第十四束。アイの花束を
「…いや〜…みんなごめんな。うん。やり過ぎたな、すまん」
「「「「「当たり前だっ!!!」」」」」
「やり過ぎだよ!」
「死ぬかと思ったわッ!!」
「そのまま地面に頭擦り付けて頭植え付けろ!」
「なに、あの人形みたいな奴!電気効かねぇし、無言で襲い掛かってくるから怖くて気絶しそうになったじゃんよ!!!」
「私の酸もなんか体に穴開けて通り抜けちゃうし!強すぎ!!」
「八百万と轟は足と手貫かれるわ!爆豪は一個下の階に落とされて骨折るわ、俺たちは完膚なきまでに叩き潰されて活躍することなく脱落するわで…なんだこの、完全敗北!!!」
「美しくないよね!」
「そうだぞ、黒籍君!いくら訓練とは言え、クラスメイトに重傷を負わせるなどヒーローとして良くないと思うぞ!!」
「○ねッ!!!!!!」
現在、全員を治癒しモニタールームに戻ってくると顔を俯かせていたみんなにいきなり肩を掴まれたかと思えば、そのまま、えも言わせぬような威圧感で正座させられれば俺の謝罪を皮切りに罵詈雑言が飛び交う愚痴大会が始まる。
しかし、これも全て俺がしでかした事実だから甘んじて受ける。最後の方なんて楽しくなってついつい力を出し過ぎた結果、あんな惨状を生み出したからな。反省します。はい。
「み、みんな!その辺にしておくんだ、時間も残り少ないから手短に講評させてもらうぞ!」
憤慨する生徒達が俺に一人に文句を叫ぶ光景をいけないと思い止めようとしているが自分もあれはやり過ぎだろと感じてる部分もあるのか中々、止めずらそうにどうすればいい…と悩んでいる新米教師である平和の象徴だったが、終わりの時間が近づいていることに気づくと、やっとの思いで声を発してくれたお陰で、取り敢えずはクラスメイト達の勢いは止まったが、何人かから刺すような視線を向けられているので、これではいつ再発するかわかったものではない。
「え、えーっと勿論MVPは黒籍少年だよ。相手の戦力を削ぎ減らしながら核を守って時間制限まで粘りきったと言っていいね。序盤の方は緊張感があって良かったが、何回か核を取られそうになったり、ヒーロー側の罠にかかっていたりしていて合間合間に気を抜いていたがよく分かったぞ、そこはあまりいただけないな!他のみんなも各々の役割を果たすために尽力していた!負けこそはしてしまったが、皆、最初の訓練よりも人数が多かったのに連携が取れていて良かったぞ!!じゃっ私は緑谷少年に講評を聞かせに行くので今日は解散!着替えて教室に戻るように!!」
そう言ってオールマイトは何やら急ぎ気味に、というかダッシュでモニタールームから出て行った。解散、と言われた俺たちは何人かで固まり、それぞれの感じた意見を交えながら歩き始める。どうやら皆、この訓練で少しは距離が縮まったのか初対面特有の気まずそうな空気は無さそうだ。
「相澤先生みたいに除籍とか無くてよかったね〜」
「それでも、私はみんなの役に立てなくて悔しかったわ」
「そんなこと言ったら俺達もだ。陽動班のほとんどなんか相手にしてたの黒籍の操り人形だけだぜ。悲しくなっちまう」
「っすみません!わたくしがもっと緻密な作戦を考えていれば!!」
「そんなことないぜ八百万!作戦全部お前に任せちまった俺たちの方が悪いんだ、謝るのは逆に俺たちほうだ。すまん!」
「その通りだ、切島くん!これほどの人数がいるのによく話し合わずに君一人に重荷を背負わせてしまった…。僕からもすまない、八百万君!」
「そうだよヤオモモ。ヤオモモの考えた作戦すごくよかったのに私たちもちゃんと出来なかったからねー!」
「すごいぞ、ヤオモモー!」
「皆さん…ありがとうございます!ですが、ヤオモモって誰のことでしょうか…?」
「…というかお前からもどうなんだよ?どうだった?お前から見た俺たちは?なっ敵役のおにーさん!」
俺と障子の一歩前を歩いていた集団がなにやらガヤガヤと騒いでいる中から上鳴がひょっこと体を仰け反らせ、本当にチャラ男のようにニヤケながら人差し指をピシッと指せば、その声を聞いた全員が俺に顔を向ける。怒りを滲ませツカツカと一番前を歩いていた轟と爆豪もチラリとコチラに目を移していた。
上鳴の言葉に少しだけ唸りながらも正直に思ったことを出す。
