かといって、この後の物語を適当に終わらせる、ってわけではないです。しっかりキッチリやっていくつもりです。
……まぁ、自分で「ちゃんとやってる!」と思っていたとしても、傍から見れば出来ていないなんて事にならない様に、注意しなければいけませんが。
「ヒーローになれば個性晒すなんて前提条件、悪いがうちは、他より少し先を見据えている」
少し離れた席に座るMs.ジョークから仮免試験で毎回行われる、体育祭で個性、弱点などの情報が公開されてしまった雄英を真っ先に潰す通称“雄英潰し”。相澤 消太のお気に入りの生徒たちに何故教えなかったのかを問えば、色々と前振りはあったものの答えとしてはこの言葉だった。
その言葉に何を思ったのか、Ms.ジョークは口を閉じる。そして相澤の言葉に反論しようとするが、自らの教え子たちが居る岩山ステージ以外でも巻き起こる激しい戦闘に違和感を覚え、こちらの方が優先順位が高いと判断したのか、話の流れを切り替えた。
「ねぇイレイザー、これ先着100名って事で攻めたもん勝ちみたいな印象受けるけど、これ違うね、違くない?」
「あぁ、団結と連携、情報力がカギになりそうだが、先着100名って事で焦って取りに行くと、返り討ちに合うぞ」
「団結と連携、か……。お前んとこの狐っ子が一人で先行し過ぎちまってるけど、良いのか?」
「あいつのパワーとスピードは守らせるより、今の状況じゃ攻め入らせた方が都合がいいから良いんだよ。あいつもそれをわかってるみたいだしな」
唐突な話題変更にも関わらず、相澤はMs.ジョークの言葉に応える。ヒーロー歴の長い彼らにとって、突如場の流れが変わるというのも何度か経験した事だろうが、昔ヒーロー事務所が近かったというのも、この対応の早さに影響しているだろう。
相澤の視線の先では、獣狼が他校の足場を崩すという力技を行い、崩れた足場によってその周囲の生徒を一時的に無力化、同時に雄英の包囲網に穴を開けるという力自慢ならではの方法を取っていた。
そして残ったA組に視線を戻せば、傑物学園による個性を使ったボール攻撃を耳郎と芦戸の新しい必殺技によって防ぎ、獣狼の思惑に気づいた緑谷の主導で包囲網の穴から脱出しようと、残った雄英生全員で個性の攻撃を防ぎつつ移動を始めていた。
「んじゃ、そっちの切り込み隊長はあの狐っ子って事か?」
「どうだろうな、今はその役目の奴が他に居なかったからあいつが行っただけだ。どちらかと言えばオールラウンダーだろう」
そう言いつつ、真っ先に思い出していたのは、一番最初にA組から離脱した爆豪の事だろう。彼の見てから行動できるという凄まじい身体能力、更に自らの動きを最適化していく運動能力、その前二つを最大限発揮させる判断力は天才ともいえる才能を持ち、それに個性が合わさった破壊力、突破力はプロ相手でも真正面からだと並大抵では止める事は不可能だ。
「へぇ?
