もしも八幡と雪乃が幼馴染だったら。   作:ヒロ9673

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今回から○○は○○する。以外のサブタイにもしていこうと思います。


同じ目には遭わせたくないから

翌日の昼休み。

俺はいつものベストプレイスや部室には行かず、教室で飯を食っていた。

隼人とつるんでいる三人の内、誰があのチェーンメールの犯人なのか確かめる方法は、少なくとも俺以外にはできない。

ぼっち故に俺はクラスの連中に聞きまわるのは無理だ。だが、だからこそ分かることもある。それは当たり前だが由比ヶ浜や隼人には実行不可能だ。

では何をするか。

単純である。ただひたすら見るのだ。会話ができないなら、いや会話ができないからこそそれ以外のところから情報を集める。

元来、人間のコミュニケーションは言語によって行われているのは三割程度だという。残りの七割は目の動きやちょっとした仕草から情報を集めているのだ。ということは雪乃とのコミュニケーションは完璧ということである。やったね。

俺の長年培ってきたスキル、『人間観察』を披露しよう。

人間観察の手順はごくごく単純だ。

イヤホンを耳に突っ込むも音楽は聞かず、ひたすら会話に耳を澄ませる。そして件のグループの面々の表情をじっと観察。以上。

今隼人と一緒にいる奴らを観察してみる。

戸部がウェイウェイ騒ぎ、大岡や大和はそのノリに合わせたりしている。普通に見れば、仲良さげなグループとしか思わないだろう。

だが、彼らを見ているとさまざまなことに気づく。

あ、あいつ今、見えないように小さく舌打ちしたな。

あいつは隣の奴が会話を始めると急に黙るな…。

つまらなそうにスマホをいじっている。あんまりこの話題に入り込んでないな。

ちょっと下ネタになると曖昧な笑顔を浮かべる。あいつは童貞だな。間違いない。

ふむ、若干の違和感だが、あいつらの関係性が読めてきたな。

だが、決定打に欠ける。あと一歩な気がするんだが……。

 

「悪い、ちょっとごめん」

 

そう言って隼人は席を立ち、俺の方へ向かってくる。そして小声で問うてきた。

 

「八幡、何か分かったかい?」

「いいや……」

 

どちらにせよ犯人に繋がるような事はまだ分からない。そう思いつつ三人の方を見ると、ちょっと意外な光景が広がっていた。

三人とも携帯をいじり、つまらなそうにしていた。そして、時折隼人のほうをちらっと見る。

 

「ほーん……」

「閃いた、みたいな顔だな」

「……ああ。謎は、全て解けた!」

 

 

 

********

 

 

 

放課後、隼人も含めて部室に集まり、俺の推理を披露することにした。

 

「まず最初に言うが、犯人が分かったわけじゃない」

 

そう言うと由比ヶ浜、隼人は共に『はあ?』みたいな表情になる。いや、うん。そんな顔になるのは分かるけどさ。

雪乃は特に表情を変えることはせず、俺に一つ質問を投げかけてきた。

 

「何がわかったの?」

「あのグループは、隼人のグループという事だ」

「は?」

 

由比ヶ浜は『こいつ何言ってんの?』みたいな

心底バカにしたような目で見てくる。顔が引き攣りそうになるのを必死に抑え、俺はなんとか言葉を継ぎ足す。

 

「隼人、お前はお前がいない時のあの三人を見たことあるか?」

「いや、ないな」

「まあ当たり前だわな。つまり、隼人は気づいていないだけだ。部外者の俺から見れば、四人でいるときはめちゃくちゃ仲良い雰囲気を醸し出してるが、三人きりのときは全然違う。簡単に言えば、あいつらにとって隼人は『友達』で、それ以外の奴は『友達の友達』なんだよ」

 

まず間違いなく、あのチェーンメールを回しだしたのは確実に三人のうち誰かだろう。職場見学の三人グループでハブられたくないから、疑われないように自分自身も含んだ三人の評価を下げる。よく良く考えればとてもくだらない事だが、うまく考えたもんだ。

ここまで来たら隼人も俺が言いたいことが分かったようだ。

 

「…なるほど、つまり根本的に解決するには、あの三人の仲を取り持つ必要があるわけか」

「そういうことだ。お前が望むなら解決することはできる。犯人を探す必要もなく、これ以上揉めることもなく、あいつらが仲良くなれるかもしれない方法がな」

 

 

 

********

 

 

 

