獣狼が搬送された出張保健室に着くと同時に扉が開かれ、獣狼の対戦相手の爆豪が出てきてすぐさまこちらを見ると。
「おいクソ青白髪、ちょっと面ァ貸せ」
「いいよぉー、快心さん後でねぇ」
「うん!任せて!」
快心さんの発言に少し疑問に思いつつも快心さんは保健室に入り扉が閉まる。彼は動くつもりはないようでこの場で話をするつもりのようだ。
「テメェクソ犬と中学ン時からの知り合いだろ、アレがクソ犬の本気か?」
「正確には幼馴染なんだけどねぇ、アレが本気かって言われればあの時点での全力の本気だと思うよぉ?」
「そうか、ならいい。邪魔したなァ」
「別に問題ないよぉー」
口角を吊り上げ見る者に威圧感を与える笑顔、恐らく自分の目的が達成されている事に満足している顔だ。あの時点で、と言った時に少し眉が動いたが最初から万全な状態で戦えるとは思っていなかったようで、相手が全力を出してくれればそれでいいという判断なのだろう。本当に全力の勝負がしたいなら恐らく4日に分けて対戦が行われる事になるだろうし。
流石雄英高校と言うべきか、ヒーロー科は本当に個性的な人が集まっているな。と感心したところで獣狼の見舞いに来たのだと保健室の扉を開ける。
「いい子いい子ー、よーしよー・・・待って、誤解なんです」
「んー、んー・・・?あ、あやめだー」
獣狼が快心さんの膝の上でよしよしされ、上機嫌に尻尾を振っていた。ゴメンちょっと待ってほしい二人ってそういう関係?そう疑っていると。
「あやめー、あやめー」
「・・・とりあえず快心さん。状況説明お願いしても?」
「・・・はい・・・」
ベッドに寝転びながらこちらに手を伸ばす何処かいつもより圧倒的に仕草が幼い獣狼。その頭をベッドの近くの椅子に座り膝の上に乗せたまま快心さんが説明を始めた、曰く前も似たような状況になっていてこの状態の獣狼はかなりこちらの言う事を素直に聞いてくれる事。なので調子に乗ってしまった事。
・・・頭が痛い・・・。俺のヒーロー、しっかりしてくれ。
「おやアンタたち、何してんだい」
「リカバリーガール、その手に持っているものは・・・」
「あぁ、これかい?そこのお嬢ちゃんに頼まれてね、食べ物を取りに行ってたんだが・・・。なんでその子を撫でてるんだい?」
「・・・話せば長くなりますが、簡単にまとめると個性の使い過ぎのデメリット・・・でしょうか?」
「・・・あぁ、何となくわかったよ。さっきとは態度が全然違ったからねぇ・・・」
何か疲れたかのように呟くリカバリーガール。話をしていると扉の外から複数人の走ってくる音、そして勢いよく開かれる扉。
「大丈夫!?回精くん!」
「怪我しとらん!?」
「回精!お前大丈夫k・・・」
「けろ、峰田ちゃん、途中で止まると怖いわ」
「あー、みんなー、いっぱいー」
「「態度が幼い!!」」
「・・・あー、その。首無、どういう状況なんだこれ」
「・・・話せば、長いねぇー・・・」
「はぁ・・・全く、アンタらここは保健室だよ!静かにおし!!」
先ほどリカバリーガールに話した説明をまた行う。それを聞き緑谷はぶつぶつと小声で考察を始め、麗日さんは尻尾に興味が言ったのか目で追っている、峰田は固まったまま、梅雨ちゃんは今の状態の獣狼に興味があるのか観察している。
「けろ、回精ちゃんこうなると見た目相応になっちゃうのね」
「つゆ、ちゃんー、つゆ、ちゃんー」
「けろけろ、回精ちゃん。私も撫でてみていいかしら?」
「なでなで?いいよー」
「あ!うちも尻尾触っていい!?」
「うららか、さんー?いいよー」
「けろ・・・、耳って案外しっかりしているのね・・・」
「うぉっふぅ・・・尻尾にぃ・・・ビンタされるぅ・・・」
