使徒ってそっちの使徒ですか!?   作:かます

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拙作も三周年を迎えました!
ウ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛(自爆)

えー、3年弱も投稿が空いてしまい非常に申し訳ありませんでした……。


第伍話 潜航、ただ其れだけに非ず

 【オルクス大迷宮】は地底にある洞窟型の迷宮だ。階層を追うごとにどんどん下へと潜る形になっており、徐々に魔物は強くなる。

 雪華が現在下を目指して歩いているのは、まだ相当浅いところ。出てくる魔物も弱い。初めての魔物との戦いだ!と意気込んで臨んだ初戦も、紫の槍でひと突きしてやれば簡単に敵は力尽きた。

 

 ちなみにお相手はラットマンというネズミの魔物で、灰色の毛皮に2メートルに届きそうな体躯、更に見せ付けるように大胸筋と腹筋の部分だけ毛が生えていないなんとも気持ちの悪い奴らだった。もちろん全員シックスパックである。雪華はこのネズミの魔物が揃ってフンフン言いながら上体起こしに興じる様子を想像して、一人顔を顰めた。

 彼らは攻撃を仕掛ける前に何故かご丁寧にポージングを挟んでくれるので簡単に倒すことができた。腹筋を強調する奴には「キレてるよ!」と言いながら槍をぶっ刺した。雪華はどうしてもラットマンに近づきたくなかったので、槍のほぼ最大射程で闘う羽目になった。

 胸筋のデカさに自信があるらしい奴は「ナイスバルク!」と言いながらぶった切ってやった。存外この槍は切れ味が良い。胸筋ネズ公はきれいに真っ二つになった。

 

 本当は金銭のためにも魔石くらいは取るべきなんだろうが、雪華はラットマンと同じ空間に長く滞在していたくなかったので「低層の魔物だしきっと魔石も安いだろう」と自分に言い聞かせて先を急いだ。

 

 その後も特に苦労せずに攻略は進む。ステータスプレートをチラチラと確認してみると、徐々に『適合率』と『強度』が上がっており、使徒の力を使えば使う程この二つは上がってくれるようだ。ただ10階層攻略して0.1%変化があるかないかという程度なので、正直強くなっているのかはよく分からない。そもそも適合率に至っては何の適合率なのかサッパリだ。

 

 20層攻略の際は、光り輝く宝石のような石が壁に埋まっているのも発見した。この場所は、何故か同階層の今までの道に比べ広く部屋のようになっており、さてはボス部屋か⁉︎と警戒しながら進んだのだが、中に入っても特に強そうなモンスターがポップする事もなく拍子抜けだった。更によく見ると、地面はたった今崩れましたと言わんばかりにゴツゴツと荒れており、露出した鉱石(後になってハジメが『綺麗だよ!』と言って見せてきた図鑑にも載っているグランツ鉱石だと気が付いた)からも悪意のようなものが感じられ、『なんだトラップ部屋か……』とその考えを改めることとなった。

 

 そこから何層潜っても大して攻略が難しい階層というのはなかった。敵の気配を感知したらまずA.T.フィールドで一度攻撃を受け、近距離なら槍で貫き、遠距離ならフィールドを構えながら無視する。そのループで詰まるような魔物は今のところ出現していない。徒党を組んで攻めてこようとする群れた魔物は、その防御力でゴリ押し。

 不意打ちを狙う魔物も、城にいた際に発現したカンがまだ健在であるため危なげなく看破できる。可能なら避け、間に合わなかったらA.T.フィールド全開。そして不意打ちを外して隙のできた所で槍でぷすり。なんとも簡単な作業である。雪華は改めて、恐らくエヒトではない誰かが寄越したと思しきこのチートボディに感謝した。

 そして雪華は、この身体が有する更なるチートを思い知らされることとなる。

 

 40層を歩いている時の事だ。雪華はふとある事に思い至った。

 

「あれ、ボクご飯途中で食べたっけ?」

 

 彼女が気がついたのは、迷宮攻略開始からここ40層に降りてくるまで一回も休憩を挟んでいない事であった。一層攻略するのにかかる時間は、短い所でも最低10分、かかるところでは1時間は必要だった(もちろん一般的な冒険者でこれをやってのけていたら即刻英雄扱いされること間違いなしである、雪華は気がついていない)。