Ms.ジョークの発した言葉に、違和感を持った相澤が隣へ視線を向ければ、何時もの馬鹿笑いとは違う、ニヤニヤと言った企みが成功したかのような顔をしたMs.ジョーク。
まるで回精の同類が居るような物言いに、バスの前で回精と話していた赤毛の背の高い傑物学園の生徒を思い出す。彼の頭には、回精と同じく獣の耳が生えていた、それが指すことは。
「そっち?って事はまさか───」
「アォォォォォォォォォォォォ……」
「おっ、おっぱじめたみたいだな!多分イレイザーの思っている通りだぜ?」
相澤の思っている通り、それは即ち動獣の血筋である獣狼の血縁が居るという事。
相澤は家系で人を判断するつもりは無いが、それでも個人差は在れど、全員が動物の能力と怪力を持つ動獣の名前は知っていた。
根津校長から話を聞いたのもあるが、個人的に警戒していた家系ではあった。昔、それも自身が生まれる前の超常黎明期に台頭した、ある意味有名なヒーローにはなずにヴィジランテとして扱われた家系。過去の話ではあるが、良くも悪くも、あの家系は大きな影響力があったのだから。
「うちの生徒の中に、体育祭で狐っ子の活躍見てからずぅっとソワソワしててさ、気になったもんだから話を聞いたら従兄弟だっていうじゃん?でも従兄弟だって判明した後が面白っくって───」
「……世間話なら無視するぞ……」
「連れないなぁ、ま、そういう所も愛してるぜ?「良いから話せ」はいはい、せっかちだなぁ……」
「んじゃ話を戻して、大神 再理って言うんだけど、そいつがまたイレイザーんとこの狐っ子とは全ッ然方向性が違くってね。ガンガン行こうぜ!を体現したうちの自慢の切り込み隊長で、そして今、お前んとこの狐っ子と相対している奴がその大神さ」
包囲網を抜け出そうとする雄英、しかしそれを阻もうと他校の生徒たちは妨害を行うが、それでも雄英の守りは硬く、このままでは雄英が包囲網から脱出するのも時間の問題だった。
傑物はそれを防ぐためにも、個性を使った地震で今いるステージを割る事によって、雄英生を離れ離れにすることで雄英を含む、多くの生徒をこの場に釘付けにした。
『んー、現在は何処も膠着状態……いえ、岩山ステージで大規模な地震がありましたが、通過はゼロ人です。あ、何か進展があればこちらでアナウンスさせて、いただきます』
スピーカーからやる気のない男の声によって近況報告が行われた、流石に仮免試験に受ける者達と言うべきか、脱落者は出ても未だ一次試験を突破した者は居ないようだ。
「うちは他より先を見据えている、か。随分と上から目線じゃないか、イレイザー。ヒーローを目指す子供たちは星の数ほどいて、その志の高さには有名も無名も無いんだぜ。主役面して他を見下してっと、返り討ちに合うのはそっちかもよ」
丁度話が一区切りついたからか、相澤の言葉を繰り返す事で話を戻す事を伝えたMs.ジョークは、真剣な表情でイレイザーの先ほどの発言を、そう言った努力や教育をしているのは雄英だけじゃないぞと言外に否定する。
事実、岩山ステージに居た全受験者が同じ高校のメンバーと離れ、他の高校と会敵している状況は多い。しかし、それでも雄英潰しの影響か初めて会った他校の生徒とも一時的ではあるが、チームを組み散り散りになった雄英生を探している。
見ず知らずのヒーローとすぐさま共同出来るのは1年と違い、上級生と言う時間的アドバンテージがなせる業。しかもその中には次が無い3年も居る、だとしたら知識、体力、技術、経験など様々な面で狙いやすい1年の、更には情報が公開されている雄英を狙うのは必然だろう。
最初の一回目の攻撃は全員の力を合わせる事で難なく乗り越えた、しかし今は全員が離れ離れになり、自分の穴を埋めてくれる仲間は居ない、もしくは少ないと考えた方が良いだろう。雄英に降りかかる試練は、様々な思惑が絡み合い徐々に激しさを増していった。
─────
真正面から再び再理が突っ込んでくる、お盆や大晦日に集まった時に何度か再理が戦っているところを見たことはあったけど、少し多めに見積もった想定より速い……!