「はははは・・・はぁ、まさか回精にこんなデメリットがあったとはな・・・」
「でもそのデメリット、獣狼知らなかったみたいだよ?尾白くん」
「そうなのか?・・・そう考えると凄まじいデメリットだな・・・」
「だねぇ・・・はぁ・・・」
「今の状況を見るからに記憶はそのままなんだろう。ある程度回精くんが心を許していれば恐らく触られる事に忌避感はない寧ろ積極的になっている事から多分動物の人懐っこさが出てるんだろういや待て今考えると回精くんは何かあると飯田くんや梅雨ちゃんに障子くんと尾白くんの近くに行っているからこの状態でなくても人懐っこさが出ていたつまり今はそれが強調されている?なら今起きているのは普段の行動が強調されている?ならこの幼い行動は一体───」
快心さんの膝に頭を乗せ、梅雨ちゃんに耳を撫でられつつ尻尾は麗日さんに委ねている獣狼の顔は中々見れない満面の笑み。ぼそぼそと考察を口に出す緑谷にカタカタ震えだした峰田とそれを見て苦笑いする尾白に流石に笑う気力が無い俺、獣狼のデメリット一つでここまでなるかぁ・・・頭痛薬あるかなぁ・・・。と現実逃避をしていると。
「回精てめぇぇぇぇ!!女子に集られてんじゃねぇぞぉ!!!それに微睡っぱ「それ以上はダメよ峰田ちゃん。流石に他クラスは問題だわ」アペェ!!」
「いい加減におし!!幾ら怪我がそこまでじゃないとは言え怪我人だよ!!それにそろそろ次の試合が始まる時間さね!アンタら同じクラスメイトの観戦に行かなくていいのかい!」
「あ、あぁ~・・・うちの尻尾・・・」
「麗日さんの尻尾じゃないと思うな・・・」
一人名残惜しく俺たちは全員外に追い出される、その光景に獣狼は少ししゅんとしてから手を振っていたので気づいた人たちが手を振り返すと嬉しそうに笑うのであった。
─────
気が付くと保健室で横になっていた。そして記憶を遡っていると爆豪くんの手のひらから放たれた音で負けたのだと気づいたが、特に悔しいという思いもあんまり無い。何せ全力で戦ったのだ、燃え尽き症候群の様な感じなのかなと思っていると横から声がかかった。
「よう、起きたみてぇだな」
「轟、くん。ここに、居るって、事は」
「・・・あぁ、爆豪には負けちまった」
「そっか。・・・満足、出来た?」
「・・・わからねぇ、だが・・・なんでもねぇ」
「・・・そっか」
今の轟くんの声には緑谷くんとの戦いの時と比べると少し劣るがそれでも晴れやかな声をしていた、このまま彼がいい方向に進んでくれると良いなと思っているとリカバリーガール先生が入ってくる。
「おや、アンタたち目が覚めたのかい?なら丁度いい、表彰が始まるから控室にお行き。後アンタにはこれ上げるから食べながら行くといいさね」
「ありがとう、ございます。お世話に、なりま、した」
「・・・お世話になりました」
渡されたクッキーを食べながら向かう、少々行儀が悪いが仕方ない。轟くんとは特に会話もなく控室に着くとそこには困惑しどうすればいいのかオドオドしている塩崎さんと口をふさがれ両手に拘束具を付けられている爆豪くんの姿があった。・・・よく見ると寝てる・・・のか?
「・・・ねぇ、轟、くん。どうして、爆豪、くんが、ああ、なってる、の・・・?」
「・・・最後に、左の力を使わなかったから・・・だと思う」
「・・・そっかぁ・・・」
「お、全員揃っているな、ならこっちに付いてきてくれ」
セメントス先生の案内に従いついていく、爆豪くんはセメントス先生の力で運ばれて行っていると表彰台らしきものがあったのでそこで3の数字が書かれた台に塩崎さんと一緒に立たされた。・・・爆豪くんは1の台に立たされた・・・いやアレはもう貼り付け・・・?
