リィンカーネーションに花束を   作:ピーシャラ

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門出とほのかな喜びを


第九束。スイートピーの花束を

「…俺が最後か」

 

「待ってないブよ。オデらも今着いたところだブ」

 

「おはよう〜。項羽」

 

 雄英高校初登校日。時間もそこそこ、俺たちは雄英の最寄駅に集合していた。自分が最後と言う言いようの無い敗北感を味わったが自分で考えて下らないなと思ったのは秘密だ。

 予定ではこれから学校まで歩くことになっている。歩いている最中、そんなに珍しいのかすれ違う通行人たちに物珍しげに横目で見られることが何回かあったが、それ以外は平穏なものだった。

 

 他愛のない話を続けていると、いつの間にか校門に着いていた。校門を潜ってすぐ、ズンズンと歩く間覚えのある鈍い銀色の髪をした後ろ姿が目に入り、思わず呼びかけてしまう。

 

「おーい鉄哲」

 

「ん?…あ!黒籍じゃねーか!!」

 

 振り向いた鉄哲の目周りは相変わらず凄いことになっていた。こっちに近づいてくる鉄哲を紹介しようと両隣を見てみると、何故か二人とも凄いものを見る、見開いた目でこっちを見ていた。

 

「…なんだよ?」

 

「お前に知り合いが居たのかブ…」

 

「あの、休日になるとウチに入り浸ってる項羽が…」

 

「ぶっ飛ばしてやろうか?」

 

 失礼な連中だ。俺にだって知り合いの二人や三人…いるんだよ。

 

「やっぱ受かってたのか!」

 

「おう。…あん時は悪かったな」

 

「あん時?……いいんだよ別に!喧嘩したわけじゃねーんだから謝んなよ!お前のお陰であの女子も助かったんだからな!死ぬかと思ったけどな!!」

 

「…すまん」

 

 ガハハと笑いながら溌剌と恨み言を言ってくる鉄哲にを見ていると切実とごめんという思いが頭を過ぎる。コイツ的にはもう許しているんだろうけど、悪意なしでこういうこと言ってくるから罪悪感が募ってくる。

 

「どうも1年B組の猪八戒だブ。話は聞いてるブ。如何やらウチのバカ(項羽)が迷惑かけたみたいブね。すまないブ」

 

「ふ、普通科の花成倖季です。よよっ宜しくお願いします」

 

 少しどんよりしていた俺を押し除けて、いつの間にか八戒と倖季が自己紹介をしていた。おい、いまバカっつったか?

 

「…Bィってことは同じ組か!俺の名前は鉄哲徹鐵!そっちも宜しくな!!」

 

「よろしくブ」

 

「よ、よろしく…」

 

「夜露死苦!!」

 

 初めて会う人間と話して緊張して若干おどおどしている倖季と、対照的に堂々と落ち着いて話す八戒の二人の印象を好く思ったのか鉄哲は何やら漢字が違う挨拶を叫びながらブンブンと二人の手を掴み振っていた。

 威勢の大きい鉄哲には倖季はビビって縮こまるかと思ったんだが…思ったより大丈夫そうだ。というかお前ら仲良くなるの早くね。

 

「なんだよ。もう仲良しですか、このヤロー」

 

「…?おう!仲良しだぜ俺ら!」

 

「ブッ!」

 

 俺そっちのけで楽しそうに話すコイツらに嫌味で言ったつもりだったが鉄哲が思った以上に純粋すぎて八戒の野郎が吹き出しやがった。倖季も笑い堪えてんじゃねぇ!!

 

「それで?項羽は何組なんだ!?」

 

「………Aだよ」

 

「そっか!分かれたな、残念だ!!」

 

「……分かったから早く行こうぜ…」

 

「だめだ。この二人、面白すぎる…」

 

 鉄哲の純粋さに敗北を感じると後ろにいる八戒は笑いを押し殺しながら涙ぐんでいた。倖季も顔を背けて口を抑えていた。うん、お前らが楽しそうなら俺は別にいいんだ。

 

 各々の教室に別れ、1年A組の扉の前に立つ。八戒よりも大きな扉に分かりやすく1Aと書いてあってもバリアフリーだな〜と間抜けで語彙の乏しい感想しか出なかったので諦めて扉を開ける。

 中に入ると既に座っている人間の目線が俺に向けられる。席の埋まり具合を見るからに既に殆どの人間が集まっているらしく俺を含めると残りは三人ぐらいだった。

 

 興味で俺を見つめる者。何故か喧嘩腰で睨んでくる奴。一瞥した後、如何でもいいと外の景色を眺める者。反応は色々あったが、一人の男が近づいてきた。

 

