少し遅れました。
小説書くのって本当に難しい…。
イケメンリア充でも、依頼をする。
梅雨が差し掛かるこの季節。六月に入ってから、ジメジメした熱気が俺の気力を削いでいる。
今日も今日とて部活に行って熱気が吹き飛ぶほど癒されようと思った矢先。
今俺がいるのはどこでしょう?
「職場見学は雪ノ下建設を希望する、か……」
正解は職員室にあるパーテーションで区切られた一室。
そこのソファに座って俺の職場見学希望調査票を読み上げた平塚先生は、心底意外そうな顔をしていた。
「一体どういった風の吹き回しだ?専業主夫などという心底ふざけた進路を希望する君だったら、職場見学も『自宅』とかにするものだとばかり思っていたのだが」
「いや普通に書いて呼び出されるってどういうことすか……」
そうなの!僕至って普通の見学場所を希望したのに、それが原因で呼び出されたの!意味不明!
雪ノ下建設には、何回かお邪魔させてもらったことがある。簡単に言えば、精神的に楽にしたいってことだ。
ちなみに最初は自宅を希望しようとしたのは内緒。マジで殴られるから。ホントこの人怖い。主に拳が。
「ま、希望といっても、最終的に決めるのはグループ決めの後ですよね。だったらグループで決めたところに行きますよ。面倒事は御免なんで」
「君は本当に卑屈だな。もう少し自分に自信を持てないのか?君にだって意見を言う権利はあるというのに」
「だからこそですよ。自分の意見を通すより、誰かの後ろをついて行く方が楽ですし。……それに、いい思い出もないんで」
小学生の時にどれだけ失敗を繰り返したことか。俺は雪乃との一件以来、自分から進んで何かをすることをやめた。人について行くのは楽でいいしな。
「……そうか。ならこの話は終わりだ。最後に一つ、人生の先輩からアドバイスをしておいてやろう。偶には自分の意志を貫き通すことも大事だ。本気で君が望むことがあるのなら、尚更な」
そう言って人生の先輩とやらは一呼吸置く。
「たまには自分の意志を最後まで貫き通すことも必要だ。特に、君がどうしても望むものなら、ね。周りに流されないことは重要な事だよ」
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特別棟の四階にある部室へ向かう途中、俺は頭の中でさっき平塚先生が言っていた言葉が反芻していた。
『周りに流されないことは重要な事だよ』
……分かってる。それは苦いほど理解しているのだ。自分が楽したいからって人の波に呑まれれば、いつか必ず取り返しのつかない事になる。
いつまで同じことを繰り返すのだろう。どうして一歩踏み出せないのだろう。
理由は単純だ。
比企谷八幡という誰にも認知されないような人間が、雪ノ下雪乃という誰もが知る有名人と付き合うなんて、誰が認めてくれようか。
周りから怪訝な目で見られ続けることを、雪乃は許せるだろうか。
気にしないと言ってくれるかもしれない。けれど、内心どう思うのか、快く思わないのではないか、そういった考えが常に頭によぎる。
………ああ、結局流されてしまう。いつかは、答えを出さなければいけないのに。ケジメをつけなければならないのに。
そんな事を深く考えていると、いつの間にか部室の前まで来ていた。中からは二人の楽しそうな声が聞こえてくる。
…こういった閉鎖空間なら気兼ねなく自分の主張もできるのに。
こんな何も出来ない自分に、心底嫌気がさした。
********
部室に入り、いつものように雪乃が淹れてくれた紅茶の香りを楽しみながら、妹から借りた少女マンガを読む。
少女マンガって意外と名作が多いんだよな。画風が受け入れられないって人が多いと思うが、それに目を瞑ればストーリーやら何やらは基本的に悪くない。
だが俺は別に好きという訳では無い。さっきのも受け売りだし。
俺をこの渦に巻き込んだのは、何を隠そう雪乃の姉、雪ノ下陽乃さんである。あの人、純真無垢だったあの頃の俺にほぼエロ本と言っていいものをバンバン見せてきたからな。あの人も小学生とか中学生だったのに。幸か不幸か、雪乃はそういったマンガを嗜まない。そのまま純粋なままでいてくれ。知識は保健体育で学ぶことだけでいい!
