0th ReBirth Day 作:志須
原作:戦姫絶唱シンフォギア
タグ:キャロル・マールス・ディーンハイム エルフナイン 戦姫絶唱シンフォギアXV 戦姫絶唱シンフォギアGX キャロル・マールス・ディーンハイム誕生祭2020 キャロル・マールス・ディーンハイム生誕祭2020
XVで判明した設定の考察を含みます。
時系列は2045年2月初旬。翼の行動制限が解ける少し前、八紘の葬儀が終わった後。(XV10話アバンとAパートの間)
3/3、キャロルちゃん誕生日おめでとう!
(初出:2020/03/03)(他サイトと同時投稿です)
関連:『1st ReBirth Day』https://syosetu.org/novel/160862/ (エルフナインの誕生日話@GX放送後2016年の作話)
XVで判明した設定の考察を含みます。
時系列は2045年2月初旬。翼の行動制限が解ける少し前、八紘の葬儀が終わった後。(XV10話アバンとAパートの間)
3/3、キャロルちゃん誕生日おめでとう!
(初出:2020/03/03)(他サイトと同時投稿です)
関連:『1st ReBirth Day』https://syosetu.org/novel/160862/ (エルフナインの誕生日話@GX放送後2016年の作話)
自室に戻って机に備え付けの椅子に掛けてしばらくすると、もうひとつの意識がやにわに起き出す気配がある。
「ん……あれ……?」
小さく漏らされた声が戸惑いを帯びているのは、ベッドで眠っていたはずの自分が衣服と白衣を身につけ椅子に着座していたからだろう。
「ようやくお目覚めか」
「あっ、おはようございます」
霊体のごとく躯体から離れ出た透き通った姿は、まだ寝ぼけているのか反射的に律儀にぺこりとお辞儀をする。
こうした様子は他者からは見えないから、独り言やパントマイムを演じているように思われることが難点だろうか。
「って、キャロルっ!? いつの間に起きていたのですか!?」
お辞儀した身体を跳ね上がらせて、エルフナインが驚く。
無理もない、とキャロルは内心で思う。
エルフナインと会話するのは、チフォージュ・シャトーにて交戦の末に70億人分を凌駕するフォニックゲイン放ち、消耗して表層から退いて以来、これが――風鳴八紘の葬儀の翌日である今が、初めてなのだから。
「ずっと眠っていたわけではない。表層に出なかっただけで、あの翌日から目覚めていた」
「そんな……どうして言ってくれなかったんですか? キャロルとはお話ししたいことがたくさんあるのに……」
これまでは離反した風鳴翼や、規則破りで謹慎処分された立花響、シェム・ハに身体を乗っ取られた小日向未来、風鳴八紘の葬儀だので、それどころではなかったはず。
それは絆を紡ぎあってきた仲間たちが分かち合う悲しみと苦しみであって、再誕した悪党の立ち入る時間ではないだろう。
「それより、身支度の時間がギリギリになるこんな時間まで寝ているのは、あんな夜更けまで起きているからではないのか?」
「気になることがあって、本から目が離せなくて、つい……」
「そんなことだから寝坊をして朝に遅刻しかけるのだ。これまでも”見ていた”から知っているぞ」
「はうぅ、ずびばぜん……」
エルフナインは調べ物に夢中になるあまり夜更しして、翌日の定刻に遅刻寸前になるということが、少なくなかった。
先人の築いた叡智に触れる歓び、知識を得る愉しみ、知的探究への欲求などで読書を中断し難い気持ちは、過去に経験ある身として分からないでもない。
「ほどほどにしておけ。この身体は完璧以上に完成された躯体とはいえ、限度はある」
「はい……マリアさんや友里さんからも、ほどほどにって言われています」
「あの二人の言うことはよく聞いておけ」
その内の一方とは先程、思いがけなく言葉を交わす機会を得たのだった。
エルフナインの無茶に気付き、諌められるとしたらこの二人だろう。
「ご心配ありがとうございます」
「……、オレの身体だ、オレより大事にしろ」
「はいっ。……ふふっ」
お前の心配をしたんじゃない、礼など不要…と言いかけたが口に出すことはしまい。
不要無用と打ち捨てた者に助けられた身。恩のある一人の、死に瀕していた深夜の病室で願ったこの世界で生きたいという願いを叶える一環でしかない。
エルフナインの微笑みはこちらのそんな心情を見透かしたからのように思えて、なんとも落ち着かなくキャロルは視線を逸らすと、壁掛け時計が目に入った。
「さて、集合の定刻まで今少し時間があるようだ。話したいこととはなんだ? 聞いてやる、言ってみろ」
「えっ? ええと、いっぱりありすぎてどれから聞こうか迷ってしまいます……! いままでのことやこれからのこと、ボクが目覚める前のこととか……!」
