もしも八幡と雪乃が幼馴染だったら。   作:ヒロ9673

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また短め。
早めに次話も投稿しようと思います。


雪ノ下雪乃は、叱責する。

四限の終了を知らせるチャイムが鳴り、昼休みが始まった。

ある者は購買にダッシュで行き、またある者はグループを作って机をガタガタと動かして弁当を広げ、またある者はゲームを始める。

そして、リア充たちは群れを成して騒ぎ始める。

……奴らはただただ集まってウェーーイ!みたいな事をしていれば満足なのだろう。現にこのクラスにいる複数のリア充グループは一様に騒ぎ立てている。

今日は生憎の雨。ジメジメとした湿気によって俺の気分も右肩下がりだ。

普段飯を食うベストプレイスも雨によって向かうことが出来ず、一人で少し考え事をしていた。

考え事、と言っても、教室の後ろで現在進行形で一際大きな騒ぎを立てている、葉山隼人率いるリア充グループについてだ。

あのグループはいわゆるトップカーストに位置する。なんたってあの隼人が中心だからな。

隼人は雪乃と同じ、俺の幼馴染だ。俺の良き理解者であり、良い奴なのだがリア充だ。憎きリア充なのだ!

 

「ねえ隼人、帰りサーティワン寄らなーい?今日ダブル安いんよ」

 

後ろから聞こえてくる声の主は、このクラスの女王と言ってもいい存在、三浦優美子。

なんと言っても特徴は由比ヶ浜以上に着崩した制服に金髪の縦ロール。

……ぶっちゃけもし仮に俺なんかが話しかけられたら、キョドることしかできないと思う。

はい、めちゃくちゃ怖いです。特にあの目付き。

 

「そうだな…、部活終わりでいいなら」

「あーしチョコとショコラのダブルが食べたーい」

「それどっちもチョコだし!」

 

あいつは……なんだっけか。確かとから始まる名前だった気がする。他の男子数人と眼鏡掛けた女子は知らん。ちなみに由比ヶ浜もこのグループに属している。

……そろそろ時間か。今日は雪乃がわざわざ弁当を作ってくれたらしい。よって部室に行くことになる。

別にコンビニ弁当でも良かったのだが、栄養が偏ると良くないからとか言って聞かなかった。お前はいい嫁さんになるよ、きっと。

 

「あ、あたしちょっと出かけてくるね」

 

そう言ったのは由比ヶ浜。あいつも一緒に部室で昼食をとるらしい。

 

「じゃあ帰りレモンティー買ってきてくんない?あーし飲み物忘れちゃってさー」

「あーごめん、あたし五限までまるまる居ないの」

「はあ?ユイさー、最近付き合い悪くない?この前もバックれたじゃん」

 

途端に三浦は目つきを鋭くし、由比ヶ浜を睨みつける。

この前、というのは家庭科室でクッキーを作った時の事だろう。

 

「えっと、それには止むに止まれぬ事情があるといいますか……」

 

由比ヶ浜の煮え切らない態度にイライラしてきたのか、三浦はカツカツと爪で机を叩き始める。そのイライラが伝染したのか、クラス内はだんだん静かになり、俺の机の前で遊んでいた奴らもゲーム機の音を消している。

 

「あのさー、言いたいことがあるならハッキリ言ってくんない?隠し事は良くないでしょ。あーしら友達じゃん?」

「……ごめん」

「だからさ、言いたいことがあるならハッキリ言えって言ってんの。ごめんじゃなくてさ」

 

みるみるうちに由比ヶ浜の目が潤んできている。こりゃまずいな。

友達。傍から見て、あの二人は本当にそういった関係に見えるのだろうか。

一方がただただ強い口調でがなりたて、もう片方はそれを黙って聞く。

少なくとも、俺はそんな関係が友達だとは到底思えない。

友達だからって何言っても許されるわけじゃない。本当に友達だというのならこの程度、許容すべきことなのだ。

相手の気持ちを思いやり、対等な言い合いを不快感なくできる関係。俺はそんな関係を友達だと思う。

少し付き合いが悪い、ハッキリしない態度。そんなんでいちいちキレる関係なんて、所詮ただの仮初だ。欺瞞だ。

由比ヶ浜も疲れた生き方をしてるなぁ、ホントに。

 

「ユイのために言うけどさ、そういうハッキリしない態度、結構イラッとくるんだよね」

 

由比ヶ浜のため?最終的に自分の感情を言っているだけ。一文の中で既に矛盾している。

……仕方ない、伝家の宝刀、葉山隼人を召喚するか。女王三浦には、イケメン王子が必要だろうしな。

ガタッと音を出して立つ。

隼人に目を合わせようとした刹那、聞き慣れた声が教室に響く。

 

「謝る相手が違うわよ、由比ヶ浜さん」

 