少女マンガを借りたのは、別に自分から望んだわけではなく、小町が「これで女心でも知って!」と半ば強制的に持たされたのだ。
俺は結構理解している方だぞ。ホントに理解してたら小町からごみいちゃんなんて言われないけどね!…ぐすん。
大体、こういうのって由比ヶ浜みたいなタイプの女子が見るもんではないのか。
そう思いながら由比ヶ浜の方をちらっと見ると、スマホを見ながらうへぇ…、といった苦い表情を浮かべてため息をついていた。
「どうしたの?」
気づいたのは俺だけではないようで、雪乃も顔を顰めていた由比ヶ浜の事を見ていた。
「あ、うん。ちょっとね。クラスに回ってるメールが……あ、ごめんねヒッキー」
「待て。なんで謝られた。俺だってクラスの一員だぞ」
どうも誰にも名前を覚えられない二年F組比企谷八幡です。
いや最近だとヒキタニくんとか呼ばれたのを聞いてるし。マジで誰だよヒキタニくん。
それにしても、クラスに出回ってこんな表情をするような内容のメールか。思い当たるのは一つ。
「チェーンメールか」
「うん。最近こういうの多いんだ」
あまり気分のいいものでもないのか、スっとスマホを胸ポケットに仕舞う。
そういや俺がクラスで連絡先交換してるのって隼人と由比ヶ浜くらいなんだよなー。いや、別に他の奴らのメアドを欲しい訳じゃないが、おかげで情報統制されている。マジでクラスに関する話は入ってこない。
「チェーンメール、ね。昔もそんなのがあったわね」
「ああ、あれか……」
「え、なになに?」
少しだけ身を乗り出して聞いてくる由比ヶ浜。興味があるようだ。当たり前ながら、もちろん知らないだろう。俺たちが小学生の時の話だし。
「俺の誹謗中傷を嫌というほど書き連ねたメールがクラス内で出回ってたんだよ。クズとか、卑怯者とか、小学生らしいものだけどな。持ったばかりの携帯で何かしたかったんだろ」
それを聞いた由比ヶ浜は流石にいたたまれなくなったのか、申し訳なさそうな顔をしながらも問いかける。
「ど、どうしてそんな酷いことされたの…?」
そこら辺はプライベートに近い話だが、由比ヶ浜はそれを笑い話にしない性格だというのは二月近い付き合いでよく分かっている。なにより当事者である俺と雪乃がいる部活だ。由比ヶ浜だけ知らないのは隠し事をしているみたいであまり気分は良くない。
「別に、ある児童が受けていたイジメの証拠を写真にとって教育委員会に働きかけただけだ。おかげでうちの学校は一際有名になったな。教師がイジメを黙認する素晴らしい学校だって。実際、俺が先生に言ってもマトモに取り合おうとはしなかったしな。だから大人ってのは本当に気に入らない」
平塚先生のように、生徒の相談に親身にのってくれる先生は別だ。あの人は大雑把そうに見えて、とてもよく生徒のことを見ている。でなければ、由比ヶ浜や材木座のように奉仕部を訪ねてくるような奴はいないだろう。
そういった良い先生もいれば、クズみたいな野郎もいる。俺の担任がそのクズ代表みたいなものだったから、当時は大人に失望したのをよく覚えている。
シンと静まり返った部室は由比ヶ浜にとっても心地悪いものだろう。
「……な、なんかごめんね?」
「いや、気にすんな。チェーンメールだっていつの間にか雪乃と隼人が鎮めてたみたいだし」
マジでビビった。出回ったことを知ったのは鎮まった後だし。意地でも俺の耳に入れさせず、チェーンメールを回し始めた奴を特定したとか、マジでプロファイリングの専門家にでもなるんじゃないかって思ったね、当時は。
「でも、すごいね。たった一人のためにそんな事ができるなんて」
「ええ、八幡はすごいわ。私だって何度も助けられたし、由比ヶ浜さんの犬もそうだったんじゃなかったのかしら?」
「うん、入学式の時ね」
んー、恥ずかしいなあ。内臓をこよりでチョチョチョとされてる気分。
そんな恥ずかしさを誤魔化すように手を横に振る。
「気にすんな。俺がやりたくてやった事だし」
「でも、本当にあの時はありがとうね、ヒッキー」
そんな笑顔を向けられては流石に照れる。プイっと視線を外すと、少し不機嫌顔の雪乃が。
「……え、何。怖いよ?」
「…いえ、別に。照れるのね」
え、え?嫉妬してるの?やだこの子可愛い!
