リィンカーネーションに花束を   作:ピーシャラ

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自惚れを


第十二束。スイセンの花束を②

 いいチャンスだと思った。得体の知れない彼の強さと公安の会長がおっしゃっていた異常さと言うやつを、1年A組の生徒らの力を持ってして計らせて貰おうと判断した。

 しかし…

 

「これは流石に出鱈目が過ぎるでしょう…」

 

 

===============

 

 時は遡って黒籍が全員の前から姿を消した直後。

 

「なんなんだよアイツはーー!!」

「かんっ全に!俺らのこと下にしてやがる!!」

「ブッ殺してやる!!!」

 

 口々に飛ばされる黒籍に対する怒り。それは熱を帯び始め彼に対する、一度は鎮まっていた敵意が吹き返しているからだ。

 

「落ち着いてください皆さん。許可が下りた以上あと数分で始まってしまいます。作戦を立てましょう!」

 

「そんなもんはイラねぇんだよ!!俺がアイツをぶっ殺して、しめぇだ!!!」

 

 目を血走らせ怒りを露わにし演習場に向かおうとする爆豪。その姿を見て少し落ち着いた男子勢が止めているのを横目に八百万百は状況を整理していた。

 

「…彼に対する情報がありません…。誰か、黒籍さんの"個性"に関して知っている方はいらっしゃいませんか!?」

 

「あ、はい!私ある!」

 

「俺も!!」

 

「…俺も心当たりが」

 

 悔しさと怒りを糧にしたクラスメイト達は自分たちの訓練の時よりもやる気を漲らせて、打倒黒籍を目標に団結していた。比較的入学時以降から黒籍と交流のある、芦戸、切島、障子らが黒籍の"個性"の説明を全員に伝え始める。

 

「…『この世にある全ての物は俺の武器』?」

 

「あぁ、確かに奴はそう言っていた。…黒籍の説明によると自身から溢れるあの黒い波で覆ってしまったものは自身の武器として扱えるらしい」

 

「そうそう。私もそう聞いた!でもそれ以上は何も教えてくれなかっただよねー!」

 

「一番、熱心に聞いてた緑谷は今いねぇし、俺じゃよくわかんなかった!」

 

「……きっと黒籍さんの"個性"は障子さんの言ったように黒い波で覆ってしまった物質を自由自在に操る"個性"だと推測できます。『武器』と言うワードが気がかりですが…作戦を伝えます!」

 

 八百万を中心に作戦が告げられていき、最終的な人数分けはこうなっていった。

 

陽動班

・轟

・爆豪

・切島

・砂藤

・尾白

・上鳴

・八百万

・青山

・芦戸

 

 

隠密班

・飯田

・麗日

・峰田

・常闇

・蛙吹

・葉隠

 

 

偵察

・障子

・耳郎

・瀬呂

・口田

 

 

「陽動班はわたくしと一緒に黒籍さんをおびき寄せ、及び隠密班の動向を悟らさないように足止めを!隠密班は麗日さんの"個性"を使いビルの最上階から侵入、核の確保を。偵察班は黒籍さんの動向を逐次、皆さんに知らせてください。…気を付けるべきは彼の黒い波です。それにさえ注意すれば勝機は見えるはずです!」

 

「「「「「お、おう!」」」」」

((((((完璧かよ))))))

 

「……あそこまで言われたのですもの…必ず勝ちましょう皆さん!」

 

「…その通りだ!アイツに目にもの見せてやろうぜ、みんな!!」

 

『おぉーーー!!!』

 

 

 

「それでは!1年A組VS(バーサス)黒籍少年!開始!!」

 

 開始直後、合図が上がった一瞬にしてビル全体が轟の放った氷に覆われ偵察班は各々全力で黒籍の捜索にあたる。壁にプラグを刺し、耳を多く生成し、ある者は鳥の声に耳を傾けた。耳を澄ませていた偵察班の内、やがて二人は同時に声を上げた。

 

「四階の広場に一人!その近くに核と思われる物体あり!!」

「一階と二階に複数人の足音!陽動班に向かっている…来るぞ!!」

 

 障子の警告直後。何かを感じ取った爆豪が入り口に走り出した瞬間、入れ違いになるように真っ黒い人型の"なにか"としか言いようがない重瞳が体の至るどころで蠢くソレが飛び出して来た。