 となると、今現在の所要時間は最低でも400分、おおよそ6時間半だ。もちろん全ての階を10分で走り抜けた訳ではないので実際はもっと経っている。

 

 だというのに、足腰はまだピンピンしているし、お腹も空いていない。水も欲しいと思わなかった上に、眠気の類も一切来ていない。

 

「うん、ボク、S2機関搭載されてるわ」

 

 S2機関。使徒のエネルギー源にして、その巨大な身体を支える()()()()である。

 そう、永久機関だ。雪華は歩いてても寝てても怠けていても勝手にエネルギーが回復する超生命体になっていた。

 

「人間辞めてんなぁ……」

 

 天井から降ってくるちょっと上の層の敵より硬いだけのコウモリを叩き落としながら雪華は一人呟いた。紅い眼を怪しく光らせ「キシャー!!!」と叫びながら降ってくるコウモリの波は、何やら執念のような物まで感じさせちょっと怖いが、奇襲としてはその叫び声がうるさすぎて零点である。結果として、考え事をしながら片手間に攻撃するという舐めプが実現していた。

 

 どんどんチート度が増して行く自分の身体に、次会った時みんな今まで通り接してくれるかな……と若干場違いな心配をしつつ雪華はサクサクと40層の攻略を終える。後に残されたのは血走った眼のコウモリ達の死体の山だけであった。

 この数時間後、後から訪れたプロの冒険者達が普通ならある程度数を減らしつつも死体は無視して走り抜けるのが基本の吸血コウモリの鏖殺体の山に歓喜しつつも首を傾げたそうな。普通の冒険者はその数が多すぎてコウモリの全討伐なぞしない。やはりどう足掻いても雪華はチートであった。

 しかしそれは、現状の話である。誰しも万能ではないし、さらに彼女の力はまだまだ発展途上。使徒の力にも限界、と言うものは存在する。

 

 50層を越えた頃だろうか。雪華は敵に対して少しずつ戦いにくさと言うのを感じていた。今までの敵は素人の技でこそあったが、そのボディの動体視力とパワーのおかげで難なくいなせていた。しかし徐々にではあるが、受け流しに失敗しただただA.T.フィールドで受けることしかできない、A.T.フィールドで受けた後に攻撃を加えるまでに距離を取られる、と言った事が起こり始めている。

 

 もちろん、一発当てれば勝ち確なのは変わらない。しかし、どんなに良い刀であっても素人が振るえばナマクラと何も変わらない事と同じように、今まで日本という平和な世界で暮らしていた雪華はその身体から溢れ出る力を持て余していた。

 

 悪戦苦闘しながらも辿り着いたのは65層。敵の硬度に関してはそこまで問題になってはいないが、60層を越えた頃にはとうとうA.T.フィールドにヒビを刻む敵も現れてしまっている。現状の戦い方が成り立たなくなるのももはや時間の問題である。

 

「……ここまで潜れば追いつかれることもないだろうし、ちょっと戻って訓練も挟もうかな」

 

 層同士の間の緑光石(洞窟内の至る所にある光り輝く石、これがあるので迷宮探索には明かりが必要なく非常に楽である)にぼんやりと照らされた階段を降りつつ、雪華は呟く。ここまで流れで無理やり進んで来たが、弱さを自覚したこともあり一人薄暗い洞窟を進むのは少々心細い。その歩みには少し慎重さが見られた。

 階段を下り切る前に少し部屋の中を観察してみる。……巨大な部屋に奈落、大きな橋、そして3つの魔法陣。

 

『ボス部屋か……』

 

 とうとう訪れた強敵の予感に雪華はごくり、と唾を飲み込んだ。何がトリガーで魔法陣が起動するか分からないので、彼女は頭の中で得られた情報を反芻する。

 

『橋の手前の広いスペースに小ぶりな魔法陣二つ、そして橋の上に巨大な魔法陣が一つ。魔法陣の規模と設置場所から、広場からは歩兵タイプの敵が複数出現し橋の上には大型のクリーチャータイプの魔物が出現すると予測される……』

 

 恐らく、敵自体にはそこまでてこずる事もないだろう。しかし立地が問題だ。下手に動くと奈落の底へ真っ逆さまである。原作サキエルは若干跳んだりしてたので大丈夫かもしれないが、試してもいない事を保険に闘うと言うのも心許ない。

 

