ロジャー海賊団と白ひげ海賊団との戦いは夜まで続いた後、いつの間にか宴会になっていた。
ロジャーに絡まれていたニューゲートは鬱陶しいとばかりに追い払いながらも、ルナシアを探す。
彼女は宴会の場に姿を現していない為、見聞色でもって探る。
すると海岸近いところにその気配を感じ、ニューゲートはそちらへと向かった。
幾つもある大きな酒瓶のうち、彼が気に入っている酒が入ったものを持って。
ルナシアは海辺で月を見上げながら、1人でつまみを食べながら酒を呑んでいた。
今日は満月ですこぶる調子も機嫌も良い。
近づいてくるニューゲートの気配も昼間よりも鮮明に分かる。
やがて彼はルナシアの隣に座った。
でん、と大きな酒瓶を彼女の前に置く。
「……お前、とんでもねぇものを隠していやがったな」
「ロジャー達にも言ったけど、馬鹿正直に手札を見せる奴なんていないでしょう」
ルナシアの言葉にニューゲートは酒瓶から自らの盃に酒を注いで、それを一気に飲み干す。
「酒の一気飲みは体に悪いわよ?」
「うるせぇ。それよりもあの霧はなんだ?」
「内緒っていうのはダメ?」
問いにニューゲートはジト目で彼女を見つめる。
「……教えてくれてもいいんじゃねぇか?」
「仕方がないわね」
ルナシアはそう言いながら、彼が持ってきた酒瓶から勝手に酒を自分のコップに注ぐ。
そして少し呑む。
「美味しい酒だわ」
「当たり前だ。俺が気に入っている酒だからな」
「それじゃ、代金として話してあげる」
ルナシアは不敵に笑って告げる。
「あの霧はかなり特殊でね。何と言えば分かりやすいか、言葉に困るんだけど……肌に纏わり付くような感じはしなかった?」
「したな……何というか、不快な気分だった。それに出ようと思って移動しても、全然出られねぇ……」
「
「……ということはお前、覚醒した能力者か」
ニューゲートは理解する。
覚醒しているからこそ、
「それもあるんだけど……あなたとは腐れ縁だから特別に教えてあげる。秘密を守ることに自信はある?」
「俺の口を割らせるより、天地をひっくり返す方が簡単かもしれんな」
そう言って笑うニューゲートにルナシアはそれもそうだ、と思いつつ、告げる。
「私が食べたのはヒトヒトの実で幻獣種、モデルは吸血鬼。ロックスが狙っていたやつよ」
「なるほど、読めたぞ。だからロックスはお前を連れていたのか」
「え? それだけで分かるの? 予知能力か何か?」
「そうじゃねぇよ。奴は不確定要素を取り除きたかったんだろう」
そこで彼は盃に酒を注ぎ、一気飲みしてから再度口を開く。
「お前を手元に置いて育てれば強力な戦力になり、またその過程でその実は何ができるかまでも知ることができる……万が一、敵対されても情報があるのとないとでは大違いだ」
「彼はそういうことを言わなかったけど、たぶんそれが正解だと思う」
ルナシアはそう答え、少しの間をおいてから言葉を続ける。
「私は伝承や伝説における吸血鬼の様々な特殊能力が使えるのよ。霧も吸血鬼の能力……でも、ただ霧で覆っただけじゃないわ」
「だろうな。霧の中から急にお前が現れては消え、消えてはまた現れる……しかも色んな方向から同時に。見聞色で探ったがお前の気配が至るところにあった。本体はどこにあった? 黄泉を持っていたのが本体だと思ったんだが……」
「いいえ、本体は霧そのものよ。乱暴に例えるとあの時のあなたは私の体内にいたようなものだわ」
ニューゲートは納得したかのように頷き、問いかける。
「あの状態のお前を倒すには霧を攻撃するしかねぇのか?」
「ええ。でも私の再生能力がそれを無意味にする。覇気を纏って攻撃すれば霧は晴れるけど、すぐに元通りになるというわけ」
「俺が大気を揺らしてもビクともしなかった……それは?」
