海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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ロックス

「ルナシア、久しぶりだね。よく来てくれた!」

 

 シャーロット・リンリンは機嫌良くルナシアに向けて言った。

 彼女が機嫌が良い理由は美味しいお菓子を食べたからというものではなく、ルナシアが来たからである。

 

 万国とルナシアの勢力圏内にある島々は交易が非常に盛んだ。

 万国からはお菓子をはじめとした食品類が大量に輸出される一方で、ルナシアの方からは食品以外のものを輸入している。

 かつてロックス海賊団時代にリンリンとルナシアが結んだ約束はしっかりと生きており、これによって双方揉めることなく友好的な通商関係を構築している。

 

 商人達からすれば非常に安全・安心の取引であり、なおかつ適正レートで行われる為、この交易に参入する者は後を絶たない。

 この交易ルートにちょっかいを掛ける者はリンリンとルナシアの双方を敵に回すことになるからだ。

 

 リンリンからすればルナシアがここまで大勢力になるとは思いもよらず、また彼女は裏切ることなく変わらずに友好的であり、なおかつ交易で儲けさせてくれる。

 そんなルナシアを歓迎しない筈がない。

 

「ええ、久しぶりね。リンリン、ちょっとした儲け話を持ってきたんだけど……」

 

 ルナシアの言葉にリンリンは前のめりになる。

 

「どんな話だい?」

「今度マリージョアで昔みたいに皆でパーティーしようと思うんだけど、あなたも来る? 財宝取り放題イベントを予定しているわ」

「昔みたいにってことは白ひげや金獅子も来るのかい? 白ひげはともかく金獅子はインペルダウンにいるんじゃ……」

「シキなら私がこの前、脱獄させたから。世間には非公表だけども」

 

 ルナシアのまさかの発言にリンリンは目を丸くするが、それも一瞬のこと。

 彼女は大笑いした後、不敵な笑みを浮かべる。

 

「昔みたいにってことはあの船に乗っていたときのメンバーかい?」

「ええ。あなたと彼らに加えて、カイドウを呼ぼうと思っているわ。ニューゲートとシキとはもう話をつけてあってね。彼らは海賊団としてではなく個人として参加するわ」

「それなら問題はないな。おれもあの頃みたいに個人として参加するよ」

 

 リンリンの言葉にルナシアは笑みを浮かべて、満足げに頷いた。

 

「ところでルナシア。そろそろまたお前に娘をくれてやる必要があるだろう」

 

 リンリンからすれば他の男共と政略結婚をするくらいなら、ルナシアとの関係強化として彼女に娘達を出した方が良いと判断している。

 何よりも彼女の方針――種族によって区別はすれども差別はしない――というのは、リンリンの理想――世界中の全ての種族が差別される事のない理想郷を建国する――とも合致している。

 ルナシアと親密な関係を維持することはリンリンの理想を実現する為には必要不可欠なことであった。

 

 事実、ルナシアの勢力圏内では人間だろうが魚人だろうが何だろうが、極々普通に暮らしている。

 魚人よりも自分の方が化け物であると彼女は公言し、実際に死なないところ――通常の武器で自らの心臓をぶっ刺してそれが再生するところを見せるなど――を持ちネタとして勢力圏内の島々で披露して回っていることも大きい。

 しかし、あまりにも不死身ネタを披露し過ぎて、すっかり陳腐化してしまったのはご愛嬌だ。

 

 これによってルナシアのところにはリンリンの娘が結構いる。

 最初の4人に加え、ルナシアの勢力圏が広がるごとにちょくちょくとリンリンが娘を出している為だ。

 不定期に送られてくる娘達からの手紙にはルナシアとの惚気話がこれでもかと綴られており、リンリンは苦いコーヒーを飲みながらでなければ読めたものではない。

 娘達にはルナシアの為に働きたいとして自らを鍛える者も多くおり、リンリンのところへ戦力として無償で派遣されることもよくある。

 

 ルナシアに娘を出すことは、理想の実現以外にも娘達の幸せと自身の戦力強化にも繋がっており、リンリンからするとやらない理由がなかった。

 

「今回は何人?」

「4人だね。18女から21女で7歳と5歳が2人ずつだ」

「分かった。いつものアレをやるのね?」

「ああ、アレがお前との相性を見るのに一番手っ取り早い」

 

 アレとはルナシアの不死身性を見せることである。

 やることは簡単で、リンリンがルナシアに全力で一撃を叩き込むだけだ。

 木っ端微塵に砕け散ってもなお、一瞬で再生するルナシアを見て怯えたり泣いたりしなければ合格である。

 

 しかし、この適性検査の最大の問題点はリンリンの娘なだけあって、意外と多くが通過してしまい、中には笑ったり喜んだりする剛の者もいることだった。

 

 

 

 

 

 そして、リンリンの参加を取り付けたルナシアはカイドウのところへ向かう。

 百獣海賊団総督として名を馳せている彼だが、彼女からすれば――

 

「おい、見習い。酒をもってこい」

 

 ルナシアの指示に大人しく従うカイドウは彼女に大きな酒樽を手にとって渡した。

 

「すげぇ……あのカイドウ様を顎で使っている……!」

「流石はルナシアさんだ……!」

 

 カイドウの手下達から尊敬の眼差しを送られるルナシアは得意げである。

 だが、あのカイドウがこれで終わるわけもない。

 

