海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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ロックス海賊団同窓会計画

 ルナシアはアマンドの部屋にて、彼女と向き合う形で椅子に座っていた。

 アマンドに対して、神妙な顔をして自らの髪の毛を弄りつつ、ちらちらと視線を送ってくるルナシア。

 言い出しにくい何かがあるな、と容易に察することができる。

 

 ママが持つロード歴史の本文(ポーネグリフ)に関連することだな――

 

 アマンドはそのことが頭に浮かんでくる。

 ルナシアが中々、話を切り出してこないというのはそうあることではない。

 

 アマンドとしてはルナシアのやりたいようにやればいい、と思っている。

 たとえそれが、リンリンにとって良くないことになろうともだ。

 

 できればママを傷つけたくないし、万国(トットランド)にも可能な限り被害を出さないで欲しいという思いもある。

 

 しかし、アマンドはルナシアをラフテルに行かせたいという思いもまたあり、それは大きくて強いものだった。

 

 誰が見てもルナシアが万国(トットランド)まで出てくるのが仕方がないという状況になれば信用も失墜しないが、そういう状況はアマンドや彼女の妹達にとっては悲しいことになるのは間違いない。

 

 そして、そういう状況は限られている為、アマンドにとっては予想がしやすかった。

 

 

 ママにけしかけるのはカイドウだろう。

 性格的にも彼なら乗ってくる可能性が高い――

 

 顎に手を当てつつ、アマンドはそう考えながら改めてルナシアをよく見る。

 

 本当に長い付き合いだなぁ、としみじみと思う。

 ここまで来るのに色々あった。

 

 人生の大半をルナシアと過ごしていると言っても過言ではない。

 そんな彼女は今や誰もが認める時代の覇者だ。

 

 世界に広がる支配領域、膨大な兵力とそれを支える経済力。

 そこへ穏健な統治方針が加わり、これらの相乗効果によって政府や海軍すらもおいそれと手出しができない巨大勢力となった。

 

 そこでようやくルナシアが口を開く。

 

「……リンリンのロード歴史の本文(ポーネグリフ)なんだけど……」

「カイドウか?」

 

 アマンドの問いかけにルナシアはビクッと思いっきり身体を震わせた。

 何で分かったの、と言いたげな顔になっているが、分からない方がおかしいとアマンドは思い、くすくすと笑ってみせる。

 

 そして、彼女は告げる。

 

「私や妹達に配慮しようとしているんだろう? やりたいようにやっていいぞ」

「いいの? リンリンは死にはしないだろうけど、万国(トットランド)が消し飛ぶかも」

「そこに住んでいる者達が生きていれば、再建なんていくらでもできる」

 

 アマンドはそこで言葉を切り、少しの間をおいて更に続ける。

 

「そもそもカイドウがやってきた時点でほとんどの者が避難するだろう? あんまり気にする必要はないと思う」

 

 そう告げるアマンドにルナシアの表情が明るいものとなる。

 その顔にアマンドは微笑みながらも告げる。

 

「むしろ、私達に配慮し過ぎるあまりに、わざわざガープの孫を育てて暴れさせるとか言うかと思った」

「そっちでも色々考えてみたけど、やめたわ。その孫が本格的に動き出す前に終わらせようと思う」

 

 ルナシアの言葉にアマンドは頷いた。

 

「それがいい。やりたいことがあるなら寄り道する必要はない。あなたには、その力があるんだから」

「ありがとう、アマンド」

 

 微笑んで告げるアマンドにルナシアは椅子から立ち上がって頭を下げた。

 こういうところは昔から全く変わっていないが好ましいとアマンドは思いながら、尋ねる。

 

「それで具体的な計画はどうするんだ?」

「一番手っ取り早いのはカイドウを酔っ払わせて、リンリン潰そうぜって誘うことで万国(トットランド)に誘導しようと思っていたんだけど……」

 

 いざ計画を聞くと覚悟したとはいえ、さすがに悲しい気分になってしまう。

 カイドウは素面ならまだ話は通じるが、酔っ払うと手がつけられない。

 

 それによって百獣海賊団の幹部達が非常に苦労しているというのは有名な話だ。

 

「……どうしても万国(トットランド)に連れてこないとダメなのか? 他の島とかでは……?」

 

 その言葉を聞いて、ルナシアは腕を組んで思考を巡らせ――あることを思いついた。

 それは『他の島』というところがきっかけだ。

 

