リィンカーネーションに花束を   作:ピーシャラ

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自惚れを


第十三束。スイセンの花束を③

「…やべぇって!あいつマジやべぇって!!」

 

 三つの人影が並んで薄暗い通路を駆けて行く。その一人である背の低い男子は半泣きだがもう二人の女子も泣くとまでは行かないが自分達の今、置かれてる状況は非常に不味いと感じ取っているのか苦い表情を浮かべていた。

 

「…落ち着いて峰田ちゃん。今はとにかく、下にいるみんなと合流する事を優先しましょ」

 

「下の奴らは何してんだよ!!全然っ!おびき寄せて出来てねーじゃんかー!!」

 

 声変わりをまだ済ましていないのか、それとも変わっているのに低くなっていないのか分からないが、男にしては高い声で泣きながら泣き言を叫ぶという何とも哀れな姿を晒す同級生を尻目に、麗日お茶子は泣き言を叫ぶ同級生に少しだけ共感していた。

 

 

 先の作戦では下にいる陽動班が派手な動きで相手を呼び出し、その隙に自分らが核を確保する手筈だった。

 

 先程の戦闘でも彼女らが直前にとった作戦は常闇、飯田らが相手を足止めし、動きを封じたところで入り口付近で隠れた麗日が触り相手を無力化する算段だった。

 しかし彼女の出る幕は無かった。強いて言うなら出させて貰えなかったと言う方が正しい。

 客観的に見れば敵役である黒籍には彼女の仲間達が作ってくれた追撃をする隙は何度もあった。実際、彼女もその隙を突こうと決心もついていた。しかし、動こうとすれば彼女の足はピクリとも足が地面から離れずにいた。

 殆ど直感や本能に近いが何か確信めいたものを麗日は感じ取り、ソレを信じた。

 

(さっき飛び出しとったら絶対、ヤられとった…)

 

 事実、麗日の判断は間違っていなかった。結果的に仲間を三人失ってしまったが被害は抑えられた。もしも、あの時自分も飛び込んでいれば全滅もあり得たかもしれない。

 が、彼女には気掛かりなことがあった。麗日は隠れてる間、八百万に状況を報告しようと数度、通信を取ろうとした。しかし、それは一回も繋がることはなく、嫌な予感に駆られた麗日は陽動班と偵察班の全員にも通信を取ろうとした。だが、誰も麗日の応答には答えずコール音の無情な音だけが彼女の耳に響くだけだった。更に嫌な予感は増し、自分たちしか残っていないと言う最悪な状況さえ麗日は思ったほどだ。

 

 …もうすぐ仲間達の居る一階に着くと言うのに物音一つ聞こえず、人の気配さえ感じられない。本格的に自分の予想が当たるかも知れない恐怖に駆られ、麗日は思わず身震いしてしまう。

 

「…おかしいわね。誰も居ないわ……」

 

「おいおい!アイツらやられたんじゃねーだろうな!?」

 

 隣にいる二人からも不安な声が上げられ麗日も更に不安になる。不安と緊張に駆られながらも辺りを見回すと周辺には酸で溶かされたように空いた穴や焦げ跡、荒々しく削り散らされた氷の塊。乱雑に撒かれたままの瓦礫や木屑など、仲間達が何かと戦ったかと思われる戦闘行為の痕が所々に見受けられた。

 本当に自分たちしか居ないのか?彼らの不安は徐々に増して行く、いるかも知れない敵に対し音を立てずに移動し、一部屋ずつ確認しながら進んでいっているのに覗く部屋には誰一人としていなかった。そしてとうとう見ていない部屋は一つとなり三人の緊張感は高まりながらも扉をゆっくりと開いた。

 

「誰ですの!?」

 

 扉を開けた瞬間、横から勢いよく長棒が首元に向けられ麗日は一瞬ひっ、と息を呑んだがそれと同時に安堵した。向こうも彼女らに気づいたようだ。

 

「御三方、ご無事でしたか!」

 

 麗日の首元に向けていた長棒を取り下げ、安心した表情をしながら無礼を謝ろうと頭を下げる同級生の姿は血こそ出てはいないが体のあちこちがボロボロになっている事に麗日は気づくと慌てて頭を下げる同級生に顔を上げてもらい、部屋の中を見渡す。

