「とりあえずエニエス・ロビーでも襲って……いえ、インペルダウンかしらね。シキが
ルナシアの言葉にモルガンズは一心不乱にメモを取る。
彼は他ならぬルナシアからのタレコミで、海賊島とされているハチノスへ赴き、取材をしていた。
メモを取るモルガンズの前にいるのはルナシアだけではない。
エドワード・ニューゲート、シャーロット・リンリン、カイドウの3人もまたモルガンズの前に座っていた。
しかし、ニューゲートとカイドウは酒を飲み、リンリンはお菓子を食べているだけだ。
質問に答えているのはルナシアだけであり、モルガンズとしても長い付き合いの彼女の方が色々と突っ込んだ質問をしやすいが為、彼らに質問を振るようなことはしなかった。
ロジャーの時代が終わり、世は大海賊時代を迎えている。
彼に匹敵するような強い海賊は誰かと問われれば、まず名前が挙がるのは白ひげだ。
ロジャーと唯一互角に渡り合ったということがその理由である。
しかし、モルガンズは確信していた。
今回の一件が新聞に載れば、その評価も変わってくると。
「だが、信じられん……本当に?」
「ええ、本当よ。かつてと同じように、我々はここハチノスでロックス海賊団を再結成する……ま、期間限定だけどね」
「世界がひっくり返るぞ!? というか、どうやって3人をここに集めたんだ!?」
モルガンズの問いかけにルナシアはにこりと笑って告げる。
「それはあれよ、乙女の秘密」
「乙女って年齢だったか?」
呟くカイドウ、しかしそこでルナシアではなくリンリンが動いた。
彼女は彼に拳骨を食らわせる。
「ルナシアは乙女だし、おれも乙女だ。いいな?」
「……おう」
怒らせると危険な雰囲気を感じた為、カイドウは頷いて引き下がった。
そんなことよりもモルガンズにとっては、ルナシアがどうやってこの3人を集めたのか皆目見当がつかない。
たとえルナシアがこの3人のうちの誰か1人とでも表立って会おうとしたならば、海軍の警戒レベルが一気に引き上がるだろう。
だが、海軍側は全く察知できていないようで、ハチノス周辺には海軍の監視船すらいない。
秘密の手段があるようだが、さすがにそれを質問するのは命に関わりそうな為、モルガンズは次の質問に移る。
「一時的だとしてもロックスを名乗るということは……彼の遺志を継ぐということか?」
「そういうわけでもないわ。世界の王なんて面倒くさいし……力を背景に統治するなら短期で、そうでなくても中長期的には空中分解するわ」
ルナシアの考えでは力による統治では確実にどこかで反乱が起きて、それが飛び火し、一気に燃え上がる。
力によらない統治をするなら、そういった大規模な反乱は起きないだろうが、それでも遠からず文句が出てくるのは想像に難くない。
ルナシアは自分が勢力を築いて、それを拡大しているからこそ統治の苦労が身に染みて分かる。
色んなところからの陳情が大量に届き、それに対処するだけでも一苦労だ。
ロックスは世界の王になった後、どうやって統治するつもりだったんだろう、と不思議に思う。
もしくは世界の王になること自体が目標で、その後に湧いて出てくる様々な問題は全部誰かに丸投げするつもりだったのではないかとルナシアは疑っている。
好きな土地をくれてやる、統治方法は好きにしろ――と笑いながら宣うロックスが容易に想像できてしまった。
深く、それはもう深く溜息をルナシアは吐いて呟いた。
「世界政府って本当にうまくやっていると思う……敵である私が言うのもなんだけど」
「その発言、書いていいか?」
「あ、これはやめてね」
「分かった。書かないでおこう……統治はお前の方がうまくやっていると個人的に思うがな……」
モルガンズから見ると、ルナシアの統治領域はそこらの国よりも広い。
またそれは偉大なる航路だけでなく、東西南北の海にまで広がっており、ルナシアの孤児院があればそこは彼女の勢力圏と言っても過言ではなかった。
このハチノスも例外ではなく、ロックス亡き後は彼女が顔役となり治めていた。
とはいえこの島は他の島々とは違い、海賊島であることを尊重し、ルナシアは本当に孤児院を作っただけである。
ヤることヤッて子供ができて育てる気がなければ孤児院に連れてこい、略奪した先に孤児がいたら連れてこい、という2つがハチノスのルールに新しく加わったくらいで他に変更はない。