 リンリンが万国(トットランド)にいなければ、ロード歴史の本文(ポーネグリフ)を書き写すなり、写真を撮ってくるなりするのは難しい話ではない。

 幸いにも、こっそりと忍び込んでお宝を頂いてくることが非常に得意な2人がルナシアの配下にはいる。

 

 東の海でバカンスがてら安全に海賊共からお宝を盗みまくっているという近況報告が2人からは来ていた。

 

「決めたわ、アマンド」

 

 そう言って、ルナシアは不敵な笑みを浮かべた。

 

 とんでもないことを言い出しそうだ――

 

 アマンドはそう思いながらも問いかける。

 

「どうするんだ?」

「ロックス海賊団の同窓会よ。他の連中もいい歳だし、昔を懐かしみながら仲良く酒を呑んで、美味い料理を食べようっていうのはどうかしら?」

 

 アマンドは目を丸くして、驚きの余り言葉を失った。

 そんな彼女にルナシアは更に言葉を続ける。

 

「単なる宴会だから拒む理由はないし、会場も無人島とかにしとけば島が沈んでも問題はないと思う」

 

 それならばリンリンも来るだろうし、カイドウどころかシキやニューゲートだって来る。

 ルナシア主催となれば、彼らは動くだろう。

 そして、宴会ならカイドウが酔っ払って暴れても仕方がない状況だ。

 止める面々もルナシアとリンリンだけでなく、ニューゲートとシキが加わるのだから万全だ。

 リンリンが怪我をする可能性も低く抑えられるだろう。

 

「何なら赤髪をその場に招いてもいい。ロックス海賊団の同窓会という趣旨から逸脱するけど時間差をつけて招けばいいわ。ロジャーのことなら彼も知っているから、話題には困らない……何よりも赤髪は宴会好きだから、きっと乗ってきそう。そうすれば彼に余計な茶々を入れられることもない」

 

 ルナシアはどんどんアイディアが湧いてきた。

 更に彼女は言葉を続ける。

 

「私の海賊団の主力や幹部達、傘下の強い連中を全員参加させるわ。事前に伝えとけば彼らだって主力を連れてきてくれるかもしれない」

 

 怒涛の勢いでルナシアはどんどん告げる。

 

「リンリンだってそうよ。ペロスペローをはじめとした兄弟姉妹達が揃って来てくれるかも……私の主力達が全員参加するとなれば、宴会の最中に本拠地が襲われるかもしれないという警戒心は相当薄れる筈よ」

 

 そこでようやくルナシアは息継ぎをして、ニヤリという笑みを浮かべる。

 

「潜入役であるナミとカリーナの懸賞金は強い連中と比べれば低い。だけど、念には念を入れて2人が東の海にいるってことを偽装する必要があるわ。その為には映像電伝虫とクロコダイルのところの部下であるベンサムを使う」

 

 まさかあのマネマネの実がこんなところで役に立つなんて、とルナシアは思いつつ言葉を続ける。

 

「ベンサムには必要に応じてナミとカリーナに化けてもらう。勿論、こっちから宴会の場でナミとカリーナに言及することはなく、あくまで他の連中に居場所を尋ねられたときに限る……彼には東の海のどっかの島に待機して、ナミとカリーナが新世界にはいないことを偽装してもらうわ」

 

 ルナシアはそこでようやく言葉を切って、アマンドに深々と頭を下げた。

 そして、彼女は懇願する。

 

「アマンド、お願い! リンリンだけじゃなくてペロスペロー達も宴会に参加するよう、リンリン本人には勿論、彼らにも働きかけて欲しい!」

 

 アマンドはくすり、と笑って告げる。

 

「勿論だ。ここにいる妹達だって協力する。もしも万が一、渋る者がいれば私が必ず説得する……ママやママのところにいる兄弟姉妹達への根回しは私達に任せておけ。ただし、重大な問題が一つあるぞ」

 

 アマンドの言葉にルナシアは恐る恐る顔を上げた。

 そんな彼女ににっこりとアマンドは笑って告げる。

 

「ママが満足するような甘くて美味いお菓子がたくさん必要だ。それこそ島一つ分欲しいかもしれない……」

「島一つ分どころか、彼女を釣り出せるなら島十個分の多種多様な甘いお菓子を用意するわ。何よりもせっかくの宴会だし、予算に糸目はつけたくない。たとえ予備費を全部使うことになったとしても……歴史上もっとも豪華で壮大で、そして最高の宴会にしてやるわ」

 

 ルナシアは胸を張って答えるのだった。

 


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