リィンカーネーションに花束を   作:ピーシャラ

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真実と期待を


第四束。アネモネの花束を

「初めに黒籍さん。私は貴方のことを信用していません」

 

 翌日。予定通りの時間に起き、昨日と同じように車に乗せられ目的の会議室にたどり着くと既に俺以外の全員が集まっており、中には昨日居なかった顔が一人増えていた。

 

 中年の男と言うのにはあまりに若々しく、穏やかな笑みを浮かべて普通の人間からは優しそうな奴だと評価されるだろうが発せられる風格からただの人間じゃないと凄みを感じさせられた。なんだろうな…初めて会ったがどこか既視感を覚えた。

 

 全員の手厳しい視線が此方に向けられる。唯一、空いている先に座り目良の挨拶から始まると開口一番に会長がそう言い放った。

 

「…いきなりだな。まぁ昨日いきなり現れた謎の多い"廻り者"を信用しろだなんて無理な話だろうな」

 

「そういうことです。そこで一つ確認したい事があるのですが貴方は人類と敵対する気はありますか?いや…協力する気はありますか?」

 

「敵対はしない。あったとしても、こんな体じゃ自由が効かないからな。やられるのがオチだ」

 

 完全に協力する気もないけどな。

 

「…なら今は、その答えだけで充分です」

 

「黒籍君。先日、君と蕾院長に話した通り君にはこの先、公安の保護の下、ヒーローになってもらうための教育を受けてもらう事になるがそれでもいいですか?」

 

「あぁいいぞ。昨日もそう言ったし、やりたい事も出来たからな。それと目良、子供扱いはよせ。これでも中身は大の大人だからな」

 

 ビシッと指を指しそう言うと目良は愛想もなく一言だけ頷くとすぐに次の説明をし始めた。やっぱりドライだな。

 

「……さて、ここまでで何か質問ありますか?黒籍さん」

 

 目良のスルーに少しだけブー垂れていたら説明の大部分が終わり質問を投げかけてくるが殆ど完璧な目良の説明に何も言うことは無かったし聞く事もない……いやあった。

 

「そういや、この世界で"廻り者"はどういう扱いになっているんだ?」

 

「「……」」

 

 俺の問いに何人かの体がピクッと動くと少し気まずそうに顔を伏せ何も喋らなくなった。

 何となく察した俺はコイツら二人がが喋り始めるまでジト目でずっと気まずそうな顔を凝視し続けていると観念したのか目良が話し始めた。

 

「…簡潔に話すと、廻り者は超常前に起きた人間との戦争に敗れ絶滅しました。彼らの存在を恐れた各国は情報をそれぞれ秘匿し、今では世界でも廻り者の存在を知る人間は、世界でも一握り程しかいません」

 

「とてつもなく極端に言ってしまえば、貴方たちは忌まわしい存在となっています」

 

「……マジか」

 

「因みに、そこに座されてる方はこの国のトップです」

 

「………マジか」

 

 目良がサラッと紹介するように手を向けられた先にはさっきの眼鏡をかけた男がペコっと頭を下げていた。お前、総理かよ。

 

「なので今現在、貴方(廻り者)が存在していることを知っている人間はこの場にいる人間しか知らないことになっています。なので……」

 

「あーわかった。分かったから、皆まで言うな。つまりあれだろ?隠しておけってことだろ?」

 

「そう言うことです」

 

「そっかぁ……。なぁ、あと三つ頼みを聞いてくれないか?」

 

「なんでしょうか?」

 

「一つ目は訓練続きで休みが無いって言うのは無しだ。最低でも週一ぐらいで休みが欲しい」

 

「そのくらいなら……」

 

「もう二つは、もしこの先、廻り者が現れた時。どんな奴でも会わせてくれ、そして出来るならそいつらに危害を加えないで欲しい」

 

 このお願いだけは少し、考えることがあるのか会長と目良は黙ってしまった。やはり素性と明確な目的を示していない俺が廻り者と会わせてくれなんて警戒するか…。

 お願いを取り消そうと口を開こうと思った瞬間、以外な奴が声を出した。

 

「いいですよ。別に」

 

「ッ総理!?」

 

 今まで口を閉ざして微動だにしなかった総理が簡単に承諾してしまった。

 

「…いいのか、本当に?俺が言うのもあれだが何するか分かったもんじゃねーぞ」

 

 思わず声に出すと。総理は机の上で手を組み直し、俺の方を観察するようにじっと見つめた。

 

「いいですよ別に。これまでの会話と君の態度を見てきて、君がこの世界をどうこうする気は無いと思いましてねぇ。……それに君ら如きの敗北者が我々(人類)に勝てると思うな

 

 …流石この国のトップと言うべきだろう…。見かけによらない圧の強い言動に加えて眼鏡越しに見えた総理の目は、並の人間が見たのなら一瞬にして怖気付いてしまう程に鋭い眼光をしていた。現にいま、近くに座っている会長と目良は威圧で少し震えている。

