「負傷者は後送する! すぐにマリンフォードから船が来るから頑張るんだよ!」
つるは矢継ぎ早に指示を飛ばしつつ、戦況を見守る。
それはあっという間で、作戦がどうとかいうレベルではなかった。
まるで大嵐の中に突っ込んだかのように大型軍艦がへし折られ、あるいは斬り裂かれて沈んでいった。
サイズが小さい軍艦はもっと悲惨だ。
うちの軍艦は紙でできていたか、とつるが錯覚してしまう程に天災のような力が縦横無尽に暴れまわった。
残念ながら彼女の実力ではあの戦いに割って入ることができず、それは多くの海兵達にとっても同じこと。
将官クラスはほとんどが既にやられ、大佐以下の海兵達はそもそも挑戦権すら無かった。
5人から放たれた覇王色の覇気により、その大半が気絶してしまった為だ。
戦いの場は既に
残ったつるは海に投げ出された者の救助や負傷者の治療、遺体の回収に奔走していた。
「まったく、
負傷者や死者の数は把握できていないが、沈んだ軍艦の数なら既に分かっていた。
実に58隻であり、前代未聞の損害だ。
当時のロックス海賊団よりも明らかに個々人が強い上、当時より圧倒的に統率が取れている。
それはルナシアの存在が大きいとつるは見ていた。
その頃、ルナシアはゼファーと彼に率いられた中将3人の相手をしていた。
遠くではニューゲート達4人を相手に奮闘するセンゴクとガープが戦っているのが衝撃で分かる。
しかし、向こうもこちらも戦況は一方的だ。
勿論、ロックス海賊団が有利という意味で。
ゼファーは肩で息をしながら、目の前に佇むルナシアを鋭く睨みつける。
海軍本部大将に昇進してからも鍛錬を怠ることなく、同時に教官をもこなしてきた。
忙しい自分を妻は支えてくれており、息子は強い海兵になりたいと鍛錬に励んでいる。
ゴッドバレーの時よりも自分の実力は上がっている筈であるし、あの時のように海楼石製のメリケンサックや、海楼石製の槍も持参し、彼女の能力を封じようとしている。
だが、ルナシアの力は彼の予想を超えていた。
覇気は勿論のこと、純粋な身体能力から戦闘時の立ち回り、状況判断などなどがゴッドバレーの時とはまるで違う。
白ひげ達を従えて、再度ロックス海賊団を結成できるだけの強さがあった。
何よりも恐ろしいのは彼女は海楼石製の武器がこちらにあることから、能力を使っていないことだ。
ただ再生能力だけは自動発動のようで、海楼石製のものによらない傷は勝手に再生されている。
基礎戦闘力を飛躍的に高めてきたな――
敵ながら能力を過信しない姿勢にゼファーは感心してしまう。
そのとき、唐突にルナシアが口を開く。
「そういえばゼファー。確か8年か9年くらい前だったと思うんだけど、あなたに恨みがあるから復讐を手伝って欲しいとかいう海賊が私のところに来てね」
ここまで無言だったルナシアが唐突に声を掛けてきた。
ゼファーは思わず動きを止める。
クザン・ボルサリーノ・サカズキはこの隙に体力の回復に努める。
「どういうことをするのかって聞いたら、妻子を殺すとか言ってきたからそいつを殺しといたわ」
まさかの言葉にゼファーは驚きつつも口を開く。
「その、なんだ……ありがとう、でいいのか?」
「気にしないで。あなたと真正面からやりたいから場を整えて欲しいって言ったら協力してたし」
「そっちなら俺も受けて立ったな」
「でしょうね。ところでそっちの3人、あなたの教え子? 中々やるじゃないの」
「まだまだひよっ子だ」
その言葉と共にルナシアに殴り掛かるゼファー。
それに呼応してクザン達もまたルナシアに襲いかかる。
だが、彼女はまるで未来でも視ているかのように的確に回避していく。
ゼファーはその動きを見ながら告げる。
「お前達、こいつの覇気は見聞色も武装色も以前より段違いだ。特にボルサリーノ、お前は能力に頼りすぎるから気をつけろ」
「私を授業に使うなんて、あとで料金請求するわよ?」
「センゴク宛にしてくれ」
呑気に会話をしている2人だが、恐ろしい速度で攻撃の応酬は途切れることなく続いている。
ルナシアの黄泉とゼファーのメリケンサックがぶつかり合う中、その隙を見て横や後ろから攻撃を仕掛けるクザン達。
彼らには会話をする余裕は無く、ただ必死に攻撃をするのだが――当たらない。
これは戦闘が始まってから幾度も繰り返されたことで、偶にルナシアの反撃を受けてしまう程だ。
「そこの3人には、まだこのステージは早いんじゃないの?」
「だろうな。だが、経験させておく必要がある……お前らみたいなのが海にいるからな」
「失礼ね。他の4人と違って私はかなり穏健派よ」
「今回のことで世界最悪の犯罪者になったじゃねぇか」
「ガープあたりはめちゃくちゃ喜んでいそうな気がするけど……あなたも心の中ではそうなんじゃない?」
「さてな」
ゼファーはすっとぼける。
状況的にマリージョアが襲撃を受けただろうが天竜人達からロックス海賊団を潰せという命令が来ていないことから、何が起こったか想像に容易い。
本当にやりやがったんだな、誰もが手を出せなかったところを――!
