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眩い光につい目を固く閉じていた雪華は周囲からのざわめきを感じて恐る恐る目を開けた。時を同じくして目を開けたのであろうハジメと顔を見合わせると、警戒を断たずに辺りを見渡す。
全く知らない場所だった。巨大で、尚且つ精緻な彫刻の施された柱に支えられたドーム状の天井に、真っ白な大理石の床。巨大な宗教施設の神殿をも思わせる空間はどうやら広間のようで、壁の一つに飾られた金髪の中性的な人物が両腕を広げた一枚の肖像画が存在感を放っている。
雪華たちはその最奥に位置する台座の上にいるようで、周囲には呆然とするクラスメイトやへたり込む香織、そしてそれを見てほっとした様子のハジメが見て取れた。雪華は再びT◯itter(以下略)の顔になった。
そしてクラスメイト達のさらにその周囲に、三十人近い法衣に身を包み台座に向かって跪く集団があった。衣は白地に金糸で刺繍がなされており、彼らはもれなく傍に銀色の
中でも特に装飾のされた法衣を纏い豪奢な錫杖を握った老人……少なくとも70歳にはなっていそうなのにも関わらず芯の通った立ち姿の人物がこちらに歩み寄ってきた。
頭に載せた烏帽子が目立つ彼は、やはり年格好の割に通った声でこちらに語りかけてきた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、よろしくお願いいたしますぞ」
イシュタルを名乗る老人はそう宣うと何かを孕んでいそうな微笑を浮かべ、未だ状況が掴めず慌ただしい生徒達を別室へと促した。
いくつもの長テーブルと椅子が置かれたその部屋はやはり煌びやかで、中世ヨーロッパを思わせる造りをしている。凝らされた意匠から明かに高級品で、並の職人なんぞでは造れないであろうクラスの品が並ぶ部屋であった。恐らく、晩餐会や国賓レベルの重要な客を招くための施設なのだろう。
上座に近い方に先生や光輝含むスクールカースト上位陣が座り、雪華やハジメは最後方へと向かう。こんな時というのに雪華はわざわざ上座と対になる位置に陣取ってゲンドウポーズ(注釈:両の肘を机に載せ顎の下で手を組んだ姿勢。ググれ。)を取った。ハジメは普段と様子の変わらぬ親友に若干呆れた顔をした。
大変な状況だというのに生徒達がそこまで恐慌にも陥らずに済んでいるのはまだ彼らが状況を上手く飲み込めてないからだろう。イシュタルの事情を説明するとの言や、光輝の溢れんばかりのカリスマ力も理由の一つかもしれない。仕事を奪われたどころか生徒よりも統率力がない事が露見しかけている愛子先生は涙目であった。
全員が着席すると、示し合わせたかのようなタイミングでカートを押す給仕の女性達が入ってきた。要するにメイドである。
ガチの美少女メイドさん達だ。地球産のエセメイドや史実の夢が壊れそうなものとは違い、全員が整った顔立ちとナイスバディを持っている。雪華はそのプロポーションからなる巨大な胸部装甲を複雑そうな顔で見ていた。
当然男子生徒達の多くもメイドさん達に視線が釘付けなのだが、つい自分のところに飲み物を給仕してくれたメイドさんを凝視しそうになったハジメは突然脊髄まで凍りそうなレベルのとんでもなく冷ややかな殺気を感じた。
頭の上に「!?」と出現しそうな勢いで振り向くと、背後に般若を浮かべた、瞳からハイライトを消し去った微笑を浮かべる香織と目が合った。ハジメは般若が幻覚であることを祈りつつそれを見なかったことにした。
生徒達に飲み物が行き渡ったことを確認すると、イシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方におかれましてはさぞ混乱されていることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう前置かれて始まったイシュタルの話は実にファンタジーで、自分たちにとってはどうしようもなく勝手な話だった。
要約するとこうだ。
まず、この世界はトータスと呼ばれ、大きく分けて3つの種族が暮らしている。それは自分たち人間族と、被差別種族である亜人族、そして個々が強大な力を持つ魔人族だ。
うち、人間族と魔人族は何百年も戦争を続けており、現在人間族は存亡の危機に瀕しているらしい。今まで人間はその数を、魔人はその個人個人の力をもって拮抗した戦いを繰り広げていたのだが、人間族の持つ数というアドバンテージが崩れようとしているのだ。
その理由は、魔人族が通常の野生動物が魔力を取り入れて変質した異形生物、魔物を使役、使用できるようになったことにある。
今までは魔物の使役なぞできても余程の強者でも1匹か2匹程度だった。その常識が覆ってしまった。
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。この世界よりも上位の世界の人間であるあなた方は、この世界の人間よりも優れた力を有しているのです」
イシュタルはそこで言葉を切り、「神託で伝えられた受け売りですがな」と表情を緩めながら続ける。
「あなた方にはぜひその力を発揮し、“エヒト様”の御意思の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救っていただきたい」
イシュタルは何やら恍惚とした表情を浮かべている。ジジイのアヘ顔ほど需要のない物もない。雪華とハジメは『オエーッ』と顔を見合わせた。
