ルナシアが拠点としている島々――シャングリラ諸島。
彼女は諸島そのものや諸島を構成する島々の名前をアレコレ悩んで考えて、ようやく決めたという経緯があったのだが、それはさておき、諸島は海賊団の拠点とその縄張りとはとても思えなかった。
シャングリラ諸島の各島は広大であり、開拓開始から結構な年数が経過した現在も未開拓の領域が多く残っている。
とはいえ、開拓開始当時よりも人口は飛躍的に増加していることから、10年以内には開拓が完了すると予想されていた。
諸島の中でも、もっとも広大なエリュシオン島にはルナシア海賊団の本拠地をはじめ、孤児院や病院、研究所や学校といった様々な施設があった。
他の島々にもこれらはあったが、エリュシオン島における施設は大規模であり、また学校や研究所もその種類は多岐に渡る。
勿論、人口も諸島の中で最大だ。
さて、そんなエリュシオン島にある学校には航海士養成学校というものが存在する。
ここに籍を置いているナミは今日も今日とて、図書館で勉強に励んでいた。
「うーん、楽しい……!」
10歳にも関わらず、彼女は航海士として必要な様々な知識の吸収を心から楽しんでいた。
航海士養成学校にはナミ以外に子供はいない。
先生も生徒も大人であるが、彼らも一目置く程のレベルに達していた。
「世界中の海を旅して、自分の目で見た世界地図を作りたいなぁ」
いつしかそういう夢を抱くようになったナミだが、既にルナシア傘下の海賊船にて新世界の海を半年程、航海士見習いとして実習を行っている。
この実習を経験したことで、夢に対する思いは強まるばかりだ。
とはいえ、ナミは幼いながらも色んな連中を見てきた。
故に自分はまだまだ力不足で、すぐに飛び出しても夢は実現できないと考えている。
「もっと学んで……もっと強くならないと……」
ナミはそう呟きながらも、後ろに忍び寄ってきている気配を感じ取る。
ノジコとカリーナだ。
勉強していると、偶にこうやって後ろから驚かせにくるので侮れなかった。
ちょうど勉強は一区切りがついたので、このまま3人で覇気の訓練でもしようとナミは思うのだった。
「ウチにはシキが欲しがるだろうけど、5000兆ベリー積まれても絶対やらない、そんな凄い子がいるわ」
ルナシアはドヤ顔だった。
事の発端は30分くらい前、彼女がいつも通りに図々しくニューゲートの船に乗り込んできたことから始まった。
近況を話したりしているうちに、互いの船員の話となったところでルナシアがそう言ったのだ。
「ほう……? そいつは将来が楽しみだな」
「しかも、その子は東の海出身よ。あそこ、偶にヤバいのが出てくるのよね……」
ルナシアの言葉にニューゲートはロジャーとガープの顔が頭に浮かび、大きく頷いてみせる。
そこで彼はつい先日、読んだ新聞の記事が頭に浮かんできた。
「ところでお前、ウォーターセブンの海列車にも一枚噛んでいたらしいじゃねぇか」
「ええ。おかげで無事に全路線が開通したわ。それからすぐにCP5のスパンダムとかいうのがイチャモンつけてきたけど、平和的な話し合いで解決したの」
「お前の言う、平和的な話し合いとやらは世間一般では脅迫というらしいぞ」
「失礼ね。ただ私はエニエス・ロビーをまた潰そうかって言っただけよ」
笑うルナシアにニューゲートは肩を竦める。
トムズワーカーズのトムは海列車製造及び全路線開通の功績により無罪放免。
しかし、彼はウォーターセブンにいると街に迷惑を掛けるとして、ルナシアのところで世話になっていると新聞に載っていたのをニューゲートは覚えている。
ルナシアの狙いは簡単だ。
勢力圏内の島々を海列車で結び、輸送力の強化を図るのだろう。
自分の取り分は少ない癖に、とニューゲートは思うが彼も人のことは言えない。
「トムの弟子達はそれぞれ独立したから、うちに来ているのはトムと彼の秘書とペットのカエルなんだけどね」
ルナシアの言葉に彼は軽く頷きつつ、話を戻す。
「で、お前の凄い子とやらはどういう輩なんだ?」
「10歳の女の子でナミって言うんだけど……航海士として天賦の才があるのよ。その才能を伸ばしながら、最低限自衛ができる程度には育てているわ」
「どんな具合に?」
「基礎的な体力トレーニングをしながら覇気について、ちょっとずつ教えているくらい。ただ戦闘面でも中々見どころがありそう」
自慢気に告げるルナシアにニューゲートは親馬鹿だなと思うが、口には出さない。
「でね、2つ上のノジコと1つ下のカリーナはナミと特に仲が良くてね」
「血縁関係か?」
「いいえ、皆孤児よ。義理の姉妹ってやつ」
ルナシアの答えにニューゲートは頷き、自慢の息子達について語るべく口を開くのだった。
「あんの悪ガキめ……! 海軍をゴミ処理業者と勘違いしている……!」
センゴクは怒っていた。
数年前から海軍のあちこちの支部に廃材が夜間に投棄されはじめ、つい先日にはマリンフォードに空から大量に廃材が降ってくるというとんでもない事態になった。
記者に嗅ぎつけられたが口止めをした為、世間的には知られていない。
こんなことをする輩は世界広しといえど、1人しかいない。
言うまでもなくルナシアだ。
また廃材を浮かせて持ってきたことからシキも絡んでいるかもしれない。
投棄された膨大な廃材には例外なく珀鉛が含まれており、自分達の手で処理するのは面倒だから海軍に丸投げしてやろうとかいう魂胆であるのは明白だ。
公表すればルナシアの悪行を世界は知るが、同時に海軍の面子がまた潰れることになる。
ようやく失った戦力を再建しつつあるのに、マリンフォードに堂々とゴミを投棄されたなんぞ、舐められているというこれ以上ない証拠だ。
「おう、センゴク。怒るとまた血圧が上がるぞ?」
ガープが煎餅を片手に持ってやってきたのは、そんなときだった。
「余計なお世話だ……で、お前の後ろにいるのが……?」
「ああ。あの悪ガキに拳骨を食らわせるという一心で、支部の中でも突出した力をつけていたからワシが引き抜いた」
そう紹介されるとは思っていなかった彼女だが、気を取り直して凛として告げる。
「ベルメール中尉であります!」
敬礼するベルメールに対してセンゴクもまた答礼しつつ、告げる。
「ガープの補佐は大変だろう? ボガード君と頑張ってくれ」
「おいセンゴク、そりゃどういう意味だ?」
「そのままの意味だ、ガープ。思い当たる節はあるだろう?」
「まったくないな!」
断言して笑うガープにセンゴクは深く溜息を吐く。
そんな彼にガープは告げる。
「というわけで、ちょっと行ってくる。良いな?」
ガープの問いにセンゴクはジト目で尋ねる。
「簡単に予想できるが一応聞こう。どこへ行く?」
「ルナシアが拠点としている島々……シャングリラ諸島に」
ガープの答えにセンゴクは叫ぶ。
「ダメに決まっているだろう! ルナシアの本拠地に手を出すよりも、そこら中に蔓延っている海賊を捕まえてこい!」
センゴクの怒鳴り声にガープは了解の返事をしつつ、ベルメールを連れてそそくさと退室したのだった。