もしも八幡と雪乃が幼馴染だったら。   作:ヒロ9673

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天使登場。
少し雑になってしまいました。


比企谷八幡は、依頼を聞く。

昼休み。

恐らく一日の学校生活の中で一番幸福と言っても過言ではないこの時間。

いつもは雪乃が作ってくれた弁当を部室で食べるのだが、雪乃は超がつくほど珍しく寝坊をしてしまったらしく、用意できなかったそうな。

メールで画面越しにでも伝わる罪悪感よ。むしろこっちが申し訳なくなる。いつも作ってくれてありがとうございます。

そんでもって、俺はベストプレイスでコンビニパンを貪っていた。

俺の座っているベンチの前方から聞こえてくるテニス部と思われる生徒の声。

よくもまあ、昼飯を食う時間を割いて一生懸命練習できるもんだ。好きな事に熱心に打ち込めるという点に関しては、尊敬できる。

奉仕部に入って一月が経過した。その間、俺たちの元に舞い込んできた依頼は、由比ヶ浜のクッキー作りと、材木座の小説の感想の二つ。材木座はあれから何度もプロットを見せてきたり、イラストのデザイン案を見せてきたりしてくる。まずは小説を完成させろよ。おかげで女子二人は俺に全部丸投げしてるんだぞ。

そんな材木座に対する愚痴を心の中でしていると、ぴゅうっと風が吹いた。

風向きが変わったのだ。

その日の天候にもよるが、臨海部に位置するこの総武高校はお昼を境に風の方向が変わる。

この風を肌で感じながら一人で過ごす時間が俺は嫌いじゃない。

 

「あれ?ヒッキーじゃん」

「あん?」

 

聞き覚えのある声がした。振り返ると、風のせいかスカートを押さえた由比ヶ浜が立っていた。

 

「なんでこんなとこいんの?」

「一年の頃からいつもここで食ってたんだよ」

「部室で食べれば良くない?」

「今日は雪乃が弁当作れなかったらしくてな。それに女子二人だけで話したい事とかあるだろ?俺なりの配慮だ。…それよか、お前はなんでここに?」

「いやー、ゆきのんとのゲームでジャン負けしてー、罰ゲームってやつ?」

「俺と話すことか?」

 

何それひどすぎる。雪乃に嫌われちゃった?

 

「ち、違う違う!負けた人がジュース買ってくるだけだよ。それにゆきのんだったらそれはご褒美でしょ?」

「…まあ、そうなんかね」

 

知らない内に嫌われてたなんて事は無かった。

ほっと胸を撫で下ろすと、由比ヶ浜は隣に座ってきた。

そういや、こいつと二人きりで話すのって案外初めてなんじゃ?

 

「ゆきのん、最初は『自分の糧くらいは自分で手に入れるわ』って言って渋ってたんだけどね」

 

なぜか由比ヶ浜がモノマネをしながら言う。死ぬほど似てねぇ。ちなみに俺は本人と間違われるくらいめちゃくちゃモノマネ似てる。あいつの姉ちゃんのお墨付き。

 

「まあ、あいつらしいな」

「うん、けど『自信ないんだ?』って言ったら乗ってきた」

「……あいつらしいな」

 

雪乃は昔から負けず嫌いだったからな。どんな些細なことでも負けたくない性分だった。でも、確か今はそれほどでもなかった気がする。それこそ姉ちゃんを超えたいなんて事は言わなくなっていたな。よく分からんけど。

しみじみとそんな事を考えていると、由比ヶ浜は少し神妙そうな顔をして聞いてきた。

 

「ヒッキーはさ、ゆきのんのこと、好きなの?」

「急だな。まぁ……どうだろうな。なに、好きだって言ったらお前はどうすんの?」

「そりゃあ応援するよ!ゆきのんは大事な友達だし、ヒッキーは…まあ、恩人?でもあるし」

 

そこはてなマークなのかよ。いや、犬庇ったから犬の恩人と捉えられるけども。それは恩犬か?知らんけど。何言ってんだ俺。

 

「ほら、二人って結構お似合いじゃん?幼馴染だし、傍から見てもめちゃくちゃ仲良さげだし、それに」

「………本当に、そう思うか?」

 

えっ、と由比ヶ浜は声を詰まらせる。

初夏と言っても差し支えないこの月。吹き付ける風は暖かいはずなのに、俺と由比ヶ浜のいるこの場所だけは、何だか心なしか冷たく感じる。

 

「ヒ、ヒッキー……?」

「なんでもねえ。この話、あいつにはすんなよ」

「あ、う、うん……」

 

