そして現在、私服に着替えニックさんの運転する車でとうとうコスチューム製作所に向かってしまっている。あそこは最初の遭遇で全てが決まると言っても過言ではないので、出来る限りのお祈りは済ませておく。
「・・・なんか、回精くんがめっちゃ祈ってるんやけど・・・」
「それだけ魔境って事ッスよ、みんなも祈っといた方が良いッスね。変な人に当たりませんようにって」
「「「「(どんな魔境だそれ!?)」」」」
そんなやり取りをしている中、立地が近い事もありすぐさま到着してしまう。これから決戦を行う意気込みで車から降りるがその雰囲気を察したのか他四人が若干引いていたが、今は気にならない。ニックさんが誰か呼びに行ってしまっているからだ。
「・・・回精くん、そんなにここって・・・その、ヤバいの?」
「・・・最悪、女装、させられ、る・・・」
「「「・・・」」」
「あ。あはははは・・・」
「女子は、その、時々、の、恥ずか、しい、コスプレ。前だけ、隠す、とか」
「・・・」
「「「「魔境か!?」」」」
「魔境、だよ!」
いや多分だが俺より他四人に強制力は無いので俺が被害にあうだけだろうが、この気持ちは共有しておいてほしい。全員が表情を硬くし入口を見つめていると足音がする、この軽やかなステップで広い歩幅・・・間違いない!
扉から出てきたのはニックさんとこの中で一番身長の高い飯田くんよりも背の高く、クラスで一番体格の良い砂藤くんよりも筋肉質な男性。しかし服装は女性用スーツを着込み色々とパツパツだ。整った彫の深い顔に金髪の角刈りの髪型が余計に視覚のインパクトを増している。
「あら!いい逸材が揃ってるじゃない!ようこそコスチューム製作所へ!歓迎するわよ」
「「「「(なんかインパクトすげぇ!?)」」」」
「天野、さん、今日、男子が、多いし、男の、人に、なって、もらって、良いです、か?」
「あらそう?まぁ確かに大人の魅力は青少年には毒ね」
俺の発言に四人から何言ってんだという視線と天野さんの発言で主に男子三人から凄まじい形容しがたき意志を感じられる。だがそれも天野さんの肉体が変形し始めた事により四人の視線は天野さんに釘付けにされていたので、救世主である天野さんを紹介する。
「この人、は、ここでは、大、当たり。
「大当たりたぁ言ってくれるじゃねぇか獣狼よぉ、まぁ他の連中が大外れなだけだがな。と言う訳でよろしく頼むぜお前ら」
「おっ、女の人になっとる・・・」
「あ?どっからどう見たって男だろ何言ってんだ嬢ちゃん?」
「・・・性格、は、男、だから、気を、付けて」
「性反転ってもしかして・・・性別と反対の性格になるって事?」
「うん、だから、さっきは、女性、今は、男性、として、接して、あげて」
「そしてデメリットは性別の認識が性格基準って事?」
「そそ、だから、気を、付けてね」
「ん?何コソコソしてんだ?さっさと行くぞ」
そう言い先頭を歩く先ほどと身長が変わらない長髪の女性、先ほどとは変わって女性用スーツが良く似合っているが口に出すと酷い目に合うので気を付ける。全員で後を付いて行っていると前を向いたまま天野さんが話し出す。
「んでだ、わりぃがお前らに色々着てもらうがそこはいいか?」
「何を着る事になるんですか?」
「んな硬くなるなって、バカ共みてぇな事はしねぇよ。ただまぁ世界各国の伝統的な衣装とかだって、これなら抵抗もねぇだろ?」
「それは・・・そうですね、ありがとうございます」
他のみんなも伝統衣装ならばと寧ろ好意的に受け止めてくれる。だが天野さんから続く言葉で俺のテンションが一気に落ちる。
「ただ獣狼、悪いがてめぇは庇いきれなかった。何時もより数は少ないから我慢しろ」
「・・・はーい・・・」
「そう落ち込むなって、なんだったら女になって抱きしめてやろうか?」
「いえ、だいじょぶ、です、気に、しない、で、ください」
