使徒ってそっちの使徒ですか!?   作:かます

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抱けっ!!抱け〜!!抱け〜!!


第拾弐話 心の壁

 A.T.フィールドとはなんぞや。

 新世紀エヴァンゲリオンシリーズ内に置いても防御、攻撃と多様な目的のために用いられ、途轍もない効果を発揮していたそれだが、その本質は"拒絶"にある。

 

 強い拒絶の感情を発露させることにより、外部からの攻撃を十全に防ぐことができる。

 強い拒絶の感情を振るうことにより、外敵に対する有効打となる。

 その拒絶を拒むことにより、「侵食」という形で敵の心理的防壁、物理的防壁を破ることができる。

 

 作中でおおよそ行われていたのはこういった使用法だ。

 

 要するに、A.T.フィールドとは"拒絶"で理由付けてやれば大体何にでも応用できるトンデモ技術であり、それを生身で用いることこそが使徒を使徒、要するに準完全生物たらしめていると言えるだろう。

 ……というのが、雪華の今までの作品知識を元に二人で考察したA.T.フィールドの正体である。

 そして外見的に嫌悪感が強かった昆虫タイプの魔物に対する防御が普段より堅かったことから、おおよそこの"拒絶"をベースとした考察は間違っていないだろうと二人は結論付けた。

 

 拒絶すれば大体なんでもどうにかなるとなればこれほど便利な事はない。そんな発想からミレディが言及したのは、拒絶してしまえば、検問やこちらに対する認識を起因とする厄介ごとが解決できてしまう可能性だった。

 ミレディの提案は雪華にとって目から鱗であった。召喚前の作品知識に引っ張られ、防御、もしかすれば攻撃に、くらいしか考えていなかったのだ。これが実現できるとしたら革命的である。

 

 そして試行錯誤の末……実際にそれは果たされてしまっていた。

 

 やっていることは簡単だ。周囲の相手からの関心を"拒絶"してやった。

 フューレンの門衛はこちらを認識し話しかけてくる仕事上のルーティーンこそこなしたが、こちらに関心がないので勝手に通行しても何も言ってこなかった。

 冒険者協会に言って適当に道中倒した魔物の魔石を売ったりしてみたが、冒険者登録する気がないのはおろか、ステータスプレートを見せたくないことにすら応対した職員は「ふぅん」で済ませてしまった。

 顔を隠さず外を歩いていても、ギルドのカフェコーナーで周囲に聞き耳を立てていても誰も気にしない。今までに人混みで感じて来たような、こちらを品定めするような男たちの視線も一切ない。

 

 あまりにも凶悪である。こちらに興味関心を抱かせなければ、厄介ごとも何もない。

 研鑽の足りない今でこそ範囲を指定できないし、雪華とミレディのように関係が深ければ流石に突破されてしまうし、元々あった関心を消せるわけじゃないから自分達を探そうとしてる人にはおそらく突破されてしまう。

 

 だがそれがどうした?

 ここは異世界。写真もなければSNSもない。雪華を探している人物が彼女の顔を正確に知っている可能性は低いし、そもそもフードで顔もあらかた隠してしまっている。

 目立てない、目立ちたくないという懸念点を文字通り無くしてしまったこの技術は、二人に安穏な旅路をもたらすこととなった。

 

 さて、このようにして"外の目"をどうにかすることができた二人だったが……もちろん、A.T.フィールドを以ってしても防げないことがある。

 

 フィールドを貫通するような火力の攻撃?それとも既に彼女らを知る者の視線?

 もちろん、それらはフィールドでは防げないし、対策が必要になるかもしれない。

 だが今問題となっているのはそれらではない。

 

 ───────お互いの感情である。

 

 雪華はこの世界に来て覚醒した時からA.T.フィールドを用いており、扱いに習熟している。

 ミレディも、触っていた期間こそ短いが、持ち前の頭脳と永い経験からとんでもないスピードで技術を伸ばしている。

 

 二人はフィールドを用いて、周囲の意識を制御する術を得た。これは裏を返せば、研鑽次第で相手の心理へと入り込むことができる可能性すらある、ということだ。

 そして、A.T.フィールドは拒絶の力である。相手への隔意があればあるほど強く働き、相手を拒絶できないとその力は弱くなる。

 

 雪華とミレディはお互いのフィールドを知っている。

 雪華とミレディはお互いを良く思っている。

 雪華とミレディは……お互いを、受け容れ合っている。

 

 ここにきて、道中にあった告白紛いの出来事だ。

 今現在、中央付近の高級宿の一室にて寝所を共にしている二人の顔は誰がどう見ても真っ赤だと言えた。

 

