リィンカーネーションに花束を   作:ピーシャラ

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旅人に喜びを


第六束。クレマチスの花束を

 時間の流れは早いものであっという間に、今世15回目の春が来た。

 それに伴って発生する学生の長期休暇。俺としては訓練以外は暇で暇で仕方の無い長い休みだ。

 最近はホークスがNo.3ヒーローの称号を勝ち取りったおかげで俺を捜索するのに裂く時間が無いから俺が散歩をする回数はかなり減った。ぶっちゃけ散歩で一番楽しみだったのがアイツに乗せてもらい、空を飛ぶことだったから、それが出来ないのなら散歩をする意味が減ったから別にいいのだ。

 

 という訳で最近の休みの日はハノゾノに入り浸っている。因みに今は休日の昼間だ。ここはいつ来ても賑やかだし、八戒らも居れば婆さんもいるので俺としても居心地が良い。それにアイツも居るしな。

 

「お。項羽、今日は遅かったなブ」

 

「…八戒。ひさしぶり」

 

「あ、項羽兄ちゃん〜!」

 

「え!ホント!?」

 

 庭を覗いてみると花壇で花を見ていた荒々しい筆文字で豚と施された黒いTシャツを着た八戒とガキ二人を見つけた。猛ダッシュで駆け寄ってくるガキどもを捕まえて抱き抱えるとキャーキャー言いながら笑い叫び出した。ちょっとうるせぇ。

 

「院長にはもう挨拶したのかブ?」

 

「いや。お前らが初めてだ。まだ小さい奴らは昼寝の時間だろ?」

 

「おう。たぶん院長はいま子供部屋で子供ら見てる筈だから一緒に行くか?」

 

「いいぜ、行くか」

 

「どっかいくのー!?」

 

「わたしらも行きたい!!」

 

「おおーいいぜ。お前は八戒の上な。静かにしとけよ」

 

 抱えてたガキ二人を俺と八戒で肩車し、上ではしゃぎ倒させながら院長のいる部屋まで向かっていると他のガキどももワラワラと集まっていつの間にか大集団になっていた。

 毎度の如く、俺に喧嘩を売って足を殴ってくるクソガキが何人かいるがそんな時は万象儀で脇を擽らせて笑い疲れさせ再起不能になるまでやるのが常だが、こいつらは何回でも来るから飽きない。

 

 他にも遊ぼうや、勉強教えろといろいろと駄々をこねてくる元気な奴らがいる。その辺は後回しにしているが、中には俺らの後をついてくる奴が多い。流石にこの大人数で婆さんのところにけしかける訳にもいかないので、肩車している奴も含め、その辺にいた同い年のやつらに押し付けてしまった。すまん。

 

 婆さんのいる部屋を覗き込んでみると、どうやら小さい奴らがちょうど良く全員漏れなくぐっすり寝たところだった。それにもう一人、婆さんの他に見知った顔が俺たちに気付いてスリッパでパタパタと足音を鳴らしながら嬉しそうに近づいてきた。

 

「項羽、久しぶり!」

 

「おっす倖季。いま終わったのか?」

 

「うん!みんな寝たよ」

 

 小さいのが寝ているので全て小声だが婆さんを呼んでもらい挨拶をする。

 …倖季は三年前のあの後、ハナゾノで引き取ることとなった。実の両親を見つけることは出来たが、先方に倖季を引き取る気が毛頭なく逆に捨ててやると愚図どもは笑ったらしい。その話を聞いてブチ切れた婆さんがいつもとは違い声を荒げながら啖呵を切って引き取ったらしい。

 あと、何気に一番驚いたのが倖季が同い年だったことだ。確実にあの時は年下だと思っていたからな。初めて視認した瞬間、死体かと思ったのは後にも先にも言うことはないだろう。

 

 病的に白く骸骨のように痩せ細っていた体は姿を消して、健康的な小麦色の肌になりすくすくと大きく育ってくれた。何処とは言わないが女性の象徴的な部分を除いて。

 

