マジの浮遊
羽ばたきとか一切なし
ライセン大迷宮は文字通り迷路だった。
矢のトラップとウザいメッセージが存在する空間から繋がる廊下を進むと、上下左右、さまざまな方向に無茶苦茶に道が続いていたのである。
攻略開始時にシャムシエルのモードへと切り替えていた雪華は、おおよそしらみ潰しに探索させられるだろうことを見越して壁を鞭で削ってみる。
どうやらそこまで耐久力は備わっていないようで、鞭だけでも問題なく印をつけることができた。曲がり角の度にこれをやっていれば、案外なんとかなるかもしれない。
どこまでも続くように見える、ぼんやりと発光した幅2m程の通路。浮遊状態の自分なら物理トラップは悉く無効化できるが、魔法に関しては全く分からないし対策のしようもない。
油断大敵。そう考え、雪華は警戒しながら奥へと進んでいった。
最初に選んだ道は登りの階段だった。もちろん、階段と言ってもそれを足で触れることはしない。こう言う場所でトラップを踏み、上から何か降ってくるのはお約束だからだ。
ふんわり浮きながら登って行き、辿り着いたのは……行き止まりだった。
「え、早くない?」
探索開始後一番最初に選んだ道が即終了。そんな感想が出るのも当然である。
「あー、流石に常時浮遊状態の人間がここに来る想定はしてなかったか……」
そりゃそうだ。
羽の生えたびっくり人間なんざ雪華はトータスで見たこともないし、人間を運べるレベルの巨鳥をテイムしている人間にももちろん心当たりはない。
仮にいたとしても、この狭い通路じゃ羽ばたけないだろう。
「ま、少なくとも曲がり角一つ潰せたからよしとしようかな……」
そう言うと、雪華は来た道を浮遊しながら戻る。
「あ、そうか。この階段、トラップがあるの確定じゃん?」
哀れミレディ・ライセン。厳重に秘匿されたトラップの存在を常識外の理由から看破されてしまった。
「いつかはハジメもここに来るだろうけど……力を試す場だからね。ヒントを残すのも無粋でしょ」
よかったなミレディ・ライセン。次なる来訪者にすらヌルゲーされてしまう事態だけは避けることができた。
だが今ここを攻略しているのはまさにここ、ライセン大迷宮特攻持ちとも言える人間だ。彼女の命運も、もう残り僅かであった……。
※※※※※
「うーん、これでいいのかなぁ」
そう呟きながら長い廊下を進むのは、攻略開始から1時間ほど経った雪華、その人だ。
ここまでいくつかの道を進んできたが、歩いていたら絶対に引っかかる物理トラップをいくつか無効化してしまったので、めちゃくちゃ簡単に、何本も『100%行き止まりのルート』を発見してしまったのだ。
そんな状況で、本来だったらトラップをなんとか潜り抜け、少しずつ行ける道を増やし、時間をかけて攻略するだろうものをガン無視し続けることにちょっぴり罪悪感を覚えたのだった。
「まあ、与えられた能力とはいえこれもボクの力だし。全力を持って攻略に当たらなきゃ、製作者にも失礼だよね!」
壁の両側から飛んでくる大量の矢を全部A.T.フィールドで跳ね返しながら雪華は気合を入れ直す。
トラップに怯える必要がほぼない以上、かつてなく落ち着いて雪華は攻略に集中することができた。
哀れミレディ・ライセン。(ry
「〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪」
鼻歌を交えながらも雪華ののんびり攻略は続く。
飛来物系のトラップは、固体液体関係なくA.T.フィールドが完全相殺。
落とし穴は浮いてるし関係ない。そもそもトリガーとなる部分を踏むこともない。
移動速度も、慎重に徒歩で進む攻略者に比べればとんでもなく早いので、どんどんと未探索エリアが減っていく。
所々にこちらをバカにする文章こそ浮かんでいるが、そもそもトラップにかかっていない雪華からすれば痛くも痒くもない。
彼女の「わからせ」欲がいたずらに刺激されただけである。
そう、今現在、未探索領域はどんどんと減っているのだ。実はこれが彼女の迷宮攻略を難しくしてしまっている。
本来なら、どこかしらはこの迷宮の一番奥へと続いているはずだ。新しい道が続いているはずだ。起点があるなら、終点はどこかに作られている。
このスピードで攻略しているのならば、近いうちに迷宮の深奥にたどり着けるはず。
しかし雪華はその続きを見つけられない。どんなに探索してもゴールは発見できない。
何故かって?
