位階序列十四位のヒーローアカデミア   作:生活常備薬第3類

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 時々、この話を読み返すと「あぁ、ここ直そうかなー」「ここもっと激しくしようかなー」と思ったりしますが、自分で決めた終わりがそろそろなので、終わった後に書き直したりすると思います。

 雨が
 つらい。


第六十二話:血の定め、仮免試験

 国立多古場競技場、ここに1-Aの全員と相澤先生が揃っており、この場所がA組の仮免許取得試験会場になっている。

 不安がるA組のみんなに、相澤先生の激励によって全員が持ち直し、ムードメーカーの切島くんと上鳴くんの二人で雄英の校訓である、PlusUltraの掛け声に合わせ士傑(しけつ)高校の夜嵐(よあらし) イナサくんが乱入する事態もあったが、今目の前に居る知り合いの方が驚きが大きい。

 

 出会ってすぐ、相澤先生に愛の告白をし、すぐさまフラれたMs.ジョーク。彼女が受け持つ傑物(けつぶつ)学園高校2年2組、その中の一人がA組へ自己紹介をしながら外面を整えた挨拶をして回っている真堂(しんどう)と言う、自分たちより一個上の男子。彼から、正確には2年2組関係者全員に、長い期間一緒にいる事で付いているニオイから知り合いがいると分かり、苦い表情になる。

 

 「やめとけ真堂、()()()()()()は一部にバレてんぞ」

 「・・・げー・・・」

 「おいおい、久々に会ってその態度はねぇだろ?獣狼」

 

 身長は先ほどの夜嵐くんと同じくらい、炎の様に赤く所々跳ねた長髪と、頭頂部に並ぶ狐とは違う縦に長い三角形の耳、顔立ちは妖目が爽やか系のイケメンなら、コイツは熱血系のイケメンだろう。腰からは髪の毛と同じ色の、根元から徐々にボリュームを増していく尻尾、そして両腕には、肘から先が赤い毛で覆われ、明らかに手の平が人よりも大きく発達していた。ちなみにズボンで見えないが、両ひざから先も似たような事になっている。

 

 「相変わらずお前はちっこいなぁ、それに涼しそうでいいわ」

 「変わり、無く、暑、苦し、そう、だね」

 「もうホントそれよ、個性柄、毛を剃ってもすぐ生えて来ちまう。お陰で夏は水浴びばっか、指がふやけて大変でよぉ!はっはっはっは!!」

 

 大声で笑う知り合い、と言うより血縁。詳しくいうと面倒だが、概ね従兄でいいだろう。でも、彼がいるって事は・・・。

 

 「安心しろって、ここに炎理(えんり)は居ねぇよ。同じ高校だがな?」

 「・・・よかった」

 「お前うちの妹が苦手だもんなぁ・・・。あ、やべぇニオイでバレるか・・・?いや直接触ってねぇし大丈夫なはず・・・」

 「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

 「おっ、アレがお前んとこの担任かぁ、正面きっての戦いは苦手そうだな」

 「まぁね、んじゃ、また」

 「おう!またな!」

 

 A組のみんなが既に歩き出しているので、駆け足で移動する。しかし相澤先生の横を通る一瞬、肩を掴まれたので足を止めた。

 

 「わかってると思うが、霊骸は使うなよ」

 「理由、なく、遺体を、使う、趣味は、ありま、せん」

 「・・・ならいい、引き留めて悪かったな」

 

 確認したい事は終わったらしく、肩の手を放してくれたのでそのままA組に合流する。

 口田くんのそばに夜桜が待機しており、そのまま俺の言う通りに行動してくれるが、事前に話していなかった口田くんは何故夜桜がここに居るかわからず、オロオロと慌てているので、こちらに視線が来た時に両手を合わせ、軽く頭を下げて目立たない様に謝罪する。

 何か感じ取ってくれたのか、これだけで口田くんは慌てるのをやめ、出来る限り平静に歩いてくれる。

 

 「回精くん、あの大きな人とは知り合い?」

 「うん、従兄・・・かな?血縁、だよ」

 「大神(おおかみ) 再理(さいり)、多分、ここに、来てる、誰より、も、面倒、な、相手」

 「回精がそこまで言うって、どんな個性なんだ?」

 「個性は、同じ、獣人。素の、俺、以上の、身体、能力、それに、高い、再生、能力」

 「再生?それって文字通り傷が治ったりすんの?」

 「骨折、なら、十数、秒で、下手、すると、欠損、も、時間が、あれば、元通り」

 「うっわぁー・・・、そんな相手とまともにやりあったら勝ち目無いじゃん・・・」

 

