第七束。ガーベラの花束を
学校から帰っている途中突然だが、静岡の方にあるたい焼きが無性に食いたくなった。
しかし、この後は公安に戻って訓練がある。しかし、今は幸い監視のいない一人だ。…………よし、行こう。善は急げ。腹が空けば戦はなんちゃらと言うやつだ。
裏路地に入り、万象儀を広げるとたい焼きで有名な店のある商店街に空間を繋げる。
もうすぐ絶妙な具合で調整された内面のモチモチさ加減と外側のサクッとする食感を想像しながら舌鼓を打っていれば、歪んで繋がれた空間から何か焦げる、むせ返るような嫌な匂いがした。何かあったなと、急いで万象儀に飛び込むと予定通り商店街から少し離れたビルの屋上に出ることが出来た。
しかし、辺りを見回して見れば、前回来たときには活気に満ちていた商店街は崩れ、煙が立ち込み、何かあったと思わしき地点は一面、火の海と化していた。
火の海の中心にはヘドロのような物体が、金髪の中学生らしき人間を取り込むかのように動き、抵抗するように金髪の中坊がもがいたかと思えば同時に爆発が轟く。
見たところ爆発は中坊の個性らしいが、流動体で動き自身に絡みついてくるヘドロを吹き飛ばすには威力が足りないのか、抜け出させず周りに被害が及ぶ嫌な膠着状態に陥っている。
商店街の入り口付近を見てみると、見物人や野次馬の中にヒーローと警察がなす術が無さそうに棒立ちをしていた。
あんだけヒーローがいるのにも関わらず何してんだと舌を打ちそうになっていると学ランを着た緑のモジャモジャ頭が勢いよく飛び出しヘドロに向かって勢いよくバックを投げつけた。
馬鹿野郎。
万象儀をヘドロに縋り付いて金髪を助けようと必死に動いている緑のモジャモジャと金髪に万象儀を纏わせるとそのまま二人ごとヘドロからひっぺ剥がし、ヒーローと警察の元まで持っていく。何があったと、全員が不思議な顔をして二人を見るが次の瞬間には、何処からか現れたオールマイトが前に飛び出しヘドロ敵を吹き飛ばいる瞬間だった。
拳圧で生み出された暴風は、辺りを取り巻いていた炎を全て掻き消し、ポツポツと雨が降らせ、いつの間にか短時間の豪雨を降らせていた。
雨に共鳴するかのように上がる歓声の中、口元を拭ったオールマイトは、俺にはほんの少しだけ弱々しく見えた。
雨が降る中、金髪と緑のモジャモジャが警察に保護されるのを見届けると俺は半壊した商店街にゆっくり目をやる。商店街の真ん中に位置されていたたい焼き屋は見事に燃やされ、壊され、今日は食えないことが嫌でも理解出来た。
たい焼きが食えない事に膝をつきそうになるが、なんとか堪え諦める事にする。本当は今にでも顔を抑えて泣きたい。少しでも早く店が再開出来ますようにと、万象儀を壊れた商店街に覆うと破損し黒焦げになった部分を修復をする。
全ての修復が終わった頃には、訓練の時間が迫っていた。急いで万象儀を広げこの場から去ろうとすると周りがどよめく中、オールマイトだけは俺を見ていた。
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「会長。なんだ、話ってのは?」
「…来ましたか」
夕方、訓練が終わった後。会長の部屋に呼び出された。中に入ると会長は窓際で夕日が沈む街の景色を眺めていた。
「進路希望の紙は、もう書きましたか?」
「…いいや。お前らのいいつけ通りまだ書いてねーよ」
「そうですか。…項羽さん。貴方には雄英高校に通ってもらいます」
「……何故だ?ヒーローになるのに何も雄英に通う必要も…ましてや公安があるんだ。ヒーローになるにはここでも充分だろ?」
「…いいえ。貴方にはオールマイト、エンデヴァー、そしてホークスに次ぐ民衆の『光』になって頂きたいんですよ」
そう言って振り返った会長の顔は夕日でよく見えなかったが、きっと微笑んでいることだろう。
俺が『光』か……。会長の言葉を反芻しながら自分の掌を見てみる。
……たぶん。俺じゃ役不足だ。
「………俺の"才能"は誰かを傷つけることで始めて成立する…それは、誰かを傷つけないと何も出来ず上に立てないという証でもある…そんなんで『光』になれると思うか?」
「……いつになく弱気ですね」
「うっせぇ…」
「それでも。あの子たちは貴方のことを『光』だと想っていますよ」
