もしも八幡と雪乃が幼馴染だったら。   作:ヒロ9673

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そろそろ八雪成分を濃くしたいところ。
小町は雪乃の事を姉のように慕うので「雪姉」と呼称することにします。


三巻分
比企谷八幡は、デートへと洒落込む。


一週間のうちで最強の曜日は土曜日だ。休日でありながら次の日も休みなんて、超サイヤ人のバーゲンセールみたいなもんだ。

試験も終わり、明日はその素晴らしい土曜日がやってくる。ああ、女神様!なぜ毎日が土曜日じゃないのですか!

明日は昼まで惰眠を貪ってやる!そう固く決意したその時、チラシをチェックしていた小町が叫びに近い大きな声を上げた。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん!やばいよお兄ちゃん!!」

「なになにどしたの。お兄ちゃんちょっとテスト明けで疲れてるんだけど」

「そんなのどうでもいいからこれ見て!」

 

いやどうでもいいって……。これでも学年二位なんですよ?雪乃に触発されてそれなりに頑張ってるんだからそんなこと言わないで?

そんな恨み言を心の中で連ねながら、小町が高々と掲げているチラシを手に取る。そこに書かれているのは、『東京わんにゃんショー』が明日開催されるという内容だった。

 

「おお、そういや明日か」

「そうだよ!これはもう行くしかないよ!」

 

東京わんにゃんショーとは、簡単に言えば犬や猫といったペットの展示即売会だ。それ以外にもちょっと珍しい動物の展示もあったりしてなかなか楽しい。

東京と名がついているが、会場は幕張メッセ。つまり千葉である。東京ディステニィーランドもそうだが、なぜ千葉なのに東京なのだろう。なに、皆そんなに千葉嫌いなの?泣くよ?

ちなみにこのイベントには、毎回兄妹二人で行っている。

我が家の飼い猫、カマクラと出会ったのもこの場所。小町が飼いたいと言ったので即決だった。その為だけに休日出勤させられた親父が不憫で仕方ない。

……確か、小町と雪乃が初めて会ったのもここだったか。無類の猫好きである雪乃に誘われ、小町と引き合わせたら見事に意気投合。雪乃は小町のことを妹のように可愛がり、小町は雪乃を姉のように慕うように。いつも二人で何か企んでるのではないかと恐れを抱いてしまう。

 

「まあ、行くけど今年は…」

「雪姉と行くんでしょ?だから別行動ね」

「ねぇなんで知ってるの?さっき約束したばっかなのになんでもう情報漏洩してるの?」

 

久しぶりに一緒に行かないかとつい先程LINEが来たのだが、かの団長よりも速い手腕で『行きます。行かせていただきます』と返信。速すぎて引かれないかと若干ヒヤヒヤしている。

そんなことはどうでもいいのだが、やっぱ二人が裏で繋がってるのだろうか。滅茶苦茶怖いんだけど?

 

「ふふん、お兄ちゃんのことは世界で二番目、雪姉の次に知ってる小町だよ?行動パターンくらい分かって当然なのです!」

「一番目は雪乃かよ…」

 

や、確かに昔から平日休日構わず基本的に一緒だったからな。一番目かどうかはともかく俺のことを熟知しているのは間違いないとは思う。

でも母ちゃんと親父……。小町はともかく雪乃よりも順位低いって相当やばいだろ。あれ?俺愛されてない?

 

「ささ、今日は早く寝て明日に備えて!お金は後で小町がお母さんから貰っとくから」

「あ、ああ」

 

うん?なんでこいつがこんなに躍起になってるんだ?またよからぬ事を企んでるんじゃないだろうな……。

 

 

 

********

 

 

 

マジかよ。小町さんマジかよ。

夜が明け、東京わんにゃんショーの当日。俺がリビングに降り、最初に目にしたのは机の上に置かれた諭吉さん三枚。……どうやったらこんだけの金をぶんどれるの?母ちゃんも母ちゃんで小町に甘すぎない?いつも俺には手厳しいのに!

 

「あ、お兄ちゃんおはよー。ちゃんとお金貰っといたよ」

「お、おお……」

 

俺が唖然としてると、母親が泥人形テイストで寝室から這い出てきた。ボサ髪でずり落ちたメガネ、その下には消えそうにない隈を刻みつけている。……キャリアウーマンって大変だな。

 

「あんた、今日デートに行くんだって?」

「ぶふっ!?」

 

小町さん?あなたお母さんになんて言ったの?俺がキッと小町の方を振り返ると、物凄いニコニコ顔が目に入ってきた。そんな顔すんな。ほっぺグリグリすんぞ。

 

「や、デートっつーか、まぁ、その……」

「これだけ出したんだから、ちゃんと雪乃ちゃんを喜ばせなさいよ?」

「……はい」

 

なんか外堀埋められていってない?気のせい?