だって、
さまざまな仕掛けへの対応力を試すこの迷宮は、
罠にかからないようにするだけが対応力ではない。かかった罠から抜け出すことだって、対応力の一種だ。
だから、この迷宮の正解ルートは。そこにたどり着くためには。
特定の罠に引っかかること。これが前提となっているのだ。
だから、6時間ほどの探索の後、雪華はこう言う状況に遭遇することとなる。
「…………え、全部の道見終わってスタートに戻ってきちゃった」
※※※※※
ミレディ・ライセンは反逆者の一人である。神への復讐を誓い、自らの力を後の世代に託すべく迷宮を築き上げたその実力は高く、天才と言って差し支えない。
そして彼女は肉体こそ残っていないが、仕掛けのためにその魂魄自体は無機物への定着によって残り続けている。これはこの迷宮、そして彼女の大きな特徴だと言えるだろう。
そして、彼女には一つ悪癖があった。それは、他人を小馬鹿にし、煽るような態度を取ること。俗に言うメスガキだ。
そんな彼女の性格は迷宮にもしっかり反映されていた。随所に存在するプギャーな文章たちだ。
ミレディは、攻略者を試すような悪辣な仕掛けに留まらず、わざわざ煽るような一文まで用意している。
ついでに言うなら、彼女はまだある意味において生命活動を停止していない。要するに、まだ動いたり会話したり。そう言ったことができると言うことだ。
……そんな彼女が、探索中の攻略者の様子を確認できるものを用意しないなんてことがあるだろうか?
当然、用意されている。安全地帯から愉悦を覚える。なんと甘美な響きであろう。
カメラなんて便利なものは存在しない以上、攻略中を映像として好き放題確認できるわけではないが、どこのトラップが作動したか、どこに攻略者がいるのかくらいであればミレディに筒抜けだったのだ。
迷宮最奥にて。久方ぶりの来訪者に驚き興奮するのも束の間。黄色いローブを羽織ってニコちゃんマークのお面を付けた、小さなゴーレム姿のミレディ・ライセンは、肉体がない以上本来流れないはずの冷や汗が額を流れる様子を幻視した。
何故かって?観測される来訪者の攻略スピードが、控えめに言って狂っているからである。
数々のトラップが作動しているのにも関わらず、攻略者の移動スピードが全く変わらない。大量に襲い掛かっているはずの矢も、撒き散らかされる毒液も一切攻略者に対する足止めになっていない。
更に言うならば、100%引っかかると思っていた物理トラップはピクリとも反応しないと来た。
一体、何がこの迷宮を訪れたんだ?
予想されるのは、少なくとも空中浮遊していて、峡谷の魔法に関するデバフが打ち消せて、更にとんでもない物理的な防御を持っている存在。
まず人間とは思えない。だがそれはそれとしてそんな芸当をやってのける魔物にも心当たりはない。彼女はその正体が全く持って想像が付かず、久しく感じることはなかった恐怖を感じたのだ。
だが相手も生命体ならどこかで必ず休憩は取る。なんならこの移動速度だし、絶対動ける時間は短い。
そう思うことによって、一時はミレディは心を落ち着かせることはできた。
しかし悲しいかな。3時間経っても、4時間経っても攻略者を表す輝点は停止することはなかった。そのまま6時間が経過し。
トラップを介さずとも行ける範囲が全て攻略されてしまったのである。
「…………い、一体何が、何が私の迷宮に来たって言うの!?」
哀れミレディ・ライセン。数百年ぶりの発声は情けない悲鳴混じりの台詞になってしまった。
更にその直後。なんの前触れもなく迷宮中の壁という壁が破壊され始めた。
「嘘!ま、魔力が霧散するのにこんなことって!」
壊され方から見るに、迷宮の起点まで戻った攻略者が闇雲に砲撃を開始したようだ。
まるで何かを探すかのように、未知の攻撃が迷宮を無数の穴だらけにしていく。
ドォォォン!!!