 ソレは爆豪を無視するように通り過ぎると真っ先に障子と耳郎、口田…偵察班の元に駆けた。いきなり飛び出してきたことに陽動班は驚いたが偵察の一人が叫んだ言葉を飲み込むと直ぐに頭を切り替えることができ、逃げる偵察班を守って抑え込まんと一斉に追撃を始められる氷結の猛追、テープ、酸にレーザーを放つ。

 これら全てはソレに直撃したかと思えばソレは力尽きたかのように霧散し、空気に溶けていった。

 

「…なんだ今のは!?」

「黒籍なのか…??」

「明らかに耳郎達を襲いにいったよね…?」

 

 ソレを退けられたと数名は戦闘態勢を一時解除し、少し安堵する。八百万を含む数名は何かおかしいと疑問に抱く。それは仲間の苦痛な叫びによって確信に変わった。

 

「ーーーーーアッ…」

 

「耳郎!?」

 

 姿を消したと思われたソレは再度、陽動班に離れていた偵察班の前に現れたかと思えば偵察班一人である耳郎の腹を蹴り抜き、くの字に体を曲げ小さく呻いた彼女の意識を削り取った。

 

 …何だっ!?そう思った時には耳郎のすぐ隣にいた障子の懐にソレは拳を構えていた。疑問を思うより先に身の危険を感じた障子は振り抜かれようとしていた拳を今ある複製腕を全て、拳を防ぐ為の防御に振り体に当たるすんでのところで止める。

 追撃をしようと足を振り上げるソレよりも早く、瀬呂はテープをソレに貼り付けるとジャイアントスイングのようにソレを障子から引き剥がすことに成功した。

 

 地面に身を引きずられ減速を始めるソレにいち早く反応し、この中で一番、機動力のある爆豪は追尾爆弾のようにソレを追いかけ一瞬で爆破を喰らわせると吹き飛んだソレは今度は氷結の檻に身を封じられ遂には動かなくなった。

 

「真っ先に俺らの耳から潰すとはイイ度胸じゃねぇーか!あん!?これで終わりだ、バンダナ野郎!!」

 

 爆豪は憤怒の形相を浮かべながら自分たちを単身で追い込んだソレの正体を暴こうと近寄った。しかし、ソレは爆豪が近くに来た瞬間、黒い鎧を脱ぎ捨てるかのように霧散させると正体を自ら暴いた。

 ソレはお粗末にもあんな人間のように精密な動きが出来るとは思わない、木材とコンクリートを寄せ集めたような、がらくたとも呼べない瓦礫の集まりだった。

 

 その事実に、まだビルの中にも侵入していない彼らはソレを見て一拍置くと、これがどういう意味か理解すれば戦慄し、顔を青ざめさせた。たった一体で仲間の一人を脱落させ自分たちを精神的に追い詰め、やっとの総動力で倒せた相手に対する畏怖ともう一つ。

 …仲間の障子が先ほど言った言葉。

 

『一階と二階に複数人の足音……』

 

 全員が顔を向けた入り口の暗闇の続く先からゾロゾロと現れて来たのはつい先程、自分たちの苦戦していたソレが3体。八百万は唇を噛みしめ苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ、自分の作戦が失敗だったことを悟った。

 

 

 

 

 

===============

 

「きたか……」

 

 座っていた木箱から立ち上がり俺が守る予定の核に目をやり、正面にある入り口に目を据える。開始の合図が上がった瞬間跳んだのは正解だった。なんせ向こうにはビル全体を凍らせることのできるか轟がいるからな、二回戦目のようにブッパで凍らせることを予測すると案の定だ。

 

 凍らされた地面を溶かしていると屋上から数名…何人かが前触れもなく現れた。きっと緑谷と一緒のペアだった無重力女子の"個性"だな、ゆっくりとコッチに向かって来ている。

 ある程度は予想できていた。きっとアイツらはクラスを三班に分けて攻め込んで来るはずだと、それも個性と特性の向き不向きに合わせた完璧だと手放しで拍手させるようなチーム分けを…だからこそそれが裏目に出ることも、誰がどうやってここに来るのかは簡単に予想がついた。

 足止め程度…あわよくばクラスの三分の二くらい退場出来れば万々歳だと万象儀でいつか西耶にデカいタンコブを作らせた巨人を人間サイズまで縮小させた奴らを何体か置いてきた。