「オラァ!!」
「ぐぅ……つぅー……!」
「どうした獣狼ゥ!守るだけじゃ俺に勝てねぇぞ!!」
「……フェイント、なんて、器用な、事を、するね」
「攻撃が一直線すぎ、って事で矯正されたんだよ。まぁ、お陰でお前見たいなカウンタータイプにあしらわれる事が減ったから良いっちゃ良いんだがな」
スピードの乗った左フェイントからの右ストレート、受け流すタイミングをずらされたせいで受け流すことが出来ず、咄嗟に鉄扇で防ぐ事は出来たが後ろに跳ばされる事で、再理との距離が開くがこんな距離は有って無いに等しい。鉄扇越しとは思えない衝撃によって痛む手に、思わず呻いてしまうが相手の挑発を流しつつ、会話で再理に有利な流れを一旦遮る。
それに向こうは金属の塊を殴ってたのに全然痛そうじゃない。……いや、骨折させたのに仕込み杖で叩きつけた時に叫ぶ余裕があった、と言う事は少なくとも骨折程度じゃ痛みで怯まないって事か。
視線を再理に固定しつつ、周りの状況を確認する。でも、さっきの地震で障害物が多くてうまく確認も出来ない。これじゃ雄英の誰かと合流するのも一苦労、か……。
しかし、再理はこちらの事など関係なしと言わんばかりに───実際関係ないのだが───一瞬で間合いを詰めて殴りかかってくる拳を、今度はしっかりと受け流す。
「なぁ、お前の鉄扇って何処で作ってもらったんだ?俺が殴ってもへこまねぇって相当良いモンじゃねぇか?」
「お父さん、の、勤め、先だよ、っと」
「獣王さんとこの会社かぁ。いいな、俺にもなんか作ってもらえないか頼んでくれね?」
「自分で、頼み、なよッ!これの、為に、俺は、契約、も、したし」
「そこを何とか頼むっ!獣王さん俺には厳しいんだよ……」
世間話をしながらも、再理の攻撃の手を緩めようともしない。避けられる様子見の攻撃は避け、時々混じる本命の攻撃を鉄扇で防ぐ。でも、若干ではあるけど再理の攻撃が雑になり、受け流しやすくなってもいた。
再理は、俺が戦いながら何かを探っている事に気づいているはずだ。だけど身長差から攻撃し辛く、全て防がれるか受け流される。だから会話と戦闘をしながら相手の様子を伺うという、再理でも実行しやすい作戦。
黙って居る方が不味いと一瞬で判断し、返事をしているが中々にたちが悪い。再理を倒す手段を考えている、と思われているならまだしも、仲間と合流するなんて気づかれた時、再理が何をしてくるかわからない。
しかし、再理がこんな面倒な事をするとは思えない。恐らく、傑物の誰かからの入れ知恵だろう。
……正直、俺も再理と真っ向から戦うのは避けたいし、ベストは耳郎さんや上鳴くんと言った防ぎたくても防げない攻撃が出来る人、次点で峰田くんや瀬呂くんの相手を拘束───再理相手では厄介な嫌がらせ程度に終わりそうではあるが───が出来る人と合流出来るのならしたい。でも再理がそれを許さない、再理の口ぶりからして恐らく、傑物が雄英をメインで狙っているから。
「わかっちゃいたが、やっぱ攻めあぐねるなぁ」
「……嫌味?」
「ちげぇよ、……4割くらいは。待て待て、拗ねるなって。純粋に体格差以外にもお前の技量を褒めてんだよ!俺の見立てじゃ数発は直撃させてるつもりだったんだぜ?」
「再理が、試合、してる、とこ、何回、か、見てた、から、ね。動きは、ある、程度、予想、してた、よ?」
「だったらこっちだって、獣狼のやりそうな事はわかってんだぜ?何年従兄弟やってると思ってんだ?」
「へぇ、じゃあ、なに、やろうと、してるか、わかる?」
「言ったって答え合わせしてくれるわけじゃねぇだろ?だったら今タイマン出来てる分、別に構わねぇよ」
攻撃が一旦止み、その隙にバックステップで距離を取ると再び会話が始まる。……最初は不愉快だったが、その後の口ぶりからすると、俺が再理を倒す手段を考えている以外の事だとは分かってはいるが、確信を持てていない、と言ったところか……。耳を澄ませて周囲の状況を確認しようにも、時々発生する轟音や遠巻きにこちらの様子を伺う受験者で遮られ、上手く確認できない。
しかし、現状で一番最悪の状況である第三者からの攻撃を回避できていたのは救いではあった。最初の容赦ない攻撃と、それを受けて平然としている再理に周りが危機感を覚えたのか、周囲からは個性を使って攻撃してくる気配がない。恐らくは巻き込まれて大怪我はしたくない、と言ったところだろう。
それでも遠巻きとは言え、包囲を崩さないのは共倒れもしくは残った方を、と言う思惑もあるだろう。そんな事を狙っても
そんな、個性の特徴とルールの裏を突いた嫌がらせ染みた事を考えていると、再理が数センチ浮く位の軽いジャンプをしている。その様子はまるでこれから本気を出すぞ、と言わんばかりに。
「んじゃまぁ、こっちも時間が押してきてる訳だしガンガン行かせてもらうぜ」
「……せっかち、は、嫌われ、るよ?」
「言ってろ、それに獣狼は他の事を気にしてばっかの様だからな。その余裕すら無くしてやる」
「“私、だけを、見て!”が、許され、るのは、女性、だけ、だよ?」
「ハッ!だったら今は、自分の女の事考えるより俺との戦いに集中するんだな!!」
「えっ、女?ちょっ、何のこ───ッ!?」
突然訳の分からない事を言われ説明を求めようとするが、トップスピードでこちらに突貫してくる再理には届かない。その勢いのまま、器用に空中で一回転分の遠心力が加わった後ろ回し蹴りが、こちらの首を刈り取るかの様な勢いで迫ってくるが後ろに大きくのけ反る事で回避。
しかし、のけ反った後に再理の両手が組まれ、大きく振りかぶっている事に気づく。
───後ろ回し蹴りはブラフか!!