良くも悪くもロックス海賊団は予想の斜め上をいく。
海軍の面子は丸潰れ、後始末を考えれば頭が痛い。
だが正直、スカッとしたのは事実である。
そして、それはおそらくクザン達もそうだろう。
海軍で昇進するということは、それだけ色々と天竜人関連で目撃してしまうことが多くなる。
ぶっちゃけた話、誰も口にはしていないし、何ならマリージョアの心配をしてみせるが――よくやったと、内心では思っているに違いないとゼファーは思う。
彼は口元に笑みを浮かべながら告げる。
「楽しもうぜ。ゴッドバレー以来だろう? お前が表舞台に立つなんて」
「悪いけど、むさっ苦しい男の相手なんてしたくないわ」
「まあそう言うな!」
ゼファーの攻撃は熾烈さを増す。
対するルナシアも仕方がないとばかりに彼に付き合ってやる。
偶に仕掛けてくる彼の教え子達には手痛い反撃を食らわせながら。
しかし、その戦闘は誰が見てもルナシアが優勢であることは明らかだった。
そして、数時間後――ルナシア達は悠々と
センゴクとガープのコンビと戦っていたシキ達は苦戦を強いられたものの、数の優位でもって2人を打倒し、ルナシアもまたゼファーと彼の教え子達に勝利を収めた。
マリージョアよりも高い位置にある船に彼らは戻り、カイドウがルナシアに尋ねる。
「本当に殺さなくて良かったのか?」
「ええ。だって、ロックスのことを直接知っている人が少なくなるのは悲しいじゃないの」
「甘い奴だ」
呆れるカイドウにルナシアはくすくすと笑う。
「知っている? 時には生きていることの方が死ぬよりも辛いときがあるのよ」
ルナシアの言葉にカイドウは首を傾げるが、シキ達には理解できていた。
「ルナシア、せっかくだからインペルダウン、エニエス・ロビーもやるか?」
ニューゲートの問いかけにルナシアはすぐさま承諾する。
「それは良いわね。襲うって宣言したからにはちゃんと襲ってあげないと失礼だと思うし……シキ、まずはインペルダウンで」
「了解した。ところでマリンフォードはどうするんだ? 今ならやれるだろう」
その言葉にルナシアは笑って告げる。
「マリンフォードは襲わないって宣言しちゃったからやんないわ。海軍はこれから大変ね。どうやって後始末をするのかしら……」
ルナシアの言葉にカイドウも含めて皆が笑う。
これから海軍は死んだほうがマシというような辛い立場に置かれるだろう。
海軍の最大戦力をぶつけてもなお、ロックス海賊団には歯が立たなかった。
面目は丸つぶれで被害は甚大。
戦力の再建には長い時間が掛かることは間違いなく、その間にルナシア達5人は好き放題ができる。
「なあ、ルナシア。提案なんだが……海軍が戦力を再建したら、またロックス海賊団を結成して潰そうぜ? そうした方が皆に等しく利益があるからさ」
「リンリン、それはいいアイディアだわ。第二回ロックスを偲ぶ会ってことにしましょう。どうかしら?」
ルナシアの問いにニューゲートもシキも頷き、カイドウは――
「おお! 大賛成だ! 俺はそれまでにもっともっと強くなるぞ! 見習い呼ばわりされないくらいに!」
「あなたは永遠にロックス海賊団見習いよ」
ルナシアの無慈悲な言葉であったが、カイドウは大きな声で笑う。
「エニエス・ロビーはいきなりぶっ壊してもいいけど、インペルダウンは囚人が欲しいから、いい感じに手加減してね。囚人を脱獄させた後にぶっ壊そう。これは船長命令だから」
ルナシアはドヤ顔で彼らに告げるのだった。
そしてこの後、ルナシア達はインペルダウンを襲撃し、収監されていた囚人達を脱獄させ――今回はレベル6の連中までも――その配下に加えた後にインペルダウンを破壊し、その次にエニエス・ロビーを破壊した。
こうしてロックス海賊団は莫大な財宝と多数の奴隷・囚人を得て、ついでに海軍を壊滅させ、エニエス・ロビーとインペルダウンを破壊して、第一回ロックスを偲ぶ会を終えた。
全てが終わった後、ルナシアはハチノスにモルガンズを呼ぶ。
彼はルナシア達がやらかしたことを既に掴んでおり、当人から話が聞けるとばかりに喜び勇んでやってきた。
モルガンズから質問攻めにされるが、ルナシアは次々と答えていき、取材の最後に彼女は当初の予定通りにロックス海賊団の解散を告げるのだった。
なお、まったくの余談であるが後日、センゴク宛にルナシアから自分を授業の題材として使ったことに関する請求書が届き、病み上がりのセンゴクは怒りで血圧が上がり過ぎて再度入院する羽目になった。
ちなみにガープはその請求書を見て大爆笑し、ゼファーは律儀に料金を払おうとしたがつるに止められたのだった。