 なんとなく、わかってしまうのだ。雪華のことをミレディが本当に好いているということを。

 なんとなく、わかってしまうのだ。ミレディの真っ直ぐな好意で、雪華もまた彼女へ好意を抱き始めたことを。

 

「………………」

「………………」

 

 大きなベッドの上、背中合わせの二人は目を瞑ってなんとか眠りに就こうとしていた。

 

 外で活動していた間は良かった。他にやることがあって、思考もそちらに向かっていたからだ。お互いへの好意が表層まで上がってくるとはなく、それを見られることもない。

 しかし今はどうだ。行程は終わり、本来頭の奥に潜んでいた感情を表へ出す余裕がある。そして、それは相手に見えてしまい、自分も相手のそれが見える。

 

 どちらともなく雪華とミレディは寝返りを打ち、向かい合うような姿勢になった。

 言葉は必要ない。目と目を合わせるだけでお互いの気持ちが、やりたいことが伝わってくる。

 読み取れるなら逆もまた然り。ここまできて二人は自分の気持ちを相手に曝け出すことにしたのだ。

 

 二人の、ほんの少しばかりあった距離が短くなっていき……そして、零になる。

 身体と身体が密着し、お互いの目しか見えないほどだ。

 

 沸騰しそうなほど熱の篭った頭のまま、二人はお互いの唇を啄み始めた。しばらくの交差ののち、合わせるだけでは足りなかったのだろう、繋がるような深いキスが始まった。

 一番簡単で、一番濃い接触は二人の心をしっかりと繋いだ。

 

 気持ちを伝え、思いを通じ合わせる大切さを二人が識った次の日の夜。

 旅する二人の少女は、一等深いところで溶け合った。

 

 

※※※※※

 

 

 フューレンの街を二人の少女が手を繋いで歩いている。しなやかな白髪とふんわりとした金髪の対比が美しい彼女たち。何もしなくても目立つ容姿だ。

 俗に言う恋人繋ぎで繋がれた手と、あまりにも近い二人の距離が、その関係性が姉妹、友人同士ではないことを示している。

 

 相手の認識を防ぐ術を持つ彼女たちだったが、イチャつくのに集中して気が抜けているのだろう。うまく発動されない時間が生まれていた。

 かわいらしさもあって周囲の目を大いに集めてしまっている。

 

 だが"百合の間に挟まろうとする男"はこの世界でも極刑に値するようで、自浄作用により彼女らに声をかけることが叶った軟派男はいなかった。

 

 あんなに熱い夜を過ごした上に、その直前まで若干ギクシャクしていた雪華とミレディだったが、今は特段恥ずかしがる様子もない。

 想いが完全に通じ合って恥ずかしさを克服した……と言えば聞こえはいいが、実際のところはただ開き直っただけである。一度スイッチが切れれば二人の顔はまた茹で蛸のように真っ赤に染まることだろう。

 

 これが標準だ、元々こうだったと言わんばかりの自然体でイチャイチャしている二人。その日の喫茶店では苦いお茶の注文が相次いだと言う。砂糖を扱う商人も売れ行きが落ちたことを嘆いたらしい。とんだとばっちりだ。

 

 そんな風に仲睦まじく歩く二人の目的地は街の外へと通じる門だ。都合一週間ほど滞在しゆっくりと羽を伸ばした雪華とミレディ。時間はあるとはいえそろそろウルの町に向かっておきたい。

 多少名残惜しくはあるが、観光に食事、ショッピングと街でできる楽しいことは一通り試した。時間的にも、状況的にもちょうどいい頃合いだった。

 

 検問を通り抜け、北側にあるウルの町へのんびり街道を進む雪華とミレディ。

 どうやら目的地はそこまで大きい町ではないらしく、人の行き来も少ないらしい。街道とは名ばかりの人と馬の足で均された道がずっと続いていた。

 

「セツはその、愛子先生と会ってどうするの?」

 

 手持ち無沙汰になったミレディが雪華に問いかける。ミレディは雪華が教会を警戒していることをよく知っていた。そんな状況下でクラスメイトらと関わりを持つことは少々リスキーに思えたのだ。

 

「安否を知らせるのが主目的かな。教会とかのことを考えるとどうなのって言いたかったんでしょ?」

「そうだよ〜」

「まあ、リスクはあるけどね。飛び出してっちゃった時にさ、ボクは書き置き以外なーんにも残さなかったのよ。今よりうんと考えなしだったとはいえ、ちょっと不誠実だったじゃない?」

 