「…チームワークはこの付き合いの短い中でこんな連携が出来るもんかと舌を巻いたが…やっぱり、まだまだ個々の力が足りないな。何人か良いところまで行けた奴もいたが、それでも少し物足りないと感じたのが正直な感想だな」
俺の感想を聞いたクラスメイト達は、やはりそうかと頷く者が多かったが爆豪と轟はキツかった目線を更に鋭くし、不服だと言わんばかりに顔を顰めた。
「と言うよりも、本当に黒籍さんの"個性"はなんですの?色々考えてみましたが、芦戸さんの酸や、青山さんのレーザーが当たる前に操り人形に穴を開けさせて通り抜けてみたり、氷を鋭利化さして突き刺してきたりと…検討もつきませんわ」
「あぁ、確かに!私もそれ気になってた!」
「…私も」
「この際だからしっかり吐いて貰おうか黒籍サァン!」
そう言って後ろから峰田と話していたらしい瀬呂が俺の背中をパシンと叩き、小気味良い音を出して会話の中に入ってくる。その声に反応したクラスメイト達はどうやらこの話に興味があるらしい。
辺りを見回して見れば、どの顔も好奇心のこもった眼差しで俺が口を開くのを待っている。先頭を歩いていた爆豪と轟も一瞬歩くのをやめ、歩く速さを遅くして聞き耳を立てるぐらいにはコイツら二人も興味があるらしい。
その意味が好奇心かは知らないが決してそう言った類ではなく、少しでも弱点を得るために話を聞きに来たのだろうと思うと少し複雑だ。
「…俺の"個性"は万象儀。読んで字の通り、万象…この世にある全ての物質を闘気で操り、支配し、己の武器として扱う"個性"だ。しかし、武器として扱うからには必ず何かを傷つけなければいけない。そうしないと武器としての意味が無いからな。そして武器にした物質はある程度で強化される。この辺りは俺のさじ加減だが…もし、万象儀で肉体を武器としたのなら筋肉は強度と密度を増し、骨格はより強硬になる。もしこれを空間で応用するのなら長距離間の空間転移…ワープが可能だな。弱点としてはそうだな…誰かを傷つけなければいけないことと、集中力と体力を結構使うからから使い果たした日にはぐっすり眠りこけてしまうことか……どうしたお前ら?」
なるべく、ゆっくり分かりやすいように話をしたつもりだが、上手く通じたのだろうか?皆、唖然とした表情で俺をじっと目を離さずヤバいものを見つけたような目で見てくるから正直言ってこの静寂が怖い…。
しかし、やっと理解が追いついたのか八百万が口を開いてくれた。
「…えっと、その……因みに黒籍さんは"個性"を最長でどのくらい使うことが出来ますか…?」
「どのくらい…?試したことはないが、多分臓器の一部を抉り取られたり、血を流しすぎたり、死に体になっていない限りは使えると思うぞ」
「「「「「「最強じゃねーか!!!」」」」」」
だろ?
「あ、おーい黒籍!今からみんなで訓練の反省会するんだけどよ!お前も来るか?」
「…すまねぇ。今日は用事があるんだ、また誘ってくれ」
「そっか、分かったー!」
戦闘訓練の後、特に何もなかった俺たちは着替えて普通に残りの授業を受けた。今さっき、切島から反省会の誘いを受けたがこの後はとある人間に用があるから断らせてもらった。
普段一緒に帰ってる倖季と八戒にも先に行ってくれとの連絡を既に送ったからこれでゆっくりと話が出来そうだ。
「お、緑谷」
「ふぁっ!」
鞄を担いで、扉を開けたら目の前に緑谷がちょうど扉に手をかけようと手を伸ばした状態で立っていた。不意に開いたドアに驚いたのか、それとも急に出てきた俺に驚いたのか間抜けな顔と共に素っ頓狂な声を出しているのが少々ツボだ。
緩みそうになった口角だったが、今もボロボロのコスチューム姿で腕に巻いた痛々しいと思える量の包帯と腕を提げるための保護サポーターが目に付き、少しだけ顔を顰めてしまう。
「あ?治して貰えなかったのか?」
「え!あ、これはその…治療するにも体力がいるらしくて完璧には治して貰えなかったんだ…」
「え!デクくん、腕治して貰えんかったん!?」
「大丈夫かよ、おい!」
そうこうしている内に残っていた他の奴らがゾロゾロと緑谷に群がってきた。やはり緑谷も倖季と同じで人見知り気質なのか少しタジっていた。今度、緑谷に倖季を紹介するのも良いかもしれない。果たして人見知り同士はすぐに仲良くなれるのか気になるところだ。