なお、ルナシアの勢力圏にちょっかいを掛けてはいけないというルールはハチノスにはないが、やったらどうなるかくらい海賊達も分かっている。
海賊達に睨みを利かせることで効率的にルナシアは島々の安全保障を担い、その対価としてみかじめ料という名で税金――といっても安い上、現物支払いも可――が彼女に納められ、更に勢力圏内だけでなく圏外の島々とも交易が盛んに行われている。
おまけに税金はルナシアの懐に全部消えるというわけではなく、基本的にその大半が道路や病院、学校などの公共的・公益的な設備や施設の整備といった形で民に還元される。
このようなことから近年では無法地帯となっている世界政府非加盟国すらも幾つかがルナシアの勢力下にあり、その拡大はとどまるところを知らない。
勢力という点において彼女に勝る海賊は存在しないというのがモルガンズの予想だ。
そんな彼は再度尋ねる。
「で、何故ロックスを名乗るんだ?」
「大海賊時代で海賊が大きく増えているでしょう?」
ルナシアの問いにモルガンズは頷く。
それを見て彼女は告げる。
「彼らルーキーに我々のことを教えておこうと思ってね」
彼女の発言をモルガンズは素早くメモに書きながら、更に問いかける。
「さっきも聞いたが、まずはインペルダウンを?」
「そうよ。シキが揃わないとダメだから。あとはエニエス・ロビーとか他には……」
ルナシアはすらすらと海軍の大きな支部や政府機関のある島の名前を挙げる。
その数は軽く30を超えるが、モルガンズは全て書き留めた。
「これは書いていいか?」
「書いていいわよ。そっちの方が面白いから」
「マリンフォードの名前は無かったが、襲わないのか?」
「見逃してやるわ。だって、私達が本気で手を組んで戦争したら、初手でマリンフォードを潰すから。海軍に対応する暇なんて与えないもの」
ルナシアはそう言い切って、一拍の間をおいて更に言葉を続ける。
「ルーキーに教えるのもあるけど、ロックスを偲びながら、昔の仲間とワイワイやるのも目的だから」
「世界一物騒な同窓会だな」
モルガンズの言葉にルナシアはけらけら笑った。
取材が終わり、モルガンズが部屋から出ていったのをルナシアは見送った。
彼の気配が遠くに行ったことを確認してから、彼女は問いかける。
「どうだった?」
「悪知恵の働くクソガキだな」
「情報戦って言ってほしいわ」
そう言ってブー垂れるルナシアにカイドウが問いかける。
「そんなの面倒くせえから、素直に言っちまった方が良かったんじゃないか?」
「勝利の為に最善を尽くすのは当然だと思うの。それに、こうしといた方が世界政府と海軍の慌てっぷりを見れるから……見たくない?」
「それは見てぇな……」
カイドウの言葉に満足気に頷くルナシア。
そこへリンリンが問いかける。
「引っかかるかい? 連中は」
「嘘だと分かっても世経新聞に出てしまえばこっちのものよ。わざわざ攻撃目標を教えているのに警戒を厳重にしなかったら、世界政府と海軍は民衆からどういう目で見られるでしょうね?」
「他に狙われているところがある……と民衆は思うんじゃないのか?」
「そうでもないわ。民衆っていうのは戦う力がないのよ。で、さっき私が伝えた攻撃目標のある島は一部を除けば普通の一般市民が暮らす街もある」
ルナシアの言葉にリンリンは笑みを深める。
「自分の島が標的となっていることから民衆は不安がり、海軍に警備の強化を求める……強化をすれば海軍は戦力の分散を強いられ、強化しなければ民衆は不信感を抱く」
「そういうこと。こっちは攻撃を仕掛ける側なんだから、常に主導権を握って好きなところを攻撃できる。対する防御側の戦力は膨大だけど、守らないといけない箇所も膨大……さっき言った目標は偉大なる航路だけでなく東西南北の海にもあるから」
「えげつないねぇ……」
リンリンはそう言いつつも、その表情は楽しげなものだ。
「政府や海軍の犬どもがハチノスにも潜んでいるんじゃないか? そこから漏れる可能性は?」
ニューゲートの問いかけにルナシアは胸を張る。
「この会合の1週間くらい前、ハチノスで私がインペルダウンに行くかもしれないって噂を流したのよ」