そうか?と言い話を切ってくれるが冗談ではない、他四人も今の発言がどういう意味なのか理解できたために戦慄している。しかし問題は
「んじゃまぁ、ここが男用の更衣室でこっちが女用だ。衣装も好きに着てくると良い、そんでもってこっちが獣狼用だ。諦めろ」
「まぁ・・・、そう言う、約束、ですし・・・」
「そういうこった、写真はこっちで取るがニックはどうすんだ?」
「自分ッスか?てきとーに休憩室で寝てるんで終わったら起こしてほしいッス」
「あいよ、それじゃ各自好きに着替えな。中には着るのに他人の手助けが居るだろうから手伝ってやれ」
「あの、うちは誰に手伝ってもらえばいいんですか・・・?」
「そん時は俺が女になって手伝ってやるよ」
「・・・お願いします」
その言葉に何とも言えない表情になったが、他には男性しかいない為精神が女性ならいいと妥協したようだ。そして各々が更衣室に入る、俺も覚悟を決めて更衣室に入ると今回は数少なく三着で終わりそうだが・・・。
一つは中華系の服でとても動きやすそうな服だが一体・・・?もう一つは犬系列の鼻先から背中まである毛皮風の人口毛に革で出来た西洋風の胸当てと質素なズボン、蛮族風なのだろう。そして目を逸らしたい最後の一着は白、真っ白に至る所にフリフリがつけられた所謂ゴスロリ服と言われる物であろう、厳密には違うのだろうけど。
とりあえず嫌な物からさっさと終わらせようとゴスロリ服に着替える、前に一度近しいものを着たこともあるのでチャチャっと着替え、撮影室に入ると天野さんだけだったので誰か来る前に言われた通りのポーズを取りつつさっさと終わらせる。ゴスロリと言う事なのでアレなポーズも無く付属品の傘と一緒に撮影されるだけで済んだ。
さぁ撮影が終わり急いで戻れば見つからないと思ったところで撮影室の扉がガチャリと動くのを捉える。
───不味いもう来た───扉が開き始める。
───身を隠す物は───扉の向こうからみんなの談笑する声が聞こえる。
───傘!!───一瞬の判断で傘を開きみんなからの視線を遮る。
「・・・白いフリフリの・・・傘?」
「まさか・・・回精くんか?」
「みんな、似合って、るよ。早く、撮影、すれば?」
「回精・・・流石に視線を遮りながらそれは苦しいぞ・・・」
「ほらほら、お前らさっさとどいてやんな。女装ってのは何度やってもなれねぇもんなんだよ」
天野さんの一言で空気が変な事になる、それを自分の言葉が伝わったと感じたのかドヤ顔する天野さん。美人ってのはどんな顔でも綺麗で済まされていいなー、とか変な事を思いつつも傘でみんなから身を隠しつつも出入り口に近づく。みんなも扉から離れてくれたのでさっさと扉から出るが。
「あっ」
「え?今の音って・・・」
「・・・傘から尻尾・・・?」
扉に傘が引っかかりまさかの持ち手が取れて落としてしまい、見つかりそうになったが咄嗟に伏せる事で難を逃れた。そのまま傘を回収後斜めにして扉を通しさっさと自分の更衣室に戻っていった。
─────
「・・・一瞬見えたけど、真っ白やったね・・・」
「ゴスロリと言う奴なのだろう、回精くんも苦労しているな・・・」
「あぁ、流石にあのような服を着る事に俺は耐えられそうにない」
「でも後ろ姿だけやったけどスッゴイ似合ってたなぁ」
「・・・お前ら、あんま言ってやんなよ」
「あ、あはははは・・・」
─────
とりあえず一番の何は去ったのでその後は気楽に着替えようと、次は中華系の服を着る事にした。よく中国の格闘映画で見るようなチャンパオと言うものらしい、模様も特になく白と黒で出来ているので試作段階なのだろう。特に難なく着替え終わり撮影室に向かう途中でみんなとすれ違う。