 どうしたものか、と思案していた雪華だったが、ある事に気づく。この部屋、上にも相当広いのである。

 

 実は雪華は、原作から思いつく限りの能力を試してはいたが、一部の能力に関しては試せていなかった。サキエルが跳んでいた方法も試したかったのだが、明らかに足の筋肉を使用していない跳躍は側から見れば恐ろしく目立つ。教会の思惑も良く分からなかったし、あまり手の内を晒し回るようなことはしたくなかったのだ。

 

 雪華が今この広い空間を見て試したくなった事もまた、騒ぎを避けて試していなかった事だ。当然、初めて使う手段での戦闘というものに恐れはある。しかし、もし敵が雪華の予想通りに出現するならば殲滅力も高いその手段は最良と言えた。

 

 雪華が取ろうとしている手段は、「使徒化」。彼女の能力の源である使徒の姿に直接変化する、と言うものだ。

 一応、変化ができなかった時も不可視の光線で同等の殲滅は望める。迷宮に潜る前からスタミナは明らかに増加しているので前のように使った瞬間ヘトヘトに、と言う事もないだろう。

 

 今までは余裕がありすぎた。ギリギリの状態というのは人を成長させ、進化させる。リスクの多い方法、そして荒療治ではあるが、今の戦闘経験不足を補うにはもってこいだ。

 

 薄暗い部屋に一歩、足を踏み入れる。その直後、3つの魔法陣が光り輝き始めた。手前の魔法陣からは、大量の骸骨兵士が吐き出される。図鑑でも確認した、トラウムソルジャーだ。攻略済みの階層で一度戦ったが、ここまで多くはなかった。

 そして少し間を置いて奥の魔法陣が一際強く光を放ちながら、巨大なトリケラトプス似の魔物を出現させる。トリケラトプスと言っても、その大きさは明らかに史実のそれと比べても巨大で、さらには角に全てを燃やし尽くしそうな程の炎を纏っている。

 

 ベヒモス。65層の主だ。

 

「ふぅ……」

 

 雪華は戦いを前にして深呼吸でその昂る気を落ち着かせる。絶え間なく湧き出る骸骨兵士。こちらを見据え攻撃の機を見計らうベヒモス。

 

 今までの敵なぞ比較にもならない圧倒的な壁だ。数、質の双方が過去最高。そして彼らは統率された集団で、目的は目の前の人間の殺害、ただ一つ。魔物の軍勢が放つ強いプレッシャーに雪華は一瞬身震いしてしまう。今までになかった死の危険が迫っており、彼女の本能が命を守るべく警鐘を鳴らす。ここは、引くべき……。そう誰かが囁いた、そんな錯覚すら覚えた。

 

 

 

 でも、だから、どうした?

 

 

 ボクはそもそも何のためにここに来た?

 

 

 逃げ出すため?

 

 

 生き延びるため?

 

 

 違うな……

 

 

 自由を手にするためだ

 

 

 そのためならこれしきの壁……

 

 

 軽く超えてみせないとなぁ!

 

 

 刹那、彼女の瞳が紅く染まる。口角は上がり、笑みが隠しきれない。

 

「蹂躙開始、だね」

 

 豹変。そう表してもいい程の変わり様だ。

 

 彼女の身体を、目を開けていられない程の光が包む。洞窟内は一時的に照らされ、魔物達はその場に一瞬立ちすくんでしまった。

 そして光は徐々に収まっていく。大きさ、体格、さらには顔といった大きな部分は変わっていない。しかし明確に変わった点がいくつかあった。

 

 その出立を一言で表すならば、この言葉が適切だろう。いや、これ以外に形容できるような言葉がない。

 

  ()()はどこからどうみても、プラグスーツそのものだった。

 

 紫を基調とし、ところどころライムグリーンやオレンジがあしらわれたカラーリング。ナンバリングがなされる位置には『EX』の文字。

 普通のプラグスーツと違うところを挙げるとするならば、胸の中心に据えられたサキエルの仮面に、彼の使徒の手足を思い起こさせるような黒く細い外骨格が展開されているところだろう。

 

「わ、わわ!」

 

 戦場に似つかわしくない声が上がる。自らの愛する作品の、愛するキャラクター達が身に纏っていたようなプラグスーツに、他でもない彼女自身が袖を通している。

 使徒も大好きだった彼女には、武骨な外骨格も喜びを一層与えたのだろう。先ほどまでの獰猛な笑みはどこへやら、顔からは喜びの色が隠しきれていない。

 