なんて事は口には出さないが、残念ながら長い付き合いの雪乃には考えてることがお見通しなようで。
「やっぱり八幡も普通の男の子ね」
そう言ってフッと微笑んだ。
やめて!そんな優しげな顔を俺に向けないで!
あと由比ヶ浜さん?そんなニヤニヤした顔で見ないで?余計に恥ずかしくなっちゃうから!誰か助けて!
そんな願いが届いたのか、部室の扉がノックされる。
雪乃のどうぞという声を聞いて入ってきたのは、意外な人物だった。
雪乃に次ぐ俺の幼馴染であり、頭が上がらない人物でもある葉山隼人。スクールカーストブッチギリに一位のイケメンである。
部活終わりなのか、少し汗をかいている。それすらも様になってるのだから、本当にイケメンだ。チクショウ!
「やあ、平塚先生から相談するならここに、って言われたんだけど、大丈夫かい?」
「おう、お前が相談なんて珍しいな」
「なに、今回はそうしない訳にもいかないからね。それで依頼なんだけど……」
チラッと雪乃を見ると、静かに頷いた。どうやらオッケーっぽい。ジェスチャーだけで相手の意志を読み取れるって凄いよな、俺。
隼人はスマホを取り出し、シュッシュと操作して俺たちに画面を見せてきた。メールボックスには、いくつかのメールが届いている。
「あ、これ……」
「由比ヶ浜にも届いたやつか」
そこに書かれていたのは、主に三人についてだ。
『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』
『大和は三股かけている最低の屑野郎』
『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』
とかなんとか。
戸部、大岡、大和と、確か隼人といつもいる奴らの名前が連なっている。
どれも根も葉もない、確固たる証拠のない物ばかりで、何を目的としてこんな事をしているのかサッパリだった。
チェーンメールの対策としては普通は先生に対処してもらうのが手っ取り早い。だが、平塚先生が奉仕部を勧めたという事は、これは俺たちが解決すべき課題だと遠回しに言っているという事なのだろう。
「依頼というのは、犯人を突き止めるという事でいいのかしら」
「ああ。だけど、出来れば何故こんな事をしたのかという理由まで調べて欲しい。一度止めただけじゃ根本的な解決にはならない。だろ?」
「そうね……」
俺のことか。俺の誹謗中傷なんて別にほっといても良かったのに、この二人は良しとしなかった。何度もチェーンメールが出回る度に二人は解決してきた。本当に、頭が上がらない。僕の周りはすごい人ばかり。
「チェーンメールが出回り始めたのはいつからかしら?」
「確か先週末だったはずだ。なあ、結衣?」
「うん、確かにそのくらいだった」
ああ、分かった。分かってしまった。
「ああ、なるほど…」
思わず口に出てしまった。三人は俺の方を向き、どういうことだ?と目で訴えてくる。
「先週末と言ったら、職場見学の調査をした日だ。それに加えて、見学するのは三人一組。確証は無いし、そんな良い話でも無いが、多分、犯人はそこに書いてある三人のうち一人だな。隼人と組みたいが故に誰かをハブこうとしてるんだと思う」
四人の中から一人だけ仲間外れができる。それは、いつも仲良くしてる奴にとってはかなりきついことなのだと思う。俺は経験ないからよく分からんけど。
簡単に推理してみたが、これが一番納得がいく。ホントにくだらない動機だ。
隼人は少し表情を暗くしたが、やがて頷き、口を開く。
「そうか、理由は分かったけど……、あの三人がそんな事をするとは思えないな……」
「確証は無いって言ったろ?確かめる方法を一つ考えてるが、聞くか?」
隼人は、頼む、と言ったふうに首を縦に振った。