「ひっ!!!」
轟音と共に、ミレディが居た空間に砲撃が炸裂する。
特別頑丈ではないにせよ、デバフ空間だ、普通には貫かれないはずの壁が。見たことも、聞いたこともない魔法と思しき何かに貫かれ、その熱が彼女に襲いかかった。
さて、この瞬間。迷宮の入り口と迷宮の最奥が一本の道で繋がった。
攻略者は全てを無視してゴールを見つけ出したということだ。
本当は良くないことだと分かっているのだが……興味を抑えることができない。
彼女は半ば確信していた。理不尽の擬人化は、穴の向こうからこちらを覗き込んでいる。
こちらの姿を晒せば、どうなってしまうか分からない。
またあの光線が、今度は私を貫くかもしれない。光線ではない、また別な理不尽に襲われるかもしれない。
だが、知りたい。一体誰が、こんな自分の知らない力によってライセン大迷宮を踏破しようとしているのか。
恐る恐る、ミレディは壁にできた穴を覗き込んでみた。
穴のはるか先にいたのは……一人の少女だった。距離は遠いが、なぜかはっきりとそれを認識できた。
服装こそ見慣れぬものだが、長い白髪とその整った顔立ちは美少女と断言でき、今までの理不尽を為してきた相手と彼女が結びつくのに一瞬時間がかかった。
あんな子がこれをやった?そもそもあれは人間なの?ゴーレムである私みたいに、誰かが作った人形だったりするのでは?
さまざまな疑問が浮かんでは消えていく。
そのスカイブルーの双眸と、ミレディの目があった瞬間。
向こうの彼女の口が、少し動いた。
この距離だ、声が届くはずもない。……そんなはずは、ないのだが。
ミレディには、彼女がなんと言ったのかがはっきり伝わった。伝わってしまったのだ。
『 み つ け た 』
ないはずの心臓を鷲掴みにされたかのような心地に、ミレディはその場でただただ硬直することしかできなかった。
※※※※※
「お邪魔しま〜す」
さっきまでの緊張感はどこへやら。ミレディが座する迷宮の最奥へと、呑気な挨拶を響かせながら雪華がやってきた。
開けた穴を
「難しい迷宮だったな……。頭を使わせるように見せかけて、直接的な手段こそが最適解である。盲点だった……」
違う。違うんだ!
そう声を上げたくてたまらないミレディだったが、実際にその言葉が紡がれることはなかった。
「えーっと、ここがゴールなのかな?オルクスと違って魔法陣もそれらしいメッセージもないや」
雪華の発言に、ミレディはハッと気が付く。
形はどうあれ、目の前の少女はこの迷宮を踏破したのだ。ならばその主人として、呆けていないで応対してやらねばならぬ。
「おっつかれさま〜☆まさかこんな方法でクリアされちゃうとは思ってなかったよ〜!」
「わ、しゃべった!」
反逆者達はもう死んでいるとばかり思っていた雪華に、意思疎通の取れる迷宮の主人というイレギュラーは少なからず驚きを与えていた。目は見開かれ、ポカンと口が開いている。
そして先ほどから驚かされっぱなしだった相手が、驚きの顔を浮かべている。そんな状況に満たされた自尊心に、ミレディは徐々に調子を取り戻してきた。
「私がこの迷宮の製作者にして主人、反逆者の一人のミレディ・ライセンだよ☆」
「えっ、えっ、このちっこいのが迷宮の主!?」
「ちっこい言うな!あんたもそういう手合いでしょうが!!……いくら私が超絶天才美少女と言えども、肉体の磨耗には勝てないからね〜。ここの仕掛けを維持するためにも、魂だけこうやってゴーレムに定着させたのさ☆」
そう言ってミレディ・ゴーレムは胸を張った。しかし揺れるものは何もない。当然である。
ある意味の同族に、雪華は若干の親近感を抱いた。
「私の迷宮、初の攻略者にはきちんとご褒美をあげないとね☆ただぁ……ちょーっと質問があるんだ」