 

「…それでいつまでそこで様子見してるつもりなんだ?お前ら?」

 

『!!』

 

「………気付いていたのか…」

 

 黒の外套で体を覆い隠すようなコスチュームを着た鳥頭の…あぁ形の方な……の常闇と、ゴツゴツしたフルアーマーを身につけた飯田が壁の間から姿を現した。

 

「…気付かれねぇと思ったのか?お前らだけだろ、こっち来てんのは?」

 

「……その通りだ。残りの全員は下で戦ってくれてる」

 

「そいつは、よかった…。なら始めるか」

 

「…あぁ。先ほどの屈辱…貴様にぶつけてやろう!黒影(ダークシャドウ)ッ!!」

 

『アイヨッ!!』

 

 常闇の背後から伸びたダークシャドウが勢いよく迫ってくる。それと同時に走り出した飯田は核を取るために走り出していた。狙いは常闇が俺を足止めしてる間に他の連中が核を奪取する気だな。

 

『オラ!』

 

「お」

 

 放たれたダークシャドウの拳を試しに受けてみれば八戒には劣るが、そこそこ重い力が腕にかかる。乱打されるダークシャドウの拳を捌いていれば既に飯田の指先が核に届きそうになっていた。

 

「もらった!」

 

 勝利を確信しながら叫ぶ飯田は前に進んでる勢いに任せて核に触れおうと腕を伸ばす。しかし、飯田の指は核に触れるすんでのところで不意に吹き飛ばされた。

 いや、正確に言えば飯田の体、自体が何かに吹き飛ばされたと言う方が正しいんだろう。常闇と飯田は何だ?と目を巻き飯田を吹き飛ばしたものを見る。

 それは宙に浮いた椅子ほどの大きさをした正方形の黒い物体だった。こんな言い方してるが操作しているのは勿論、俺だ。コイツはこの部屋にあった俺がさっき座っていた木箱だ。

 木箱を核から離れるとスッと俺の近くに移動させると犬のように目で追う常闇たちに笑いそうになる。

 

「…それが、貴様の"個性"か」

 

「そうそう。下の奴らの方にも何体か置いて来たんだが、如何せん動きが雑でな…何人かは来ると思うんだよな」

 

 手元に引き寄せた木箱を叩き、少し残念そうな溜息を吐くと、核付近から気配を感じると、再び木箱に勢いをつけさせてから核に向かわせる。側から見てる人間には誰も核のそばには居ないように見える。

 ただ、見えないだけだ。

 

「痛ッ」

 

 空中で移動していた木箱が突然、何かにぶつかったように停止し、それと同時に何処からか女性特有の高い声がする。まるで透明人間に当たったかのようだ。

 

「なんでバレたの……?」

 

「…確かお前は葉隠だったか?姿が見えないからって、そのことを驕るな。元々、注意を引くような透明人間を敵が無視するわけ無いだろ。それに、見えなくても気配でよく分かる。だが、飯田達が注意を引いた隙に核を取るっていう案はよかったけどな……取り敢えず。お前には捕まって貰おう」

 

 そう言って未だ核の周りで牽制するように宙に浮いてる木箱から、確保証明のテープを取り出すと万象儀でテープを操り、葉隠がいるであろう所にテープを適当に伸ばして貼るように向かわせれば、どうやら手首近くに巻きついたらしい。

 仲間をやられたことで苦しそうな面持ちの常闇たちに睨まれるが俺は楽しくなって来たと、口角を上げヘラヘラと笑う。

 

 今度は核ではなく、俺を倒すことを優先したのか、何度も俺に迫ってくるコイツらを相手にしていると上から何やら数個の丸い球体が降ってきた。不意な攻撃に"思わず"食らってしまうとそれは俺の体や腕、はたまた足にくっ付くと体が少し不自由になる、上から男にしては少し高い声が頭上から聞こえきた。

 

「どうだー!黒籍、オイラのもぎもぎは!動けないだろ!!」

 

 上を見上げて見れば天井に貼り付いたカエル女の蛙吹にベロに巻かれた状態の葡萄のような頭をした峰田が高らかに叫んでいた。

 

「ありがとう峰田くん!これで、触れに行ける!!」

 