若干不機嫌になってしまった俺はテニスコートを見た。…別に由比ヶ浜は何も悪くない。悪いのは、俺だ。

ふと見ると、先ほどから練習をしていたと思われる女テニの子が汗を拭いながらこちらへやってくるところだった。

 

「おーい!さいちゃーん!」

 

気まずさを誤魔化すように由比ヶ浜が手を振って声をかける。どうやら知り合いらしい。

その子は由比ヶ浜に気づくと、とててっとこちらに走り寄ってくる。

ん?同じクラスの子か。

 

「やっはろー、練習?」

「うん。うちの部、すっごい弱いからお昼も練習しないと……。お昼も使わせてくださいってずっとお願いしてたらやっとOK出たんだ。由比ヶ浜さんと比企谷くんは何を?」

「やー、ちょっと世間話をしてた的な?」

 

そう言って由比ヶ浜は、だよね?と俺に振り返る。ホント、周りの空気に合わせるのが上手いよな、こいつ。こちらとしても助かるが。

というかこいつはお使いの途中だろ。鳥なの?多分雪乃怒るぞ?

 

「さいちゃん、授業でもテニスやってるのに昼練もしてるんだ。大変だねー」

「ううん、好きでやってる事だし。あ、そういえば比企谷くん、テニスうまいよね」

「え?あ、まあ、昔やってたからな」

 

急に話題を振られ慌ててしまう。女子なのに知ってるのか?体育違うはずだが。

 

「…ヒッキー、もしかしてあたしの時みたいに名前覚えてないんじゃ?」

 

由比ヶ浜にジト目で見られる。図星なだけに何も言えねぇ。

 

「……すまん、あまり女子と関わろうとしなかったから、つい、こうね、ね」

「一年の時も同じクラスだったんだけどな…。戸塚彩加です、よろしくね。……あと、僕は男だよ」

「え」

 

ぴたっと俺の動きと思考が停止した。え、嘘でしょ?こんな女子よりも女子してる可愛らしい子が?

マジで?と視線で由比ヶ浜に問うと、うんうんと頷く。

 

「あー…その、悪い。知らなかったとはいえ、やな思いさせて」

 

俺がそう言うと、戸塚は瞳にたまっていた涙をぶんぶんと振り払ってからにっこりと笑う。

 

「ううん、大丈夫」

「それにしても戸塚、よく俺の名前知ってたな」

「え、あ、うん。だって比企谷くん、目立つもん」

 

目立つ?この俺が?

自分で言うと悲しくなるが、俺は万年ぼっちである。人と関わるのを自分から絶っている身としては、どういった面で目立つのか皆目見当もつかない。そもそも聞く相手がいない。悲しっ。

 

「だって、あの雪ノ下さんと仲良く話してるところを見れば、嫌でも目立つよ。仲の良い女子の友達はみんな二人が付き合ってるんじゃないかって話をしてるし」

「えー……」

 

とても反応に困る。

え、なに?見られてるの?バレてるの?そんな話題になってるの?やっぱ女子って恋バナ好きですね。いや戸塚は男じゃん…。

一番嫌…というか、恐れているのは、それが侮蔑や嘲笑から来る話題だってときだ。それは小学生の頃に嫌という程経験している。二の舞にはしたくない。

もう雪乃に嫌な思いはさせたくない。

よほど暗い表情になっていたのだろう。そんな俺を見て、戸塚はあわあわしながら説明を付け足す。

 

「あ、も、もちろんネガティブな話じゃないよ?比企谷くんって誰とも喋らないからどんな人なんだろうって」

 

ああ、そういうこと。

一応俺の懸念する事はなかった訳か。ふぃー、なんかスカッとした気分。

たまに感じる視線はそれだったか。

そんな事を考えているうちに、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。昼休みも終わり、午後の授業が始まる。

 

「戻ろっか」

 

戸塚が言って、由比ヶ浜も後に続く。

俺も後を追おうとして、立ち止まる。

 

「ヒッキー?なにしてんのー?」

 

振り返った由比ヶ浜は怪訝な顔をしている。戸塚も立ち止まってこちらを向いた。

言おうか言わまいか迷ったが、後々の事を考えると……。

 

「お前、罰ゲームのパシリは?」

「……あっ」

 

うっかりさんめ。

 

 

 

 

 

 

教室に戻っているとき、ふと戸塚が話しかけてきた。

 

「ちょっと比企谷くんに相談があるんだけど……」

 

妙に真剣な様子だったので茶化すわけにもいかない。

なるほどね、秘密の相談なら近くないといけないもんね。真剣だもんね?だから近いんだよね?