先ほどまでの、ゆるい雰囲気を醸し出していたミレディは何処へやら。真剣そうな面持ちで、彼女は雪華にこう問うた。
「キミは、何がためにこの迷宮に挑んだ?ここで得たものをどう使う?そして……君は、神へと挑む気はあるのかな?」
問いかけるミレディには、その姿形に似合わぬ気迫があった。
当然だ。どんな形であれ、人々のために神へと逆らう選択をし、とてつもなく長い時間をこの迷宮の底で、たった一人で過ごしてきた者がこちらを見定めているのだ。
先ほどまでの接しやすそうな彼女はどこへやら。雪華はごくりと生唾を飲み込むと、ゆっくりと答え始める。
「ボクは……強くなるためにここに挑んだ。ボクには守りたいものがたくさんある。そう、守りたい友がいる」
小さなゴーレムと、少女が見つめ合う。先を促すようにゴーレムが頷き、少女は再び口を開く。
「みんなだってちゃんと力があって、強いんだ。それは分かってる。ただ、ボクたちは外から連れてこられた人間で、この世界の常識すら知らない状態だったんだ。何が敵になるか分からない。だから少しでも、少しでも強くなければならない」
二人の間に沈黙が流れる。中に人の魂が宿っているとはいえ、無機質なゴーレムからは感情が読み取れない。一体この後どんな言葉が返ってくるのだろうか?自分は目の前の解放者に認められることができたのか?
しばらくの後、ミレディ・ゴーレムから次なる言葉が紡がれた。
「うん、いいね。とてもいい。よく分かってるじゃない。今まで言ってたことからして、もうどこかしらの迷宮は踏破していて私たちの事情も分かってるんでしょ?はぁ〜、エヒトの野郎はロクなことしないわね……」
ミレディの言葉に、雪華はほっと息を吐き出すと、その胸を撫で下ろした。
「話し振りからして、自分と仲間に危害が加わりそうなら神へと歯向かうことも辞さない感じだね。いいじゃない。キミは神代魔法を受け取る資格がありそうだね☆」
「よかった……「でも!」……えっ?」
攻略を認めるような発言の直後に差し込まれた打ち消しの言葉。外された梯子に雪華は驚きの声を上げる。
「ここを踏破したとはいえ、私にはキミがどのくらい強いのか全然分からない!いやまぁあの理不尽光線からして出力はやばいんだろうけども!」
「なるほど、ということは……」
「物分かりが良い子は嫌いじゃないよ☆」
ミレディはそう言うと姿勢を正し、呼応するように雪華も好戦的な笑みを浮かべる。
「キミの力、私に見せてみて☆バトルフィールドはあっちだよ!」
岩壁が左右に開き、巨大な空間への道が示される。
奥に見えた巨大なゴーレム。おおよそミレディはあれを操作して戦うのだろう。そう判断した雪華は、最終試練へ突撃した。
※※※※※
「あ゛ん゛ま゛り゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!゛!゛!゛」
「ごめん、ごめんって!」
汚い声で咽び泣くのは、小さなミレディ・ゴーレム。全力を出して
しばらくの後に雪華はなんとかミレディを泣き止ませ、戦いの直後以上に疲れ切った表情を浮かべた。
「はぁ……キミが強いのはよーく分かったよ……」
半ば諦めたようなようにため息をつく雰囲気のミレディからも分かるように、此度の戦いはだいぶ酷いものであった。
前半は、ミレディがそれなりに優位に立っていた。
雪華の荷電粒子砲。その攻撃は性質上
ミレディ操る巨大ゴーレムは、見た目通り非常に硬い装甲を持っていた。サキエルやシャムシエルの状態では有効打は与えられない。しかし残りの選択肢であるラミエルの能力の強みである、長距離レンジでの極大火力という強みもまた、ミレディの操る神代魔法、"重力魔法"によって潰されてしまっていたのだ。