隼人が俺の出した提案に頷き、自らの運命を決定づけた翌日。

教室の黒板には、クラスメイトの名前が羅列されていた。それらは職場見学のグループを表している。

俺は誰に声をかけるでもなく、ぼーっとその様子を眺めていた。

もしこのクラスに雪乃がいたら、迷うことなく二人は決まっていたのだが。

雪乃で思い出したが、昔からこういったグループ決めの時はいつも二人でなっていたな。俺の思い当たる理由は幾つかある。

まず、雪乃はいじめられていたから。これが一番の理由であろう。少なくとも女子は近づこうとはしなかった。

では男子はどうだったかと言えば、それは二つ目の理由に直結する。

元々雪乃がいじめられるようになった原因は、いろんな男子に何度も告白を受けたからだ。自分の好きな人が雪ノ下に告白してる、だからあいつは嫌い!みたいなしょーもない理由でいじめを受けていたわけである。

なら是が非でも近づこうと男子は寄ってくるわけだが、そこに立ちはだかるのが俺。

当時、俺は小学校全体を巻き込むとんでも騒動を起こした張本人として避けられていた。というか嫌われていた。

男子に告白を受ける雪乃は女子のヘイトを買い、俺は雪乃と一緒にいることで男子の嫉妬という名のヘイトを買う。故にふたりぼっちの状態が出来上がっていた、という訳だ。

よくあんな酷い状態で正気を保てたものだと自画自賛したい。

……いや、多分俺一人では到底耐えられなかっただろう。やはり、俺という自己を形成する根幹には、雪ノ下雪乃がいる。

あの日話しかけたから、今の俺がいる。そう考えれば感慨深いものだ。

そんな事を考えていると、ふと声がかけられた。

 

「八幡」

 

俺を下の名前で呼ぶ人は限られている。雪乃か隼人か、それとも、この間のテニスの件で親しくなり、俺を名前呼びするようになった戸塚か。

その声の主は、予想通り大天使・トツカエルだった。

やはり男子とは思えない可愛さ。雪乃がいなければ告白して振られちゃうね。振られちゃうのかよ。いや男だから当たり前か。そもそも告るのが意味不明だな。

 

「よう、どうかしたか?」

「グループ分けなんだけどさ、よかったら一緒に組まない?」

 

なんだと?他に誰でも組む相手がいそうな戸塚がこの俺と?万々歳じゃないか!天使万歳!神々万歳!!

 

「ああ、いいぞ」

「本当?ありがとう!」

 

うん、可愛い(心理)。

そんな可愛い戸塚がふと黒板を見る。それにつられて俺も視線を動かすと、今まさに見覚えのある名前を書き連ねている三人組の姿が目に入った。

 

「戸部」

「大岡」

「大和」

 

三人は名前を書いた後、互いの顔を見つめてちょっと照れくさそうに笑った。

上手くいったようだな。そう思っていると、不意に声をかけられた。

 

「八幡」

 

俺を下の名前で呼ぶ人は限られている。特に男では一人しかいない。あ、戸塚もいた。やっぱり性別は男・女・戸塚の三種類にすべきだと思う。

声の主である隼人は俺の横の席に座る。いきなり現れた思わぬ来訪者に戸塚は「え、えっと……」と呟いておろおろと俺を見る。可愛い。

 

「おかげで上手くいったよ。ありがとうな」

「俺は何もしてねえよ。決めたのはお前だし」

「…いや、八幡は俺にできないやり方をいつも提示してくれる。やっぱり凄いよ」

 

そんな素直に褒められると少し照れくさい。

彼らが揉めている原因は、そもそも『隼人と一緒のグループになりたいから』というものだ。なら、その原因を排除すればいい。

隼人がグループに入らないことを述べれば、必然的にあの三人が組むことになる。そうすれば多少なりとも仲良くなるだろう。そう踏んで俺は提案したのだが、事なきを得て正直ホッとしている。

と、そこで黙っていた戸塚が口を開く。

 

「もしかして、八幡と葉山くんって…」

「ああ、幼馴染だよ。昔から世話になってる」

「いや俺がお世話されてる」

 

お世話されてるってなんだ。自分で言っておいてわけ分からなくなり、二人も笑いだす。

ひとしきり笑って一段落したところで、隼人が切り出した。

 

「そうだ、俺、まだグループ決まってないんだけど、一緒にどう?」

「あん?いいけど、戸塚は?」

「僕も大丈夫だよ」

「じゃあ、名前を書きにいこう。場所はどうする?」

「任せる」

 

