使徒ってそっちの使徒ですか!?   作:かます

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うおおおお温度差アターック!!!!!


第拾壱話 感触、其れは残るモノ

「いらっしゃいませ!ようこそ"マサカの宿"へ!お食事ですか?宿泊ですか?」

 

 雪華とミレディがユエに言われた宿屋に入ると、元気そうな少女が二人に応対してくれた。

 どうやらこの宿屋は食事だけの客も受け入れているらしい。朝食と昼食の間の微妙な時間だったが、ちらほらと客が入っている。

 

「食事で。あと、今宿泊してる中に"ハジメ"って人がいると思うんですけど……」

 

 雪華が返した瞬間、受付の女の子や食事をしていた冒険者達の間にざわめきが走った。

 

「い、一緒にいた二人以外に更に二人も可愛い女の子を囲んでたって言うの!?」

「あの野郎……うらやまけしからん!女たらしめ!」

「くそっ!勝てるビジョンが見えねぇが一発殴らなきゃ気が済まねぇ!」

 

 顔を赤くして妄想爆発している受付ちゃんに、恐らくハジメへの恨みが炸裂している冒険者達。

 まあ、あれだけかわいい子二人も連れてたらこうなるよなぁ……でもミレディはともかくボク?と思う雪華であった。

 

「ここの町の皆さんは妄想力がたくましいねぇ……まあハジメが側から見たらハーレム野郎なのは事実だけど……」

「で、セツと私までそれに数えられちゃってる、と」

 

 今巻き起こっている話題の当事者でありながら、雪華とミレディは冷静だった。

 

「あー、もうそう言うことでいいんでハジメを呼んでもらえませんか?」

「ほ、ほんとにそう言う関係だったの……!?今すぐお声かけしてきますぅ〜!!」

 

 受付ちゃんはそのまま客室行きの階段を駆け上がって行った。

 なお、面倒くさくて雪華が適当にしてしまった返事が、後日噂となって更に面倒なこと(香織の勘違い)を産むことになる。たった一人の宿屋の看板娘から伝播した噂から発展する騒動を雪華はまだ知らない。

 

 

※※※※※

 

 

 程よく昼食の時間も近づいてきたので、雪華とミレディ、降りてきたハジメ、買い物から帰還したユエ、ウサミミ少女の5人で情報共有をすることになった。

 ミレディは雪華の親友とやらは如何程か!とハジメを値踏みするような目で見ており、それをハジメが睨み返すことによって食堂は微妙な雰囲気に包まれていた。

 そのままだと情報共有も何もないので、ミレディの頬を雪華が、ハジメの頬をユエが引っ張ることで無理やり空気をリセットする。

 

「はぁ……ミレディ、確かにハジメはからかいがいのある面白い奴だけど後にして?ハジメも丁寧に睨み返さなくていいから!この子の性格的に思う壺だよ!」

「ひゃ〜い」

「ほいあて、セツは俺のことそんな認しk」

「じゃあこっち側の近況報告から始めるね!」

「………………」

 

 頬をつねられなんとも締まらない口調になっていた二人を放置し、雪華が話し始める。

 

「まずハジメと別れた後にそこまでかからずにライセン大迷宮を発見して、攻略を開始しました!」

「ふむ、峡谷にちゃんと迷宮は存在していたんだな?俺たちはこれから攻略に向かうつもりだったんだがそれなら安心だな」

 

 おおよその立地以外の前情報がほとんどなかったせいで、発見に時間がかかることを危惧していたハジメ達だったが、ひとまずとんでもない隠され方はしていなさそうだと胸を撫でおろす。

 

「攻略自体は6時間強くらいで終わってぇ……」

「ちょっと待て6時間!?」

 

 迷宮踏破までのとんでもないスピードに、いつもそれなりに冷静なハジメが目を見開く。オルクスの難易度を知っているユエも大体同じような反応で、迷宮攻略の経験がなさそうに見えるウサミミ少女だけはあまりその凄さがわかっていなさそうだ。

 

「うん。浮遊とA.T.フィールドでマッピング爆速で終わっちゃって!ゴールわかんなかったからあとはどかーんした!」

「マッピングさせない仕掛けだったはずなんだけどねぇ……」

 

 元気な返事をする雪華に、どこか哀愁を感じさせる雰囲気のミレディ。

 明かされるとんでもない攻略法と先ほどからミレディと呼ばれている少女の反応から、ハジメは一つの可能性に思い至る。

 