 穏やかな目に戻った総理はまた俺をじっと見つめてきた。それに対し俺は哄笑し返してやった。

 

「……なるほど。廻り者が負ける訳だ。こんな、おっかない連中が相手だったんだからな。…安心してくれよ。あんたの言った通り、俺はこの国をどうこうしようとする気もない、敵対する気もない、あんたらが俺たちに対して何もして来ない限り俺たちはなにもしない」

 

「賢明で安心しましたよ。これからは…お互い、いい関係を築いていきましょう」

 

 そう言った総理は組んでいた手を解き俺に向かって手を差し出してきた。俺はさっき総理に感じた感情の正体が分かると、内心溜息をついた。そうかコイツ(総理)()()()と似ているんだ。

 遠くで差し出された手に俺も手を差し出した。机で届かない距離にある手に万象儀で擬似的な手を作り出し総理と握手する。

 

「俺、あんたのこと嫌いかもな」

 

 そう、毒づいたのに奴はニコニコと穏やかな笑みを浮かべ何も返してこなかった。それと対照的に、俺は心の中で悔しいが、再び悪態…というかある種、達観していた。

 

 コイツには敵いそうにないな……

 

 

 

 

===============

 

 

 

 あの契約の日から今日でだいたい…四年ぐらいか?小六になった。

 あの日から公安で住むことになり孤児院からは出た。一応、これまで通り学校には通うが別れの日には、八戒を含めた他の連中らはギャン泣きしながらタックルかまして来るぐらいに俺との別れを拒んだ。八戒が思いっきり突っ込んでくるとトラックが迫ってくるような感覚がしてとても怖かった。

 それに、どうせ学校で会うだろうと思っていたが小学校を卒業するとあいつらの通う中学校と俺の通う中学は別々らしい。余計、タックルされた。

 

 ハナゾノにいる子供達はどうやら中学まで全員、婆さんの顔が効く学校に通うことになっているらしく孤児院を出た俺はその枠組みから外れた結果、あいつらとは離れてしまった。まぁ、俺の住んでるところと孤児院だいぶ遠いから当然といえば当然だ。

 

 訓練が始まると、ほぼ毎日、白いタイル張りの隔離病棟ような息苦しい部屋で多くのことを叩き込まれた。嫌がらせにタイル全部割ったら会長と目良にしこたま怒られた。

 基礎訓練、対人戦、"個性"…というか万象儀の熟練度を上げる修練、鍛錬そんで学業。果てには人間との友好的な交渉術などなど…前半は俺だけでもなんとかなるが、頭に関してはノイマンに馬鹿にされる程出来ないからな。それに今以上の交渉術の発展が可能になるのは俺としてもありがたい。その辺りは公安様様って感じだ。

 

 生活に関しても望んだものは大体手に入るからそれと言って不自由な暮らしにはなっていない。約束通り、ある頻度で自由になれる時間もある。監視付きで。そんな日は特にやることがないので万象儀を使いその辺を散歩している。

 

 露店で買ったたい焼きを頬張りながら都市部にしては緑豊かな街の中を通行人に紛れながらブラブラと店の中を物色しながら歩いて行く。休みの日はこうやって街や森の中を散策するのが習慣となってきている。途中チラチラと通行人達が俺を見てくるがいつもの事だ。子供が真っ昼間に一人で歩いていたら気にもなるだろう、偶にヒーローが声を掛けてくるがその時は逃げるのが最善だと考えている。

 戸籍があるとは言え、殆ど国家機密とも言える俺が迷子で身分がバレたなんて知られたらあいつらにドヤされるに決まってるからな。まず、監視を振り切って逃げた時点で怒られる。

 

 まぁ、監視役を任されている俺の()()も割とサボり魔だからな。お互い自由になれるってことで利害が一致しているから自由な旅行みたいなもんだ。

 

 怒られるのが嫌なら散歩なんてするなだなんて野暮なことをあいつらは言ってくるが残念だったな、こちとら暇なんだよ。散歩を終わらせるかとちょうどいい頃にいつも決まって俺の先輩が見つけてくるから、それを区切に散歩を終わらせている。

 

 だが今日はまだ始めたばかりなのでまだだとは思うが…お、黒猫。

 

 

 人混みを抜け、花壇の上で器用にくるまってゴロゴロと気持ちよさそうに眠っている黒猫に近づくと俺の存在に気がついた黒猫は俺の方をじっと見てくる。…すると何を思ったのか、路地裏に入り込んでいった。急いで食いかけのたい焼きを全て口の中に頬張り、暇つぶし程度に黒猫を追いかけることにした。暇だからな。

 

 ゴミ箱、換気扇などを器用に足場にしながら薄暗い路地を走っていく猫を俺もパルクール感覚で色んなものを足場にし追いかけて行く。途中、分岐近くでガラの悪い連中が目に端に映りほんの少し気になったが猫は連中とは逆の方向にはしって行くのでそいつらは無視した。