麗日さんは聞くとスカートがとても長い中国の唐装漢服と言うものを現代風にしたもので、青とピンクがとても爽やかな印象を持たせる。飯田くんはちょっと早めの浴衣で黒がメインで白と青で模様付けされ場所が場所なら風流でとても映える事だろう。常闇くんは意外にもメキシコ系の伝統衣装を着ていた、しかし以外にもマッチしており違和感がない。緑谷くんは伝統衣装ではなく一昔前の英国紳士風な衣装だ、手に持ったステッキと頭にかぶったシルクハットで若干手品師を思わせるが・・・問題ないだろう。
「回精くんも中華系の服なんやね」
「うん、でも、多分、これ、試作、品」
「コスチュームの?なんでそんなものが?」
「さぁ・・・?天野、さんに、聞けば、わかる、かも」
「回精くんは後何着着るんだ?それに合わせて着る物を絞りたい」
「これ、含め、二着、だね」
「このペースならば俺たちは後一着辺りが限度か、慎重に選ぶ必要がありそうだ」
「そっかぁ、色々着てみたかったんやけどまぁ仕方ないよね」
残念がるみんなと別れ撮影室に向かう、撮影室では天野さんがスタンバイしており何時でも撮影が出来そうであったので撮影しつつも聞いてみる事にした。
「あぁそれか?お前のコスチューム案が中華系か和風かの二択になってよ、没案の一つだ」
「・・・これが、良かった・・・」
「諦めな、それがここの連中だってお前は身に染みてるだろ?」
「・・・うん」
「次はこのポーズな・・・よし良いぞ」
天野さんの横にある画面通りのポーズを取り撮影される、戦闘用の服だからか構えを取ったり攻撃モーションの様なポーズが多い。撮影が終わると今回はみんなとはすれ違わずに最後の蛮族の衣装を着る、しかしよくこんなのを作ったなと頭の上にかぶった本物そっくりの犬・・・狼か?の頭を触るとこちらも違和感が少ない、人工物の臭いがしなければわからなかっただろう。
模造品の大きな両手斧を持ち撮影室に向かえばみんなが撮影していた、しかし俺みたいに言われたポーズを取ったりとかではなく各々が好きにポーズをして集合写真の様な気やすさで撮影している。
麗日さんは真っ白なアオザイを着ているが自らのコスチュームの影響かあまり気にせずに緑谷くんの隣で一緒に撮影している。飯田くんは明治辺りの学生服を着ているが勤勉そうな印象が強い。常闇くんはまさかの忍者だった、しかし本人はノリノリで忍者っぽいポーズをしている。緑谷くんは俺のチャンパオに影響されたのか男性用の青いアオザイを着ていた為に麗日さんとペアの様な雰囲気になっていたのが微笑ましい。
「あっ!回精くんも一緒にどう?」
「おっ、それでラストだな。ついでに撮っちまえば文句はでねぇだろ、やるぞー」
「・・・それじゃ、お言葉、に、甘えて」
常闇くんと飯田くんの間でポーズをする、しかし構図が明治の学生を襲う蛮族でハチャメチャなのだがそれもまた面白いので良しとしよう。しかしそうなると乗ってくるのがA組の特徴だ、アオザイペアと学生を守る忍者とそれを襲う蛮族。謎過ぎる事態に発展していき天野さんも笑いながら撮影する。あまりに楽しかった為にみんなで延長してしまい最終的にはアクション舞台染みた事になっていたが、それでも天野さんはオッケーを出してくれたので良いだろう。
「いやぁーノリが良いなお前ら、お陰で面白いもんが撮れたぜ」
「いえ、こちらも楽しませていただきました」
「そりゃよかったよ、写真はすぐ出来っから待ってろ」
「いやぁ・・・楽しかったね!本音はもうちょっと着てみたかったけど時間も時間だしね」
そう言って時計を確認すれば帰るころには暗くなる時間になっていた、流石にこれ以上は不味いだろう。
「どうなるんだろうって思ってたけど、楽しく終わったね」
「だな、途中の着ぐるみチャンバラは中々良い勝負だった」
「あぁ、撮影と言う場面でなければダークシャドウも出演させたかったのだがな」
「撮影中だと明るいからね・・・、僕はみんなでSFごっこが楽しかったよ」
「あ!それもよかった!」
みんなはどうやら満足してくれたようで自分たちの印象に残ったシーンをみんなで語っている。みんなを誘ってよかったと思っていると天野さんが戻ってきた。