 そう喜色を滲ませた声を上げた飯田は一直線に核に向かって走り出した。止めようと木箱を操作すると三度目は無いと言わんばかりにダークシャドウが木箱を押さえ込み常闇が俺を睨んでいた。本当に今度こそ、あと一歩で指が届くとこの場に居るヒーロー陣営の全員が勝利を確信した瞬間、飯田の足が一瞬、何か柔らかい物を踏んづけたかのように沈んだかと思えば次の瞬間には地面に張り付いたかのように足を伸ばした状態で地面から離れなくなる。…最高速ではないが、それでも中々の速さで走っていた飯田の体は勢いそのままに地面に叩きつけられた。

 

「カハッ!」

 

 不意に動かなくなった足と核を眼前に急降下する自分の視界に飯田は目を巻き、叩きつけられた衝撃で肺の空気が一気に出される。倒れた原因である、止まってしまった足に目をやれば、何処か見覚えのある球体が黒色に染まり一つ目の重瞳を纏って、自身の足の裏にくっ付いていた。

 

「これはっーーーーー!!」

 

 球体の正体を言い切る前に、倒れた今度は張り付いた足を先頭に動き始め飯田の体はかなりの速さで引っ張られる。球体は意思を持ったかのように重瞳を細めながら次の獲物に狙いを付けると一直線にソイツに飛んでいく。

 

「くっ!!」

 

 自分の方に向かってくる球体を対処しようとダークシャドウを呼び戻す常闇。しかし、その顔は苦悶に顔を歪ましていた。

 …だよな、普通は出来ないよな。

 

 球体に攻撃しようとすればどうやっても飯田を巻き込んでしまう、かと言って車のような速さで突撃してくる球体と飯田を受け止めようとすれば確実に俺はその隙をついて常闇と飯田の両方を潰しにかかる。

 

 …それでも、お前は正しい。

 仲間なんざ傷つけないほうが正しいに決まってる。

 

 飯田を受け止めたダークシャドウと一緒に飯田を受け止めた常闇は案の定後退り。飯田を引っ張っていた球体はいつの間にか止まって、黒い波が散るとそれは峰田が俺に放った粘着性のボールだった。引き摺られて意識の混濁している飯田を受け止めた常闇は次に俺の方に注意を向けるが俺は一歩も動かずにいた。

 

 向かってくると予想していた筈の男がスキだらけの自分に何もせず、手を後ろに組み、ニヤニヤと突っ立っていることに常闇は眉間にシワを寄せる。しかし、それは脱落した仲間の声で間違えだったことに気付かされる。

 

「常闇君!上ッ!!」

 

 常闇が自身の頭上に目を向ける頃には複数の黒い球体が眼前に迫り、雨のように降りかかっている最中だった。飯田もろとも自身に降りかかってきた球体はピトピトと体中に降り注ぎ、動きを封じる。黒い波が晴れると体には仲間である峰田の"個性"が貼り付き行動を封じていた。

 共に攻撃を受けた飯田も頼みのダークシャドウも、まともに動きが取れない状況に陥ると、常闇は唇を噛みしめた。

 

「戦闘不能だな、常闇」

 

「……無念」

 

 観念したのか悔しそうに目を閉じる常闇に俺は峰田のボールごと捕獲証明テープで常闇と飯田をぐるぐる巻きにし、葉隠と同じ場所に放り投げる。

 

「……峰田と蛙吹と麗日は…逃げたか、英断だな」

 

 さっき二人がいた天井を見ればそこにはもう、二人の姿は見えず何処かに逃げたようだった。判断は間違ってはいない。あのまま、居ても二人に勝ち目は薄かったからな。たぶんこの部屋の入り口前に隠れていたもう一人の奴と一緒に下の階にいる連中と合流する気だ。

 

 俺が下に置いてきた万象儀の反応も全部無くなっている。これは近いうちに、今度は全員で攻めて来るだろうな…。俺は葉隠に今度は口出ししない事を喚起すると隅に置いてある木箱を取り出し部屋の中央に踏ん反り返る。

 常闇が何か言いだけな顔をしていたがついさっき俺が口出ししない事を注意したんだ。話しかけるわけにはいかない。

 出来るなら終わった時に話しかけてくれ、そしたら幾らでも応えてやる。

 

 だから気長に待っててくれ、この蹂躙を。

 

 

 




はい。これで書き溜めておいたのは終了です。これから亀よりのろいペースで更新してきます。

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