 そう、再理の面倒なところは再起不能のダメージを受けても、時間があれば復活する事。なので、どんなルールでも再理にとって、明確に不利なルールが存在しない。

 

 「でも、再理は、戦闘、好き、1年、より、強い、ところを、狙う。そして、知名度、の、ある、上級、生は」

 「士傑って訳か、相手に背を向けるみたいであんま良い気はしねぇが、今は仮免取得が先決だもんな」

 「そういう、事」

 「・・・チッ!!」

 

 ただ一人、不満がありますと言う顔をしてはいたが、優先順位を間違える程ではなかったらしく、舌打ちだけで済ませてくれたのはありがたかった。何せ再理は、挑まれれば誰でも相手にするし、一度勝負を始めたら白黒つけるまで絶対に逃さない。どんな試験内容であれ、再理を相手にしながら合格を目指すのは、無謀と言えるから。

 

 更衣室でコスチュームに着替え、今までのメタリックな黒一色の鉄扇とは違い、色や模様のある俺専用として新調された双鉄扇、桜花絢爛(おうかけんらん)。試作品の中から選ばれた、持ち手が釣り針の様に折れ曲がっている重量級の仕込み杖。この装備だけで重さが凄まじい事になっているが、そこは俺の個性で誤魔化せるので問題ない。

 

 着替えも終わり、職員の案内の元、説明会の会場へと向かう。若干緊張もしてきたが、問題ないと拳を握る。どんな内容であれ、目指すは合格ただ一つなのだから。

 

 

─────

 

 

 仮免の一次試験は、この場にいる1540人の内、先着100人と言う狭すぎる門。ルールは簡単、ターゲットと呼ばれる円形の的を、見える様に体に三つ取り付け、配られた六つのボールで相手のターゲットに当てれば、ターゲットが赤く光る。三か所目に当てた人が倒したこととなり、三か所当てられると失格、逆に二人を倒せば一次試験通過と言う単純な物。

 

 説明会場が文字通り開き、そこで露わになる広大なステージに様々な環境。説明者曰く、自分の得意なステージで頑張ってくれ。開始までの間に固まって動く者達は同じ所属なのだろう。

 

 雄英高校の彼らもまた一番勝ち筋の大きい学校単位、と言うには他クラスが居ない為、緑谷の意見の元、クラス単位で固まって動こうとしていた。

 しかし、爆豪が真っ先に離脱、それを心配し追いかけた切島も同じく離脱、個性の関係で仲間を巻き込みかねない轟も離脱した。

 

 三人減ったとしても、それでも18人、固まって行動するメリットは大きい。移動しつつ、緑谷の次に起きる“どの学校を狙うか”の説明、それは一番攻略しやすい高校、体育祭で手の内を晒している雄英高校、固まって動いていた全員がその結論に思い至ったと同時に、一次試験開始のブザーとアナウンスが流れる。

 

 と同時に、岩陰に隠れていた者達が一斉に飛び出す、その数は確実に五つ以上の高校が集まっているだろう。その全員から手始めに一つずつボールが投げられる、一人一つとは言え数もそろえば百を超える。

 

 しかし、度重なる唐突な実戦経験と緑谷のお陰で直前とは言え、心構えが出来ていた雄英は個性を使って、各々がボールを迎撃していた。だが、例外もいる、ほぼ全員がボールを迎撃する中、一人だけボールを迎撃せずに、敵陣に走って突っ込んでいく。そうなれば当然、何よりも目立つ。

 

 「回精くん!?」

 「おい!一人突っ込んでくるぞ!アイツを狙え!!」

 

 その言葉と共に、今度は多種多様の個性による攻撃が始まる。蜘蛛の糸らしき物、飛ばされた石、激しい水流、様々な攻撃の中で、獣狼は速度を一切落とさずに右へ左へ、時に飛び跳ねるという、高い身体能力を使った常識外れの回避。防御や迎撃を一切しなかった事は予想外だったらしく、追撃がワンテンポ遅れてしまう。そしてそのワンテンポがあれば、獣狼には十分だった。

 