護衛のように辺りを飛び回る小さいゴーレムに、あちこちから縦横無尽に降り注ぐ大量の隕石。避けたり、A.T.フィールドで弾いたりとなんとか攻撃をいなし、なんとか攻撃を繰り返すも巨大なゴーレムは全くの無傷。
宙に浮くことで足場問題こそ存在していなかったが、その時の雪華は決定打に欠けていた。
しかし戦いの最中、雪華の脳裏に名案が浮かぶ。
『あっそうだ。中長距離から砲撃したら重力で曲げられちゃうし……0距離でぶっ放せば良いじゃん!』
彼女の思いつきは的確に実行され、その装甲を貫き……ついでにコアとなる魔石まで完全にぶち抜いた。
当然だ。彼女の攻撃は魔法由来ではないのだから、魔力が霧散するこんな空間でも全く弱体化されない。
思いつくのがそこそこ早かったのも相まって、雪華はミレディの奥の手のおの字すら出させずに巨大ゴーレムをぶっ壊したのだった。
「っと。見苦しいところ見せちゃったね」
「あはは……」
だがミレディはこの迷宮の主。神代魔法を授け、新たな反逆者を導く者。くよくよしちゃあ居られない!とばかりに雪華へと向き直った。
「自己紹介は……別にいっか。もう知ってるだろうし、あなたの名前を教えて欲しい」
「ボクは……柚希雪華。強くならなきゃいけないから、ここに来た」
「……じゃあ今から、雪華に私の神代魔法を」
「あー、それなんだけど……」
ばつが悪そうに頬を掻く雪華にミレディ・ゴーレムは首をかしげる。
「ボク、【オルクス大迷宮】も完全に攻略して認められはしたんだけど、生成魔法覚えられなかったんだ。だから多分、神代魔法は覚えられない」
「………………嘘でしょぉ〜!?!?!?!?」
悲鳴、泣き声、絶叫。ミレディは今日だけで都合3回自らの居城に大きな声を響かせることとなった。
「うん。迷宮を踏破した後にボクに与えられたのは、ステータスプレートへの特殊な印と、よくわかんない赤い球だけ」
そう言って雪華はミレディに自分のステータスプレートを見せた。
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柚希雪華 16歳 女 適合率:99.13%
天職:使徒
状態:ラミエル
強度:44.10%
因子:覚醒
技能:学習能力・変幻自在[+]・言語理解
☆☆
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「あっ、ここの迷宮も踏破したからかな、印が二つになってる」
彼女がそう言って指したのは、ステータス一覧の一番下にある二つの星。反逆者の住処に辿り着いた直後こそ気が付かなかったが、ある程度落ち着いた後にステータスを見直してみたらそこには何かの印が付けられていたのだ。今増えたことから、おおよそこれは七大迷宮の攻略数であろう。
赤い球というのも反逆者の住処にてその時同時に気がついたもので、いつの間にやら彼女のカバンの中に入っていた。こちらは今回は増えておらず、全くもって何なのか分からない。
「ふむ。私も全くみたことない表記だね。まあでも、試したって私の方から何か減るわけでもないし、受け取るだけ受け取ってみない?重力魔法」
「いいの?ならお言葉に甘えようかな」
そう言うとミレディ・ゴーレムは魔法陣を起動し、雪華はそれを受け入れた。
しかし前回と変わらず特に何かが得られたような感覚等は存在しない。
だが、その代わりなのだろうか、彼女の脳内にいつもの無機質な声が響く。
"重力魔法の受領を確認"
"覚醒者のフォーマットと不適合"
"書き換えを完了しました"
"第五使徒ラミエル、第六の使徒の能力を強化します"
「…………あー」
「…………どうしたのよ」
「えっと……ミレディちゃんのゴーレムにとどめを刺したあの光線。あれが強化された。重力魔法の代わりに」
「………………」