大きく横に転がる様な緊急回避、体勢を完全に崩す事になるが元居た場所の地面が、まるで爆発でも起きたかのような轟音と砕けた石が飛び散るさまを見て、選択が間違っていない事を確信する。
しかし、土煙で見えないが両手を組んで地面に叩きつけた事で再理は無防備───
果たして、その判断は正しかったのかは、やはり先ほどまで俺が居た場所に突き刺さり、再び地面を爆ぜさせた踵が物語っていた。先ほどから一撃に込められている力が上がっている、ガンガン行くというのは嘘じゃないだろう。
そうなればもう疑問なんて後回しにするしかない、再理が本気を出すという事は戦闘に集中しつつ、合流出来る糸口を見つけなければならないのだから。
「チッ、やっぱやりづれぇわ。普通の奴なら踵落とし食らってるってのに」
「経験、の、差、じゃない?」
「ハッ!俺だって1年分のアドバンテージがあるんだぜ?それに追いつける経験なんて早々ねぇよ」
「いいや、あるさ。命が、生き死に、が、かかった、経験。その有無、大きい、よ?」
「……そりゃそう、か。獣狼を甘く見てるつもりはなかったんだがなぁ、雄英ってのを甘く見てたみたいだわ」
言い終わると同時に再び真正面から一直線に此方に向かってくる、しかし今回のも合わせ三度目。再理の腕と脚の長さ、そして俺の鉄扇の長さからして、タイミングは……ここッ!
悟られない為に速度重視で鉄扇を突き出す、今まで振り回して鉄扇を扱うところしか見せてなかった分、吸い込まれる様に再理の肩へと向かい
「──し!やっ──発───ァ!!」
「───ッ」
体に走る衝撃と痛みで霞がかかった頭が少し鮮明になる。クッソ、頭を強打されたのはわかった。自分の体勢と周りの音から岩に埋まる勢いで叩きつけられたのだろう。しかしここからすぐさま脱け出す、未だ体の動きが鈍いとか言ってられない。
「ッ!」
「チッ」
肘を起点に岩から上半身を抜き、そのまま腕の力で下半身を抜いた後足の力で一気に飛び出す。直後、再び砕けて崩れる音と微かに聞こえた舌打ち。
……戦闘中に無防備な姿を晒している相手が居るなら攻撃する、それは当然の事だ。だがこっちは試験を受けに来たのに、突然やってきた再理によって無理やり戦わされ足止めで時間を食っている。そして今この瞬間にも周りは一次試験突破へと駒を進めている。
わかってはいる、これは純粋な八つ当たり、俺だって再理の脚を折った。でも、聞こえて来た舌打ちに、勝手な解釈だろうが侮辱されたみたいで
「ぶっと、ばすッ!!」
「うぉっとぉ!?ハハッ!やっとやる気になったかぁ!獣狼ゥ!!」
今までのカウンター重視の戦い方を捨て、再理へと鉄扇を振り下ろす。突然の変化に再理は驚いたのか後ろへ下がる事で回避をするが、その変化が自分に好ましい物と分かるとこちらへと再び向かってくる。
「行くぞ、獣狼ゥゥゥゥゥ!!」
「うる、さい!!」
小細工無し、ただ何かに従う様に鉄扇を振り下ろす。それをなんともないかの様に片腕で防ぎ、反対の脚でローキックを防がれていない鉄扇を叩きつけ、地面にめり込ませる事で防ぐ。これで鉄扇が二つとも攻撃と防御に使われた、対して再理は片腕が残っている。
空いている拳を握りしめ顔面へと一直線に腕を伸ばしてくる。ニヤリと笑う再理の、「これくらい対処して見ろ」と言う挑発、それに応えるために鉄扇と言う最大の武器を手放す。この行動に再理は一瞬目を開いて驚きを表すが、関係ないと言わんばかりに笑みを深める。
迫りくる拳を、紙一重で避け伸ばされた腕に上から手を伸ばし、そしてそのまま握られた再理の親指を人差し指から小指を使って無理やり解いて掴み、逆上がりの要領で腕を外側に捻じって───。
「がはぁっ!」
「ぐぅぅ!!」