まあいいや。小町に言われたとはいえ、こんな大金を出してくれた母ちゃんにマジ感謝。行ってまいります!

 

 

 

 

 

 

家から「東京わんにゃんショー」の会場である幕張メッセまではバスで十五分ほどだ。東京と名がつくからって東京ビッグサイトに行ってはいけない。

バスから降り、待ち合わせ場所に向かう。

初夏の暑さも相まって、既に帰りたい気分満々である。とはいえ、流石にバイトと違ってバックれるわけには行かない。雪乃との約束を破ったことは一度たりともないのだ。

 

「八幡、こっち」

 

この暑さの中でも透明感のある声が耳に届く。声のした方へ向くと、いつものストレートとは違い、ツインテールの形に髪を結わえた雪乃が小走りでやってきた。

軽く羽織った四分丈程度のクリーム色したカーディガン、ふんわりとした清楚なワンピースは胸よりやや下あたりがリボンで絞られ、学校とは違って柔らかな印象を与える。

 

「よう」

「おはよう。さ、行きましょ」

 

雪乃は早く猫を見たいのか、いつもよりテンションが高い。目も若干キラキラしている気がするし、こんな彼女を見るのはかなり久しぶりだ。可愛い。

会場内は人でごった返ししており、その熱気も相まって外以上に暑苦しい。人混みが得意ではない雪乃にとっては少しきつかろう。

さて、どうするべきか悩んでいた時、スマホのバイブが鳴った。取り出して確認してみると、新着メッセージの欄に小町からのメールが届いていた。

 

『雪姉とイチャイチャしまくってください。あ、雪姉の可愛い写真もちゃんと撮ってね!』

 

何を企んでるのか知らないが、一つだけ言えることは、こいつはとんでもない悪女だ。

小町とくっつく将来の男が心配になってきたぞ。いや、嫁にでるなんてお兄ちゃん許しませんよ!

などと心の中で誓いを立てたものの、一番悲しむのは親父なんだろうなぁ…。

そんなクソどうでもいい考えを頭の中で払拭していると、ふと右手に違和感が。見てみると、雪乃が俺の手を握っていた。ふえぇ……、さりげなく握ってくるし、ひんやりしてて気持ちいい。雪乃は、クスクス笑いながら言う。

 

「初めて二人で言った時は、はぐれてしまったのよね」

「ああ、そういやそうだったな。俺が見つけた時お前、わんわん泣いてたよな」

「そ、そのことは忘れて……」

 

みるみるうちに顔を赤くする雪乃。忘れるわけないんだよなぁ、今でも鮮明に覚えてる。泣いてる姿がめちゃくちゃ可愛かった。これからも忘れないように心のフォルダにロックを掛けておこう。

 

そろそろ猫エリアに差しかかろうとした時、雪乃はビタっと時が止まったかのように動かなくなった。先を歩いていた俺は腕を引っ張られるような形になり、少しバランスを崩した。別に体力が無くなった訳でもなさそうだし……。

 

「お、おお、どした」

「八幡………」

 

雪乃の視線の先を追うと、そこは犬エリア。猫エリアに行くにはここの横を通らなければならないっぽい。

よく見るとめちゃくちゃ怯えてるな。ホント、なんでこんなに犬が嫌いなんだろ?我が家のペットが猫で助かりました。

仕方なく俺が盾となって猫エリアに進む。それほど距離がある訳でもないが、雪乃のSAN値がゴリゴリ削れているのが目に見えて分かる。

時折犬の鳴き声がするたび「ひっ!」と可愛らしい悲鳴を上げるとともに肩を震わせ、俺と繋いでる手をぎゅっと握りしめる。どうやらここは天国のようです。アーメン。

だが猫エリアに着いた途端、ちょっと危なそうな目をしながらフラフラとたくさんいる子猫たちの所へ歩いていく。…大丈夫?危険な薬を使ってるわけじゃないよね?

 

「……にゃー」

 

で、で、出たー!雪乃の必殺技、猫の鳴き真似!この攻撃を受けた者は問答無用で悶え死ぬ!可愛すぎて顔がニヤニヤしちゃう!

そんな顔を見せるわけにもいかないので、さっと口元を隠して周りを見渡す。ホントに猫が多いなと思った矢先、俺の視線の先に、見慣れた顔があった。

「お前たちはどうしてこんなに可愛いんだ?んー?」

 

そう言いながら猫に頬をスリスリしている平塚先生は、だんだんどんよりとした目になっていく。

 

「お前たちを産んでくれた両親も結婚したんだよな。はあ………、羨ましい」

 

ウッソだろ先生。いくら自分が結婚出来ないからって猫を羨むって……。なんかマジで可哀想になってきた。もう誰か貰ってやれよ!結構高スペな先生だよ?魅力的だとは思うから!俺は多分貰うことはできないから!