 何時の間にか両手に持った鉄扇を、腰のパーツと連結、今までは親骨と連結しなければ、地紙との連結が出来なかったが、地紙を鞘に見立てる事で、直接地紙に連結する事を可能にした改良型である。余談ではあるが、これに加え獣狼専用に一から再設計したので、見た目の変化以外にも重量と強度が増している。

 

 そうして、巨大な双鉄扇を閉じたまま構え、先ほどより力強く地面を蹴る事で加速、速度の変化に追いつけず、陣形のど真ん中にまで侵入を許してしまう。そのまま獣狼は、全員が足場にしている小さな岩山を巨大な鉄扇で叩きつける。

 それだけで足場にしていた岩山は崩れ、多くの生徒がバランスを崩しながらも、崩落に巻き込まれない様に移動する。そこから地紙パーツだけを外し、バランスを崩してターゲットが良く見える状態の生徒に、扇子を真ん中から一つだけスライドさせ、投げつける。

 

 「体育祭で知ってたが、なんつーパワー、うおっ!?なんだコレ!?抜けねぇ!!助け」

 「助け、より、俺が、早い、よ?」

 「ひぃ!?」

 

 鉄扇は勢いよく、生徒の両脇へと突き刺さる。突き刺さった場所と鉄扇自体が深く刺さったお陰で動けない、助けを呼ぶも、何時の間にか目の前で両手にボールを構え、とてもイイ笑顔の獣狼より、早いなんてことは無いだろう。

 そのままこれと言った抵抗も出来ず、他の生徒が立て直した時には一人、獣狼の手によって脱落していた。

 

 「よし、この、調子で・・・」

 「アォォォォォォォォォォォォ・・・」

 「再理・・・?こんなに、近く・・・まさかっ」

 

 遠吠えを聞き何かに気づいたのか、すぐさま岩に突き刺さった鉄扇を回収、地紙パーツを取りつけ、周囲を警戒し始める獣狼。その耳が、こちらへと接近する存在を捉える。力強い足音、それに裏打ちされた凄まじいスピード。

 

 「獣狼ゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 「かえ、れッ!!!」

 「いってぇ!!ちょっ、おわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 スピードを生かした跳躍、そのまま片足を突き出した独特なポーズ(ライダーキック)で、獣狼の名前を叫びながら攻撃を仕掛けるが、獣狼は左手の鉄扇を開き上から来る蹴りを表面で滑らせつつも、その勢いを利用し体を軸に回転、通り過ぎた瞬間に右手の鉄扇で突き出された足の膝関節を狙って回転の勢いも加えて強打する。

 

 やはり慣れない感触に獣狼は顔を歪めるも、再理なら治るという信頼で無視し、強打の勢いを使って上へと弾き飛ばす。そのまま右手の鉄扇を地面に突き刺し、背中に背負っていた仕込み杖を持ち、大きく振りかぶる。

 その時点で杖は数多の小さな円柱に分かれ、その円柱を束ねる3本のワイヤーも姿を現す。これが仕込み杖の仕込みの部分であり、製作者本人が意図した使い方ではないが、獣狼単体時の()()使()()()()()にもなっている。

 

 大きく振りかぶった仕込み杖、それを上空へと飛ばされた再理へ向かって振るう。獣狼の高い腕力で振るわれた杖は、上空の再理へと届き、不自然な動きで折れていない脚に絡むと、何も出来ない再理をそのまま崩れた岩山へ叩き込む。

 

 「・・・」

 「おいおい・・・!お前加減しろよ!?アレじゃ死んじまうぞ!!仮免試験で何やってんだよ!?」

 「早く、逃げて、巻き、込まれる、よ」

 「何言って・・・」

 

 仕込み杖は絡まったりせずに獣狼の手元で杖に戻る、獣狼は未だ叩き込んだ衝撃で再理を生き埋めにする岩山を警戒して睨んでいるが、何も事情を知らない者からしたら過剰に攻撃を加えてた様にしか見えない。

 すぐさま状況をいち早く認識した名も知らぬ他校の生徒から批判されるが、獣狼からは逃げろと言われる。訳も分からず、聞き返そうとするが、崩れた岩山が()()()()()()()()()事で、その発言を遮られてしまった。

 

 「いってぇぞ!獣狼!やっぱお前容赦ないわ!!」

 

 賑やかに地面から出てくる再理に、名も知らぬ生徒も驚愕するしかない。彼だって戦闘訓練を受けている、なのであの一瞬、僅かではあるが再理の脚があらぬ方向へ曲がっているのだって目にしていた。

