海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

38 / 47
あるいはルナシアの影響力が大きすぎる弊害によって、引き起こされた世界最大の悲劇。


東の海に集結する者達 クリーク海賊団の災難 

 センゴク元帥は執務室で海軍おかきを食べながら、緑茶を啜っていた。

 仕事が一段落した為、彼は一息ついていたのだが――

 

「センゴク元帥!」

 

 転がるように入ってきた将校をセンゴクは睨みつける。

 

「何だ? 騒々しい……」

 

 そう言いながらも、おかきを食べる手は止まらない。

 しかし、彼の休憩時間は――

 

「シャングリラ諸島に異変あり! ルナシア海賊団の本船が……! ブラッディプリンセスが動きました!」

 

 その報告により一瞬で消え去った。

 思わずセンゴクはおかきを吹き出してしまうが、そんなことよりも報告の方だ。

 

「嘘じゃないだろうな!? あの船が動いたのか!?」

「間違いありません! ただ……」

「ただ?」

「ルナシアが乗っていません。鬼夫人が指揮を執っているようです」

 

 センゴクは首を傾げた。

 ルナシアを船長として、副船長は鬼夫人――アマンドであるのは間違いない。

 しかし、あのルナシアが乗っていないというのが解せなかった。

 

「センゴク元帥! 緊急連絡です!」

 

 最初に報告に来た将校と同じく転がり込むように入ってきた2人目の将校にセンゴクは問う。

 

「今度は何だ?」

「シャングリラ諸島より、多数の海賊船が出港しました! ルナシア海賊団の傘下かと思われます!」

「いよいよ戦争を仕掛けてきたのか……!」

 

 それしかない、とセンゴクは確信する。

 訓練を除けば動くことがないブラッディプリンセス――口さがない海兵達の間では海上ホテル呼ばわりされている――が遂に動いたのだ。

 

 多数の武装を搭載し、乗り込んでいるのは億超えばかり。

 小国どころか大国ですらも単艦で落とせるような、とんでもない化け物戦艦だ。

 

 なお、ルナシア本人がブラッディプリンセス完成時に実は古代兵器プルトンというお茶目な噂を流して、政府と海軍が大慌てしたということもあったりする。

 後日、調査の結果プルトンではないと結論づけられたのでホッと一安心だ。

 

 そんな曰く付きのブラッディプリンセス。

 それが動き出し、傘下の海賊まで動き出したのなら――戦争しかない。

 

 そこへ3人目となる将校が慌てて入ってきた。

 

「元帥! センゴク元帥!」

「今度は何だ! もう何が起こっても驚かんぞ!」

「偉大なる航路におけるルナシアの勢力下の各島にて……! ルナシアの傘下が一斉に動き出しました!」

「針路は? ルナシアの艦隊はどこへ向かっている?」

「それがその……」

 

 言い淀む将校にセンゴクは睨みながら問いかける。

 

「どこへ向かっているんだ! ここか!? それともエニエス・ロビーやインペルダウンか!?」

「いえ、それが……」

「もったいつけずにさっさと言え!」

 

 センゴクの怒鳴り声に将校は意を決して告げる。

 

「どの船も偉大なる航路を全速力で逆走しており、既に幾つかの傘下の海賊団はリヴァース・マウンテンに到達。監視基地からの報告によれば東の海に入ったと……」

「……は?」

 

 センゴクは目が点になった。

 

「……どうしますか?」

 

 将校に問いかけられセンゴクは腕を組んだ。

 そして彼は思考を巡らせ――ゆっくりと口を開く。

 

「東の海を制圧するにしては動きが変だな。戦争をするような兵力を動員する必要がない」

「我々を誘い出すつもりでしょうか? 東の海までに我々が手を出せば殲滅し、手を出してこなければ東の海を制圧するという……両取り作戦では?」

 

 将校の言葉にセンゴクは軽く頷きつつも、やんわりと否定する。

 

「奴が自分の本拠地や勢力圏の島々をすっからかんにして、東の海を取りに来ると思うか? 正直、奴が1人で行って海軍支部を片っ端から潰したほうが手っ取り早いだろう」

「それもそうですね……いったい、何が目的なんでしょうか……?」

「あの悪ガキのことだから、しょうもない理由だろう。何故かそんな予感がする」

 