この世界では人口の大凡9割近くが聖教教会の信徒であり、神託を一度でも受ければもれなく高位神官への道が開かれるそうだ。雪華は一人“面倒な事になったなぁ”、とアヘタルで一度顰めていた顔をさらに顰めた。
そんな状況下。何やら深刻そうな顔で決意を固めているカリスマ(笑)や未だ状況の飲めない一部の者、面倒ごとの匂いをいち早く察知していたハジメに雪華、さらには雫とクラス内でも反応が別れる中で一人、ガタン!と椅子を倒して立ち上がり猛然と抗議する者があった。
愛子先生だ。
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私たちを早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
ぷりぷりと擬音が聞こえてきそうな怒り方の愛子先生。それもそのはず、今年二十五歳になる人気の社会科教諭愛子先生は、百四十五センチ程の低身長に童顔、ボブカットといった出立をしているのだ。生徒達のために!と一生懸命な姿への皆が抱いた思いは尊敬ではなく……庇護欲。“愛ちゃん”と呼ばれて親しまれている(本人はそう言われると怒るが)。
ああ、また愛ちゃんが頑張ってるなぁ、と割と他人事でもないと分かっている雪華以外はほっこりとしていたのだが、直後のイシュタルの発言に皆は凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現場では不可能です」
場が静寂に満たされる。誰も何も発言しない。重苦しい雰囲気で皆嘘だろ?という気持ちを隠さない視線でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか⁉︎喚べたのなら帰せるでしょう⁉︎」
愛子先生が叫ぶ。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々があの場にいたのは、単に勇者様方を出迎えるためと、エヒト様への祈りを捧げるため。人間に異世界へ干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したように椅子へと座り込み……そうになったが椅子は吹っ飛ばされていたので床にそのまま尻餅をついた。最後まで締まらない人である。
生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ?帰れないってなんだよ!」
「いやよ!何でもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになる生徒達。例に漏れず雪華とハジメも落ち着いてこそいられなかったが、趣味においてこの類の創作は数多く履修している二人はやや冷静に『これは一体どうなってしまうんだろう』、と相談程度のことはできていた。
しかしいくら数人落ち着いている生徒達がいたとしても、全体の母数に対しては相当少ない。彼らのパニックは依然継続していた。
もはや雪華やハジメの中ではアヘ顔狂信者判定のイシュタルは、そんな生徒達をどこか侮蔑の感じられる視線で黙って眺めていた。大凡「神に選ばれておいて何故喜べないのか」とでも思っているのだろう。
その時、突如バンッ!と机を叩く音が響いた。光輝だった。これにはパニックになっている生徒達も静まりかえり、視線が彼に向く。光輝は全員がこちらを見ていることを確認すると、おもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救う為に召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主様の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね?ここにきてから妙に力が漲っている感じがします」
これには生徒達も『そういえば……』というような顔をしている。そんな反応が大半を占める中、ハジメと雪華だけは『マジで?』といった顔で自分の手を振ってみたりしている。
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる‼︎」
ギュッと握り拳を作り、そう宣言する光輝。無駄に光る歯と何故か眼の中に見える闘志に雪華はイラッとした。
そして同時に、光輝のカリスマは絶大な効果を発揮する。絶望的な表情だった生徒の多くが活気と冷静さを取り戻し出したのだ。元々冷静だった若干名に対しては詭弁すれすれの発言にも聞こえたが、心の拠り所を求めていた彼らにはそれこそイシュタルの宣う神託……そのように感じられたのだろう。皆の光輝に向ける視線はキラキラと輝いており、女子生徒の中には熱っぽいものを向ける者も見受けられた。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつものメンバーが光輝に賛同する。残りの生徒達はというと、当然光輝に賛同しクラスは一丸となっていく。愛子先生が「ダメですよ〜」と涙目で訴えているがこの流れの前では無力だった。
雪華は面倒くさそうな面持ちで机に顎を乗せた。両親がいない以上、オタク趣味が断たれる事以外に大して地球に未練もない彼女だったが、こんな誰も知らない土地で戦死するなんてまっぴらごめんだった。そしてなにより……。
「はぁ、シン・ヱヴァ完結篇見たかったなぁ……」
そう、静かに呟く。
未練はひとつもない、というわけではなかった。
※※※
Q.元々ただの平和な国の高校生だった人がある日突然戦場に放り出されたらどうなりますか?