「いま、なんか変な事考えてた??」

 

「…いや、全然っ」

 

 じっ…と翠色の瞳を合わせて凄んでくるほど逞しくなった今の倖季だが初めの頃は皆んなに怯えて、目を合わせた瞬間逃げ出してまともに話すら出来ていような状態だった。

 …けど、この孤児院は倖季とおんなじような境遇を持つ人間が多かったからコイツが心を開くのにそう時間は掛からなかったな。

 

「そう言えばね。この前、啓悟兄い(ホークス)がお菓子持ってきてくれたんだよ」

 

「…ほ〜。あいつ、よくこっちまで来れたな」

 

 先輩はなにかとコイツ(倖季)をあの日から気にかけている。あの日、倖季を警察に預けて公安に帰ってきたあいつは、脚色なしにギャン泣きして帰ってきた。

 あの後は確か、延々と炭酸飲みながら倖季の親に対する愚痴やら悪口をさめざめと泣きながら聞かされたな。倖季がハナゾノで引き取られた後もちょくちょく様子を見にきているらしい。その日はガキどもはトップヒーローが来て大燥ぎするから大変だ。特にホークスが。

 

 そんなこんなで、今は婆さんから手伝い終わっていいよの指令が下され庭でまたガキどもと遊んでいる。基本的には喧嘩を売ってくる生意気なガキどもや元気が有り余ってる奴らに相撲をし向かってくるコイツらをエンドレスで倒し続けている。

 昔と変わらず、ここに居るガキどもは血の気の多い。何回倒しても懲りずに本気で勝とうと、立ち向かって来る気概は好みだから飽きない。

 …しかし、此処で後ろからヌッと影ができたかと思えば、思わぬ奴が土俵に上がってきた。

 

「項羽。()()、しようぜ」

 

「……八戒。いいぜ久々に(やる)か」

 

 八戒はいつも俺との手合わせを誘う時には絶対、()()と言う。何故、素直に手合わせしたいと言わない?と聞いても、奴は頑として答えなかった。俺と相撲をしていた今の代のリーダー格であるガキは今は俺の番だと強く食い下がって来るが、倖季が窘めると渋々と言った風に下がってくれた。また今度相手にしてやるとポンポンと頭を叩くけば、割と全力で叩き返された。唸るなよ。

 他の奴らを下がらせ、いつかのサッカーもどきをした場所まで上着を脱いで出る。

 念のため破れたり、汚れたりしないために服は上だけ脱いで戦うことはいつかに決めた通例なので今はお互い上は一糸纏わぬ上裸である。間違っても変態ではない。

 

「こうして、喧嘩するのは何日ぶりだ?」

 

「確か…一ヶ月くらいブね。とうとう時間も分からなくなるくらいにボケたのかブ」

 

「うっせぇ、そんで…今日は武器使うか?」

 

 答えを聞く前に八戒は既に豪腕を振るっていた。はいはい素手を御所望で。バク転で身を翻すように避けると、地面に着弾した豪腕は大きく砂埃をたたせ、腕を固い地面に肘ぐらいまでめり込ませていた。

 

「相も変わらず、えらい力だな八戒。ちょっとパワー上がったか?」

 

「そりゃ、どういたしましてブッ!!」

 

 腕を引っこ抜いて、真っ向から迫って来るとと今度は勢いをつけた上段飛び蹴りをかましに来た。蹴りを躱し、空中でガラ空きの顔面に拳を叩きつける。しかし、普通なら怯むなり、何かしらの反応は示す筈なのだがこの豚は意にも返さないように硬く握られた拳で俺の鳩尾を殴ってきた。

 

「硬ってぇ!やっぱお前相手に素手は無理か…」

 

「……項羽も反射どうなっているんだブ。防いでるんじゃないブ!」

 

