコイなんだけど、いかんせんサボンのいい匂いが俺の鼻腔を刺激するんですよ。やっぱ綺麗な黒髪だなぁなんて考えることすら憚られる。

ちょこんと俺の肩に頭を乗せるし何この可愛い生物。

いかんいかん、こんな煩悩は振り払おう。落ち着け、落ち着くんだ比企谷八幡。

 

「…んで、ここはどんな部活なんだ?奉仕活動が何たらって平塚先生は言ってたけど」

「ええ。この部活は生徒自らの変革を促す部活。分かりやすくいえば、魚を捕るのではなく、魚の捕り方を教える部活ということよ」

「あー、要は依頼を解決するんじゃなく、解決へ導く…って事か?」

「さすがは八幡。その通りよ」

 

なるほどな。自分で解決するのではなく、どうやって解決するか、その道筋を教える部活というわけか。

世界を変えるなんてどデカい夢を持っている雪乃の事だ。この程度はなんて事ないのだろう。

 

「どうして会いに来てくれなかったの?」

「バカ言え、国際教養科なんてほぼ女子高みたいなもんだ。恐ろしくてとても行けねえよ」

 

雪乃は俺と違い、偏差値が2、3ほど高い国際教養科に身を置いている。

帰国子女や留学志望の生徒が通う学科であり、何故かクラスの九割が女子である。そんな所にこのぬぼーっとした俺が雪乃目的で近づこうものなら、百パーセント敵として認識されてしまう。

そもそも雪乃はその美貌と頭の良さから、この総武高校のほとんどの生徒に名を知られている。そこで隣に俺がいればスキャンダルものだ。確実に評判が悪くなる。

だから基本的に極力学校内では会わず、外で会うようにしていた。まあ、屋上だったり誰もいないところで一緒に飯を食うことはあったが。

 

まあそんなこんなで話に花を咲かせ、気づくと下校時刻が差し迫っていた。

雪乃は片付けを始める。それに合わせて俺は一足先に部室の外に出て、雪乃が出てくるのを待つ。

鍵を職員室に返し、下駄箱で靴に履き替えて駐輪場に行く。

 

「私の家まで」

「……仰せのままに、お嬢様」

 

タクシー代わりに俺を指名し、当たり前のように自転車の後ろに乗る雪乃さん。道交法はどうしたとか、そんな突っ込みは受け付けない。

 

しばらくギコギコとペダルを漕いでいると、雪乃は体重を俺にかけてきた。危ない、ドキリとして転倒してしまうところだった。そうなったら雪乃になんて謝ればいいのやら。

 

「懐かしいわね」

「なんだよ、藪からスティックに。……まあ、四年は経ってるもんな」

「…そうね。また一緒にどこか行きましょうか」

「……そのうち連絡くれ」

 

昔話に思いを馳せて、俺はゆっくり自転車を漕ぎ、やがて雪ノ下家に到着した。

 

「また明日ね」

「ん、また明日な」

 

まるで昔に戻った気分だ。夏にでもなったらアイツを誘って海にでも行くか?

そんな思いを胸に抱いて、俺は家へと自転車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

翌日、ぬぼーっとしながら授業を終え、放課後。

俺が教室を出ようとすると、扉の前に平塚先生が立ち塞がった。

 

「比企谷、部活の時間だ」

「いや分かってますよ。これから行こうとしたんです」

「意外だな、雪ノ下がいようがいまいがお構い無しに帰るのではと思ったのだが」

 

あんた俺をなんだと思ってるんだ。

確かに俺はやらなくていい事は極力やらない面倒くさがり屋だ。しかし愛する妹と雪乃に関することなら俺の意思なぞ関係ない。

……愛する妹と、雪乃だ。か、勘違いしないでよね!……キモイか、キモイな。

 

 

 

 

 

部室に入ると、雪乃は屈託のない笑顔で出迎えてくれた。可愛い。不覚にも惚れちまいそう。…いや既に惚れてるわ。

 

「まあ、部活だからな」

「そう。紅茶、飲む?」

「ああ、頼む」

 

そういやこいつって昔から紅茶が好きだったんだよな。

一応俺はコーヒー派(特にマッカン。あれを嫌う奴は人間じゃない)ではあるが、雪乃の影響で割と紅茶もよく飲む。

 

「はい、どうぞ」

「サンキュ」

 

そんな過去の回想をしながらティーカップを口元へ運ぶ。

うん、美味い。やはり雪乃の淹れた紅茶は格別だな。

 

「美味いな」

「そう、良かった」

 

女神でも舞い降りたのか。雪乃の微笑みが眩しすぎて見えん!照れくさくなりサッと目を逸らしつつも、向こうは俺を笑顔でガン見してくる。ふえぇ…。

 

「そ、そういやこの部活、依頼がない時はどうするんだ?」

「好きなことをしてもらって構わないわ。本を読むのも良し、ゲームをするのも良し、私の淹れる紅茶の香りを楽しむのも良し。私との会話に花を咲かせるのも良し。基本的に自由よ」

 

お、おう…。割と、いや結構フリーダムなんだな。

読書しながら雪乃とのお喋りか………。な、なんか長年寄り添った夫婦みたい。ヤバい、そんな事を考えたらうっかり告っちゃって振られて一生立ち直れなくなっちゃう。…いや振られるのかよ。なんなら死ぬまであるぞ。

いかんいかん、そんなネガティブ思考は排除せねば。

とりあえず平塚先生、この部活に入れてくれて感謝です!

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