 

「うちのテニス部のことなんだけど、すっごく弱いでしょ?それに人数も少ないんだ。今度の大会で三年生が抜けたら、もっと弱くなると思う。一年生は高校から始めた人が多くてあまり慣れてなくて…。それにぼくらが弱いせいでモチベーションが上がらないみたいなんだ。人が少ないと自然とレギュラーだし」

「なるほど」

 

もっともな話だ。弱小の部活にはよくあることだと思う。俺部活入ったことないから知らんけど。

 

「それで……比企谷くんさえよければテニス部に入ってくれないかな?」

「……は?」

「ほぇ?」

 

なぜそうなる……。

俺も由比ヶ浜もこぞって間抜けな声を出してしまった?

確かに俺は他のやつよりはテニスができる方だと思う。昔からあいつに振り回されて色々な事をやってきた。その中でも一番長くやったのがテニスというだけで、恐らく戸塚が思っているような、『ぽっと出の比企谷八幡が入部し活躍すれば、皆のモチベーションもきっと上がる』みたいな事は起こらないだろう。

そもそも俺は集団行動ができない。何それ、一番ダメじゃん。やっぱぼっち最高。

そんなことはさておき、そもそも無理な理由がある。

 

「あー、悪い戸塚。俺、他の部活に所属してるんだ。併部もするつもりはない」

「そっかぁ……」

 

戸塚は本当に残念そうな声を出した。流石に罪悪感が込み上げてくる。

すると、由比ヶ浜は一つ提案をしてきた。

 

「あ、だったらさ、奉仕部に依頼をすればいんじゃない?強くしてほしい、みたいな」

「…まあ、それもありだな。後で雪乃に聞いてみる。戸塚もそれでいいか?」

「うん、大丈夫だよ」

 

交渉成立。

部長である雪乃の許可を貰うとするか。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、テニス部を強く……」

 

放課後。

いつもの席に座った俺は、今日の昼にあった出来事を全て雪乃に話した。

ふむ、と雪乃は考え込む。

 

「別に全員ってわけじゃない。依頼人である戸塚が強くなりたいって話だ。どうにかできないかね?」

「そうね…。死ぬまで走って死ぬまで筋トレ、死ぬまで素振り、かしら」

「相変わらずえげつねぇ……」

 

ちょっと微笑み交じりなのが怖さを誘う。こいつ案外Sっ気あるんじゃないか?

俺が若干引いていると、ガラッと部室の戸が開いた。

 

「やっはろー!」

 

戸塚を引き連れた由比ヶ浜がやってきた。

やはり雪乃はビクッと肩を震わせる。ノックもなしに入ってくる人なんて由比ヶ浜か平塚先生くらいだ。

 

「し、失礼します……」

 

昼休みの約束通り、戸塚は依頼をしに来たのだろう。

 

「ほら、あたしも奉仕部の一員じゃん?だから、ちょっとは働こうと思って連れてきたの」

「由比ヶ浜さん」

「あ、ゆきのん、お礼とは全然いいから。部員として当たり前のことしただけだから」

「由比ヶ浜さん、あなたは部員ではないのだけれど」

「違うんだ!?」

 

違うんだ!?びっくりした…。毎日入り浸っているから普通に部員かと思ってた。

 

「別に入部届をもらっていないし、顧問の承認もないから部員ではないわね」

「書くよ!入部届くらい何枚でも書くよ!」

 

あれ?そんな事言ったら俺も入部届出てないから部員ではなくないか?いや、退部したいとかは全く考えてないしむしろいたいけど。

由比ヶ浜は涙目になりながら鞄から取り出したルーズリーフに『にゅうぶとどけ』と可愛らしい字で書き始めた。そのくらい漢字で書けよ……。

 

「で、戸塚彩加くんね。依頼の件はどうしましょうか」

「戸塚は昼に練習してんだし、それの手伝いでいいんじゃねえの」

 

本格的に練習をする放課後に部外者がやってきても怪訝な目で見られること間違いなし。

そもそも依頼は戸塚を強くすることだし、昼休みの練習だけでもいいだろう。

そう提案すると、雪乃も戸塚も頷いた。

 

「そうね。八幡の言う通り、昼休みの練習に付き合うとしましょう。ただし……私は甘くないわよ?」

「よ、よろしくお願いします……」

 

ふえぇ…。本気の目だ。流石に死にはしないだろうけど、とんでもないことになりそう。……戸塚、ファイト!

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