「おはよう!俺は、私立聡明中学校出身の飯田天哉(いいだてんや)だ。席は黒板に貼ってあるから確認しておいてくれ!」

 

「黒籍項羽だ。よろしく頼む」

 

「あぁ。いい学校生活にしよう!」

 

 握手を交わし飯田が離れていき、今度は机に足掛けた金髪の方に向かっていくと向こうで喧嘩になっていた。受験の時のようなピリピリと威圧的な態度は見られず普通の堅物メガネだったな。

 騒いでる奴らを無視して席を確認してみると教室の一番後ろ。一つだけ飛び出している席が俺の席らしい。周りに誰もいなくてマジかと思ったが気にしたら負けだ。

 例年、雄英ヒーロー科の入試合格者の定員はAB合わせて40の筈なのだが今年に限って定員が2人増えた。どっかのヒーロー公安委員会会長が絡んでる気がするが気にしないでおく。その結果、1人ってのがちと悲しいが。

 

 俺が席に座った数秒後。一年前の緑のモジャモジャが入ってきてびっくりしたが、その後今度は寝袋にくるまったホームレス見たいな男がニュッと入ってきて更に驚いた。

 驚いてるクラスメイトを他所に淡々と話し始める男は相澤という名前で俺らの担任らしい。

 

「早速だがコレ着てグラウンドに来い」

 

 そう言い残すと寝袋を抱え、一瞬だけ俺と目が合ったがツカツカと教室を出て行った。状況が分からないと言わんばかりに混乱する教室は飯田の取り敢えず着替えようという話にみんなも教室を出て行った。

 

 

 グラウンドに出ると目良よりはまだいいが気怠る気そうな様子の相澤が俺たちを待っていた。いや、どっこいどっこいだな。

 

「「「「個性把握テストォ!!?」」」」

 

「そうだ。これから個性把握テストを行う。ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、握力、長座体前屈、腹筋、反復横跳び、そして1500m走。中学でもあっただろ?基本の体力テストだよ、個性なしのな」

 

 個性把握テストなどと言う、一般的にはあまり聞き入れないワードを聞いて騒ぎ立てる奴らを軽くあしらった相澤は、そのまま内容を説明する。

 

「入試首席の黒籍。ちょっとコレ投げてみろ。勿論、"個性"有りでな」

 

 そう言って投げ渡されたのはソフトボールに電光版を取り付けられたハイテクそうな物だった。目線が集まる中で一際大きく殺気だった目線が感じられたが見た瞬間、噛みつかんばかりの雰囲気を感じたので無視して目の前にあるサークルに入る。

 

「因みに中学の頃の記録は?」

 

「90…ちょいだな。確か」

 

 自分のことだが、あまり確証が持てない。中学の頃の記録はあんまり覚えてないし、そんなに全力でやった記憶がないから確かそんぐらいの記録だった筈だ。

 一回、相澤をチラ見すると早くやれと睨み返された。…たぶん相澤はコレをデモンストレーションと皆に見せる気なんだろう。なら、そんなに全力でやる必要もないな。

 頬に傷をつけ、手の先から肩にかけて万象儀を纏わせる。入試以降、久々に姿を現した万象儀の重瞳は、いつもは何も思って無さそうな静かな目をしていたが今回は少し嬉しそうに目を細めているように見えた。

 コイツは基本、感情という物を見せない。しかし、時たま俺の感情に共鳴するように感情を表すような時もあれば、独立し、意思を持ったかのように感情を表す時もある。

 

 皆の注目が集まる中、円の中に入り入試の時のような槍投げと砲丸投げが混じったような形でぶん投げる。すると思ったよりボールが飛んでいった。

 暫くすると相澤の持っていた端末から音がなった。少し驚いた顔した相澤にドヤ顔で振り向いたら無視して記録を全員に見せていた。

 

「…まずは自分の出来る最大限を知ることだ。それがヒーロー形成の素性となる」

 

 記録は90mを大幅に超える2600mの文字が映し出され周囲には興奮の色が濃く見られた。

 

「2600ってマジか!?」

「"個性"自由に使えんのか!スゲー!!」

「何これちょー()()()()!」

「流石ヒーロー科!」

 

 一瞬、興奮するクラスメイト達の言葉のどれかに反応したのか相澤が少し顔を上げた時の顔を見て俺は思わず真顔で、うわぁ…と思った。顔を上げた相澤の顔は自分が考えている通りにことが進んで悦に浸っているような不気味な笑みを浮かべていたからだ。ヒーロー以前に教師がしていいツラじゃない。

 

「……面白そう…か。ヒーローになる為の三年間そんな腹づもりで過ごすつもりかい?」

 

 笑みを保ったまま喋り出した相澤の雰囲気でクラスメイト達の楽しそうな雰囲気は一変し、何やら不穏な空気を感じ取り、皆黙り始めた。

 