「…あの子たち?」
「分からないのですか?…不思議だって顔ですね。ハナゾノの子供たちですよ」
「!」
「…黒籍さん。貴方の目的がなんなんのか、私たちは知りません。しかし、決して私たちの考えような悪事ではないことは何年も貴方を見てきたから何となくわかります」
いつものように淡々と話すのではなく何故か静かで優しく話す会長に俺は、あぁ…コイツもか、と溜息を吐かざるおえなかった。
「…正直な話をすると、俺は時が経ったらココを出ようかと考えていた」
「…………」
「…ここから抜け出して、どうにかして過去に戻れないかと画策していた頃もあった、が……いつのまにか出来なくなっていてな…孤児院にいる馬鹿なガキどもが…アイツらが…かつての同胞たちと同じぐらいに愛しくなっちまってな〜。どうして良いのか分かんなくなった」
…この世界には廻り者は俺一人しかいない。元々、俺の目的は廻り者間の隔たりを無くすこと……それ自体アイツらが居ないと成立しないからこの目的は無いに等しい。その事で俺は随分と悩んだ。目標も無く。ただ、ダラダラとなる気のないヒーローを目指して生きてきて、俺は何をしたいんだと…。
「なぁ、俺はどうすればいいと思う?」
「……………」
誰かにこんな相談をするのはもしかしたら、生まれて初めてかもしれない。会長はもう半分以下に欠けた夕日と、それに照らされながらも色付き始める街並みに目をやると再び俺と目を合わせなんともない風に口を開いた。
「………なら…それでいいんじゃないですか?」
「………案外、適当な返しだな」
「適当で良いんですよ、人生なんて…分からないと言うことは貴方は今、暗闇の中にいて、その先が分からなくてどこに進めば良いかも分からない状態なんでしょう。でもそれは、何処にでも行けると言う証でもあります。選択肢は自由です。そのまま前に進んでも良い、振り向いて後ろに進んでも良い、横に何があるか探してみるのも良い、上に飛んでみたって良いです。そしていつか、進んだ先に光が見えたなら、そこに向かって全速力で走ってみてください。こうして良かった、と思える日がきっと来ますよ」
「…………あんたが御高説垂れるなんて珍しいな」
「これでもヒーロー公安委員会会長ですから」
会長の言葉を聞いて長年整理のついていなかった心の中が少しスッキリしたような気がした。
「そうか…なら今はまだ…こうしてアンタらの言う通りにしてブラブラしているのも悪くない。俺が目標見つけて、敵んなっても文句言うなよ!」
「言いませんとも…しかしその時は全勢力を持って貴方を捕まえにかかりますからね」
「はん!頼りになるこった…!……………おい会長!」
「はい?」
無理やり話を終わらせるために窓の前で堂々と腕を組んだ会長に踵を返して軽口を叩きながら扉に手をかける。もう話は終わりだと思っていたのか会長は少し間の抜けた声を出した。
「ありがとな」
その言葉だけ口に出すと会長の返答を待たずに俺は扉を開けて外に出ると自分の部屋に歩き出した。当面の目標は取り敢えずこれで良いだろう。
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年が明け、雪は溶け落ち、まだ冬着のコートが手放せない寒い日に雄英の一般入試が始まった。雄英の校門前にHと書かれていて、あからさま過ぎだと思い、隣を歩いていた八戒に声を掛けようとすると緊張しているのかとんでもない眼光で睨み返された。そういや、お前昔から緊張しいなとこあったな。すまん。
筆記試験も終わり、少しは場慣れした八戒と共に試験会場に足を踏み入れると、広い会場内には既に多くの受験者たちが緊張した面持ちで座っていた。
誘導された席に座り、暫く待っていると会場内全体が暗転すると裏からインコみたいな金髪グラサンのおっさんが出てきたかと思えばマイクも使わずとんでもない声量とテンションで実技試験の説明を始めた。なんだ、らいぶって?
…話によると、それぞれの会場…模擬市街地でポイントを振り分けられたロボをぶっ壊せって言う話らしい。俺と八戒は
「最後にリスナーへ我が校の"校訓"をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と…!"