 部屋の中には陽動班、偵察班含めた全員が揃っていた。しかし、全員の中の過半数以上はテープを巻かれた状態で地に伏しており、立っている仲間も何処かしらボロボロになっており息も切れていることからさっきまで激戦だったことが伺えた。

 この惨状に麗日は何があったか聞くのを躊躇うと隣にいる蛙吹が自分の考えていたことを代弁するように口を開く。

 

「……何があったの、みんなやられちゃってるみたいけど…」

 

「…黒籍が操った人形みたいな奴に倒れている奴ら全員やられちまった。アイツの武器にして操るって言うのはかなり強力なモノらしい、たった5体でこのザマだ」

 

 左半身を氷漬けにしたかのようなコスチュームを纏う轟が顔を顰めながら怒ったふうにそう言った。その言葉に今来た三人はこの人数をたった5体の操り人形で半壊にとどめるまで追い詰められたことに驚愕する。

 陽動班はこの戦闘訓練や個性把握テストで見た中でも戦闘力が高い人間が揃ったチームだった筈なのにソレを簡単に打ち破る黒籍に麗日は戦慄し、先程味方を軽くあしらっていた黒籍の姿を思い出し思わず納得してしまう。

 

「それより、そっちはどうだった?」

 

 倒れている仲間の怪我を一通りの処置を施したと思われる切島が自分が今から言う事をある程度予想しているのか物憂げな表情を浮かべている。

 

「ダメ。3人ともやられてもうた…」

 

「…残り時間はあと、4分前後。時間がありません……!」

 

 残り時間僅か。八百万はもう特攻しか打つ手がないと考えながら時計を見て唇を噛みしめる。他の者も、何処か勝てない事が分かっているのか顔を俯かせ、戦意を失いかけた。

 

 この男達以外は。

 

「…負け?……ふざけんなよっ…!?デクに負けた上に、あのクソムカつく野郎に負けてたまるかよ…!!」

 

「…同感だ。俺はアイツを見返すまで負けるつもりはない…!!」

 

 片や噴火する火山の如く黒籍に対する闘争心と敵意を露わにし、片や底冷えするかのような冷たい怒りを黒籍ではない誰かに向けている。何方にしても形相が鬼のように怖く、威圧感がとてつもない。

 

 お互い自分が負けたくないからと自己の為に叫ぶ。…決して仲間のためにこんな事を言ったのではない。しかし、結果的に見れば失いかけていた五人の戦意を焚き返すことに成功したことを二人は気付いていない。

 

「取りに行くぞ!アイツのクビ…!!」

 

「…取るのは俺だ」

 

「ウッセェ!!」

 

 

 

 

===============

 

「来たか………」

 

 …さっきもこの台詞を言った気がする。しまった、一度言ったことは言わない主義だったのに…常闇たちは気づいていないようだが正直言って結構恥ずかしい。

 

 そんな下らない事を考えていたらどうやら先手を取られたらしい。

 

「何、ボーっとしてんだ!?なめプ野郎ッ!!」

 

 入り口から飛び出して攻撃してくるのは爆豪だ。怒った獣みたいに鼻息を荒くし、ほとんど直角ぐらいの角度に目を釣り上がらせながら爆破の勢いで突貫してくる。その後ろ、入り口付近には轟が"個性"を発動させようと一歩踏み込もうとしている。他にも轟の付近に何人かの気配がビンビンするが今のところ出てくる様子はない。

 万象儀を全身に纏い、上空から迫ってくる爆豪に対抗を始める。しかし、このまま地面に足をつけていたのなら氷で足を取られてしまうだろう。

 

「オラッ!!」

 

 右の大振りで爆破を喰らわせようとしてくる爆豪に対し此方も飛び上がり、爆破をされる前に蹴りで爆豪の顎に狙いをつける。

 しかし、もう少しで顎を蹴り抜けると言う、すんでのところで反応した爆豪は首を仰け反らせ蹴りを避けてみせた。どんな反応速度だよ。

 

「爆豪!後ろっ!!」

 

 気付いても遅いぜ爆豪。

 いつのまにか出てきていた切島が爆豪の背後…というか後頭部に出現した木箱に声を張る。しかし、木箱は爆豪が反応する前に首に衝撃を受け一瞬意識を失えば浮いていていた体は落下を始める。