 暫く、逃げる猫を追いかけそろそろ飽きて来たというところで、蹲っているソイツは居た。

 

 

 

 最初に見つけて思ったのは「コイツ生きてんのか?」だった。歳は俺より低いぐらいなのに背中半分ぐらいまで乱雑に伸びた髪はボサボサで…所々に穴が空いた子供用の服は汚れやほつれが広がったのか大胆に穴が開いていた。そこから覗く肌は見ただけでも火傷、裂傷や打撲跡で痛々しく盛り上がっており、思わず顔を顰めてしまう。

 ハエがたかって垢がこびりついている様子から暫く風呂にも入っていないのだろう酷い匂いがした。それなのにも関わらず俺が追いかけていた猫はソイツに寄り添うように傷跡をペロペロと舐めていた。この猫は俺をここに案内したのか?

 なんて現実味のないことを考えながらしゃがみ込み、生きているのかも分からないソイツに俺は声を掛けた。

 

「おい。大丈夫か?」

 

 突然の猫以外の気配に驚いたのか肩がビクッと跳ねたことで生きていることに安堵する。ソイツは恐る恐る自らの隣にしゃがみ込む俺を怯えながら見上げた。

 

「お、良かった生きてるな?どうした、何があった?」

 

 目があった瞬間。まるで猫のように逃げ出すコイツの手を掴み無理やりにでも逃さないように痩せ細った手を掴んだ。掴まれたことが怖いのか、怯えたように顔を歪めるコイツはなんとか逃れようと激しく抵抗を始めた。このままじゃ話も聞けねぇな、と思うと安心させるように声をかけ、危害を加えることはしないと話す。逃げれないことに諦めたのか、暫くして抵抗をやめてくれた。

 手を離すとペタンとその場に座り込み身を丸め縮こまってしまう。再度、同じ質問を投げ掛ければ声を発するのが久しぶりなのかうまく回らない呂律と小さい声で、この現状に至るまでの経緯を子供に似合わない酷く丁寧な口調で話し始めた。

 

 

 小さな口から丁寧な口調で話された内容はこうだった。曰く、自分には双子の姉がいるが両親は姉の方のみを溺愛し、自分はまるでいない物のようかに扱われていたと。

 曰く、奴隷のようにこき使われロクな生活を送らせてもらえないこと、そして一ヶ月近く前。とうとう両親に売られ今日、命からがら脱走し、怖い人たちから逃げ疲れ、気付いたらここにいたのこと。

 以前、どうして良いか分からない風に縮こまるコイツに俺は思ったことをそのまま話す。

 

「…お前はこれからどうする気だ?」

 

「……分かりません。今までいた家もありませんし…お金もないですから…」

 

「…なら、お前はソイツらをどうしたい?」

 

 自然と声に出ていた。具体的に言えば、家族らに報復したいか?という意味だがコイツはそんな事理解していない様子でこてん、と小首を傾げていた。

 

「…分からないんです。捨てられたから…別にもう、なんにも興味がないんです」

 

「…それはーーーーーー」

 

 本当にどうでもよさそうな無表情な顔でそう言い放つコイツに声をかけようとする前に、いらん連中がやって来たようだ。

 

「お!いたいた」

 

「なんか一匹増えてねーか?」

 

「どうでもいいだろ。なんなら、そこのもう一匹も連れてきゃいい」

 

 見た目だけでアチラ方面だと分かるガラの悪い連中が何やら下衆な会話をしながらゾロゾロと近づいて来る。隣に目をやると体を震わして明らかにガラの悪い連中に集中し、なんとか逃げようと後退りをしているが恐怖で上手く動けずにいた。この怯えようを見るからにコイツが言っていた怖い人たちというのはきっと目の前にいる連中らなんだろう。

 

 そんな事を思っていたら先頭にいた異形系の頭の悪そうな顔をした奴が俺を捕まえようとしているのか太い腕を伸ばしてきた。遅く、油断し切って伸ばされた腕を片腕だけで捕まえると一瞬、驚いた顔をしたがすぐに気持ちの悪い下種な笑みを浮かべるともう一方の腕で俺を潰そうと腕を振りかぶってきた。

 

 …やっぱりな。あの頃と比べて体もでっかくなったし公安と先輩に相手になったもらったお陰で万象儀を使わなくてもこの程度の下衆の相手は軽く出来る様になるもんだ。だってほら、結果頭の悪そうだった顔が今度は間抜けに白目剥いて倒れてるからな。

 

 目の前で狼狽している連中とは対照的に俺の後ろでいつの間にか立っているコイツは目を見開いてとても驚いており、曇っていた瞳はどこか光輝き俺を見つめていた。

 先程のような暗い表情よりもコッチの方が断然良い。俺は連中を煽るように手を向けて口を開く。

 

「コイツに指一本触れられると思うなよ。(世界最強)が相手だ」

 

 

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