腕ごと地面に叩きつけられ背中を強打された事で肺から無理やり空気が出る、でも再理も無事ではなかった呻き声が聞こえた。そのまま追撃が来ると思っていたが、意外にも再理は一気に離れる。
こちらもすぐに起き上がり、鉄扇を回収する頃には再理の方から硬い何かを強く擦り合わせる様な鈍い音が鳴っている。ちらりと見れば、顔を顰めつつ捻じれ歪んだ腕を力技で元の形へと戻そうとしている。
再理に向かって一直線に走る、向こうも腕の捻じれを戻すよりもこちらが早い事に気づいたのだろう、片腕が使えない状態ではあるが戦闘態勢に入っている。鉄扇の一撃は片腕で止められる、逆に言えば片腕を使わなければ止められない。
それに、捻じれた腕を戻そうとしていたという事は、戻さなければ治らないという事ではないか?腕はまだ手首と親指があらぬ方向で捻じれている。だとすると最初の鈍い音は肘を戻した、と思っていいだろう。このまま押し切って、脚も捻じって逃げられればこっちの勝ち……!
唐突に右から何かが迫ってくる風切り音、前に踏みしめた足を使って大きく後ろに跳べば、黒い球が三つ、そのまま前を通過せずに横一列になってこちらへと迫ってくる。
個性で軌道制御?ともかく次の動きが読めない以上、鉄扇を開き防ぐしかないと黒い球と自分の間に開いた鉄扇を挟み込み、そして硬質な物同士の炸裂音に近い衝突音と共に後ろに押し込まれて行く。
「っ!?これ、おっも……!」
三つとも抑えているからか、それとも個性による物だからかわからないが、鉄扇越しから伝わってくる力が投げ物にしては尋常じゃないくらい強く、軌道を上に逸らせようと鉄扇に角度をつけても逆に此方が押しつぶされそうになる。
角度をつけても一切上へと流れる様子はなく、力が衰える様子もない。自分の決めた軌道で強制的に物を飛ばす個性?推測ではあるものの、三つの球が別々に襲ってこないという事はほぼ確定だろう。
もしも軌道を自由に操れる、もしくはロックオンして相手に向かってホーミングさせる個性なら、真正面から防ぎやすい様に三つ並べて飛ばすより、別方向からバラバラに飛ばした方が防がれにくく相手に当たる確率も高い。ならばと、角度を更につけて倒れる様に球をやり過ごせばそのまま黒い球は飛んできた方向へと戻って行き、赤いマフラーが特徴的な全身黒の生徒の手に収まった。
「態々来てみれば、俺に任せとけって言っておきながら絶賛ピンチじゃんこれ」
「チッ……もう来たのかよ、射手次郎」
「折角助けたってのにその反応は無いんじゃない?それに、再理が仕留めきれなければ複数人で仕留めるって作戦だったろ?」
「だが獣狼は俺が仕留めるって言っただろ!?」
「それでピンチになってんのは再理の方じゃないか、悪いけどうちの主力前衛を失う訳にはいかないんだよ」
射手次郎、確かバスの時に再理と一緒にいた生徒。不味い、向こうは再理の我儘と彼らの作戦で言い合っているが、最初に決めたって言っていた分恐らくは再理が折れるだろう。
やっと逃げられる可能性が出て来たのに、余計に逃げられなくなった。再理の脚力に遠距離からの黒い球は厄介が過ぎる、再理ほどではないだろうが脚に直撃したら確実にしばらくは動けないだろう。
なら言い合っている今逃げるか?……いや、射手次郎さんは再理と話しながらずっとこちらを意識している。逃げた途端黒い球が飛んでくるだろう。避けられればいいが、もしも一発でも受けるか防ぐかしたら流石に再理もやってくる。
では血壊を使って逃走は?ハッキリ言ってしまえば、現在そこまで長くは使えない。そも、短期決戦用の技を一次試験で使うのは早計過ぎるし、恐らく再理はそこから更に追いかけてくるだろう、そしたらまた血壊に頼るのか?一次試験を通らなければ意味が無いのはわかるが、そこで疲れ切ってしまっては意味がない。