「それじゃぁここで待機していてね、ステージの中央に煙幕と共に上にあがるけど慌てずにね」
その間に爆豪くんは起きたのだろう、轟くんに向かってくぐもり過ぎて何を言っているかわからないが文句を言っているのだと思う。こういう感じ何かA組っぽいなぁ・・・って思っていると隣の塩崎さんに話しかけられる。
「あの・・・こちらの方の拘束は外さないのでしょうか・・・?」
「うーん、俺は、外して、良いと、思う。けど、日頃、の、行い、がね・・・」
「~~!!~~~~~!!!!!」
「こんな、感じに」
「そう・・・ですか・・・」
こちらに鬼の様な形相で睨み何かを言い出した爆豪くん、その様子に顔を引きつらせる塩崎さん。でも恐らく一言二言で済むことだったのだろう、すぐさま轟くんに向かい何かを言っていると。
『それでは!表彰式に移ります!!』
「・・・放送、事故・・・?」
その言葉に誰も答えてはくれず、そのまま表彰台が上がっていくと会場の中央に出た。A組のみんなや他の生徒もいる。そしてミッドナイト先生が大きくポーズをとってメダル授与をする人を紹介する。
「HA-HAHAHA!!とぅ!!」
『われらがヒーロー!「私がメダルをもってェ!」マイトォー「来たァ!!」ー!!』
「被った・・・」
打ち合わせなしかぁ・・・。しかしそこで止まる訳にもいかずなかったことにしナンバー1ヒーローからのメダルの授与が始まった。
「HAHAHA!塩崎少女、3位おめでとう!いい勝負だったよ!」
「はい、ありがとうございます」
「でも、戦法が個性だけになっている。そこを改善出来ればもっと上に行けるだろう」
「・・・あぁ、私の為にこんなアドバイスもいただけるとは・・・感激です・・・」
「回精少年、君も3位おめでとう!凄い速さだったよ!」
「ありがとう、ございます」
「うん!どうやら自分の改善点も分かっているようだね?頑張ればそれだけ君は強くなる!」
「・・・はい!」
首から下げられた銅のメダル、その重みが少しこそばゆい。オールマイト先生は轟くんに炎を収めた理由を聞き轟くんはそれを清算しなければいけない事があると返した。それにオールマイト先生は優しく抱擁をし今の君なら清算出来ると励ました。そして問題の爆豪くんの表彰に移った。
オールマイト先生が宣誓通りの結果を残した事を褒めるが爆豪くんはこんな一位は勝ちが無いと否定。・・・流石にそれは頭にくる発言だなぁ・・・。
「爆豪、くん。俺の、全力、じゃ、不服?」
「・・・ッ!!」
俺の言葉に爆豪くんが何かを言おうとするも鬼の様な形相を更に悪化させた顔で睨む、俺はその目を見て視線を外さない。他の生徒たちが爆豪くんの形相に騒めいていると爆豪くんは視線を外し。
「いいぜェ、オールマイトォ・・・!早くそのメダル寄越せよ・・・!んでもってェ次もこのメダル持って来て2枚にしてやる・・・そうすりゃ完膚なきまでに俺が一位だって証明になんだろォ・・・!!」
「HA、HAHAHA!!良いぜぇ爆豪少年!その向上心はすさまじいものだ!!さぁ受け取れ!君が一位だ!!」
そしてオールマイト先生は会場の全ての人たちに向け語る。この表彰台に立ったのは彼らだが、この場の全員にその可能性があった。次の世代は確実にその芽を伸ばしていると。最後に全員で合わせてあの言葉を言おうとするオールマイト。
「せーの、」
「「「「PLUS ULTRA!!!!」」」」「お疲れ様でしたァぁぁぁぁ!!!」
会場が一瞬で静まり返る、次の瞬間一斉にオールマイトへブーイングが始まった。それにオールマイトはオドオドしつつ理由を言うも何時もの覇気がない。なんだろうなぁ、この感じが嬉しく楽しい。それにつられたのか精霊たちに声を掛けられる。
〈獣狼よかったねー〉〈ライバルと書いて友と読むー〉〈それ逆じゃないー?〉
(うん、初めての体育祭だったけど、いい思い出になりそう)
そうして体育祭は終わった、みんなで教室に戻り相澤先生から明日明後日は休校、体育祭でプロヒーローから指名が来るかもだからワクワクしながら待っていろ。その言葉にクラスの全員が返事を返す。・・・ただ一つ空席がある事が気がかりだが・・・。明日辺りメッセージを送ってみるか・・・。
しかしこの後の帰宅途中で妖目によって俺の個性のデメリットを教えられ、ついでと言わんばかりにその時に何をやっていたかも教えられた。・・・だから峰田くんに睨まれていたのか、というか梅雨ちゃんや麗日さんに合わせる顔が・・・!色々空回る思考を何とか整えて梅雨ちゃんと麗日さんに謝罪文とあの場所での事は言いふらさないでと言う事をメッセージで伝えたのだった。
爆豪は全力で戦った相手やぶつかってきた相手を蔑ろにするタイプには思えません。なのでこうしました。
そして明かされる獣狼のデメリット、一応こちらもノゲノラ設定があったりします。快心さんは・・・平常運転ですね。
いよいよヒーロー名決めと職場体験です、楽しみですね。