 さて、皆さんもご存じだろうが、彼女が今いるのはオルクス大迷宮65層。要するに、人間と魔物の戦場、そのど真ん中だ。

 ニチアサの敵なんかだったら、変身シーン中のヒーロー、ヒロイン達のことを律儀なことに待ってくれただろうが、ここは現実。魔物達にそんなデリカシーがあるだろうか?いや、そんなものはない。

 彼女から迸っていた眩い光に押し返されるように、トラウムソルジャーもベヒモスも一瞬、立ちすくんでいた。いたのだが、その光自体には何の効果もないと分かるや、彼らは雪華に向けて殺到し始める。

 ニコニコ笑って自分の身体をぺたぺた触る、そんな油断している敵を逃す道理も全くない。

 

 トラウムソルジャーの一人、いや一体は、彼に与えられた僅かな思考回路でこう判断した。

 

『あれからは魔力が一切感じられず、単体である。武器も携行していない。よって、その脅威は低い』

 

 他のトラウムソルジャーも同じだ。単純な思考回路が下した結論を頼りに、最初の一体が、携えていたボロボロの剣を彼女に振り下ろし……瞬間、剣ごと彼は砕け散った。

 

「うるさいよ?」

 

 そこにいたのはただの人間ではない。脅威は低いなど以ての外だ。

 力の扱い方を『理解』した彼女は、自らに殺到していた一団を()()()()()()()()壊滅してみせた。

 

 唐突に洞窟内で爆発音が鳴り響く。

 

 ()()()()()()

 

 予備動作も前兆もない極大火力という理不尽により、そこら一体にのさばっていたトラウムソルジャー達は魔法陣ごと()()した。

 

「えへへ……悪くないじゃん?」

 

 余裕綽々と言った様子の雪華。それもそうだ。先ほどまで脅威と思っていたはずの敵達は自分の一撃で消し飛び、ただでさえ手こずらせそうな大ボスに大量の雑魚という不利が一瞬で覆ったのだ。

 

「じゃあ、よろしくね?ちょっとでも耐えて、ボクの糧になってくれたら嬉しいな!」

 

 ベヒモスは、そこらの魔物より少しばかり知性を与えられていた彼は。

 自分に向かって突っ込んできた理不尽の塊に、自らの終わりを悟った。

 

 

※※※※※

 

 

「まさか常時展開可能とは思わなんだ」

 

 そう呟いているのは、先ほど同様黒い強化外骨格に覆われた初号機カラーのプラグスーツに身を包んだ柚希雪華だ。いつの間にか脱げ落ちていたローブを羽織り直した彼女は、片手間に【オルクス大迷宮】78層、即ち人類未到達層の魔物を斬り捨てながら先を急いでいた。

 

 あんなにも強力なのだ、展開時間に制限があってもおかしくないとも思えるその能力……『変幻自在』の真の力。

 どうやらいつぞやの覚醒はまだ()()()()()()、それどころか()()()()()()()()()ですらなかったようだ。

 

「ふふ……この調子なら、みんなとの約束も思ったより早く果たせるかも……」

 

 残してきた手紙に記した『いつかまた、国を丸ごと相手取っても問題ないほどに強くなれたら。その時、また会いにきます』という文言。

 強大な力を得たとはいえ、争いごとに関してはズブの素人だった雪華がその約束を果たせるのはかなり先のことになるだろうと、彼女自身、そう思っていたのだが……。

 

 存外、この力が強い。いや、強すぎる。

 今だってそうだ。文明の栄え方からして、この世界、トータスの歴史はどんなに少なく見ても数百年はあるだろう。それなのにも関わらず、【オルクス大迷宮】の65層以下は未だ前人未到とされていた。

 そんな領域を、思索に耽る片手間に腕を振るってやるだけで突破できている。

 

 何かがおかしいのかもしれない。

 

 ここまでの過剰な力が必要な状況って、一体?

 

 そもそも、ボクのこの力は誰が、どうして与えてきたんだ?