「あぁぁぁぁぁぁぁ……!獣狼、すまねぇ!わりぃがこっからは何でもアリって事で!」
「炎理、ちゃんに、報告、案件」
「ホント悪いと思ってるからそれだけはやめてくれぇ!?」
「再理、年下に弱み握られてどうすんのさ……」
「仕方ねぇだろ!?獣狼はあんなだが他人に弱みを握らせねぇんだよ!私生活でも隙がねぇんだって!」
「それ、再理が隙だらけってオチじゃないよね?」
「あー……うん、再理、はー……うん、フォロー、出来ない」
「いや!?ちゃんとガキンチョと遊んだりしてるだろ!?」
「遊ぶ、だけ、ね……」
「はぁー……なんか、従弟くんが可哀想に見えて来たよ。1年とは言え年長者なんだからしっかりしなよ」
想定よりかなり早く再理が折れた、世間話に射手次郎さんを巻き込んで時間稼ぎをしているが打開策は見つからない。非常に不味い───。
「それじゃ、時間稼ぎも終わりにしてさっさと次に行かないとね。真堂たちと合流しなきゃいけないし」
「気づいて、いたんだ」
「そりゃね、1年にしちゃ上手く表情を取り繕ってたけど、それだけだ」
「キツい、なぁ」
「……二対一の状況でキツい、って言える時点で大物だよ君」
周囲をちらりと確認するも、静観する姿勢を崩さないようで遠巻きにこちらを見てるだけ、もしくは無理だと判断したのか別の場所に移動している者もいる。これじゃあ巻き込んで隙を作ろうとしてもまず巻き込めない、か……。
「んじゃ再理、何時も通りやろうか」
「あんま気乗りしないが……しょうがねぇ」
「それじゃ、最初は何時も通りいくよ……フゥー……シュバッ!!!」
独特のモーションの後、掛け声と共に放たれる4つの黒い球、その全てが縦横無尽に飛び回りつつこちらへと迫ってくる。そして再理もまた、黒い球の後を追う様にこちらへと走ってくるが、どちらが先にこちらへと攻撃してくるか、それとも同時攻撃なのか非常にあいまいな攻撃。
このまま迎え撃つには厳しいと判断し、射手次郎さんを中心に大きく左回りに弧を描く様に走り出す。しかし、俺が動き出したというのに再理は向きも変えずにそのまま真っ直ぐと走り続けていた。何故、と意図を探ろうにも時間もなく、射手次郎さんを直接狙える向きまでやってきた。……ここまで来てしまえば、意図を考える必要も無いだろう。厄介な後衛は先に叩く、良くてそのまま倒して一次試験を通過、悪くても行動不能になった仲間を見捨てる事が出来ずに再理が動けなくなるので、その隙に逃げる。
すぐさま様子見の弧を描く動きから、直接弧の中心に居る射手次郎さんに方向を変える。流石に射手次郎さんはただ突っ立ってるだけではなく、新たな黒い球を握りしめ真っ直ぐに俺から視線を話さず、すぐさま迎撃する為に手に黒い球を持ち両腕を引いて、投げる体勢を整えている。
手にある黒い球はまた4つ、恐らく一度に投げられる限度が4つなんだろう。すぐに鉄扇で防げるように、腕にも意識を回せば自然と鉄扇を握る手に力が入る。射手次郎さんとの距離は目算だけど後5mも無い、このまま倒せれば───。
突然、右から何か大きなものが此方へとやってくる風切り音。この状況からしてまず間違いなく再理だろう。でもあの距離からでは再理よりも俺が射手次郎さんを殴り飛ばす方が早い、それにこの距離なら投げるには遅すぎる。両手の鉄扇を振りかぶる、相手はヒーローの卵として俺より一年も先を行く先達。後衛と思って油断せず確実に当てて動きを止める。
「───
射手次郎さんの一言と共に自分が誘われた事に気づく、しかしそれでもこちらが振り下ろす方が早く、彼は両手が塞がり防ぐ手立ても無い。例えダメージを受けたとしても、この攻撃は通すべきだと振り下ろそうとして、突如右から聞こえていた風切り音が大きくなった。