「っ、整理しておけ。では、まず聞きたいことはなんだ」
「ええっと……そうですっ、あれから――ボクたちがひとつになってから、どうしていたのですか!?」
”ボクたちがひとつになってから”――
大破し内部爆発の起きた碧の獅子機より切り離され、地表数百メートルの空中に放り出されたところを、立花響によって獅子機の疑似熱核融合の爆発から助けられたものの、それまでの想い出の過焼却によって自分が何者かも思い出せなくなった。
パパの遺した言葉すらも失い、何もかもが燃え尽きる直前、未だ繋がる感覚共有でまぶた裏に浮かぶエルフナインの元にたどり着き、瀕死の重傷を負ったそれとひとつになり、互いに生き長らえることなった。
当時起きたことは、今ではすべて“知っている“。
オートスコアラーたちの忠誠と献身があったことも。
立花響に獅子機の爆発から助けられたことも。
場に漂っていた極高のフォニックゲインか想い出から錬成した高濃度エネルギーの漏出か、何らかの作用で光の中に、こちらに手を伸ばすパパの姿を見たことも。
――託された言葉の意味、ほんとうの命題のことも。
「言葉にし難いが……強いて言えば、自分が視点の映像をずっと見続けていたようなものだった」
東洋の哲学、仏教の成立より前の古代インドの哲学には、『自分とは事象を体験する自分を観察しているに過ぎない』とする哲理がある。
例えるなら映画に無自覚に没入して見入っている状態。
自分という人物が視点の映画を観ているだけだ、と自覚することがいわゆる悟りなのだという。その境地に立っていたかのようだった。
「見えたのはオレ自身の想い出であったり、お前が見ている情景でもあった。ひとりでに点いているテレビを映像の映るままに、これは映像だと自覚しながらずっと見ている……とでも言えば分かるだろうか」
「なるほど、アパートでひとり畳の上でごろごろしながらおせんべいをお茶のお供に、テレビを没頭して見続けているようなものだったんですね」
「……八十年近くも昔の日本の庶民文化から離れろ! 先日カラオケで唄った歌といい、どうして発想が日本の昭和中期なんだ」
「あの歌の歌詞の意味や来歴を識りたくて調べていたもので、つい」
「まあいい……現象の体験としては大体合っている」
全てはエルフナインを疑似同一体としたせいかもしれない。
姿形に多少の違いはあれど、エルフナインとこの躯体は同じ素体から作られたホムンクルス同士。こちらの想い出の一部をインストールし、同じ想い出を共有することによって疑似同一体とし、感覚共有を実現させていた。
目的は魔剣ダインスレイフの呪われた旋律をシンフォギアに仕込むこと、五感ジャックによるS.O.N.G.の内偵、場合によっては直接的な工作を行うためだったが、廃棄躯体に生まれた意識が完璧以上に完成された躯体に馴染み生き永らえ、オリジナルの意識がその情景を見聞きするなどという作用に至るとは、思ってもみなかった。
そも同化自体が想定外の躯体運用だったが。
おかげで不要無用と切って捨てたはずの
エルフナインのおかしな機械による脳内ストレージ観測によって、本来埋没するはずだった電気信号が活性化されるたび、少しずつ想い出――それまでの自分自身を断片的に取り戻していった。
そのペースでは表層人格を形成するに至るまでには躯体の耐用年数が保たなかったが、
「掻き集めた想い出の断片を複製、パッチワークの要領で繋ぎ合わせて電気信号の強度を高め、意識表層に顕在化させて今に至るわけだ――」
想い出とは、”それまでの自分”に他ならない。
そして記憶とは、体験が脳に形成する脳神経細胞による神経回路である。
外部刺激によってその回路に活動電位の波が走り、脳裏に体験時あるいはそれに準じた信号が出力されることが思い出す――想起という現象。
生物の意識、感情や思考、人格と呼ばれるものは想起と同じく、脳あるいは中枢の神経系の細胞が形成する電気回路に、絶え間なく伝搬する電位の波が作り出す電影である。
判断結果の集積のデータベースを用いて人工的に構築した知能を、現在の世界では、旧来のアルゴリズムを用いる手法に加えて新たにAIと呼び習わし普及して久しい。
判断結果という経験の集積を、体験が脳に形成する脳神経回路と見なすならば――脳神経回路の出力を用いた脳内の演算によって形成された人格と、それまで生きてきた体験によって培われた人格は、同一の脳を用いているならば。
そこに本質的な違いはない。
「断片の再構築によって同根の人格が再び形成されたのだから、ノーブルレッドの一人が口にした『再誕』という表現は妥当なのだろう」