「…よし、ならトータル最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」

 

「「「「はあああ!?」」」」

 

 除籍処分。それはつまり退学を意味する。そのことを理解したクラスメイト達の驚愕の顔から一喜一憂、様々な表情を見せ始めた。不安を感じる者、これからの苦難に腹を決める者、獰猛に笑って見せる奴。

 

「生徒達の如何は教師らの自由!ようこそココが、雄英高校ヒーロー科だ。全力で乗り越えてこい!」

 

 

 

 

 

===============

 

 

 あの後、抗議の声が上がりもう一悶着あったが、まるまる割愛させて頂く。

 まぁ、抗議した所で相澤は本当に見込みがないと判断しない限り誰も切らないと思うけど…半分はガチそうだけどな。

 

「頬から血が出てるようだが、大丈夫か?」

 

「ん?…おう、俺の力は他者に傷を見せることで成立する代物だからな大丈夫だ」

 

 最初の競技。50m走スタート地点で俺と走る予定のマスクを付けた大柄の男が俺に話しかけてきた。そうか、確かにあいつら以外に万象儀を見せたのは初めてだったな。

 

「そうか…要らぬ心配をしたな、すまない」

 

「いいや。時には小さいな節介は大事だからな、ありがとう。名前は?」

 

障子目蔵(しょうじめぞう)だ。お前は黒籍項羽だろう?」

 

「耳がいいな。よろしくな障子」

 

「おい。黒籍、障子、次お前らだ。早よ」

 

 そうこうしてるうちに俺らの番が回ってきた。

 万象儀を今度は下半身全体に纏い直し、スタブロに足をかける。合図がなった瞬間ロケットスタートを切り出し、ゴールまで突っ走る。

 

[記録:1秒86]

 

 こんなもんか。

 

「……早いな、増強系か?」

 

「…ちょっと違う。俺も口で説明するのは難しいんだ」

 

 走り終わった障子が少し息を切らしながら話しかけてくる。…んー間違ってねぇーんだけどな。ちょっと違う。俺の場合、増強系の"個性"のように筋力を上げてるわけじゃないんだ。俺がイメージしてんのは()()()()()と意識してるようなもんだ。

 

 

 例えばそうだな。万象儀を纏わせた自分の手を万力機と言う名の武器をイメージさせて力を込めて握ると、ほら、俺が握った握力計はペシャンコになる訳だ。な?

 おい。なんで黙るんだよ…後ろ?後ろに何が…。

 

「…おい。学校の備品を無闇に壊すな……」

 

「…すまん」

 

 髪の毛をゆらゆらと鬼の如く逆立てさせた相澤が立っていた。怖ぇ。

 

「はぁ…。測定不能にしておくからそれは後で()()()来い」

 

「はいよー。…と言うか気づいてんなら声ぐらいかけてくれてもいいじゃねぇのか?久方ぶりに会ったんだからよ」

 

「黙れ。此処では生徒と教師だ。ちゃんと敬語は付けろ」

 

「はいはい。相澤先生」

 

 離れていく相澤先生を見送って昔のことを思い出す。

 相澤と俺は昔手合わせをしたことがある。確かあの時は俺が半強制的に戦闘に持ち込んだんだっけな…そういや、あの頃はもうちょい生気があったんだけどな。いつからこんなくたびれたオッサンに…。

 

「…相澤先生と知り合いなのか?」

 

「……昔に会ったことあんだよ。そのよしみだ。…んなことより次行こうぜ」

 

「なる程。分かった」

 

 咄嗟に嘘をついてしまった。すまない障子。本当のことは言えねーんだ。

 

 次の種目は反復横跳びと立ち幅跳びだったが二つとも万象儀を使って難なくクリアした。立ち幅の時、万象儀でずっと浮いていたら無限とか言う頭のおかしい記録を出したせいで周りから変な目で見られたが実際俺、廻り者だからな元からおかしいんだよ。

 おい、そこのアホ面した金髪野郎笑ってんじゃんねー!何が、空飛ぶシルエットクイズだ!!