ミレディは完全に黙ってしまった。そんな機会はないだろうが、もしまた雪華と自分が戦ったとしたら、到底勝ち目はないだろうと言うことに気づいたからだ。
「っと。重力魔法はもらえなかったけど、ちゃんと私は強くなることができた。ありがとう、ミレディちゃん」
「良いのよ。雪華が神に挑むかもしれない以上、私にとっても良い話だし☆」
しかし彼女らがもう戦いの相手同士でなく、戦友となるのならそんなことは関係ない。少女とゴーレムはぎゅっとお互いの手を握り締めた。
「うーん、今後のためにも色々質問しても良いかな?七大迷宮は全部回ることにしたんだ」
「良いよ〜☆」
そう言うと、ミレディは滔々と説明を始める。
七大迷宮の位置に、簡単なその概要。雪華が認識している反逆者についての情報を補足したり、この世界自体の話をしたりと内容は多岐に渡った。
久しぶりの人との会話にミレディ・ゴーレムは心なしか嬉しそうにしており、それに釣られてか、一度ハジメと合流したとはいえ一人の時間が長く、これまた少々寂しく思っていた雪華もニコニコとその話を聞いている。
「あっ、さっき言ってた赤い球なんだけどさ。一応、見覚えがあるか確認してくれない?」
「お安い御用!どれどれ〜?」
背負っていたリュックサックを開き、中から赤い球を取り出す。花などと言うよりかは、どちらかと言えば鮮血を思い起こさせるような深い赤色のそれは、鼓動こそしていないが何か力のようなものを感じさせた。
「うーん、わかんないや☆よく見たいからちょっと触ってもいーい?」
「うん、大丈夫だよ!」
人好きのする笑顔と共に雪華はその物体をミレディ・ゴーレムに手渡す。
そのかわいらしさにミレディは一瞬どきりとするも、長く人と会っていなかったせいだと自分に言い訳をして差し出されたそれを受け取った。
球がミレディの手に渡ったその瞬間。
唐突にそれは光りはじめ、ミレディ・ゴーレムはカシャリと音を立てて崩れ落ちた。
「わっ!?い、一体何?」
雪華の手がその球から離れた。離れたはずなのにそれは地面に落ちることなく、その場で光を増しながら浮き続けている。
目が潰れそうなほどに眩しい輝きは徐々に人の形を取ると、徐々に光が収まっていく。
「眩しいじゃない、突然何〜?……って、えぇぇぇ!?!?!?」
雪華がここに辿り着いてから何度も聞いた、ミレディの声が響き渡る。声の主は、目の前に突然顕現した一人の少女。
美しい金糸をふんわりと頭の後ろで束ねたポニーテールがよく似合う彼女は、雪華のニュートラルモードと同様プラグスーツを纏っており、頭にはインターフェイス・ヘッドセットが鎮座していた。
違いを挙げるとするならば彼女のプラグスーツが白地に黒、赤のラインが通る見慣れぬ色であることだろうか。胸元の番号は相変わらずEXである。
「なんで私元の身体になってんの!?さっきの赤い球のせい!?嘘でしょ!?!?!?」
発言から察されるに、おそらく目の前の少女はミレディ・ライセン本人なのだろう。声や慌て方が先ほどまでのミレディ・ゴーレムそのままだし、何より外見的特徴が反逆者の住処で仕入れた情報と合致している。
「なるほど、そう言うことか……」
「ど、どういうこと?」
何か分かったような顔をする雪華に、恐る恐る尋ねるミレディ。
心配そうな彼女を安心させるかのように、雪華は力強く頷き言い放った。
「あの赤い球は、生命の実だったんだよ!」
「??????????」
自信満々な雪華だったが、ここは異世界。
純トータス人のミレディに対して、その説明が通用するはずもなかった。
お ま た せ
やっと本作のヒロインが出せました
なんでハジメとオルクス大迷宮を離れて秒でさよならさせたかと言うと、これをやりたかったからです
あとこれ以上攻略中とかに雪華の会話相手いない状態で進行するの辛かった()
ミレディちゃん、すきなんや……