「……どういうオチか分かったぞ」
ニューゲート、そしてリンリンもまた察した。
カイドウはどうでもいいのか、酒を飲んでいる。
「霧化してハチノスと周辺海域まで全部覆い尽くして、怪しいところに連絡をしている連中を見つけて全部処理しておいた」
「詳細を知る度に思うんだが……お前の能力、ずるくねぇか?」
「汎用性が高くてとても助かっているわ。で、今回の詳しい作戦を伝えたいんだけど……いいかしら?」
問いかけるルナシアに頷く2人。
頷かなかったのは話を全く聞いていなかったカイドウである。
「見習いのカイドウ君。私が今、何と言ったか言ってみろ」
「ん? マリージョアの酒は何があるんだろうな……だろ?」
「今、私はあなたの手下達に物凄く同情しているわ……」
ルナシアの言葉に同意とばかりに頷く2人。
「普段、誰が作戦を考えたりとか指示とか出しているの?」
「うん? 俺がこうしてぇって思って、俺が飛んで行ってやってくるだけだが?」
「もうちょっと頭を使ってもいいんじゃないの?」
「面倒くせえ。強けりゃ解決するんだから、それでいいだろ」
カイドウの言葉も真理ではあるが、ルナシアが言いたいことはそうではない。
だが、彼には通じないだろう。
昔からこうであったのだから。
「まあ……いいや」
彼の手下達に今度、酒でも奢ってやろうとルナシアは思いつつ、詳細な作戦を3人に話し始めた。
一方その頃、シキはルナシアが拠点と定めている島の港にいた。
彼は既にルナシアから詳細な作戦について聞かされており、モルガンズの取材の場に同席するわけにもいかなかった為、船の様子を見守っていた。
船は大きいが、見つかる可能性を抑えるやり方があった。
それは既に何度か試験され、問題ないことも確認済みだ。
「俺とルナシアだからこそ、できるやり方だ」
シキが船を浮かばせ、ルナシアがその船を霧化して包み込む。
これによって周囲からは空を霧が漂っているようにしか見えない。
それでも普通の霧は漂うだけであり、風に負けず突き進むことはできないから違和感はどうしても残るだろう。
しかし、船が飛んでいるのを見られるよりはマシだ。
もしかしたら霧が風に逆らって進んでいても、偉大なる航路だからそんなこともあるかもしれない、と見た者は思ってくれるかもしれない。
「現地に到着するのは満月の夜を予定しているが……ヤバいことになりそうだ」
マリージョアはパンゲア城を中心とし、その周囲に天竜人達の居住区がある。
その居住区に行く為には城の正門前にある天竜門を通る必要があり、当然ながら警備は厳重だ。
何かがあればすぐにマリンフォードから大将がやってくる上、マリージョアの地図や警備の配置図があるわけもない為、奇襲攻撃は難しいように思える。
しかし、ルナシアには信頼できる情報提供者達がいた。
マリージョアの大雑把な見取り図、主だった場所の警備体制その他色々を彼女は手に入れていた。
その出処は元天竜人のホーミング聖とその妻だ。
彼ら一家はルナシアによって保護されており、今ではすっかり元気になって暮らしていた。
しかし、ドフラミンゴだけはルナシアの為に働くという約束を守る為、家から飛び出している。
ホーミング聖は当初は渋ったものの、家族を助けてくれたという恩があるルナシアに頭を下げてお願いされると断ることができなかった。
彼とその妻から得られた情報は古い上、記憶によるものなのであやふやな部分も多々ある。
だが、何もないよりは遥かにマシだ。
「悪知恵がよく働くもんだ」
元天竜人を保護し、彼らからマリージョアの情報を聞き出す――普通ならそんなことは思いつきもしない。
天竜人なら色々と使い道はあるが、元天竜人など海軍の後ろ盾がない単なる一般人だ。
わざわざそんなのを保護するのは底抜けのお人好しか、もしくは――
「クソガキめ、成長しやがって……」
俺も歳を取ったもんだ、とシキは軽く溜息を吐くのだった。
そして、モルガンズの取材から1週間後。
世界経済新聞の一面にデカデカと記事が載った。
ロックス海賊団、ロックス・D・ルナシアによりハチノスで再結成!
世界よ、震撼せよ!
あのロックスが蘇ったぞ――!
本紙記者によるルナシアへの独占インタビュー!