そうこうしている内に、緑谷が急いで教室から出て行った。律儀に挨拶と礼をしていきながら出ていくあたりちゃんとしている。どうやら爆豪を追いかけに行ったらしい。走るぐらいの余裕があるぐらいには元気があるらしい。
さて、俺も追いかけに行くとするか…。
全員に別れをつげ、教室を出る。
今は放課後と言うことでヒーロー科以外の他の科の奴らは部活にでも精を出しているのか今の廊下は歩いている人間の数は疎らだ。というか、いないに等しい。
部活だろうか、遠くの方から叫び声にも似た活気ある声が聞こえてくる。こういうの聞いていると少し心地が良くなるのは何故だろう。
だがそんなこと、やっと見つけた遠くの方を歩いている探していた人物は感じているのだろうか…と少し考える。
少し歩く速度を早めると降りの階段に差し掛かるところで目的の相手に追いつき、ソイツも一つ降りた階段の踊り場で俺に気づいたらしい。俺は一足で階段を飛び降り目的の人間と顔を合わし、少し口角を上げて話しかけた。
「ちょっと話をする気はないか、轟?」
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「…俺にはない」
「そんな邪険にすんなって!」
おちゃらけてそう言えば、轟はムッと眉間のシワを一層寄せ、俺を無視してスタスタと早歩き気味に階段を降り始める。
階段の踊り場のから差し込んでくる薄いオレンジ色の光が轟の絹糸のような艶のある左右紅白色に別れた髪の上を滑っていた。もう日暮れに差し掛かっているのが理解できた。
早歩きでどんどん離れていく轟を俺は急ぎ足で追いかける。
「露骨に避けようとすんなよ。悲しくなるだろうが」
「うるせぇ」
「ただの世間話するだけだぜ?」
「興味ない」
話しかけるたびに歩くスピードはどんどん速くなっていく。
気づけばもう既に校門を出ているのに、コイツは俺の話を聞く気がさらさらないようだ。
「なら…勝手に話をするか……」
「いい加減にしろ!なんだ、一体さっきから!?ーー」
「誰がそんなに憎い?」
「ッ……!?」
…やっとコッチを見たな。
「…個性把握テストの時も、初戦の戦闘訓練の時も、俺と戦っている時も…お前は遠くにいる誰かが憎くて憎くて堪らないって顔してたな」
「……っんな事、お前には関係ないだろ?」
「…確かに俺には全く関係ない。だが、今にも人ひとり殺しそうな眼してるやつをほっとく趣味もなくてな。まぁ、単純に気になるんだよ」
ようやく止まって、振り向いた顔は依然眉にシワを寄せてひどく迷惑そうな顔をしている。鋭く尖った眼の奥にある憎しみの炎は健在のようで、昔に手合わせを願ったどっかのヒーローを彷彿させられた。
「…迷惑だ。二度と話しかけてくるんじゃねぇ」
俺の顔を観察するように眺め、少し考えるような仕草をした轟だったがやはり話す気がないのか、また前を向いて歩き始めた。中々に強情な性格らしい。
それに、二度とは無理だな。少なからず三年間はこの顔を嫌でも見合わせることになるんだ。
というか、お前に話す気がなくとも俺は逃す気なんてさらさらないぞ。
「…なら、無理矢理にでも連れていくか」
「は……!!」
一瞬にして、俺と轟ごと周りを黒い波がすっぽり覆い隠し、見知った重瞳が俺たちを眺めるように蠢く。今が本当に都合よく誰も近くに居なくて良かった。こんなとこ見られたら完全に敵に見間違えられる。
行き先は当然決まっている。
今のコイツには結構、安らぎかどうかは知らんが安心はできる場所であろうと自負しているからな。
視界をいっぱいに満たしていた黒い波が晴れると、ここも変わらずオレンジ色の陽の光に包まれた大きな鉄門とこの場所を示す表札が照らされ、優しい花の香りが俺たちを迎えた。
一瞬にして見知らぬ風景が広がったことで理解が追いついていないのか、いつの間にか眉に寄っていたシワが取れ、ポカンと呆然とする轟に向かって手を広げ鉄門を後ろに、高らかに紹介する。
「歓迎しよう轟!ハナゾノにようこそ!!」
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや〜無理矢理感がすごい。