「……なあ。勘違いだったら申し訳ねぇんだが……お前って解放者の一人のミレディ・ライセンか?」

「ご名答!さっすがセツのご友人、観察眼も優れているようで!」

 

 今度はハジメがため息をつく番だった。自分がそれなりにチートしてる自覚こそあったが、その上をいくチートな迷宮攻略に、その主人まで懐柔しているときた。

 喉元まで出掛かっていた『テンプレチーレム野郎とか言ってたけどお前も大概じゃねーか!』と言う言葉を本人の手前なんとか飲み込んだ。

 

「元々ミレディはゴーレムに魂を定着させてたんだけど、オルクス攻略中のどこかで手に入れてた生命の実を渡したらこうなっちゃった☆」

「ちゃった☆」

 

 息までぴったりである。ただ、一緒に決めて別れたとはいえたった一人で旅に出る雪華をハジメは少なからず心配に思っていた。

 相性の良い仲間を見つけられたことに安堵の息が漏れる。

 

「ひとまずセツが楽しそうで良かったよ」

「ありがと!」

 

 その後も、ちょくちょくミレディによる注釈が入りながら雪華の説明は続く。

 一緒に迷宮を改装したこと。浮遊、A.T.フィールドを練習し、ミレディも見事それをものにしたこと。今は一回クラスメイトの誰かか先生に顔を見せたくて町に出てきたこと。

 なお、迷宮改装のくだりを聞いたハジメは若干苦い顔をしていた。

 

「なあ、俺の耳がおかしくなければなんだが……セツお前、"改装"って言ったか……?」

「ん?うん!ボクのアイデアも混ぜて迷宮の難易度上げといたよ!」

「そんなこったろうと思ったよ!」

 

 "修復"ではなく"改装"。単語一つの違いだが、意味は全く異なる。

 ただでさえ話しぶりからして性格が悪そうな迷宮に現代知識トラップが加わったことに、ハジメは減ったはずの不安がぶり返してきた気がした。

 

「そ・れ・で〜?ハジメくんも隅に置けませんね〜!迷宮出たら早速新しい女の子連れちゃって!このモテモテ朴念仁さんめ!」

「え?セツの中の俺ってそんなイメージだったの?」

「え、うん」

 

 バッサリである。事実雪華は、香織の知名度がもう少し低ければやっかみもなく、ハジメはモテる側の人間だったろうなと思っていた。

 

 さて、雪華の説明も終わったので今度はハジメのターンである。

 待機時間がほとんどであまり動いた訳ではなかったので、彼の説明はすぐに終わった。

 

「なるほど、被差別階級の中で更に追放された兎人族、亜人の案内がないと行けない迷宮、そしてそこの攻略に必要な資格……うーんテンプレファンタジー!めっちゃ楽しそう!」

「うん、まあそう言う感想になるとは思ってた」

 

 Web小説等も大好きだった雪華はハジメの辿った冒険の道筋をとても楽しそうに聞いていた。中でもケモミミ種族である亜人族に関するところでは身を乗り出しそうな勢いであり、それを見て若干不機嫌そうなミレディに頭を引っ叩かれるなどしている。

 

「それで……シアちゃんだっけ!改めて自己紹介させてもらうと、私は柚希雪華!ハジメの親友だよ!よろしくね!」

「は、はいぃ!シア・ハウリアと申しますっ!は、ハジメさんとはいつも仲良くさせていただいておりぃ……!」

 

 雪華がにこやかに差し出した手を、恐る恐るといった様子でシアは握り返した。

 情報のすり合わせに、新たな仲間たちのファーストコンタクト。これらのイベントは、円満なまま終了した……と、思われていた。

 

「あ、そういえば雪華。一個質問がある」

「ん?どうしたの?」

 

 突然のユエからの問いかけに、雪華は手を握ったまま聞き返す。

 

「私たちが別れたあと、荷電粒子砲を撃った?」

「んー?………あぁ〜!撃ったね!なんか唐突に腹が立って!」

「やっぱり雪華だったんだ。すごい的確な狙いだったよ。そこのウサギがぺったんこって言ったと思ったら、その直後に完璧に頭上の岩が撃ち抜かれてびっくりした」

「………ほーう?」

 

 雪華の手に突然力が入り始める。今にも相手の手を握りつぶさんという勢いにシアは慌て始める。

 