 だが、意識を失ったかと思った爆豪は霞んだ目で尚も攻撃をしようと腕を上げようとする。

 何故、そう思ったが直ぐに納得した。よく見れば爆豪の口元から血が流れていることに気付く。たまげた執念だ…自らの舌を噛んで意識を保たせやがった。

 

 しかし、舌を噛んで上げた腕も俺に届く前に再度…今度は背中に追突した木箱によって地面に叩きつけられた。

 そこに丁度よくやってくるのは俺たちに向かって迫ってくる氷結にうつ伏せに近い様な形で爆豪は捕まってしまう。ついでに木箱も凍ってしまうがが直ぐに万象儀で氷を剥がして動ける状態にする。

 箱は無事でも、爆豪は床に張り付かされてもまだ意識はあるらしい。だがまだ大分キツイのか目の焦点が定まってない。

 暴れられる前に思いっきり背中を踏むと爆豪はぐったりと睨み付けていた頭を下ろし気絶してくれた。

 

「皆さん、伏せて!」

 

 次はなんだ?入り口に意識を向ければ八百万が閃光弾のような物を投げつけて叫んでいた。

 八百万は次に何を想定しているのか分かり易い。

 まずこんな、いかにも目と耳潰しますの代名詞である閃光弾投げるのは愚直と言っていいな、鉄哲とは別ベクトルで。

 

 衝撃はやはりない。想像通り、耳をつんざくような爆音と強烈な閃きが室内を満たす。予め、鼓膜を解かして音の振動を殺して目を覆っていたから何事もなかったが、今度は足元から冷気が漂い、前方から猛々しい気配が二つほど迫ってきている。

 冷気は轟として迫ってくるのは切島と、もう一人は麗日だろうか?これ以上、閃光弾が投げられる気配は感じない。鼓膜を元に戻して目を守ってくれた腕を退かせば体をガチガチに硬化させた切島と両手を前に突き出した麗日が目前に迫っていた。

 

「えいッ!!」

 

(ふん)ッ!!」

 

 力強い掛け声とともに打ち出された拳。しかし、格闘経験は浅いのかどこか隙が多い…いくら体が硬化させてるからって、こんなに胴がガラ空きならやりたい放題だ。

 麗日も切島の邪魔をしないように切島の斜め後ろから触ろうと接近して来るが肩を狙ってきているというのがありありと理解できる。

 どうせなら、と拳を受け流し、硬化…と言われるぐらいなのだがらお試しにいつもより期待を入れて殴りつかせてもらう。

 

 …少し期待ハズレだ。

 硬化した皮膚が割れるバキッという音と共にメキッ…!と骨の軋む嫌な音の次には、常闇たちが大人しくもたれかかっている壁は岩同士を強くぶつけたような重い音と共に人一人分の穴を開けて亀裂が入り込む。

 突き抜けた奥から何枚か壁を突き抜けるような音がするがきっと大丈夫だろう…まだ切島が飛んで行った方向が外壁じゃなくて建物ん中の壁でよかった、危うく紐なしバンジーさせる所だったな。

 

 続けて、麗日が切島を殴り付けて隙が出来た俺の背面をとって個性発動のための五指を触れさせようと手を伸ばす。切島に意識を向けた瞬間にコイツは俺の後ろを取っていた。

 もし、俺が他の普通の人間だったのならこの攻撃で浮かされてしまうのだろう。それほどにいい攻撃の仕方だが、来ると分かっていたのなら、さほど怖くない攻撃だ。

 

 後ろに振り向かずに麗日の腕を掴むと何やら天井でコソコソと這い動いている連中に向けて麗日を躊躇いなく投げ飛ばす。

 投石のように投げ出された麗日の顔は一瞬しか見えなかったが何が起こっているかわからないような呆けた顔をしていた。

 

 自分たち目掛け、さながら人間砲弾…かのように飛んでくる麗日を流石に無視できない二人は、頭からもぎ取ったボールを数個、飛んでくる麗日に投げ、少しでも痛みを和らげさせるために重なって麗日を受け止めさせてみた。

 …結果的には蛙吹と峰田は麗日を受け止めることに成功したが受け止めた反動で窓を突き破って外に放り出そうになっていたが窓は大きく揺れたが割れることはなく三人が四階の高さから落ちることはなかった。