 

 アホ面金髪野郎改め、上鳴の頭を鷲掴みにしていると、おかしなものが見れた。相澤先生と何やら揉めているらしかった緑のモジャモジャが二投目のソフトボール投げで指を破壊する程の力で大記録を出したことだ。

 

 そこだけを聞けば自身の力を破壊するほどのパワーで終わるが、ヘドロの時、アイツは危険を顧みてまで金髪を救うためだけに無謀にも飛び出した。しかしアイツはあの時"個性"を使う素振りをまったく見せなかった筈だ。今ほどの力があるなら体が壊れてもオールマイトのように簡単にヘドロを吹き飛ばすことが出来た筈だ…。単に、保身に走ったのか公の場で"個性"を使うの渋ったのか?いや、それなら大衆の面前に飛び出て敵に立ち向かうなんてこと……。

 帰ってきたモジャモジャをじーっと見て思考を巡らせていると向こうも俺に気付いてビクビクしていた。

 

「なんだよ黒籍、アイツに興味でもあんのか?もしかしてホモなの?」

 

「黙れ、アホ面金髪チャラ男野郎」

 

「…ヒッデー!!コイツ、初対面の相手にそんなこと言うか!?」

 

「…どの口が言うんだ。もっかいその緩んだ頭締め直してやろうか…?」

 

「ひっ…!」

 

「やめとけ、やめとけ!先生にどやされるぞ!」

 

 上鳴の頭を掴んだ俺の手を慌てて止めたのは赤髪の頭をした切島と言う男だ。コイツは俺の握力の記録を聞いた時「漢らしいぜ!」と何故か感嘆していた変わり者である。

 

「ほらっ。次お前の番だぜ黒籍!」

 

「…命拾いしたなぁ……」

 

「お前怖すぎだろ!!」

 

 少し涙目になっている叫ぶ上鳴と苦笑する切島らを背にし相澤先生からボールを受け取ると、先程と同じように肩から先まで万象儀を纏わせ全力で投げれば先程より記録が伸びていた。しかし、デモンストレーションの時も投げたし一回で済ませようと戻ろうとしたら白い帯が俺の上半身に掛けて巻きついた。

 

「…おい。どこに行く?」

 

「………さっき、一回投げたから戻ろうと……」

 

 そう言うと帯の締め付けが酷くなった。痛いです相澤この野郎。心の中で悪態をついていると拘束が解かれ横から相澤先生がボールを持って此方に近づいてきた。

 

「お前、今までテスト…本気でやってきてないだろ??」

 

 コッチを見る周りの視線が驚愕に変わる。そりゃそうか本気を出してないと言われた奴の記録が全部自分たちより高いからな。

 

「ボール投げは二回だ。…本気でやらなかったら真っ先に除籍するぞ」

 

 掌にボールを押しつけながらとんでもない脅しをされた。これ、職権乱用じゃないのか?

 愚痴を溢しながらもサークルの中に入り真正面を向く。その先には白線が敷かれて以外、遠くに雑木林が見える以外何もなかった。

 

 ここじゃ、窮屈だ。

 

 万象儀の意識をボールと、とある空間に集中させると俺の体には万象儀は纏わせずそのままボールを適当にぶん投げる。綺麗な放物線を描きながら落ちていくボールは地面に落ちる直前、黒い塵になって霧散していった。

 

 その光景に頭に何が起こったとハテナマークを浮かべ唖然とする周囲と怪訝に目を細める相澤先生に向き直ると、相澤先生の持っている端末から電子音がなった。それを見た相澤先生の細められていた目は更に狭まった。

 

 

[ERROR]

 

 

 記録を見た他の奴らがざわめき出す。先程、女子の一人がボールを浮かし、∞と表示された記録を叩き出したからだ。もし俺が同じようにボールを遠くに飛ばしたのならそう表示される筈だと思っているからだ。

 これがどう言う意味を為すのかは相澤先生以外にしか分からないだろうな。本人もだいぶ訳がわかなそうなツラしてるが。

 口元を押さえて考え出した先生の口が開くのを待っているとやっと重い口を開いた。

 

「……お前、ボールを何処に飛ばした?」

 

 子供の頃、悪戯がバレた時のように思わず口角が上がってしまう。注目の集まる中俺は指を上にピンッと指し口を開いた。

 

「月はまだ見えんな、先生」

 

 俺の発した意味深な言葉に周りは首を傾げていたが、相澤先生だけは意味を理解したのか一瞬、驚いた顔をして、またいつもの仏頂面に戻りやがった。

 

 

 俺がやったのは単にボールを月に送っただけ。今なら性能の良い望遠鏡を覗けばボールが見えることだろう。表示が[ERROR]になってる原因も無限女の時はボールが着地せずに飛び続けたから[∞]という結果になり、俺の場合はボールが測れる距離容量を超えた結果だろうな。

 

 今度こそみんなの元に帰ると不思議そうな顔をしていた上鳴達よりも早く障子が前に出てきた。

 

「黒籍。お前…何したんだ?」

 

 全員が障子に同意するかのように此方に首を向ける。俺は後々、しなくてはいけないであろう、めんどくさい説明に少しげんなりしながら口を開いた。

 

「分かりやすいよう簡潔に言うなら……月にボールを移動させた」

 

「「「「「…はぁ!?」」」」」

 

 

 

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