「ちょ、ちょっと雪華さん、あの、別にあの時あの場にはいらっしゃらなかったでしょう!?ちょいた、やめ!」

「ん〜?そうですよ?実際いらっしゃいませんでしたし、私はそういうの特に気にするタイプじゃないですから?」

「いやそれ絶対気にしてる人の反応じゃないですか〜!!!」

 

顔は笑っているけど目が笑っていない雪華に、全員が首にナイフを当てられているかのような恐怖を感じた。

 ハジメ、ユエ、ミレディ、そして受付や周囲の人々は実感する。『この子に胸の話をしてはいけない』と。

 

「これ以上は手が、やめてくだ、ぎゃ〜!!!!!」

 

 "マサカの宿"に、情けないシアの悲鳴が響き渡った。

 

 

※※※※※

 

 

 同じ日の夕暮れ時には雪華とミレディは既にブルックを離れ、次の場所を目指していた。

 会ってすぐと言うのもあり、慌ただしい再会と別れになってしまったがお互い目的のために旅をしている身。急ぎでこそないが動ける時に動くべき、という判断からの行動だった。

 

 次なる目的地は、湖畔の町ウル。ハジメを介してギルドで聞いたところによると、現在農地改革のために各地を回っている愛子先生と一部の護衛生徒たちが次に目指しているのがウルなんだそうだ。

 今から行けば、先回りする形になるのですれ違うこともなく会えるだろう、とハジメは言っていた。

 

 雫やメルド団長の様子も気になってはいたが、彼らはまだ【オルクス大迷宮】攻略中で王都と迷宮入り口の町ホルアドを行ったり来たりしているらしい。

 ならば居場所が分かる人よりも、各地を行き来していて捕まえにくそうな方から会いに行こうと雪華は考えたのだ。

 

 と言った経緯で、今二人はブルックから中立商業都市フューレンへと続く道を歩いている。

 フューレンは商業都市と冠するだけあって、この大陸の商業の中心を担う大都市だ。

 ウルの町へ向かう際の直接的なルート、と言うわけではないが、フューレンを介するルートの方が比較的道が整備されていること、そして何より旅に出ているんだから観光っぽいこともしたいと言う雪華の意見にミレディも頷いたが故に、この道を選択した。

 

 今回は整備されたルートを選んだので、すれ違う旅団や行商人、冒険者が時々いる。彼女らの最速移動手段は大変目立つので、徒歩での移動となった。

 しかし休息の頻度も時間も一般より少なく済む彼女らの歩みはその歩幅を加味しても速い。本来6日かかる距離だったが、4日程でフューレンの手前まで辿り着くことができた。

 

 さて、今は夜。町は目と鼻の先……と言えるほどは近くないので、一旦休憩。焚き火を起こし、二人は星を見ながらゆっくりと過ごしていた。

 日本の、それなりの都会に暮らしていた雪華から見れば、こういった満天の星空は珍しいもの。転移後何度か見てはいたが、その美しさに対する感動はまだ薄れておらず、未だ新鮮に感じられた。

 隣にいるミレディは、目を星のように輝かせる雪華を和やかな目で見つめている。

 

「セツも飽きないね〜、毎日やってるじゃん」

「えへへ……でも、ボクらの住んでたところだと明るすぎて星なんて見えなかったから……」

「星空が見えなくなるくらいの明るい世界か……ちょーっと私にゃ想像つかないなぁ」

 

 生まれも育ちも違う二人がの間に流れる緩やかな時間。出会ってまだ二週間も経っていないだろうか。そうとは到底思えないほど雪華も、ミレディも、お互いの背中を預けて安心しあっている。

 

「……こんな風に、ずっと平和だったらいいんだけどなぁ」

「……そうだねぇ」

 

 叶うはずもないことを知っていたからだろうか。二人の言葉からは、どこか諦めのようなものが感じられた。

 

 さて、朝になれば再び歩き始めるのだからしっかりと休む必要がある。全部S2機関頼りでは精神的によろしくないのは雪華が身をもって実証済み。順番に監視をと言うことで、今日はミレディが先にテント(ハジメ謹製)に入ることになった。

 パチパチと目の前の木々が燃え、ひんやりとした風が頬を撫でる。夜行生物の鳴き声や森のざわめきにより、辺りは薄暗くもどこか賑やかだった。

 

「…………お兄さんら、ツレが寝てるしちょ〜っと静かにして欲しいかなぁ?」

 