聞き慣れた声。毎日のように聞いている声のはずなのに、言葉の隅々には有無を言わせぬトゲが混じっている。

いつも俺に見せてくる優しげな笑顔とは違う。冷徹な表情で、雪ノ下雪乃は教室の入り口に佇んでいた。

そんな顔でも美しいと感じてしまうので、俺はもうダメだと思います。

 

「由比ヶ浜さん、今日は部室で一緒にお昼を食べる約束だったでしょう?連絡のひとつでも寄越したらどうかしら」

「あ、ご、ごめんねゆきのん。あたし、まだ連絡先知らないから……」

「……そうだったわね。後でLINE交換でもしましょう。さ、行きましょうか」

 

やはりというかなんというか。雪乃には周囲を近づかせないオーラみたいなものでも漂っているのだろうか。あの三浦ですらポカーンとしている。

だがハッと我に返ったようで、三浦は雪乃に突っかかる。

 

「ち、ちょっと!あーしまだユイと話してるんだけど!」

 

三浦の声を聞いた途端、雪乃は目を鋭くする。

…ああ、見れば分かる。これ怒ってらっしゃるわ。

 

「話す?がなりたてるの間違いじゃなくて?あなた、あれが会話のつもりだったのね。気づかなくてごめんなさい、あなた達の生態系に詳しくないものだから、ついつい類人猿の威嚇と同じものにカテゴライズしてしまったわ」

 

ふえぇ…。ゆきのん怖いよぅ…。まさに氷の女王だ。

流石の炎の女王も、氷の女王の前では炎すら凍ってしまうようだ。三浦はただ苦々しい表情を続けている。

 

「お山の大将気取りで虚勢を張るのは結構だけど、自分の縄張りの中だけにしなさい。あなたの今のメイク同様、すぐに剥がれるわよ」

「ーーっ!意味わかんないし」

 

完全に敗者となった三浦は倒れ込むように椅子に座り、縦ロールをぴょんぴょん弄りながらイライラとスマホをいじり始める。

……あの隼人ですらあたふたしてるな。こりゃ相当だ。

雪乃は舌刀を納め、由比ヶ浜に向き直る。

 

「先に行ってるわね」

「私も…」

「……部室で待ってるわ」

「う、うん!」

 

雪乃が教室から出ていった後、周囲のクラスメイトも居心地の悪さからここぞとばかりに教室を出ていく。

俺も乗るしかない、このビッグウェーブに!

これ以上この場にいると呼吸できん。怖い。

教室を出る直前、由比ヶ浜の横を通り過ぎる。その時、ぽそっと小さな声が聞こえた。

 

「…ありがと、さっき立ち上がってくれて」

 

 

 

教室を出てすぐの所で、雪乃は壁にもたれかかっていた。その雰囲気がえらく冷たいせいか、周りには誰もいない。とても静かだった。

だが、これが優しさからきている冷たさなのは、付き合いの長い俺だからこそ分かる。由比ヶ浜と三浦の関係を、雪乃なりに案じているのだろう。

 

『……あの、ごめんね。あたしさ、人に合わせないと不安ってゆーか……、こういう性格だから、時々イライラさせちゃうこと、あった、かも』

 

教室の中から由比ヶ浜の声が聞こえてくる。

嗚咽が混じり、途切れ途切れながらも言いたいことを伝えようとしているのが分かる。

 

『昔からそうなんだよねー。おジャ魔女ごっこしてても、ほんとはどれみちゃんとかやりたいんだけど、他にやりたい子がいるから葉月にしちゃうとか……。団地育ちのせいかもだけど、周りにいつも人がいてそれが当たり前で……』

『何言いたいか全然分かんないんだけど?』

『その、さ。ヒッキーとゆきのん見てたら、今まで必死に人に合わせようとしてたの、間違ってるみたいで……、だってさ、ヒッキーとかぶっちゃけマジでヒッキーじゃん。休み時間とか一人で本読んで笑ってるのとか超キモいし』

 

キモいって……。流石に酷くない?俺泣いちゃうよ?雪乃の前でわんわん泣いちゃうよ?

その雪乃なんてなんかプルプル肩を震わせて笑っている。何笑ってんだ。

 

「酷い言われようね……ふふっ」

「もう学校でラノベ見るの止めようかな…」

 

『だからね、これからはもっと適当に生きようかなー、とか、そんな感じ。べつに優美子のことが嫌ってわけじゃないから。だから、これからも仲良く、できる、かな?』

『……ふーん、そ。まぁ、いいんじゃない?』

 

それきり中での会話はなくなり、パタパタと由比ヶ浜が上履きを鳴らして歩く音が聞こえる。その音を合図にしたように雪乃は寄りかかっていた壁から身体を離した。

 

「さ、行きましょうか。早くお弁当、食べちゃいましょう」

「だな」

 

ここで盗み聞きしていたのがバレるのは何となく困る。あいつのことだから顔を真っ赤にして直接的に罵倒してくるだろうし。

ま、とりあえずこれで一件落着かね。

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