「おうお前ら、人数分出来たからやるよ」
「ありがとうございます、しかしただでよろしいのですか?」
「いいんだよ、どうせこの写真使ってバカ野郎共が楽しむんだからな。その謝罪も込みだ」
「・・・ならば有難く受け取ります」
「そうしとけって、良い時間だしニックも起こさねぇとな」
そう言うと休憩スペースに全員で向かう、天野さんはソファーを贅沢に使い寝ているニックさんを起こそうとするも中々起きないので仕方なくソファーから蹴り落した。流石のニックさんもこれには驚き。
「な、なんッスか!?地震ッスか!?・・・ってあれ?皆さんお揃いッスね」
「やぁっと起きたか寝坊助、さっさとこいつ等駅まで送ってけ」
「え?もうそんな時間なんッスね・・・、それじゃあ皆さん準備するッスよー」
蹴り落した天野さんにか、それを全く気にしていないニックさんにかはわからないが苦笑する四人。流石に慣れてきたようで驚きはしないみたいで車に向かうニックさんたちの後を付いていく。
「今日はありがとうございました!」
「とっても楽しかったです!」
「今日は良い勉強になりました、ありがとうございます」
「お世話になりました」
「おう!じゃあなお前ら!機会がありゃまた遊びに来いよ!」
「「「「はいっ!!」」」」
「そんじゃみんなは乗ったッスね?駅まで送り届けるッスよー」
別れの挨拶も済ませ、天野さんを残しみんなが車に乗るとニックさんの言葉と共に車は出口に向かい走り出す、夕焼けで赤く染まる空を眺めているとニックさんの笑い声が聞こえてくる。
「にしししし、英雄の卵と言えどやっぱりまだ子供ッスね。みんなお眠りッスよ」
「そりゃね、みんなは、まだ、高校、生、だよ?」
「自分の隣には子供らしくない子供が居るッスよ、もっと可愛げを見せても罰は当たらないと思うッス」
「・・・遠慮、しとく」
「全く、気難しい子供ッスね。もっと気楽に考えていいと思うんッスけど?」
「それじゃ、気楽に、おやすみ」
「・・・そこで寝るんッスか・・・」
当たり前でしょ、こっちだってみんなが楽しんでいるか割と気を張ってたんだから。入館証は既に回収してニックさんに渡してあるし、駅までの短い道のりだけどまぁ少しでも寝れるだけ良いかなと眠りについた。
次に目を覚ませばみんなの集合場所だった駅で、みんなも次々に目を覚ますとニックさんにお礼を言って車を降りる。ニックさんも一言二言告げてみんなとお別れをし、全員が降りた事を確認し車で会社に戻っていった。
「いやぁ・・・良い一日だったな」
「せやねぇ、楽しかったな」
「うん、写真とかも貰っちゃったしね」
「だな、いい思い出になるだろう」
「だね。・・・そろそろ、時間、じゃない?」
時間を確認すれば三人が慌てて移動を始める、どうやらこれを逃すと次が長いようだ。
「それじゃ!二人ともまた月曜日に!」
「じゃあね!常闇くん、回精くん!」
「二人ともバイバイ!」
「バイバイ」
「あぁ、また月曜日に」
「・・・行ったか、では俺もそろそろ電車の時間なのでな。失礼させてもらう」
「うん、また、月曜、に」
「さらばだ回精、月曜日にな」
常闇くんも改札口へと歩き出す、俺はそれを見送り何とか無事に終わったと安堵しつつ帰り電車に乗るために別の改札口へ歩き出したところでスマホに着信が来た。確認してみれば麗日さんで内容は「ゴスロリ似あっとるよ!」・・・?っ!?嫌な予感がし天野さんから受け取った写真を急いで確認すれば最初の方に俺が撮影したゴスロリの写真が混ざっていた。恐らく天野さんが適当に印刷して入れてしまったのだろうが・・・。とりあえず返信「出来れば忘れて欲しい」。ただまぁ忘れられないだろうなぁ、と気落ちしつつも被害は最小限だと諦めるしかない。先ほどより少しばかり重くなった足で帰宅を始めた。
という訳でオリジナル展開も終わり、次は期末試験ですよ!
・・・なんか、スッゴイ時間がかかった気がする・・・。