 雪華が、何もないはずの背後の木立に向けて声をかけた。……いや、厳密に言えばそこには何かがいた。動揺したのだろうか、雪華の声に呼応するように息を呑むような音がする。

 諦めたのだろうか、5人の男が隠れるのをやめて出てくる。威圧するように腕を組みながら、リーダー格と思しき一人が近づいてきた。

 

「お前、隠密スキルを貫通するとは。斥候職でも持ってんのか?」

「ん?違うけど?ふふ、武器すら構えないで近づくなんて、舐められてるなぁ」

「あぁ?女一人に何ができるってんだよ。そこの寝所?もせいぜい入るのは二人くらいだろ?」

「うんうん、まあ別にこっちをどう思おうとどうでもいいんだけどさ。うるさいし静かにしてくれない?」

 

 男達……いや、もう言い換えてしまっていいだろう。盗賊達にざわめきが走る。大方のんきに街道沿いで野宿している二人をカモだと思ったのだろう。人数も圧倒しているし、奪って、楽しんで、あとは殺すだけ。楽な仕事だ。

 だと言うのに……男5人相手にも強気なこの少女は、一体なんなんだ?

 

「で?モノ目的?身体目的?」

「両方だ。お前こそこちらを舐めているだろう。つべこべ言わずに投降すれば命だけは……」

「ふむ。こちらに危害を加える意思あり」

「何ゴチャゴチャ言って……」

「だからー、静かにしてってボク言ったよね?」

 

 刹那、男達全員の首にシャムシエルの触腕が絡みつく。予備動作もない、音すら聞こえない意識外からの攻撃に全員が驚愕の表情をした。

 

「ほら、こっちは休んでるとこなの。ね?」

「て、テメェ!こんなヒモちぎって……」

「うーんダメか」

 

 彼らの首がその場で飛んだ。文字通り、唐突に、飛んでいった。

 寸断された断面からはどくどくと赤い池が形作られ、拠り所を失った大きいばかりの胴体がばたり、ばたりとその場で倒れ伏す。

 

 それを成した雪華はと言うと……予想以上に凪いでいた自分の心に驚いていた。

 

 平和な国の法律が通じない世界にやって来た以上、いつかは自分も手を血で染めることになるとは思っていた。

 覚悟ができていたかは……わからない。でも、実際に誰かを殺したはずなのに揺れない自分の心をちょっと気持ち悪いと感じた。

 

 ただ、何をするでもなく、自分の手を開いて、閉じて、その様子を見続ける。こうしていたら何かを感じ取れるような、そんな気がしたから。

 

「セツ」

 

 振り返ると、いつの間にテントをでたのだろう、ミレディが立っていた。

 心配そうな顔、心配そうな瞳を、雪華に向けている。

 

「……ああ、ごめんミレディ!起こしちゃった?いや〜、盗賊とはいえ殺しちゃったのは短絡的だったかなぁ、でもどうにかしておかないとこっちが犯されそうで……」

「セツ」

 

 雪華の言葉を遮るように発せられたミレディの声からは、先ほどの視線以上の心配さと、少しの怒りが読み取れる。

 

「大丈夫?」

「……?うん、攻撃される前に全部終わったし、どこも傷ついちゃ……」

「違う」

「えっ、と、」

「だってセツ、泣いてるから」

「へ?」

 

 頬に手を当てると、一筋の涙がこぼれ落ちていた。それは止まることを知らないかのように流れ続け、勢いすらどこか増しているように感じた。

 

「セツがこっちに来てから殺人を経験してないことは予想してた。そして、いつかはすることだと無理やり飲み込もうとしてたことも」

「あっ……えっ……」

「たくさんセツの住んでたとこの話を聞いた。どんな生活してたかを教えてもらった。普通に暮らしてたら人殺しなんてしないでいいはずだって言うのも、簡単に分かった」

「………………」

「抱え込まなくていいんだよ。吐き出していいんだよ。ほら、こんなナリだけど一応何千年かは生きてる訳だし?反逆者なんだから、最初の()()の辛さも経験済みだからさ」

「ぐっ、うぅっ……」

 

 いつもの飄々とした態度はそこにはなく、ただただ優しくて、それでいて苦しそうな笑顔だけがあった。

 