「死ねぇ!」

「カイドウ様がルナシアさんの胸を背後からぶち抜いた!」

「心臓のあたりだ……! もう助からねぇ!」

 

 その叫び声、しかしそれもまた予定調和だ。

 ルナシアはカイドウに心臓をぶち抜かれたまま、酒を飲み続ける。

 

「流石はルナシアさん、心臓をぶち抜かれたまま酒を飲んでいる……!」

「あ、ご苦労様。もういいわよ」

 

 ルナシアの言葉に叫んでくれていたカイドウの手下達は頭を下げて、部屋から出ていった。

 ロックス海賊団解散後も連綿と続いているカイドウによる伝統的なルナシアの心臓ぶち抜きである。

 すっかり百獣海賊団の名物と化しており、新入りしか驚いてくれない為、ルナシアの要望で合いの手を入れることが恒例となっていた。

 

「カイドウ、久しぶりね」

「おう、久しぶりだな。何の用だ?」

「実は今度、マリージョアでパーティーするんだけど来る? 参加メンバーは私、シキ、ニューゲート、リンリン」

「行く」

 

 即答するカイドウにルナシアはけらけら笑う。

 

「相変わらずね」

 

 ルナシアの言葉にカイドウは笑い、そして告げる。

 

「昔のようにやるんだな? 楽しみだ……!」

「ええ。だから、海賊団としてではなく個人として参加するわ。勿論、私もね」

「本当に昔のようだな。大海賊時代とかで浮かれている連中に教えてやるのも面白い……!」

「詳しいことはまた後日、連絡するわ」

 

 そう告げるルナシアにカイドウは大きく頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 マリージョア襲撃の為に見知った連中の参加を取り付けたルナシアであったが、ここで予想外の連絡が2つも入った。

 

 1つはウォーターセブンのトムズワーカーズ、その社員であるアイスバーグからの連絡だ。

 ロジャーの海賊船を作った罪でトムが起訴され、海列車の計画と引き換えに10年の執行猶予が出たという。

 

 更に悪いことは重なるもので、もう1つはオハラの探索チームが世界政府に危険視されたのか、海軍からの追跡を受けることが多くなったという連絡が探索チームより入る。

 海軍が彼らを捕まえ、オハラの調査に向かう可能性は高い。

 ルナシアは彼らに自らの勢力圏内にある島に留まることを伝え、そちらとオハラへ動ける幹部をただちに派遣することを約束した。

 

 

 これらの連絡にルナシアは大いにやる気になった。

 そんな些事など吹き飛ぶくらいに盛大にやろうと思い、また同時にロジャーではなく、我々の名を思い出させてやろうと決意する。

 

 彼女はルーキー達に教えてやる、あるいは同窓会みたいなものという認識で、ロートル海賊団とでも名乗ろうかと考えていた。

 

 しかし、それではインパクトに欠ける。

 かつての海賊旗の下に我々が再び集ってこそ、世界は震撼する。

 

 

 

 

 そのような思いを抱いて、ルナシアはロックスの墓前にいた。

 彼の墓はルナシアの生まれた、また彼女が彼と初めて出会った島にあった。

 

 ロックスは自分のことをほとんど話さなかった為、彼の故郷が分からなかったのだ。

 

「ロックス、今回だけはファミリーネームを使わせてもらうわ。血縁関係じゃないけど、許して頂戴。そっちの方が世界が驚くからいいわよね?」

 

 彼の墓に語りかけると、あの声が聞こえた気がした。

 

 

 好きにしろ、ルナシア――

 

 

 ルナシアは不敵に笑い、空を見上げて呟く。

 

「今日からマリージョア襲撃が終わるまで、私はロックス・D・ルナシアよ」

 

 世界がそれをどう受け取るかなんて知ったことではない。

 ただ自分がそうしたいから、そうするだけだ。

 

 そのとき彼女が背後から近づいてくる気配を感じて振り返ると、シキがこちらに向かってきていた。

 

「いつ来たの?」

「ついさっきな。お前に例の件で聞きたいことがあるから来た……海賊団の名前だが、ルーキー共に教えるという意味で、ロートルとかどうだ?」

「まだ年寄りっていう年齢ではないでしょうに……」

「ジハハハ! それもそうか! じゃあどうするんだ?」

 

 シキの問いかけにルナシアは答える。

 

「ロックスよ」

「……ほう? だが、ロックス船長はいねぇぞ?」

「いいえ、いるわよ」

「どこに?」

「ここに」

 

 自らを指差すルナシアにシキは笑みを深める。

 彼に対して彼女は告げる。

 

「今日からマリージョア襲撃が終わるまで、私はロックス・D・ルナシアと名乗るから」

「後々、面倒くさいことになるかもしれねぇぞ?」

「そんなの知ったことではないわ。勢いで何とかなるでしょう」

「あのクソガキが一丁前の海賊らしくなりやがって……」

 

 シキはそこで言葉を切り、一拍の間をおいて問いかける。

 

「おう、船長(・・)。実行はいつになりそうだ?」

 

 問いにルナシアは獰猛な笑みを浮かべて答える。

 

「遅くとも3ヶ月以内には実行し、マリージョアを潰す。我々の名を世界に思い出させ、二度と忘れぬよう刻みつける……!」

 

 

 

 

 よく見ておけ、ルーキー共。

 ロックス海賊団のやり方を――!

 

 


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