相手から目を離すべきじゃないとか、このタイミングで迷うべきじゃないとか、上げれば色々とあるだろうがそれでも風切り音の方へ目で確認してしまう。そして更に目に入った光景が信じられず、驚愕で動きが一瞬ではあるものの止まってしまった。
自らの失敗に気づきそして同時にこの攻撃は受けるべきではないと、唯一間に合いそうな右の鉄扇を無理やり相手と自分の間に割り込ませようとする。だが、僅かな希望にかけて左はそのまま鉄扇を振り下ろすが、左の鉄扇が射手次郎さんに直撃するよりも先に、ギリギリ割り込めた鉄扇越しに強い衝撃を感じるとともに弾き飛ばされ、同時に無理な割り込みを行った右腕にも鈍い痛みが走る。
その痛みに顔を顰めながらも、地面に左の鉄扇を突きつけ減速と同時に着地する。ギリギリ右の鉄扇を落とす様な事はしていないが、それでも右腕は痛みによって自由に動かすには厳しいだろう。
しかし次の攻撃を察知し、すぐさま後ろに跳び回避する。直後、先ほどまで俺がいた空間に4つの黒い球が別々の角度から飛来し、地面に突き刺さると同時に俺の足元から伝わる振動で何かが上がってくる事がわかり、思いっきり横へ跳べば足先ギリギリを黒い球が飛び出し、そのまま空高く上がっていく。
「ギリギリ、ってところかな?これならもっと早めにしてもよかったね」
「そこらの増強系と同じ風に考えてると痛い目に合うぜ、寧ろやりすぎなくらいが丁度いい」
「……ホント、君らってとんでもないね」
その声の方へと向けば、空高く上がって行きそのまま真上から落ちて来た4つの黒い球をなんてことも無い様にキャッチした射手次郎さんと、その隣で手に持った1つの黒い球を射手次郎さんに投げ渡す再理。
これはもう、厄介なんて言葉で片づけていいレベルじゃない。単純な人数的不利だけじゃない、純粋にコンビネーションが上手く、お互いの穴を上手く埋めている。案としては却下したかったが、血壊を使った逃走も視野に入れた方が良さそうだな……。でももし逃走するにしてもこの距離はダメだ、予想が正しければ黒い球の攻撃を避けた後、すぐに再理が到着してしまう。
「さぁて、獣狼にゃ悪いがここまでくりゃ勝ったも同然だな。後はその辺の奴を適当に倒して次に進出、だ」
「どうかな?俺が、二人を、倒して、次に、行く、かもよ?」
「ハッ!だったらさっさと奥の手を使うんだな」
「言われて、はい、使い、ます。なんて、するわけ、無い、でしょ」
「ちょっと再理、態々相手を煽る様な事しないでほしいんだけど?一番狙われるの僕なんだからね」
『え~、結構状況動いております。現在通過者ごじゅう……いえ51名、続々出てます』
「もう半分越えか、モタモタしてらんねぇな」
「一部、君の我儘なんだけどね?僕たちとしてはさっさと他の奴倒して次行きたいんだけどね」
「ま、そう言うなって。相手にとって不足は無いだろ?」
「……君の我儘じゃなければ、ね」
「そのまま、他へ、行っても、良いよ?寧ろ、推奨」
「冗談、我儘に付き合って、成果無しは流石にダメでしょ」
まぁ、そうだよなぁ。俺だって流れが良いならそのまま押し込むもん。再び射手次郎さんの投擲モーションが始まる、手に持つ弾は4つ、未だ痛む右腕を気にしつつも次の攻撃へと備えた。
何を変えたの?と聞かれれば、「・・・」を「……」に変えたり、文字数を今まで四千から六千字だったのを一万字まで増やしたり、お話のスピードが早くて急過ぎと言われたので、今までより遅くしようとしたりとしています。ちゃんと出来ているか、自分では確認できないのが辛いですね。
プロヒーローの子供が有名なら、動獣家も知る人ぞ知るみたいなノリでもいいですよね?
PS.室温36度オーバーだと、流石夏!って感じがしますよね。お陰で余計に時間がかかったので何とも言えませんが。恐らく次も時間がかかりそうです、お許しください。