そんな事を思って心の中で泣いていると、バッチリ先生と目が合ってしまう。やべ、退散しようと思ったがそうは問屋が卸さなかった。

 

「おお比企谷!お前も一人か?」

「え、えっと……」

「そうかそうか!なあ比企谷、良かったら昼飯にでも行かないか?良いラーメン屋を見つけて……」

 

ん?先生の目から生気が失われていくように見えるぞ?あれ真顔じゃん。え、どしたの。

 

「……平塚先生?」

「ハ、ハハ……、すまん、デートに横槍を刺すのは無粋だったな……」

 

振り返れば奴がいた。子猫を腕に抱え、キョトンとした表情の雪乃。だがデートと言われた瞬間、一瞬で顔を赤くした。

 

「え、えっと……、別にデートとかじゃ…」

「いや、いいんだ。私の男を見る目がないんだな……」

 

そう呟きながら平塚先生は猫エリアから立ち去っていった。

……すげえ罪悪感に心が潰されそうになる。でもごめんなさい、先生!この年齢差じゃ先生を異性として見るのは難しそう!

先生、男勝りな所もあるけど結構いい人だと思うんだけどな。多分、十年早く生まれて、十年早く出会っていたら、心底惚れていたんじゃないかと思う。もちろん、雪乃と出会わない前提だが。

 

「……私、悪いことしたのかしら」

「いや、何もしてない。あれが結婚できない女性の闇ってやつだろうな、知らんけど」

 

その後しばらくは猫エリアに留まり、雪乃は猫と戯れる。俺は可愛い瞬間を見逃すまいと適宜カメラのシャッターを切る。

そろそろ切り上げ時にさしかかろうとした時、猫エリアなのに何故か犬の鳴き声が。

 

「わんっ!」

「きゃっ!」

 

めちゃめちゃ可愛らしい悲鳴を上げ、パッと俺にしがみつく雪乃。あーもう可愛い!

 

「い、犬…!」

 

ちょいちょい待って待って怖いのは分かるいや分からんけど半分抱きついてない?サボンの香りとかシャンプーのいい匂いが鼻をくすぐるし腕に控えめとはいえ確かな柔らかい感触が二つほど。ヤバい。

……ん?この犬、よく見たらリードが壊れてるな。

 

「おーどしたどした。飼い主はどこいったんだー?」

 

頭をワシャワシャ撫でてやると、犬もそれに負けじと俺の手先や顔を舐めてくる。くすぐったい。なんかめちゃくちゃ懐かれてるな。それにこの犬、どこかで見たことあるような……。

 

「すみませーん!うちのサブレがご迷惑を……ってあれ?ヒッキーとゆきのん?」

「あら、由比ヶ浜さん」

 

飼い主は由比ヶ浜だった。あー、つまりこの犬はあの時助けた犬か。なるほど、どうりで見覚えあるし懐かれるわけだ。一年近く経ってもこんな俺のことを覚えていてくれるなんて、お前は良い奴だな。

 

「よお、お前も来てたのか」

「うん、毎年来てるんだー。いつもトリミングしてもらってるの。……で、二人は何してるの?デート?」

「違うけど……」

 

やめて!ゆきのんそんなシュンとしないで!なんか素直に認めると恥ずかしいからこう言っちゃっただけなの!

アハハーと苦笑いする由比ヶ浜だが、ふと時計を見ると慌て始める。

 

「やば!もうこんな時間!ごめんね二人とも、もう行くね!」

「お、おう」

「さ、さようなら、由比ヶ浜さん」

 

来た時も去る時も元気な奴だ。

サブレを抱えて走っていく由比ヶ浜を見ていると、悩んでいたことが少しだけバカらしくなった気もする。

 

「……ねえ八幡。八幡にとっては、これはデートじゃなかったの?」

「え?あ、いや……」

 

雪乃が悲しげな表情で見てくる。

そんな顔をしないでくれ。こちとら平塚先生の分も合わせてマジで罪悪感がヤバいから。

 

「わ、悪かったよ。じゃあ、この後どっか行こうぜ。ららぽとかさ」

「……っ、そ、そうね。一緒に行きましょうか」

 

露骨に嬉しそうな顔するのやめて?昔からそうだけど、どうしてこの子はこうも俺の心を鷲掴みにするのかなぁ。でもまあ、こうなったら男らしくエスコートするか。母ちゃんからもらったお金があって助かりました!

 

……とりあえずあの人とエンカウントしないことを祈ろう。

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