 センゴクはそこで言葉を切り、少しの間をおいて告げる。

 

「だが、東の海の支部に連中を相手にする力がないのも確かだ。こっちが今、ルナシアの本拠地に攻め込んでもいいが……本人の行方が知れないのが怖い。あの悪ガキ、やるときは本当にとんでもないことをやるからな」

「では、どうしますか?」

「東の海に大将全員とガープ以外の将官と軍艦を送り込めるだけ送り込め。ただし、こちらから仕掛けることはせず監視に留めろ。連中が何をするか、見極めてから動いても遅くはない……!」

 

 センゴクは決断し、彼の命令はただちに伝えられた。

 マリンフォードはにわかに慌ただしくなる。

 

 センゴクは自分とガープがいれば不測の事態でも、戦力的には何とか対応できると判断した。

 同時多発的にあちこちを攻められたら流石に対応できないが、それをするだけの戦力がルナシアには残っていないとセンゴクは予想したのだ。

 

 

 そして、ルナシアの動きを察知したのは海軍だけではなかった。

 シャンクス以外の六皇達も、宴会前に彼女が大規模な戦力を動かし、何故か東の海に向かわせているということを掴んだのだ。

 

 全くその意図が読めなかったが、ここでルナシアの実績が彼らの判断を誤らせてしまう。

 ロックス海賊団を再結成し、マリージョア襲撃やらの世界をひっくり返す事件を起こしたルナシアだ。

 宴会前に、また何かやらかすんだろうと思ってしまったのである。

 そこで更に悪い方へ事態は転がった。

 

 六皇本人達の繋がりだけではなく、幹部達や部下達、あるいは傘下の海賊同士にも横の繋がりがあった。

 六皇同士の仲がまあまあ良い為、下の者達も時折小競り合いを起こしたりはするものの、世間話くらいはする程度の間柄だ。

 

 ルナシアの部下や傘下の海賊達から、下の連中がその情報を入手するのも当然だった。

 

 ルナシアが東の海にいるバギーという海賊に対して生け捕りのみという条件で、10億の懸賞金を掛けた、という情報を彼らは入手した。

 

 そして、事態を決定的にしてしまったのはエリュシオン島に交易で訪れていた他の六皇達の幹部や部下、あるいは傘下の海賊が見たものだ。

 

 鬼夫人をはじめ、億超えの連中が揃って完全装備でブラッディプリンセスに乗り込んでいったのを彼らは見てしまった。

 特に鬼夫人とその妹達は全員が巨人も逃げ出しそうな恐ろしい顔だった。

 

 まさしく怒りの軍団という単語がぴったりな状況を見て、それぞれの船長へ彼らがすぐに報告したのも無理はない。

 

 報告内容は多少の差異はあれど、概ね次のようになった。

 

 バギーという海賊が、おそらくルナシアの面子をぶっ潰した為、鬼夫人をはじめとしたルナシア海賊団の全戦力が落とし前をつける為に彼がいる東の海へ向かった――

 

 報告を聞いて、そんな面白いことを見逃すのはもったいない、という思考に六皇達が至ったのは言うまでもない。

 悪ガキをからかうネタに彼らは飢えていた。

 

 自分達も行くぞ、となったのは当然の帰結であった。

 悲劇であったのは、ルナシア以外で事情を知っているシャンクス達が新世界にある辺境の島で宴会の前祝いにと宴会を始めており、そんなことになっているとは全く知らなかったことである。

 

 

 

 

 

 

 なお、怒りの命令を発したルナシア本人はというと――

 

 

 

 

 

「お菊、お茶とお菓子頂戴」

「はい、どうぞ。今日は水羊羹を用意しておきました」

 

 招待状を渡すという仕事を終えて、寄り道もせず真っ直ぐに自らの屋敷へと戻り、お菊の部屋でくつろいでいた。

 

「ところでアマンド達もいないし、ブラッディプリンセスも無いんだけど、どっか行ったの? 港にいた傘下の海賊もほとんどいなかったけど……?」

 

 水羊羹を食べて、お茶を啜って一息ついたところで彼女はようやく問いかけた。

 お菊は電伝虫によるルナシアの命令を聞いていなかったが、屋敷から足早に出ていくアマンド達を目撃していた。

 その時の様子を彼はありのままに伝える。

 