 

 様々な疑問が浮かんでは沈んでいく。しかし、この場にいるのは彼女ただひとり。どんなに疑問があっても、それに応えてくれる存在はいない。いつも応えてくれていた彼も。

 

 

※※※※※

 

 

 100層までの道のりには……何もなかった。

 

 もちろん、しっかり正面からぶつかり、立ち回らないと倒せないような強大な敵もいるにはいた。しかしながら、全てを一撃で沈められたとは言わずとも、彼女の攻撃が有効打とならなかったことはなく、撤退を考えさせるような壁も一切存在しない。

 ただただ、平坦な道だった。

 

「拍子抜け……ってほどじゃないけど。ここまでスムーズに来れちゃうと、なんか気持ち悪いな……。もちろん得るものはあったし、強くはなってるんだろうけどさ?」

 

 リュックサックをごそごそと漁り、埋もれていたステータスプレートを取り出す。相変わらずガラス板や水晶のように透明なそこに記された情報に、劇的な変化はない。

 

 

 

==========================

 

柚希雪華 16歳 女 適合率:10.03%

 

天職:使徒

 

状態:サキエル

 

強度:7.31%

 

因子:覚醒

 

技能:学習能力・変幻自在[+]・言語理解

 

==========================

 

 

「やっぱり数字がちょっと変わってるだけか……。とにかく、この力については情報不足だなぁ……」

 

 倒した魔物の死骸を背に、雪華は小さくため息をついた。よく分からない技能に、よく分からないステータス。強くこそなったが、何もかもがわからずじまいな状況に嫌気が差してくる。

 

「ま、なんか先に進む道も出てきたし……。とりあえず、行ってみますかね」

 

 自分とドラゴンの死体(三回くらい腕振ったら死んだ)しかないこのサッカーコート大の広い空間では、ただの呟きすら嫌に反響する。

 

 本当に、この状況は大丈夫なのか?

 

 一度気になってしまうと、何もかもが恐ろしく感じられてしまう。

 

「あーもー!!動いてから考えよう!」

 

 弱気な想像を頬を叩くことで振り払い、雪華はリュックサックを背負い直した。目指すは100層ボス部屋の更に奥。薄暗い回廊の向こうだ。

 

 

※※※※※

 

 

「これは……カードキーリーダー?」

 

 回廊はそう長いものではなかった。ダンジョン然とした蝋燭灯りのみに照らされたそれは1分も歩けば終わりを迎え、赤い扉が彼女を出迎える。

 

 ただその扉の横には異物があった。

 

 無理やり貼り付けたかのような現代風の……すなわち、地球で見られそうな鍵付きの白い引き戸に、備え付けられたカードキーリーダー。

 異世界の地底ダンジョンに存在するものとしては明らかにおかしいそれから、彼女は目が離せなかった。

 

「えーと、何?ステータスカードでも当てれば……って、ほんとに開くの……?」

 

 ガチャ、という音とともに扉がスライドし、中の様子を見ることができた。

 窓はなく、医療機器があるわけでもないが、近しいものを挙げるとするならばそこは清潔な病室だった。真っ白なベッドにはシワなくシーツが貼られ、その脇の棚には水の入ったペットボトルが置いてある。

 異世界にて突如出現したその空間は、彼女が違和感を抱くには十分だった。

 

 ……だが雪華は、その抱いた違和感を放置し、鍵を閉めたかすら確認せずにベッドに倒れ込み、寝息を立て始めた。

 

 S2機関は彼女が動くためのエネルギーの問題を解決した。これは紛れもない事実である。

 おかげさまで彼女は()()()()()疲れ知らずだ。

 

 だがそれ以前に雪華は人間。やっていることこそ人外のそれだが、根っこの部分は変わらない。

 今の彼女の()()()()()は想像できないレベルに達しているだろう。

 

 当然だ。【オルクス大迷宮】を入り口から100層まで一度も休まずに走破しただけでなく、道中数え切れないくらいの戦闘をこなし、更には『変幻自在』を新たなステージにまで進めたのだから。

 

 真っ白な空間には彼女のくぅ、くぅという寝息だけが響いている。

 疲れたココロを癒すために、彼女は眠り続ける。

 

 部屋に響き始めた駆動音に、気がつかないままで。




一応、オルクス編の構想はもう終わってるしその先も考えてるんですが見ての通りとんでもない遅筆なんで、夏前くらいまでに終わってたらいいなくらいの期待をよろしくお願いいたします……。

6話は一週間か二週間もすればって感じの予定です。
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