「再誕……再び誕生したということ……誕生……あっ!」
エルフナインは、抽象表現にならざるを得ないこちらの説明を類推理解しようと語を口中で繰り返していたが、突然何かを思いついてか、朗らかに顔をほころばせながら言う。
「キャロル、お誕生日のお祝いをしましょう!」
「何だ、唐突に」
何を思いついたかと思えば。予想外の方向に、思わず驚きが声に滲んだ。
「キャロルの誕生日、三月三日は来月ですね」
「む……」
誕生日がいつかを話したことがないのにエルフナインが知っているのは、インストールされた共有している想い出から知ったからだろう――パパがお祝いしてくれたその日の日付を。
一ヶ月前の去年末、装者の一人の誕生日を祝った。
手の離せない仕事があったエルフナインは後から会に駆けつけ、仲間たちの集合写真を撮影していたのを憶えている。
連想されたのそのせいだろうか。
「誕生日など、ホムンクルス躯体への想い出の転送複写によって生き永らえるようになった以後は、生年が一つ増える以外に何の意義も感じない」
祝いたい相手が世界に拒絶され殺されて久しい今は、なおさらだった。
けれども――エルフナインはやんわりと顔を左右にする。
「これまでは、そうかもしれません。でも再誕したのなら、今度の誕生日が初めての誕生日ではないですか」
「っ――」
再誕を再び生まれたと捉えるなら、生まれ直したと言えなくもない。
――世界を識るんだ。いつか、人と人が分かり合うことこそ、僕たちに与えられた命題なんだ。
パパの遺した『世界を識れ』という言葉に託されていたほんとうの命題は、『人と人がわかり合うこと』だったと、脳内ストレージ観測によって埋没しかけていた電気信号が活性化され、想い出の断片を取り戻したことでようやく知ることができた。
人と人が分かり合うこと――それは、世界の調和。
それは、錬金術の深奥たる宇宙の調和――七つの惑星と七つの音階、音楽の調和。世界が調和する音の波動である、統一言語。
人類の相互理解の手段の一つ、既に知っていたそれが、託された命題の解だった。
脳内ストレージ観測による想い出の断片の活性化により、ほんとうの命題を知ると同時に解を持ち得たのは、解になりうる事柄を知っているものの、問題文が不明だったために設問が解けなかった状況だったからだ。
……長年、迂遠な回り道をしていたことになる。
しかし、五百年来に渡る錬金術の研鑽、アルカノイズの開発、パヴァリア光明結社との交渉、オートスコアラーたち、エルフナイン、同化――
今日まで積み重ねた軌跡がなければ、ほんとうの命題と、自分なりのその解にたどり着くには至らなかっただろう。
そして、託された命題の自分なりの解を得る以前と解を得た今とでは、心境は再誕――生まれ直したと言えなくもない。
「切歌さんが言っていました。誕生日は重ねていくことが大事なんです、と。いくつ目の誕生日だったとしてもきっと、それには変わりがありません」
食糧事情や衛生の改善、医療が発達する前の時代、人類は疫病や戦争で大人も子供も皆あっけないほど簡単に、大勢が死んでいた。
生まれてきて今まで生きていてくれたことを祝い、出会いに感謝するとともに、これからも元気でいてくれることを願い、重ねていこうと祈るもの。それが誕生日を祝う由来なのだろう――かつて誕生日を祝ってくれたパパがそう教えてくれたように。
「それと――キャロル、ありがとうございます」
「急に、なにを」
突然の礼に困惑していると、肘掛けに載っているこちらの手に、透き通った幻の小さな手が重ねられる。
「ボクはキャロルに感謝しています。ボクを造ってくれたことに。そして、消えゆこうとしていたボクの命を掬い上げてくれたことに。キミは、ボクにこの世界で生きる機会を与えてくれただけでなく、世界を識るという喜びの機会をも与えてくれたんです……そのお礼と、キミともう一度出逢えたことをお祝いさせてください」
「っ……」
かつて世界を分解して摂理と術理の覆いを外し、万象を記す万象黙示録の完成を目指していたとき、一方的に利用し、使い捨ての挙げ句に殺そうとまでした。
報復を考えないどころか、こちらに手を差し伸ばそうとする。寄り添おうとまでする。
……救われたのは、こちらの方だというのに。
「……好きにしろ」
「……、はいっ!」
蕾が徐々に花開いていくようにゆっくりと微笑んで、嬉しそうに大きく頷くエルフナインが、なんだか眩しくて視線をそらす。
そのすぐ後、エルフナインは、あ、小さく声を上げた。
「そういえば、三月三日はひな祭りの日です。日本では女の子が人形をひな壇に飾ってお祝いするそうです」
「極東の地に赴いてなおも人形に関係するとは、人形とはよくよく縁があるものだな」