A.死にます。
ということで彼ら一行は当然訓練を受けることとなる。
彼らが召喚された場所、『神山』の存在する人間族の国、『ハイリヒ王国』の城。召喚された翌朝、当然のように『知らない天井だ……』ノルマを達成してホクホクな雪華含む生徒達は城内のとある一室に集められた。
そして彼らに、手のひらサイズの銀色のプレートが配られる。「あっ察し」顔のオタク勢を除いた多くの生徒は不思議そうな顔でプレートを裏返したり突っついたりしていた。
そして訓練担当となった騎士団長、メルド・ロギンスが説明を始めた。
「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
彼は勇者一行だからと言って態度を変えるような人物ではなく、これから戦友になるんだからと自分たちにとてもフランクに話しかけてくれる気さくな人だった。雪華もハジメも、父親世代ともさして変わらないような歳上の人物に硬い口調で話されても居心地が悪いだけなので、メルドのその態度は有り難かった。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。“ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
雪華はふぅん、と小さく声を漏らすとまじまじとそのプレートを眺め始めた。何となく、大きな魔法にはそれなりのサイズの魔法陣が必要なのではないか、という先入観があった彼女にはこんなこぢんまりとした板で人間の身体情報が測れる事が意外だったのである。
『よくあるファンタジー小説みたいにでっかい水晶でも使うのかと思ったけど、アーティファクトってのはたいしたもんだねぇ……』
謎に上からな雪華はプレートを早速使ってみる……わけではなく、先んじて板に血を垂らしていたのであろうクラスメイト達の反応を伺ってみた。どうやら、持ち主の魔力の性質によって色が変わるらしい。突然発光して様々な色に変わるプレートを見て皆は驚いているようだ。「ひえっ!」といった素っ頓狂な声も聞こえてきた。
「さてさて、私のステータスはっと……」
ファンタジー物のお約束、転生者の異常な高ステータス。昨日の召喚時には胡乱な表情が抜けなかった雪華も、これにはつい楽しみで笑顔が漏れ出てしまう。
指先にぷつ、と針をあてがい、滲み出てきた血をプレートに着ける。反応は顕著な物で、あっという間にプレートは淡い光に包まれてその色を変えてゆく。
「……ん?」
さあ、お楽しみの時間だ、と見たプレートは何やら色が薄くなっている……というより、向こう側がガラスのように透過している。書かれた文字は黒色で、これは何やらディスプレイに映し出された物のように見える。そして内容は、こうだ。
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柚希雪華 16歳 女 レベル0
天職:使徒
筋力:不詳
体力:不詳
敏捷:不詳
魔力:不詳
魔耐:不詳
技能:学習能力・変幻自在・言語理解
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……意味がわからなかった。ステータスは全てが不詳。隣のハジメは1だったレベルも0で、技能もパッとイメージがつかない。
そして何より分からなくて、気に食わないのは……。
「ボクはあの、胡散臭くてよくわからない神の使徒にされたっていうのか?」
普段の雪華からは似合わない低い声が出たことにハジメはギョッとして雪華の方を向き直った。
「ど、どうしたの?雪華」
「……ん」
雪華は黙ってハジメにプレートを渡す。渡しつつも雪華は今後の身の振り方をどうしようかと考えていた。勝手に召喚された挙句、神の傀儡になるかもしれないなんてつくづく運がない。
「な、何だこれ……使徒って、あの使徒……なのかな」
「あのって、使徒といったらその使徒しかないでしょ」
「ならどうして不機嫌なのさ、雪華なら使徒になれるってんなら両手を挙げて喜ぶと思ったんだけど……」
「こ、これのどこが喜べるっていうの⁉︎やだよボクこんな得体の知れない神の使徒なんて‼︎」
雪華は半泣きでハジメに訴える。しかしハジメはそこで「あっ」と言うと、
「使徒ってそっちの使徒を想像してたの?」
と返した。
「ふぇ?」
つい間の抜けた声が出てしまう。
そんな雪華に、ハジメは優しげな口調でこう答えた。
「僕はその使徒じゃなくて、君の大好きなあっちの使徒を想像したんだけどな」
最初の方の話はなかなか進ませにくいし原作をある程度踏襲しないとならないので書くのが大変ですねぇ……
もう数話したらがっつりオリジナル展開に持っていけると思いますので暫しお待ちを!