「般若みたいな顔で出ていくのを見ましたよ? 特にアマンドさんは鬼夫人という異名通りに凄い顔でしたけど……何かやりました?」

「……特に思い当たる節はないわね。誰か1人なら、何かあったかもしれないけど、全員が揃ってブラッディプリンセスに乗っていくっていう事態にはならない筈……」

 

 緊急時にはアマンドの判断でブラッディプリンセスを動かせるということになっており、それはルナシアも当然承知している。

 しかし、ルナシアはそんな緊急時だとは思っていなかった。

 

 

 とはいえ、彼女にそんな気は無くても彼女の命令を電伝虫で聞いた側は、そう受け取らなかったのである。

 

 

 

 

 ブラッディプリンセスにて指揮を執るアマンドは傍らにいる航海士のナミに声を掛けた。

 

「すまないな。無理を頼んで……」

 

 神妙な顔でそう告げるアマンドにナミは答える。

 

「大丈夫ですよ。姉さん、本気で怒っていましたよね……」

 

 ナミとカリーナは今度の作戦――万国(トットランド)潜入の打ち合わせの為にエリュシオン島に戻ってきていた。

 既にルナシアからは正式な命令と前金で10億ずつ貰っていた為、彼女達は張り切ってのホールケーキアイランドとホールケーキ城内部の情報やロード歴史の本文(ポーネグリフ)が置かれている宝物の間についてアマンドから聞いているときだった。

 2人はアマンドと一緒に電伝虫でルナシアの命令を聞いたのだ。

 

 あんなに怒った声で命令するルナシアはこれまでになかった。

 ナミとカリーナは驚いたが、アマンドにとってはもっと衝撃的だった。

 

「バギーとかいう奴は私が斬り刻んでやる……! ルナシアをあんなに怒らせるなんて……よほど酷いことをされたに違いない……!」

 

 アマンドは本来ならルナシアと2人だけの時にしか彼女を呼び捨てにしない。

 しかし、そんなことを忘れる程アマンドは怒っていた。

 

「斬り刻んじゃダメですって。生け捕りですから……」

「ギリギリ生かしておくから安心しろ」

「医者が治せるレベルに留めてくださいね」

「分かっているとも。頭と胴体が残っていれば問題ない。それなら生きていられるからな」

 

 アマンドはナミへそう返す。

 ブラッディプリンセスにはアマンドの命令により、エリュシオン島にいた船員達は全員が集められていた。

 

 ダグラス・バレットは特に張り切っており、あのルナシアがそこまで怒って命令するようなバギーという奴と戦うのを楽しみにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、バギーは東の海にある本拠地と定めた島でとても調子に乗っていた。

 

 彼は東の海では最高クラスの懸賞金2000万ベリーになっており、船員も増えたことでビッグトップ号だけでなく、10隻の船を新造した程だ。

 

 この為、東の海では別格のルナシア海賊団を除けばクリーク海賊団と双璧を成す海賊団に成長している。

 ナミとカリーナが彼らに手を出す前に、2人がエリュシオン島に呼び戻された為、バギーは幸運であった。

 タチの悪い泥棒達がバギー海賊団に手を出さなかったというのは事実であることから、バギーは自分を恐れて手を出さなかったんだと喧伝した。

 彼の名声は留まるところを知らず、東の海ではルナシア・バギー・クリークといった具合の知名度だ。

 

 一方でバギーは東の海における海軍支部の偉い人達に賄賂を送ることも忘れておらず、懸賞金がこれ以上上がることや手を出してくることを抑えさせていた。

 特にネズミ大佐とは良い関係を築いている。

 

 

 とはいえ、バギーからするとまだ本当の実力を出していない。

 長年の地道な――よくサボったものの――鍛錬のおかげで、見聞色と武装色の覇気を一応修得していたのだ。

 レベル的には最低クラスであったが、使えることは使えるのである。

 

 

 バギーは飲めや歌えやどんちゃん騒ぎをしている部下達に向かってドヤ顔で告げる。

 彼はバラバラの実の能力と巨大ローブを使って、自分を大きく見せるようにしていた。

 