 鳩尾を捉えていた八戒の拳を捕らえ、すんでの所で攻撃を止める。腕を振り払おうと力を込める八戒を逃すまいと掴んだ腕に力を込めて逃げられないようにする。

 

 やっぱコイツの『剛豚』の皮膚を破るのに生半可な攻撃じゃ怯みもしねぇ。

 

 逃げられない事を悟った八戒は残った手で拳を握ると奴はそのままトンカチを振りかざすように俺の頭を潰そうとしてきた。

 振りかざされる拳を万象儀で作った圧縮された空気の層で防ぐと、そのまま体から滲み出てくる黒い波が俺の体を覆った。

 完全に俺が全身シルエットの黒い人間になり重瞳が開かられれば、危機感を覚えた八戒は、既に俺から離れていた。

 

「やっぱお前との修練はいいな!そこらに転がる愚連のチンピラとは訳が違う!!」

 

 地を踏み抜き、一気に八戒の懐まで潜り込むと鋼の光沢を帯びた傲慢な腹を殴りつける。先程とは打って変わって、八戒の巨体は後方へと後退りに似た形で飛ばされるが倒れるまでにはいかなかった。

 

「……やっぱ、強いブね…」

 

「いやいや、お前も充分強いぜ。俺とタイマン張れるのはヒーローでも少ない!」

 

「でも、でもッ!コレでも本気じゃないブね!?」

 

 お互い。殴り、蹴り、防ぎあいながらも慣れた軽口を飛ばしあい乱打戦を始める。

 ……八戒の"個性"は近接戦が一番強い。増強系に全く劣らない力で敵を蹴散らし、鋼のような強固な皮膚と豊満な脂肪でダメージを通さず。それに加え、鼻が効くから死角からの攻撃にも素早く気付き、遠くにいても体躯に見合わない速さで、すぐ目の前に迫ってくる。

 …『剛豚』の名に相応しい、恐ろしい"個性"だ。

 

「…せっかくだ。迷える子豚さんに進路相談でもしてやるよ!」

 

「今!?あとオデは子豚じゃねぇー!!」

 

 そう叫ぶと同時に殴りつけてきた拳で力任せに無理やり押し切ってきた。一旦離れるようと一歩下がろうとした瞬間。奴はもう一歩踏み出し再度、殴りかかってくる。

 

「勇敢なる豚。八戒様だッ!!」

 

 

豚槌(とんかち)!!

 

 

 周りの歓声がドッと大きくなる。

 八戒の全力パンチは両腕を重ねて防いだ筈の守りを守りごと吹き飛ばし、俺は全力で地面から足を離さぬよう、地面が抉れても全力で堪えた。堪えさせられた。その事に気付くと自然と思わず口角が上がってしまった。

 

「…やっぱお前、最高だ。将来はヒーローか!?」

 

「当たり前だ!雄英に行って!ヒーローを目指すんだブ!!あの日からッ…オデの夢は変わらないんだブ!!」

 

「そうか…あともう一つ。つまんねーこと聞いていいか?」

 

「なんだブ!?」

 

 距離を詰め、わざと掴み合いの力勝負に持ち込んむと周りにいる奴らに聞かれない声音…俺と八戒にしか聞こえないように話をする。

 

()()はちゃんと守ってるよな?」

 

「………ほんとにつまらない事ブね。大丈ブよ。アイツは楽しくやれているようだブよ」

 

 …俺と八戒、同年代の奴らは昔にある約束をした。不変の契りだ。

 

 俺たちの以外、この院の小さい奴らが、もし他者に害されることがあったのなら何があろうと守り通すこと。

 

 この戒律は倖季が来てからできた物だ。

 

 何故かと言えば、健康になった倖季がとてつもない美人になったからだ。魅力的になったと言ってもいい。中学に上がる頃には倖季はモテた。一日に何十通も手紙が来るぐらいに。不躾に倖季にちょっかいを出す輩も増えて、そのせいで女子たちからを迫害を受けるようになってしまった。

 