 一瞬、三人が落ちそうになったことに胸が跳ねたが落ちることはなく気を失っただけと知り、心の中でホッと息をつく。間髪入れず麗日の体に張り付かせるように共に投げた捕獲証明テープを巻きつけた。

 

「……とうとう二人になっちまったな…なぁ?お二人さん」

 

「ッ…!!」

 

 首だけを二人に振り向ければ打つ手がないという風に歯を食いしばりながらも長棒だけは構えている八百万と顔を俯かせながら構えもしていない轟が立っている。

 

「残り数十秒…打つ手が……!?」

 

「…………」

 

 …轟が単身特攻……あまり利口な手とは思えない。八百万の反応を見るからに打ち合わせはしてなさそうだ。時間が無いとしてもまだ生き残っている八百万と自分かを囮にして核を取るまでの時間を稼ぐという手もあるのに…。

 

「……………るな」

 

「あ?」

 

 自慢の氷結ぶっぱは悪手と踏んだのが近接で勝負を挑んでくる表情の見えない轟を相手にしていればコイツは何か小さく呟くと見えなかった顔を上げる。

 

「ふざけるな…!!!」

 

 その顔を見ると思わず固まってしまう。底冷えするような低い声と俺じゃ無い誰かを恨み、殺気に近い憎悪を放つ轟が胸の前で右手を構えていた。しまったと、思った次の瞬間には俺の体は顔を含めた全身、氷漬けの状態に晒されてしまい身動きが取れなくなる。

 

「氷が操られんのを避けて近接で様子見をしてたわけだが…どうやらこの距離での氷結には対応出来ないらしいな…大人しくし!?」

 

「嫌に決まってんだろ」

 

 万象儀で俺を封じ込んでいる氷の牢を全て分解し、俺の横を通り抜けようとした轟に再構築したペンサイズぐらいの氷柱を肩と腿に突き刺せば呻き声を上げて跪いてくれた。

 余った氷柱も核に触れようとしていた八百万にも向かわせそのまま壁に押しつけるように貫き、抜けないように少し細工をすれば、苦痛な叫びを上げ動けなくなっていた。

 

 …あと、もう少しでこの訓練も終わる。ならば、全員に捕獲証明テープを巻きつけてやろうと思えば一番近くで蹲り、痛みで荒い息をしている轟に近寄りテープを引き伸ばす。

 手首に巻こうと轟の右手を掴んだ瞬間、顔を下げていたコイツの…忌々しげに歪んだオッドアイと目が合い、何かを呟いた。

 

「…オレは……!お前、を……!!」

 

 学習しない俺は、次の瞬間には右手を掴んでいた手からまたもや氷漬けにされ、背後からはは轟々と鼓膜を揺らす爆音を鳴らす爆豪が目をカッと見開いて迫っていた。

 狙いを定め、氷越しに向けられる煌びやかな閃光と共に爆ぜられる掌に目を奪われれば…思わず口角が緩んでしまう。

 

 

 いけねぇ、いけねぇ。

 気づけば、体を取り巻き、拘束していた氷を万象儀で全て解かし俺の頭を吹き飛ばさんと迫る爆豪の頭を爆破されるよりも早く掴み、地面に叩きつけ押さえつける。叩きつけられた頭から中心に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。

 俺のことを爆豪に任したのか、貫かれた傷口を氷で塞ぎ痛みを堪えながらも、足から生み出した氷で核を取ろうと齷齪と動く轟に視線を動かすと、未だ意識がある爆豪を万象儀でさらに押さえつけ階下に押さえ潰すような形でこの場から離れてもらう。

 

 爛々としながら頑張る轟に跳び近づき、丁度後ろに着地すれば苦悶の表情を浮かべている轟の背を踏み付け進行を止めさせる。何か訴えつけるような…それでいて確かな怒気を孕んだ目を向けられる。

 その目に対して口を開こうとしたが、勝利宣言が平和の象徴の口からビル全体に響いた。

 

「ヴ、敵チーム…WINーーーー!!!」

 

 ……まずは謝るか。

 そう思いながら踏みつけていた足を退かし気絶した轟を含めた皆を回収、治癒するために黒い波がビル全体を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




HA☆KO☆が万能すぎた。
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