 困り事があるがまだ子供なので、先ずは信頼できる大人に頼ってみる。問題にぶつかったら最初にやるべきことで、かつての雪華にはできなかったことだ。

 自分の身を守らねばという焦燥感と、力が芽生えた全能感に流されて愛子先生とメルド団長に不誠実な対応をしてしまったことを雪華は悔いていた。

 

「ケジメつけようってアレね」

「そゆこと」

「てことは愛子先生とやらと話したら、次はメルド団長?のところに行くのかな?」

「せいか〜い。ついでに神山の攻略もしたい」

 

 神山とは王都近郊に存在する七大迷宮の一つ。どうせ王都に向かうならしばらく再訪せずとも良いようにしたいと考えたのだった。

 

 少々リスキーと言える行動の理由と今後の旅の予定。それらがはっきりしたことで、ミレディも納得の表情を浮かべていた。

 

 さて、緩やかに会話をしつつも、浮遊状態で高速移動する二人とウルの町の距離はぐんぐん縮んでいる。そもそもこちらを意識させないことができるので、誰かに見られることを警戒する必要すら無い。

 その甲斐もあって、2日もすれば彼女らは目的地へと辿り着くことができていた。

 準備は整った。あとはやってくる先生一行を待ち受けるのみである……。

 

 

※※※※※

 

 

 湖畔の町ウル。その名の通り近くに大陸最大の湖"ウルディア湖"を擁し、水資源が豊富なこの町には稲作が盛んという特色がある。

 恵まれた環境の町だが、やはり王都からの距離というデメリットは無視できない。できることの多さの割には人口や人の行き来が少ない、といった評判の町だった。

 

 突然異世界に召喚されたクラスの担任、畑山愛子はそんな場所へ農地改革という使命を帯び一路馬車に揺られていた。

 護衛の騎士や生徒たちは同乗していたが、ここまでの長い旅路で話題が尽きたのだろう、会話はそこには存在しない。各々ぼんやりと外の景色を眺めたり、その場で眠りこけている者が大半だった。

 

 そんな誰にも邪魔されない時間に愛子がいつも考えているのは、安否の分からない二人の生徒のこと。

 一人は、南雲ハジメ。事故により奈落へ落ち、恐らく死んでしまった生徒。彼女は生徒を守る立場ながら、自分の立ち会っていない所で悲惨な事故が起きてしまった事実をひどく悔やんでいた。

 もう一人は、柚希雪華。大人たちが頼りないばかりに、一人でどこかへ行方をくらませてしまった生徒。一番近しい大人なのに、彼女の心配事に気づいてやれなかったことが愛子にとって心残りだった。

 

 油断していたのかもしれない。浮かれていたのかもしれない。こんなことになった原因として思い当たることは数多かれど、それを挙げて大事な生徒が戻ってくるはずもなく。

 近頃の彼女は後悔によって心をすり減らしてしまっていた。

 

「愛子様、ウルの町に到着しましたぞ」

 

 護衛の神殿騎士が声をかけてきて、彼女は思考の海から帰還する。近頃はこうして思い悩み、誰かに声をかけられるまで気づかないことが多かった。だがそんな状態でもやるべきことは容赦無くやってくる。

 

 ……到底仕方ないで済ませて良いことではないが、今は自分の職務をこなさなければならないというのも事実だ。

 相変わらず晴れない心を無理やり奮い立たせ馬車を降りた愛子。その目に入ってきたのは……一瞬信じられない、そして願ってやまなかった光景だった。

 

「……先生、お久しぶりです」

 

 一瞬、幻覚を疑った。王宮内、神殿内において、一部の危機感のない生徒(勇者くん)を除き雪華の生存については諦めている者が多かったからだろう、愛子自身も彼女が未だ元気だとは到底思えなかった。そんな彼女が、目の前に、いる。

 

「雪華さん……?柚希雪華さんですよね……?」

「…………はい。黙って抜け出しちゃって、本当にごめんなさい」

 

 足の力が抜け、ふらふらとその場に崩れ落ちてしまう。

 何をしていたの?どうしてここにいるの?なんで相談してくれなかったの?