 元々、両親の命令だけを聞き、小学校にもまともに通えていなかった倖季はコミュニケーション能力が明らかに不足していた。ハナゾノである程度の常識や良識は身に付けることは出来たが、自分を攻撃してくる対象にどういう対応をすればいいか分からなかった。どうしていいか分からなくなった倖季は女子たちに殴られようがクラスメイトの男子から

性的なイタズラを受けようとも我慢していた。

 日を追うごとに倖季は元気をなくしていった。それでも心配掛けまいとむりに笑う倖季に看過できなくなった八戒らは憤慨し、全力で倖季を守るようになった。学校が違うせいで上手いように手を出せない俺も万象儀を駆使して証拠集めに勤しんだ。結果として倖季に手を出していた連中は虐めていた証拠を突きつけられ全員退学、転校していった。それからは倖季に手を出す輩は大幅に減り、平和になったのだが家族を守るという約束は続いていた。

 

 

「……そうか。お前が言うなら安心だ。これからも俺の代わりによろしく頼むぜ八戒」

 

「あたぼうだブ。オデたちもアイツが大切だからな、当然だ」

 

「だよな。…さて今回はこれでお開きらしいぜ」

 

「------え"!?…もう先生きたブか……?」

 

 周りが静かになっている事で何か察した八戒は素早く手を離すと持ち前の俊敏性で素早く後ろに振り向いた。奴の背後にはいつものようにニコニコと微笑んでいる院長先生が気配を消して静かに立っていた。笑ってはいるが、付き合いが長い人間には分かるその笑みは静かに怒気を孕み、線が細い目はいつもより少し見開かれ、どうしてくれようかと恐ろしい目をしているから余計に恐怖を掻きたたされる。

 

 俺はともかく、幼少からここで育てられた恩がある八戒は婆さんに全く頭が上がらない。ダラダラと滝のように冷や汗を流し始めたかと思えば、俺の頭を掴むと自らも勢いよく地面に頭を打ちつけ無言の土下座を始めた。

 

「…誰が最初に始めたんだい???」

 

 端的で威圧的に問われると無言で八戒を指差す。八戒はさらに頭を打ちつけ地面を陥没させた。勿論その後、院長先生にしこたま怒られた。子供が寝てる中、外でデカイ音立てて戦っていたら流石にキレるか。その上にガキたちが普段遊ぶ広場の地面を陥没させたり、抉ったら、そりゃ雷も落ちるな。

 罰として個性無しで修復作業をしているとガキどもがニヤニヤ笑いながら玩具のハゲのヅラを持ってきやがった。付けさせまいと抵抗していると面白がった婆さんが今日一日はそれを付けろと命じてきやがった。

 

 大義名分を受けたガキどもは楽しそうにあれよ、これよと次々にいろんな物を持ってくれば、抵抗できない俺と八戒に全部付けやがった。

 広場の修復が終わって鏡を見てみれば、顔面だけとんでもなく奇抜なオブジェに変えられていた。ゲラゲラ笑うアイツらを無視してまじまじ自分の形相を見ただけでも、ハゲのヅラ、その上にバニーのようなウサギの耳、大きな付け鼻、ちょび髭に頰に落書きが施され、顔が見えるところが全く無かった。

 八戒もおんなじような感じで、素でも一人ハロウィン状態なのにさらにおかしな形相にされていた。お互い見合って顔をまじまじと見ると二人して笑っていると、周りでゲラゲラ笑って馬鹿にしてくる奴らを片っ端から二人で追いかけ回し日は沈んでいった。

 

 これが俺の休日の常である。

 

 

 

 

 

 余談だが、試しにそのまま帰宅してみると偶然会った会長と目良に吹き出された。滅多に見ない二人の腹抱えて笑っている姿に驚いていると、こっちに寄っていたホークスに見つかり大爆笑しながら写メ撮りやがった。

 この後のホークスについては語る必要はないだろう。

 

 

 

 

 

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