シャトーでの労役を果たすため、これまで十一体の廃棄躯体の他に、多数の自動人形たちを使役してきた。
アルゴリズムによるAIがほとんどで、オートスコアラー――ナイトクォーターズは呪われた旋律――歌を受け止めるために必要なヒトの心を擬似的に宿すため、自分の精神構造の一部をベースにそれぞれのAIをデザインした特別製。
長年の生のほとんどを、自動人形たちと共にしてきた。
「あっ! キャロルへのプレゼントを思いつきましたっ」
「……オートスコアラーのひな人形か?」
え!? と驚いた顔を浮かべた後、エルフナインは不満がちに眉根を寄せる。
「感覚共有でボクの心を読むなんて、ずるいですっ」
「そんなことはできないし、せずとも思いつく!」
「うう……プレゼントについてはまた考えるとして……この戦いが終わったら、早速計画しますっ。楽しみにしていてください!」
「そういうフラグを立てるのは、あいつだけでいい……」
祝われるこちらより、どう見てもエルフナインの方が楽しみにしている。
思えばパパもそうだった。
錬金術の研鑽の合間に、研究スケジュールと私財をやりくりしつつ、いそいそとお祝いを用意していてくれたのを憶えている。
かくいう自分も。憶えたてのレシピとささやかな家の備蓄とでせいいっぱい料理を作ってパパの誕生日をお祝いした。
誕生日は、祝われる方だけでなく、祝うほうもうれしいものだった。
それにしても、もうひとりの自分に祝われるというのも妙な気分だった。
エルフナインの誕生日、覚醒した日はいつだったか――
しかし、ともかく。
「全てはまず、神とその企みをどうにかしてからだ」
「はいっ!」
見やったメインモニタには本部潜水艦の外部カメラの中継だろう、朝日の登った東京湾の遠望が環境映像として映されている。
一日が始まる。
神との対峙へ
◇
そんな夢を見ていた。
事ここに至って、意識を手放した最中に見た夢があのときの想い出とは。知らず、思いのほか心残りだったと見える。
虚ろのような、満たされているような。判然としない、けれど凪いでいるような感覚に浸りながら、暗闇の中を自分がどこか深い底へと揺蕩い落ちていくのをキャロルは自覚する。
「世界を壊すはずの歌で、似合わないことをした挙げ句がこれだ……だが――」
悪くはない。
パパの識りたいと願った、エルフナインの生きたいと願った世界を守れたのなら。盾と、なれたなら。
神の埒外物理による物質転換から、二人格の同時並列演算による黄金錬成で装者たちを守り切るには、相当量の想い出が必要だった。
こちらの複製した想い出とエルフナインの一年程度の想い出との総量か、それとも自分自身の全てか――
投げ出されるままに揺蕩わせていた黒い長手袋の手が、不意に健やかな生命力に満ちた手に取られる。
「――どうして!?」
こちらの手をしっかり指組み、疑問と困惑と不安を入り混じらせた表情のエルフナインは、透けて暗闇に溶けゆこうとしているこちらとは違って像がはっきりしている。
エルフナインの電気信号は健在。
もう遠い昔のように思える、翠がかった金の髪の廃棄躯体の姿を見、無事こちらの目論見通りに想い出を焼却せずに済んだと察して内心で安堵する。
「もしものときは二人の想い出を焼却して、明日を取り戻そうと誓ったはずなのに! どうしてっ………!?」
……そう、悪くはない。
惜しむらくは、その場に自分が居られないだろうことか。
想い出も、楽しみにしていた未来の計画も、燃えて脳内の電気信号の藻屑となるよりは、よほど良かった。
「……情けないな……お前の想い出から消えてしまうのが、たまらなく怖くなったんだ」
誕生日はお祝いされる方だけでなく、お祝いする方も楽しみなものなのです。
キャロルちゃん誕生日おめでとう!
キャロルちゃんがエルフナインの想い出から消えてしまうのが怖くなった理由の一つが「翌月に誕生日を祝うことをエルフナインが楽しみにしていたから」だったら、という発想が元のお話でした。
キャロルちゃん再退場で負った傷を自らえぐるような内容を書いてしまい無事自沈。
2/7に金子さんのツイッターでキャロルちゃんの誕生日が3/3と突如明かされ、かねてより下書きしていた某キャラとキャロルちゃんの会話話と地続きの話として急遽、誕生日話を書くことになりました。
その会話話もいずれ書き上げたいと思いますが予定は未定。
その他よもやま話はブログ(http://sizu1885.blog.fc2.com/blog-entry-83.html)にて。
(シンフォギアXV感想、やってました。よろしければ。→http://sizu1885.blog.fc2.com/blog-entry-81.html)