 だというのに彼の、黒をメインに所々赤で色付けされ、肘と膝から先が無い軍服の様な服には汚れしか見当たらず、折れたはずの脚を使ってしっかりと地面から脱け出している。周りの生徒も、正しく言葉が出ない状況と言えるだろう。

 

 「か弱い、からね。最大、効率、で、攻撃、は、基本」

 「うっわー、お前がか弱いとか身体能力だけじゃねぇか。関節にカウンターされたとは言え、普通に折られるとは思わなかったぞ」

 「ここに、士傑は、居ないよ?」

 「無視とかひでぇ!だがそれは知ってるぞ!何せ俺の狙いはお前だからな!!」

 「もしもし?炎理、ちゃん?」

 「妹は流石に卑怯だろ待ってください!?」

 

 流石に、試験会場にはスマホを持ち込んだりはしていないが、そう言うポーズをするだけで両手のひらを見せて止められるのは、兄妹の力関係がはっきりとしているからだろう。獣狼が「冗談」と口にするが、再理の冷汗からは冗談でも肝が冷える思いだったのは、想像に難くない。

 ・・・周りの見知らぬ何人かが、敵同士であるはずなのに同士を見るような視線で、再理を見ているのは何処の家でも似たような事があるのだろう。

 

 「んんっ!獣狼が狙いってのは、お前一度も俺と戦おうとしなかったろ?手合わせしたいんだよ」

 「えー・・・」

 「えー、じゃねぇ!お前今より小さい時からずぅーっと力比べとか、かけっことか、全ッ然戦う事しなかったじゃねぇか!!」

 「だって、子供の、世話で、忙し、かったし」

 「それは手伝えなくてホントゴメン!だがお前も知ってんだろ?俺たちの血筋をよ」

 「・・・触り、程度、なら」

 「ありゃ、あー・・・、そういやお前その辺興味なしだったな。まぁ簡単に言っちまえば、人それぞれで差はあるが、()()()()()()()

 「へー」

 「うわぁー、やっぱ興味ないかー・・・。でも、心当たりあんだろ?体育祭でよ」

 「・・・」

 

 獣狼の一切興味なしと言う反応、しかし再理もそれは想定内だったようで、獣狼の核心を突く言葉で興味を引こうとする。そしてそれは成功する、先ほどまでの面倒な表情から一転、獣狼にしては珍しい、真顔に近い表情と言う変化によって。

 

 「体育祭、見てたぜ。楽しいって思っただろ?わかるよ、俺も強い奴と戦うのが楽しい。勿論ヒーローとしての仕事もするし、人助けだって好きな方だ、しっかりやるぜ。だがコレは言わば趣味だ。趣味だからな、やめらんねぇしやめる気はねぇ」

 「・・・別に、人助け、するなら、何でも、いいんじゃ、ない?」

 「・・・ま、お前ならそういうと思ったよ。んじゃ話を戻そう、獣狼、お前の最後の戦いを見てから冬休みまで待ちきれなくって、ウズウズしてたら今日の試験でバッタリ、だ。悪いが士傑は後回しだし、お前をお仲間から引き離すように頼まれたんだわ」

 

 まるで示し合わせたかのように、地震が岩場ゾーンで発生する。その揺れによって二人の獣人と、状況を見守っていた他十数名が地面の盛り上がりや、ひび割れに巻き込まれる、これによって動けなくなった者や、仲間と分断された者など様々。

 

 しかし二人の獣人だけは、高い身体能力によって大きく変化する地面を苦も無く移動し、また離れる事も無かった。

 再理が言った仲間からの頼みごとを実行しているのだろう。

 

 「と、いう訳だ獣狼。俺はこの一次試験、士傑よりもお前と戦うぜ」

 「どう、しようも、無い、か・・・。ルール、は?」

 「んなもん、本家でやってた奴のまんまでいいだろ。どっちかがぶっ倒れるまで、さァ始めようやァ!!」

 

 その言葉と同時に獣狼は両手に持った双鉄扇を構え、再理は拳を握りながら愚直に直進する。一次試験とはあまり関係のない、戦いが始まった。




 新しいオリキャラの大神 再理くんです、動獣家には色んな人が居るんだよっていうのと、動獣家っていうオリジナルの家系出しといて特に何も出さないなんて、なに考えとるんじゃワレェ。と、その他色々の思惑で出演です。

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