 懸賞金と海賊団が大規模であることからついた異名は千両道化、でも部下達は彼をキャプテン・バギーと呼ぶ。

 

「俺が本気を出せば……クリークなんぞ余裕でぶっ倒せるぜ……!」

「うおおお! キャプテン・バギー!」

 

 喝采を送るモージやカバジをはじめとした数多の部下達。

 その数は非常に多く、またここにはいない部下達も大勢いる。

 

 バギーは部下の総数が1000人を確実に超えていると確信していた。

 実際のところ、バギーが覇気を使えばクリークをぶっ倒せるのは確かなので、間違いではない。

 彼が無傷でクリークを倒せるかどうかは別として。

 

 そしてバギーの幸運は続いていた。

 電伝虫により発せられたルナシアの命令を東の海では受け取った者もいた。

 だが、最弱の海と呼ばれることすらある東の海には幹部どころか傘下の強い海賊がいなかった。

 それこそバギーでも倒せてしまうような連中しかいなかったのだ。

 

 ましてや懸賞金2000万ベリーと海軍が認定しているバギーを、六皇のルナシアが10億を掛けて生け捕りにして来いというのだ。

 自分達では敵わない、と諦めてしまうのも無理はなく、精々バギーの情報を報告する程度だった。

 

 

 だが、彼の幸運は程なく潰えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 偉大なる航路への進出を控え、東の海にて最大最強と名高いクリーク海賊団は資金と物資集めに余念が無かった。

 クリークはルナシアの傘下にはなく、それでいて大きな街がある島を襲うべく全戦力を投入し、島へ向けて陣形を組んで航行していた。

 実際に戦うよりも、戦力差を見せつけることで消耗することなく資金・物資を頂く為だ。

 

 バギー海賊団も侮れない存在であるが、それでもクリークは自身が率いる海賊団こそ、東の海にて最大最強であると確信していた。

 

 ルナシアの勢力圏は多くあるものの、基本的にはそこにいるのは弱い連中ばかりで、ルナシアという名がなければクリークは自分の勢力下に収めることができると思っていた。

 

 それは正しかったが、彼と彼の部下達はとても不運だった。

 少しでも航路が外れていれば、あるいは彼らが欲を出さなければ助かったのだが――

 

「ドン・クリーク、遠くに1隻の船が見えます……! 大きい……!」

 

 見張りからの報告を聞いて、クリークは笑みを浮かべる。

 こちらは全戦力が揃っており、負けるわけがない。

 

「ギン、やるぞ」

 

 傍らにいた戦闘総隊長であるギンにクリークは短く告げた。

 ギンもまた獰猛な笑みを浮かべ、頷いた。

 

 

 クリーク率いる50隻の海賊艦隊は発見した1隻の巨大な船の針路に立ち塞がるかのように動いた。

 

 その船がルナシア海賊団の旗を掲げていることに気がついた時には、もう遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 巨大船から異様に首が長い女がクリーク海賊団の本船に跳んできた。

 その異様な出で立ちや異常な身体能力にクリーク達は信じられず、呆然としてしまう。

 だが、そんな彼らに対してその女――アマンドは短く告げた。

 

「死ね、虫けら共」

 

 ルナシア海賊団本船副船長――鬼夫人:アマンド。

 ルナシアの役に立ちたいという一心で、彼女は長年怠ることなく自らを鍛えに鍛えていた。

 この為、政府と海軍は彼女の強さと所属している海賊団、情け容赦のない残忍な性格を考慮した結果、危険性が極めて高いと判断した。

 

 これにより、アマンドに掛けられた懸賞金は18億8000万ベリーであった。

 

 

 ここにクリーク海賊団は5分も掛からずに壊滅した。

 唯一の救いはバギー捕獲の為にアマンドが急いでいたことだ。

 彼女によって船は全て沈められたものの、樽や木板に掴まって浮かんでいる生存者達は見逃された。

 

 かろうじて生き残ったクリークやギンをはじめとした者達は、このことがトラウマになったのは言うまでもなかった。

 

 そして、東の海にはブラッディプリンセスだけでなく、ルナシアの幹部達や傘下の海賊達、シャンクス以外の六皇達や海軍の大将達までも集まりつつあった。

 

 

 

 

 バギーに残された時間はほとんど無かった――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。