「いや、アレは効いていたわよ。攻撃した方向の霧が晴れたでしょ?」
ニューゲートは記憶を探り、思い出す。
確かにその方向の霧は晴れたが、短時間で元に戻ってしまった。
再生能力を上回れなかった、と彼は思いながら告げる。
「お前、強いじゃないか……」
「でも、この能力無しなら私は弱かったのは間違いない……これからよ」
不敵に笑うルナシアにニューゲートもまた笑いつつ、疑問をぶつける。
「ところで、何でお前がロジャーの船に乗っているんだ?」
「利害の一致ってやつ。ロックスと張り合ってたっていうから、強いと思ったのよ」
「なるほどな……いつ抜けるんだ?」
「え、何? 私を勧誘したいの?」
「アホンダラ。お前がいると面倒くせぇからに決まっているだろうが……」
ニューゲートの言葉にルナシアは口を尖らせつつも答える。
「たぶん1年くらいかな。それくらいを目処に船から降りるわ」
「ああ、そうかい。それは良いことを聞いた」
「……ところでニューゲート、予想していると思うけど……私の能力はアレだけじゃないからね」
「教えてはくれねぇんだろ?」
「戦うとき体に直接教えてあげる」
ルナシアはそう答えつつ、改めて自分が食べた実はトンデモナイと思う。
吸血鬼ができるとされていることなら、大抵のことはできるかもしれない。
能力方面ももっと鍛えたいところだが、これはこっそりと鍛えることになる。
悪魔の実の能力で何ができるか、どこまでできるか。
それを他者には秘密にしておくことが重要だとロックスから教わっていた。
「お前が準備万端に整えて、表に出てきたなら……厄介だな」
「当たり前よ。将来、勢力図を大きく変えてやるわ。それが私の野望ってやつね」
ルナシアは自信満々にそう告げた。
同時に彼女は決意する。
明日からメシとおやつと風呂と睡眠以外はロジャー達と戦おう。
それが一番手っ取り早く目標を達成できる――
これまでも戦っていたのだが、さすがにそこまで過密なスケジュールではなかった。
そして、白ひげとの戦い以後、ルナシアは決意した通りにロジャー達と戦闘を繰り返し行った。
起きている時間、基本的に彼女は誰かしらと戦っていたと言っても過言ではない。
しかし、そんな生活をしていても彼女は三度のメシとおやつを食べて、風呂に入って寝れば翌日には体力が全回復している。
それだけではなく、どこまで休まず戦えるかという試練を己に課して、ルナシアは一切休まずに3日間も戦い続けたことがあった。
また彼女は怪我をすることに躊躇いが全くない。
例えば片手一本犠牲にして相手の行動を封じられるならば、即座に彼女はそれを実行する。
当初は寸止め前提の模擬戦であったが、ルナシアの躊躇いの無さやその再生能力、また彼女本人が望んだということもあり、すぐに寸止めの無いものとなった。
それは急所を狙わない、殺さないというルールがルナシアに対してのみ課された以外は何でもありのものだ。
ロジャー達にとってもこれは利点がある。
ルナシアのような再生能力を持った敵と戦う可能性が無いとは言い切れない為だ。
まさしく利害の一致で、ルナシアは覇気をはじめとした悪魔の実の能力ではない部分を大きく鍛えることができ、なおかつ戦闘経験も豊富に積むことができた。
一方でロジャー達は異常な体力と再生能力を備えた敵に対する戦闘経験を多く得られた。
こうして目的を達成したルナシアはお世話になった礼を言い、ロジャー達に惜しまれながらも船から降りる。
白ひげとの戦いからおよそ1年後のことだった。
以後、ルナシアはこれまで通り覇気などを鍛えつつも、能力を鍛える方に重点を置く。
これまででも能力は凶悪であったのだが、もっともっと強くなりたい、まだまだ何かができる筈だという強固な意志を抱いて、彼女は鍛錬に励んだのだった。