俺が言うと、戸塚もうんと頷いた。

そして、隼人が黒板に名前を書き、続いて、「行きたい職場」を書き始める。すると。

 

「あ、あーし、隼人と同じとこにするわ」

「うそ、葉山くんそこいくの?うちも変える帰るぅ!」

「あたしもそこにしようかなー」

「隼人ぱないわ。超隼人ぱないわ」

 

クラスの連中が一斉に隼人の周りに集まる。そしてあっという間に皆が隼人と同じ職場を選び、黒板の名前の場所を書き換え出した。

いつの間にか俺の名前が消え失せ、それに合わせて俺の存在感も気薄になっていく。

そんな様子を見て俺が思ったのは一つだけ。

リア充ってすげえや。

 

 

 

********

 

 

 

放課後の部室。由比ヶ浜は用事があると言って帰宅し、今日は俺と雪乃だけとなっている。

特に何かを話すこともなく、静かに時間は流れていく。

俺はこの静かな空間が好きだ。由比ヶ浜もいて騒がしいのも嫌いではないが、元来の性格的に、今のような静寂の方が心に安らぎを与えてくれる。

それが雪乃と一緒にいれば尚更のこと。

 

「チェーンメール、ね………」

 

そんな静寂を破ったのは、雪乃だった。

その言葉が耳に入り、顔を上げる。意外と近くに顔がありドキッとする。しかし、雪乃は少し苦しそうな表情を見せ、それが与太話ではないことはすぐに理解出来た。

俺はこの表情の雪乃を見た事がある。小学生の頃に、『なぜ私を助けるの?』と言ったときと同じだ。俺に対し、思うことがあるのか。

 

「あなたがチェーンメールの被害に遭っていた時、私はとても心苦しかった。私と関わってしまったばっかりに、必要のない被害を被るあなたといて、ずっと申し訳ない気持ちでいっぱいだったわ」

「いつの話だよ。そんな昔のこと…」

「でも、傷ついてしまったのは事実でしょう?」

 

……確かに、俺はあの頃のトラウマによって、人を信じることが出来なくなってしまった。見えない悪意によって陥れられ、失意のどん底に落ちた俺は、もう家族や極々近しい人しか頼ることが出来ずにいた。

 

「でも、私にはあなたしかいなかった。あなたしか信頼できる人がいなかった。私の身勝手な考えに、あなたを巻き込んでしまった」

 

そしてそれは雪乃とて同じ。俺は雪乃に依存し、雪乃は俺に依存する。共依存と言われても仕方のない関係を続けていた。

そんな関係を、雪乃は俺が我慢していると思っていた。自らが傷つくのを耐えて接していると思っていた。

だが、それは違う。俺はそれを否定する。そんな薄っぺらい関係は、欺瞞だ。偽物だ。反吐が出る。

 

「……身勝手なのはお互い様だ。俺はお前の人生に足を突っ込み、関わりを持った。それこそお前が本来持つ必要のなかった関係だ。俺が関わりたいっていう身勝手な考えでお前と接してるんだ。嫌なら拒絶したって構わない」

「そんなこと……!」

「だったらこの話はやめだ。いいか、過去がどうあれ、俺はお前と出会って後悔したことはない。それは未来永劫変わることはない」

 

雪乃と出会い、かけがえのないものをたくさん手に入れた。生涯の宝になるであろう物。それには、ある感情だって含まれる。

外見だけじゃない。中身も全て知り、雪ノ下雪乃がどういった存在なのかを理解し尽くした上で見つけた、たった一つの感情。

 

「もう遠慮なんてすんな。俺はお前を知った上で関わってんだ。何しようが気にしねえよ」

 

俺は遠慮するけどな。

俺だって、雪乃が傷つくのは見てられない。耐えられない。

小学三年生の時、初めて出会った時の虚ろな眼。あんな目をもう一度見るなんてことしたくない。絶対にあの目にはさせたくない。

だからこそなのだ。

俺のチェーンメールの件は既に終わり、終息した事だが、雪乃に関しては現在進行形。故に、俺は一歩引かなければならない。それが俺にとって安心出来る距離感であり、俺たち二人の関係性。

 

「…そうね。ごめんなさい、八幡。それと、ありがとう。お陰で吹っ切れたわ」

「そりゃよかった」

 

でもいつか、周りの目という壁が排除された時は、想いを告げてみようか。

そう考えれば、俺はいつになく笑うことができる気がする。




ちょくちょく登場する過去の話。どこかのタイミングで過去編として投稿しようと思います。
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