 さまざまな言葉が脳裏に浮かんでは過ぎ去って行く中、やっと口から出てきたのは。

 

「良かった……生きててくれて、本当に良かった……!」

 

 心の底からの、安堵だった。

 

 

※※※※※

 

 

 "水妖精の宿"はウルきっての高級宿だ。今回愛子先生一行が滞在中に宿泊する宿であり、雪華達がたまたま取った宿でもある。

 久方ぶりの米料理に舌鼓を打ちながら、雪華は愛子に今までの旅路を説明していた。周囲ではクラスメイト達が興味深げに聞き耳を立てている。

 

「では……ハジメくんは生きているのですね!?」

「はい!」

 

 雪華より更に生存が絶望的だったハジメが生きている。この情報に先生並びにその場にいたクラスメイト達は一斉に安堵の息を漏らした。

 

「ハジメもボクと同じく武者修行だ〜って今頃あちこちをフラフラしてると思います。ボクから見てもまあ死ぬことはないだろうなってくらい強くなってたし、無責任ですけど、いつか元気な顔を見れると思いますよ」

 

 現在のハジメに関しても、ところどころぼかしながら説明する雪華。まあ無理もない。何も考えず迷宮深部での出来事や解放者について説明しても、雪華が錯乱を疑われるのが関の山だろう。

 そしてハジメの生存という情報にホッとしていた一同だったが、雪華のこの彼の現在についての説明には懐疑的だった。まあ無理もない。彼はクラスで唯一の非戦闘系転職だったからだ。

 

「まあ、信じてもらえないか……。ただ一応言っておくと、ボクは親友を裏切るようなくだらない嘘をつく人間ではないつもりですよ」

「あっ……!い、いえそういうつもりではないんです!ずっと最悪を想像していたことが一瞬でひっくり返ってしまって、なんだか現実味がなくてですね……」

「あ、別に怒ってるわけではなくて……!」

 

 少しムッとした雪華に対し、慌てて返す愛子先生。更に慌てる雪華。

 召喚前の教室を思い起こさせるような慌てっぷりのいつもの愛子ちゃんと雪華に、クラスメイト達はどこか懐かしい気持ちになった。

 

「それで……さっきからずっと気になってたんですけれども。雪華さんの腕にしがみついている女の子は一体……」

「あー……聞いちゃいます?」

 

 本来なら生徒と先生のみで交わされたはずの会話に、何故か参加している者があった。

 そう、こうやって話している最中もずっとふんわりとした金髪を後ろで結んだ可愛らしい少女が雪華にくっついていたのだ。

 愛子も生徒達も、おおよそ旅の中でできた仲間かな?と思って途中までは突っ込まずにいたが、一番大事な話が終わったらそこに興味が向くのは当然のことだ。

 

「ボクの恋人です……」

「セツの彼女のミレディで〜す☆」

「「「「「えぇぇぇぇぇぇ〜!?!?!?」」」」」

 

 阿鼻叫喚。今の状態を一言で表すとしたらその4文字が適切だろう。愛子と生徒達は混乱の渦に叩き込まれた。

 

 あの雪華ちゃんに恋人が!?旅の仲間じゃなかったの!?しかも相手は女の子!?えっもしかして雪華ちゃんって男の娘だった!?

 乱痴気騒ぎとも言えるほどに騒がしくなったその場を手を叩くことによって雪華はなんとか治める。

 

「えーと、まずボクはちゃんと女です!それとあの雪華ちゃんにってなんですか失礼な!」

 

 ごもっともである。転移後ご無沙汰だったところに降って沸いた恋バナに盛り上がるのはしょうがないが、盛り上がり方が失礼だったせいで雪華はその場で拗ねてしまった。

 

「いいもん、ボクのことはミレディだけがわかってくれてたらいいし。あとハジメ」

「そこは恋人の手前嘘でも私だけって言おうよ」

「………ごめん」

 

 ミレディと名乗った少女の腕に潜り込んで頭を擦り付ける雪華に、それを優しく撫でるミレディ。唐突に発生したお砂糖空間に彼女らはウゲーとしつつも納得する。ああ、彼女らは本当にお互いを好き合っているのだと。

 

「まあ、先生が生徒の恋路につべこべ言うのも無粋というものです、ええ。ちゃんと避妊……はいらないんでしたね……。えっと、何を注意するべきか……」

「……何もないならないでいいんじゃないですかね」

 

 相変わらずの愛ちゃん先生(ポンコツ)っぷりである。

 だが近頃塞ぎ込んでいた彼女が気の抜けた様子を見せてくれたことは本当に久しぶりで、彼女に付いていたクラスメイト達はこぞって胸を撫で下ろした。

 

 騒がしくも、優しい夜はこうして更けていく。

 この日愛子は、異世界に来てから初めて心の底から安心して眠ることができた、らしい。




日間二次創作ランキングに一瞬いたらしいです
嬉しい

おかげさまでUA30000、お気に入り475と投稿再開時に比べてかなり伸びてくれました
ひとえに皆様のご愛顧のおかげです
ありがとうございます
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