「ほら、あなたの旅の同行者はそんなに頼りなかったかな?」

「違う、違うぅ……!」

「私も……こんなことさせちゃってごめんね?」

「違うぅ……!」

「ねぇセツ。いいえ、雪華。私、あなたの事が好き。まだ会ってから全然時間は経ってないけど、その真っ直ぐなところと、人のために頑張れるところ、すごいと思う」

「うぅっ、うぁぁ………!!!」

「だからさ……あなたの隣で、あなたのことを支えさせて欲しい」

 

 動物の声と、森のさざめきだけが響いていた森に、少女の泣き声がこだまする。

 

「私ね、まだちょっと猫被ってた。あなたと旅に出たいとは言ったけど、もしかしたらあなたが私の思ってたのとは違う人で、道が分かれるかもしれないと思ってた。でも、あなたは思ってた通り本当に真っ直ぐで、普通の女の子で。そういうとこに、惹かれた」

「うん………うぁぁ………!」

「雪華が好き。雪華の前なら、私は取り繕わずに自分が出せるし、だから雪華にも……頼って、欲しい」

 

 数千年もの間、自分の目的のために孤独に耐えていた少女は。自分の力で、反逆を成そうとしていた少女は。やっと、拠り所としたいところを見つけた。

 自分の力で大切な人を守るということに、どこか固執していた少女は。抱え込むことが全てだと思っていた少女は。やっと、誰かと協力するということを理解した。

 

 ヒトが生きていくために大切な"頼ること"を。この時、二人の少女は、識った。

 

 

※※※※※

 

 

 翌朝雪華が起きると、テントの布団に彼女は寝かされていた。ミレディは何か外でしているようで、ゴソゴソと音が聞こえてくる。ぼんやりとした頭が覚醒するにつれて、昨晩何があったかが徐々に明瞭になってくる。

 昨日の夜。雪華は初めての殺人で感情が決壊、同行者の少女の胸を借りて泣き明かすなどした。

 

 経緯が経緯だったがために、涙を流した恥ずかしさ、というのは特に感じない。そして右手を握れば、鞭越しだったとはいえ、未だあの時の感触が思い返される。今度は、涙はこぼれなかった。

 

「おはよ、セツ。起きた?」

 

 テントの入り口を捲って、ミレディが顔を出してきた。焚き火の方から美味しそうな香りが流れてくる。どうやらスープを作ってくれたようだ。

 

「どう、もう大丈夫?朝ごはんにしていいかな」

 

 変わらずに……いや、前よりもかなり柔らかい態度で接してくるミレディ。違和感はない。態度の変わった彼女に雪華が感じたのは、言いようのない安心感だった。

 

「ありがとう、大丈夫。えっと、昨晩は……」

 

 そう言ったところで、ミレディの指が雪華の口を塞ぐ。

 

「ごめん、って言おうとしてるならいらないよ」

「んぐ……分かった……」

 

 その後、朝食を取る二人の間に会話はなかった。だが寄り添って匙を口に運ぶ二人はどこか満足げで、そして、通じ合っているかのようだった。

 

 朝食が終われば、あとは野営地を離れて次なる町を目指すことになる。盗賊の死体は土に埋められ、二人は一瞬そこに手を合わせた。

 

 彼女らが野宿していた地点は街道そばの少し開けた空間だった。10秒も歩けばもうそこは道で、言葉もなく二人はフューレンに向けて歩き出す。

 

 雪華はあの感触が忘れられないでいた。人の首に鞭を絡み付ける、その瞬間の肌の温度。鞭を締め、生き物を寸断するその感覚。頬に飛んできた、血の匂い。

 右手が開いて、閉じる。開いては、閉じる。呼吸が浅くなり、心臓の鼓動が加速していき……それらが、落ち着いた。

 

 今右手に感じられているのは、こちらを優しげな顔で見る、ミレディ。その左手の柔らかい感触。

 自分の隣に誰かがいること。その安心感に助けられ、雪華はまた、次の一歩を踏み出せた。




本当は後半みたいな重ための文体が得意
それはそれとしてありふれ原作作品はもう少し明るい文体が合うのは承知しているので、大事なシーン以外ではやらない(決意)
ハジメくんは割と簡単に通り抜けちゃった最初の殺人だけど、実際あんな軽くは済まないよね〜ってお話でした
盗賊達は百合のダシです

なおミレディの性格云々に関しては零を一周だけ読んだ作者の独自解釈が多分に含まれています
ご了承ください
手元にあれば参照するんですけど、実家に置いてきちゃってね……
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