金髪インコの言葉に会場内に居る全ての受験生らが顔を引き締め覚悟を決めていた。しかし、そんな中…俺は古きに知り会った骸骨の馬に跨る友人の顔と奴と交わした会話をふと思い出していた。
『よぉ、ナポレオン。そんな所でどうした?』
『項羽……。僕は今、"不幸"と対面しているよ。我が才能はかつて皇帝と呼ばれ、数々の栄えある功績を残してきた。なのに僕は、まだ何にも残せちゃいないんだ。…これを僕は"不幸"と呼ぶことにする』
『………………………』
自嘲まじりに言ったあいつは皮肉そうに"才能"を持ってしても自分の"不幸"一つ乗り越えられない自分を嘲笑っていた。
あの少し弱気な友人は今どうしているだろうか。
今も、自慢の愛馬と何もせずのうのうと生きているか、それとも……最後は戦って散ったのか。
まぁ、それは歴史には刻まれてない過去の話だ。忘れよう。
そうこうしている内に俺を含めた受験生らを乗せたバスはいつの間にか模擬市街地の前で止まって、ぞろぞろと俺を置いて受験生達はバスを降りていた。皆、降りて最後の一人になったことを確認すると俺もバスから降りた。
バスを降りるとクソでかいゲートが俺たちを迎えていた。開かれたゲートの先には完全に何処にでもありそうな街並みが広がっており、先に降りていた周りが次々に思い思いの準備運動を始めている。
俺はそんな中、何もせずジャージのポケットの中に手を突っ込み耳を澄ませていた。
特にそのまま、何もしないないまま。俺は何の気無しにさっきの続きを思い出していた。
『つまりあれか?お前は今、何もしていないのに何も残せてない、今の状況を"不幸"と言ってんのか?どんなセンチメンタルだよ』
『ッ……そんな言い方されるとちょっと傷つくんだけど!』
『図星なだけだろ』
『うっ!』
『…ダラダラと説教たれる気はねーが。もうちょい前向きに生きても良いんじゃねぇのか?』
『……そうしたいのは山々なんだけど…生憎、僕の最も行きたい場所は人が絶えないからね…。行こうものならすぐ通報されて捕まるのが運命だよ』
『なら…その悲願は一番最後に取って置くことだな。それ以外だったらたった一つ、お前にとって確かな功績を残す術なら知ってるぜ』
『……なんだいそれは?』
『それは……』
「はいスタート!!!」
ここまできた所で上空から響いた始まりの合図に俺の意識は現実に引き戻された。前もって合図と同時に体が走るように決めていたから無意識的に俺の体は少しだけ前に傾いていた。その傾きを第一歩に変えるとそのまま全力で駆け出す。走り出して首だけ後ろを振り返って見れば、他の連中は突然の合図と走り出した俺に呆然としていたが金髪インコの叱咤で動き出していた。
少し走っていると目の前の曲がり角から1pと書かれた俺と同じぐらいのロボが飛び出してきた。
[標的発見!ブッ殺ス!!]
「口悪いかよ」
試しにロボの頭部分を万象儀なしで殴ってみる。すると、ロボの頭部は簡単に凹み音を立てながら動かなくなっていった。
「モロいな」
[標的発見!死ニサラセ!!!]
「あ?」
次は四つ足のサソリみたいな形状をした2pと書かれたロボが出てきた。コイツも早々に殴ってみると1pよりも簡単に壊れた。嘘だろ…と雄英の入試に落胆しながらも出会い頭に会うロボをぶっ壊しながら走り続けると今度は一番大きなロボが出てきた。3pと書かれたロボは搭載されたミサイルらしき物を俺に向けて放った。
[死ニサラセ!!]
「二パターンしかねぇーのかよ!」
出会うロボット皆同じことしか喋らないことに驚きながらミサイルを全弾避け、3pロボの上に飛び乗った。試しに今度は万象儀を片足に纏わせ思いっきり地団駄を踏む。すると、足が脹脛ぐらいまでロボの体にめり込みコア部分をやったのかコイツも音を立てて機能を停止した。
もうこれ以上コイツら以外しか出てこないことを悟ると、胴以外の四肢だけに万象儀を纏わせると一つ、心の中でこんなつまらん入試を用意した雄英に唾を吐き、呟いた。
…無双してやる。
この試験を受ける前から決めていたが、俺は主席合格を目指してロボを駆逐しに走り出した。